データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 外務省柳谷情報文化局長談話 本年度の北方地域への政府派遣墓参について

[場所] 
[年月日] 1976年9月4日
[出典] われらの北方領土 2015年版 資料編,外務省
[備考] 
[全文]

1、本年度の北方地域への政府派遣墓参について、ソ連外務省は去る5月7日に、歯舞群島(志発島および多楽島)および色丹島への墓参を許可する旨回答するとともに、墓参団全員は、ソ連本土および樺太への墓参団と同様、有効な旅券とソ連の査証を取得するよう要求してきた。

 政府は本件墓参を9月7日〜9日に行う予定で実施細目を確定の上、8月24日、ソ連側に申し入れるとともに墓参団は従来どおり外務大臣発行の身分証明書を携行する旨申し入れたところ、ソ連側は、一国の領土に入るためには有効な旅券と査証が必要である旨主張し、前記の要求を繰り返した。

2、これに対し、わが方より、かかる主張を北方地域に適用することは適当でなく、北方地域については、領土問題に対する双方の立場に相違があることを認識し、純粋に人道的見地から本問題を現実的に解決する方法として身分証明書による渡航という慣行が昭和39年以来確立されてきた。しかるに、本年、ソ連側がかかる慣行を変更しようとすることは全く不当であり、日ソ間の信頼関係を損おうとするものであるとして、本件墓参が従来どおり実施できるようソ連側の再考を求め、8月25日にも同様の申し入れを行った。

3、その後、9月3日、ソ連外務省は、在ソ日本大使館を通じ、「墓参団全員は、有効な旅券とソ連の査証を取得することが不可欠である」旨最終的に回答してきた。

4、政府としては、墓参という人道的問題を現実的に解決する方法として永年にわたり確立されてきた慣行をソ連側が本年になり突如変更し、歯舞群島および色丹島がソ連領であることを日本側に認めさせようとする意図に基づく今回の回答を行ったことは到底容認し難いものであり、ソ連側の要求を受け入れるわけにはいかない。

 政府としては、今後、北方四島への墓参が従来どおり人道的見地に立って現実的な方法で実現するようソ側の再考を促したい。