データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日ソ共同声明

[場所] モスクワ
[年月日] 1973年10月10日
[出典] 外交青書18号,44−47頁.
[備考] 
[全文]

 田中角栄日本国内閣総理大臣は,ソヴィエト連邦政府の招待により,1973年10月7日から10日までソヴィエト連邦を公式訪問した。田中総理大臣には,大平正芳外務大臣及びその他の政府職員が随行した。

 田中総理大臣及び大平外務大臣は,L・I・ブレジネフソ連邦共産党中央委員会書記長,A・N・コスイギンソ連邦共産党中央委員会政治局員兼ソ連邦大臣会議議長及びA・A・グロムイコソ連邦共産党中央委員会政治局員兼ソ連邦外務大臣と平和条約締結交渉を含む日ソ間の諸問題及び相互に関心を有する主要な国際問題について率直かつ建設的な話合いを行なつた。

 また,田中総理大臣及び大平外務大臣は,N・V・ポドゴルヌイソ連邦共産党中央委員会政治局員兼ソ連邦最高会議幹部会議長と会見した。

 大平外務大臣とグロムイコ外務大臣との間に第三回の定期協議が行なわれた。

 友好的雰囲気の中に行なわれたこれらの会談において,双方は,日ソ関係が,1956年の日ソ共同宣言により外交関係が回復して以来,広範な分野において順調な発展を遂げており,特に,近年においては,政治,経済及び文化の面において両国間の関係の進展が著しいことに満足の意を表明した。双方は,内政不干渉及び互恵平等の原則に基づき日ソ間の善隣友好関係を増進することは,日ソ両国民の共通の利益に応えるのみならず,極東ひいては世界の平和と安定に大きく貢献するものであることを認め,このために両国関係の一層の発展に努力する旨の決意を表明した。

1 双方は,第二次大戦の時からの未解決の諸問題を解決して平和条約を締結することが両国間の真の善隣友好関係の確立に寄与することを認識し,平和条約の内容に関する諸問題について交渉した。双方は,1974年の適当な時期に両国間で平和条約の締結交渉を継続することに合意した。

2 双方は,日ソ間経済協力の拡大の方途につき意見交換を行なつた。その結果,双方は,互恵平等の原則に基づく両国間の経済協力を可能な限り広い分野で行なうことが望ましいと認め,特に,シベリア天然資源の共同開発,貿易,運輸,農業,漁業等の分野における協力を促進すべきである旨意見の一致をみた。双方は,日ソ及びソ日経済協力委員会の活動を高く評価した。このような両国間の経済協力の実施に当たつては,双方は,それぞれの政府の権限の範囲内で日本の企業(又はそれらによつて組織される団体)とソ連邦の権限ある当局及び企業との間で契約が締結されることを促進すること,かかる契約の円滑な,かつ,適時の実施を促進すること及び右契約の実施に関連して政府間協議が行なわれるべきことについても意見の一致をみた。また,双方は,特にシベリアの天然資源の共同開発に関連して,日ソ間の経済協力が第三国の参加を排除しないことを確認した。

 双方は,日ソ漁業に係る諸問題の解決の方途につき意見交換を行なつた。その結果,双方は,長期かつ安定した北洋漁業の確立のため,漁獲量を定める問題を含め,適切な措置をとることに合意し,両国主管大臣間の協議を可及的速やかに開催することにつき意見の一致をみた。

 双方は,別途合意される水域における日本人漁夫の操業についての従来から開始されている交渉に関し意見を交換し,この問題についての交渉を継続することに合意した。

 双方は,科学技術の分野における政府間の交流の拡大を有益と認め,10月10日日本側大平外務大臣とソ連側グロムイコ外務大臣との間で科学技術協力に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定が署名されたことを高く評価した。

 双方は,文化の分野における交流の順調な発展を満足の意をもつて指摘し,10月10日に両国の外務大臣の間で署名された学者及び研究者の交換,公の刊行物の交換,並びに広報資料の配布に関する取極の意義を高く評価した。

 双方は,自然の保護及び人間環境の保全の分野における日ソ間の接触の増大が必要であることを認め,このための協力の第一歩として,10月10日両国の外務大臣の間で渡り鳥及び絶滅のおそれのある鳥類,並びにその生息環境の保護に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の条約が署名されたことを高く評価した。

 双方は,高度に効率的なエネルギー源の開発が世界的なエネルギー問題の解決に貢献することができることを認識して,原子力の平和利用の分野における協力を拡大する必要性を認めるとともに,その第一歩として,両国の科学者及び技術者の交換,並びに情報の交換を行なうことが有意義である旨強調した。

 双方は,各層にわたる日ソ間の人的交流を積極的に評価し,両国間の一層幅広い交流を奨励すべきである旨意見の一致をみた。

 双方は,1966年に両国外務大臣間で合意された両国外務大臣間の協議の定期的な実施に賛意を表明した。

 ソ連側は,人道的考慮に基づき,ソ連邦に居住する未帰還邦人の日本への帰国及び従来から実施されている日本人墓地への遺族の墓参に関する田中総理大臣の要請に関して,今後もこれらの問題を然るべき注意をもつて検討する用意がある旨を確認した。

3 双方は,現在の国際情勢の主要な,かつ,双方が関心を有する諸問題につき意見を交換した。双方は,近年国際情勢が全体として緊張緩和の方向に向かつていること及び異なつた社会体制を有する国家間の関係正常化が一層進展したことに満足の意を表明した。同時に,双方は,現在世界の若干の地域で紛争が続いていることに憂慮の念を示すとともに,すべての国が,国連憲章に従い,その相互関係において紛争を交渉により解決するとの原則及び武力による威嚇又は武力の行使を慎むとの原則を遵守する必要性のあることを強調した。

 双方は,国際間の緊張緩和を一層促進し,永続的な世界平和を実現することがすべての国民の利益に係わる現代の根本問題であるとみなしている。また,双方は,国際連合が世界平和の維持と国際協力の促進のため重要な貢献を行なつていることを認め,同機構の有効性を強化するため引き続き努力することにつき意見の一致をみた。

 双方は,世界の恒久的平和を確立するために,有効な国際的管理の下における軍縮の達成,特に核軍縮の早期実現の重要性を認識して,この目標に向かつて努力する旨を表明した。

 双方は,戦略兵器制限交渉(SALT)関係諸合意及び核戦争防止に関する米ソ協定を含む軍備管理及び紛争の回避の分野でなされた前進に対し満足の意を表明した。

 双方は,アジア情勢に関する意見交換において,ヴィエトナム和平協定並びにラオスの和平協定及び同協定の実施議定書の締結について満足の意を表明した。双方は,これらの協定がすべての当事者により厳格に履行されるならば,インドシナにおける恒久平和確立の可能性を開くものであり,また,ヴィエトナム,ラオス及びカンボディアの問題の解決は,外部から如何なる干渉もなしにこれら諸国の国民によつて実現されるべきであるとの見解を表明した。

 双方は,朝鮮半島において南北の間に対話の途が開かれたことを歓迎した。

 双方は,南アジア亜大陸における緊張緩和についての関係諸国の努力に対する歓迎の意を表明した。

 双方は,また,アジア諸国の自主性の尊重の上に立つてこれら諸国の自助努力に積極的に協力することこそアジアにおける平和と安定のために大きく貢献する方途である旨を強調した。

 双方は,中東における軍事行動の発生に対して大きな懸念を表明し,現在の事態ができる限り速やかに解決されるべきであるとの希望を表明した。双方は,中東における公正かつ永続的平和ができる限り早期に確立されるようにとの希望を表明した。

 双方は,国際間の永続的な平和と福祉を増進するため建設的な貢献を行なうとの決意を表明した。

4 双方は,率直かつ建設的な精神で行なわれた両国最高首脳間の直接の対話が極めて有益であり,かつ,両国関係の発展にとつて重要な貢献を行なつた旨を満足の意をもつて表明した。双方は,両国最高首脳間の対話が継続されるべきである旨を強調した。

 田中総理大臣は,ソ連邦訪問中に受けた暖かい接遇に対し感謝の意を表明した。

 田中総理大臣は,日本国政府の名において,ブレジネフソ連邦共産党中央委員会書記長,ポドゴルヌイソ連邦最高会議幹部会議長及びコスイギンソ連邦大臣会議議長に対し,別途合意される時期に日本国を訪問するよう招待した。これらの招待は謝意をもつて受諾された。

1973年10月10日にモスクワで

日本国内閣総理大臣(署名)

日本国外務大臣(署名)

ソヴィエト社会主義共和国連邦大臣会議議長(署名)

ソヴィエト社会主義共和国連邦外務大臣(署名)