[文書名] アフガニスタン問題に関する西堀正弘大使の国連総会演説
議長
一九八〇年は、現下の議題である「アフガニスタン情勢」で世界が震撼せしめられることにより始められた。これは誠に不幸な八〇年代の出発であったと言わねばならない。
本問題をめぐる国際社会の憂慮および解決への呼び掛けはそれ以来、実に様々の形で行われて来たことは周知のところである。本年一月第六回緊急特別総会が開催され、アフガニスタンからの外国軍隊の即時無条件全面撤退を要請する決議ES−六/二が圧倒的多数をもって採択されたことは、この国際社会の世論の結集として最も明確なものである。同趣旨の見解表明は、その後も絶えることなく、一月と五月の二度にわたりイスラム外相会議は決議を採択し、十月当地における緊急外相会議では、その解決への努力を継続することが確認されている。EC諸国もアフガニスタン問題に関する見解表明を幾度か行い、六月開催されたヴェニスの主要国首脳会議−これには日本も参加した−も同様趣旨の宣言を出した。更にはソ連軍のアフガニスタン侵入を正面から非難する決議が、二月の人権委で採択されていることも付言せねばならない。
アフガニスタン問題は唯に、内政不干渉、武力不行使の国際法上、国連憲章上の基本原則に触れるのみならず、国際の平和と安全に重要な脅威を与えるものとして世界の国々に極めて大きな憤りと不安を与えた。今総会の一般討論演説において、多くの代表が、八〇年に対する不安を語り、その要因として最近の武力行使の傾向の強まっていることを指摘したのは、正にアフガニスタン問題に端を発しているものであることは言うを待たないであろう。
議長
以上の国際社会の憂慮と呼び掛けにも拘らず問題解決の見通しは立っておらず、ソ連の前向きな姿勢も看取されていないことを我が国は遺憾と考えている。我が国はソ連のアフガニスタンへの軍事介入が国際法及び国際正義に反するものであり、直ちにソ連軍のアフガニスタンからの全面撤退が行われ、アフガン国民が内政不干渉自決権尊重の原則に基づき自らの手で国内問題の解決を図り得るようにすべきものと考えている。
又我が国は本問題に対する非同盟諸国、就中イスラム諸国の深刻な憂慮に対し、同情と理解を有するものである。その立場より、特にイスラム会議の努力を支持するものである。
我が国としても、ソ連が国際社会の声に耳をかたむけ、反省と再考を求めるべく一連の措置をとった。特に我が国がASEAN諸国、中国、米国、西独等とともにモスクワ・オリンピック大会不参加に踏み切ったことは、アフガニスタン問題に対する国際社会全体の憂慮が明らかにされた点で意義があったと考えている。
議長
同じアジアの一国として、日本はアフガニスタンの政府および国民とは長らく友好・協力関係を享受してきたが、今後共アフガン国民が自由に表明した意志に基づき、そのような関係を維持したいと強く望む。しかし、このことは日本が本総会に代表を送っているアフガン政権を承認することを意味するものではないことを付言したい。
アフガニスタン問題を論じる場合、ソ連のアフガニスタン侵入がパキスタン等周辺諸国に及ぼした影響を抜きにして論ずることは出来ない。アフガニスタン問題が最も直接的脅威となっているパキスタンに対しては、総理大臣特使が三月に、外務大臣自身が九月に訪問し意見交換を深め、又ジャムルードの難民キャンプ村を視察したりした。一一〇万人を越す難民の問題については人道的配慮より、UNHCRの要請に応じ、約四・八百万ドル、WFPを通じ約一・四百万ドル、パキスタン政府に対しては約一・八百万ドル相当の援助物資を供与済みであり、更に同政府に対し、総額約一・四百万ドル相当の難民住居物資を供与することを決定した。
議長
我が国は本件決議案(A/三十五/L・十二)を強く支持するものである。その中には、とりわけイスラム諸国、非同盟の切なる問題解決の願望が示され、国際社会の基本原則が確認され、解決の具体策も示唆されている。
我が国はまた本問題をめぐる事務総長の尽力も評価するものである。決議案には、この点も言及があり、更に事務総長特使の任命案も含まれている。本問題の国際社会における構造的な意味の大きさからも特使が本問題に真摯に取組まれることを期待したい。
最後に本決議案が緊急総会決議と同様圧倒的多数をもって採択されることを望むと共にこの国際社会の声を無視することは自らの不利益を招じていることに他ならないことを協調する。