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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本国の地先沖合における1977年の漁業に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定

[場所] 東京
[年月日] 1977年8月4日
[出典] 外交青書22号,354−357頁.
[備考] 
[全文]

 日本国政府及びソヴィエト社会主義共和国連邦は,

 北西太平洋の漁業資源の保存及び最適利用に関する共通の関心を考慮し,

 沿岸国の地先沖合における漁業に関する当該沿岸国の権利に関する諸問題についての第3次国際連合海洋法会議における審議を考慮し,

 1977年5月2日付けの日本国の漁業水域に関する暫定措置法に基づく漁業に関する日本国の管轄権を認め,

 1977年5月27日にモスクワで署名された北西太平洋のソヴィエト社会主義共和国連邦の地先沖合における1977年の漁業に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定の諸規定を考慮し,

 ソヴィエト社会主義共和国連邦の国民及び漁船が,日本国の地先沖合において伝統的に漁業に従事してきたことを考慮し,

 日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の漁業の分野における互恵的協力を発展させることを希望し,

 相互に関心を有し,かつ,日本国が管轄権を行使する漁業についての手続及び条件を定めることを希望して,

 次のとおり協定した。

    第1条

 この協定は,1977年5月2日付けの日本国の漁業水域に関する暫定措置法に従つて定められる漁業水域においてソヴィエト社会主義共和国連邦の国民及び漁船が漁獲を行う手続及び条件を定めることを目的とする。

    第2条

 この協定において,

1 「魚類」とは,ひれを有する魚類,軟体動物,甲殻類{殻にかくとルビ}その他のすべての海産動植物(ただし,鳥類を除く。)をいう。

2 「漁獲」とは,次の(A)から(D)までをいう。

 (A) 魚類を採捕すること。

 (B) 魚類を採捕しようと試みること。

 (C) 魚類を採捕する結果になると合理的に予想し得るその他の活動。

 (D) (A)から(C)までに掲げる活動を直接に補助し又は準備するための海上における作業。

  この定義には,1977年6月17日付けの漁業水域に関する暫定措置法施行令第3条に掲げる高度回遊性魚種に係る漁獲は含まれない。

3 「漁船」とは,次の(A)又は(B)のために使用されているか又は使用されるよう設備がされている船舶その他の舟艇をいう。

 (A) 漁獲

 (B) 漁獲に関係する作業(漁獲の準備,船舶への補給,魚類の貯蔵,輸送及び加工並びに積卸し作業を含む。)

  この定義には,日本国の権限のある当局が発給する特別許可証により漁獲に関連する科学的調査を行うソヴィエト社会主義共和国連邦の漁船は含まれない。

    第3条

 第1条にいう漁業水域について,日本国の権限のある当局により定められるソヴィエト社会主義共和国連邦に対する1977年の漁獲割当ての量及び魚種別組成並びにソヴィエト社会主義共和国連邦の国民及び漁船が漁獲を行う具体的な区域及び条件は,この協定の署名の日に交換される日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦の権限のある当局の間の書簡に掲げられる。

    第4条

1 日本国の権限のある当局は,第1条にいう漁業水域において漁獲に従事することを希望するソヴィエト社会主義共和国連邦の漁船に対し,当該漁獲を行うことに関する許可証を発給する。ソヴィエト社会主義共和国連邦の漁船は,この許可証を有していない場合には,同条にいう漁業水域において漁獲に従事することができない。

2 1にいう許可証の申請及び発給の手続,ソヴィエト社会主義共和国連邦の漁獲に関する情報の提出の手続並びにソヴィエト社会主義共和国連邦の漁船の操業日誌の記載の手続は,この協定の不可分の一部をなす附属書に定められる。

3 日本国の権限のある機関は,1にいう許可証の発給に関し妥当な料金を徴収することができる。

    第5条

 ソヴィエト社会主義共和国連邦政府は,ソヴィエト社会主義共和国連邦の国民及び漁船が,この協定の規定並びに第1条にいう漁業水域における魚類の保存及び漁業の規定のために日本国において定められている法令に従うことを確保する。これらの規定又は法令に従わないソヴィエト社会主義共和国連邦の国民及び漁船は,日本国の法律に従い責任を負う。

    第6条

1 ソヴィエト社会主義共和国連邦政府は,日本国の権限のある当局によつて任命された公務員が,第4条1にいう許可証を有し,かつ,この協定に従つて漁獲を行つているすべてのソヴィエト社会主義共和国連邦の漁船に支障なく乗船する機会が与えられることとなること並びに当該公務員が漁船にある間,当該漁船の船長及び船員が検査(検査の結果発見された違反を除去するための措置をとることを含む。)の実施について当該公務員に協力することを確保する。

2 ソヴィエト社会主義共和国連邦政府は,1にいう日本国の公務員のソヴィエト社会主義共和国連邦の漁船における滞在に関連する経費が日本国の権限のある機関に償還されることを確保する。

3 日本国の権限のある機関によつてソヴィエト社会主義共和国連邦の漁船が拿捕{拿にだとルビ}されたときは,ソヴィエト社会主義共和国連邦政府に対し,その旨が外交上の経路を通じて遅滞なく通報される。拿捕{拿にだとルビ}された漁船及びその乗組員は,適当な担保又はその他の保証が提供された後に遅滞なく釈放される。

    第7条

 この協定のいかなる規定も,第3次国際連合海洋法会議において検討されている海洋法の諸問題についても,相互の関係における諸問題についても,いずれの政府の立場又は見解を害するものとみなしてはならない。

    第8条

1 この協定は,それぞれの国の国内法上の手続に従つて承認されなければならない。

2 この協定は,その承認を通知する外交上の公文が交換された日に効力を生じ,1977年12月31日まで効力を有する。

 以上の証拠として,下名は,各自の政府から正当に委任を受けてこの協定に署名した。

 1977年8月4日に東京で,ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書2通を作成した。

日本国政府のために

鳩山威一郎

鈴木善幸

ソヴィエト社会主義共和国連邦政府のために

A.イシコフ

附属書

 この協定の第4条1にいう許可証の申請及び発給,ソヴィエト社会主義共和国連邦の漁獲に関する情報の提出並びにソヴィエト社会主義共和国連邦の漁船の操業日誌の記載は,次の手続及び条件に従つて行われる。

1 ソヴィエト社会主義共和国連邦の権限のある機関は,日本国の権限のある当局に対し,この協定に基づいて漁獲に従事することを希望するソヴィエト社会主義共和国連邦の漁船に対する許可証の発給のために申請を行う。この申請は,両国の権限のある機関の間で合意される様式によつて行わなければならない。申請書の記入及び提出の手続は,日本国の権限のある機関が定める。

2 日本国の権限のある当局は,申請書を検討し,この協定の第1条にいう漁業水域において漁獲を行うためのソヴィエト社会主義共和国連邦の漁船に対する許可証の発給について,この協定の条件に従つて決定する。許可証の発給手続は,日本国の権限のある機関が定める。

3 日本国の権限のある当局は,許可証の発給を拒否する場合には,ソヴィエト社会主義共和国連邦の権限のある機関に対しその旨を通知する。必要がある場合には,両国の権限のある機関は,これにつき協議を行うことができる。ソヴィエト社会主義共和国連邦の権限のある機関は,この協議の後,改めて申請を行うことができる。

4 日本国の権限のある当局は,ソヴィエト社会主義共和国連邦の漁船がこの協定の条件に違反した場合には,当該漁船に対して発給された許可証の効力を停止し又はその効力を失わせることができる。

5 すべてのソヴィエト社会主義共和国連邦の漁船は,この協定の第1条にいう漁業水域において漁獲に従事するときは,当該漁船に対して発給された許可証を船橋内又はこれに準ずる場所に常時備え付けていなければならない。

6 ソヴィエト社会主義共和国連邦の権限のある機関は,船長が交代し又は乗組員の数に変更がある場合には,10日以内に,許可証を発給した日本国の権限のある当局に通報する。

7 ソヴィエト社会主義共和国連邦側は,日本国の権限のある機関に対し,無線又は電報によりこの協定の第1条にいう漁業水域における漁獲に関する旬ごとの情報(両国の権限のある機関の間で合意される様式による。)を通報し,並びに日本語及びロシア語によるこの漁業水域における漁獲に関する月ごとの資料(両国の権限のある機関の間で合意される様式による。)を郵送する。これらの旬ごとの情報及び月ごとの資料は,その旬及び月の末日の後それぞれ5日及び10日以内に,日本国の権限のある機関に提出する。

8 許可証の発給を受けたソヴィエト社会主義共和国連邦の漁船は,この協定の第1条にいう漁業水域において漁獲を行う場合には,操業日誌(両国の権限のある機関の間で合意される様式による。)に記載しておかなければならない。

(なお,本協定は「日本国の地先沖合における1977年の漁業に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定の有効期間の延長に関する議定書」(77年12月16日)により78年12月31日まで有効。)