データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] SS−20シベリア移転配備問題及びわが国外交活動等に関するソ連側報道機関の論評に関する対ソ申入れ抜粋

[場所] 
[年月日] 1983年1月25日
[出典] われらの北方領土 2015年版 資料編,外務省
[備考] 
[全文]

 去る1月17日、グロムイコ外務大臣はドイツ連邦共和国訪問中、中距離核戦力交渉問題に触れ、「中距離ミサイルのうち、欧州地域で合意された数を越えるものは、西欧の目標に到達出来ないシベリアの線以遠に配備されることとなろう」との趣旨の発言を行った。我が国としては累次明らかにしている通り、中距離核戦力に関する米ソ間の交渉が実質的に進展し、東西間の軍事バランスが出来る限り低い水準で均衡することを希望しているところであるが、ソ連が同交渉の結果として中距離ミサイルをシベリアに新たに移動させることを考慮しているのであれば、日本側としてこれを深刻に受けとめざるを得ない。また、先般、一部の西独紙はアンドロポフ・ソ連共産党書記長がフォーゲル・ドイツ連邦共和国社会民主党首相候補に対し「ソ連兵器の一部は廃棄され、一部は撤去されて日本における新たな基地とのバランスをはかるべく極東に移転される」旨述べたと報じている。

 もし、かかる報道が正しいとすれば日本側としてはこのようなソ連側の考え方を受け入れることが出来ず、且つこのような危険な考え方を遺憾とせざるを得ない。

 そもそも我が国が進めているのは、全く自衛のための必要最小限度の抑止力の整備であり、このような我が国の抑止力の整備を理由にソ連の核兵器が極東に移転されることは的外れと言わざるを得ない。また既に極東に現存する中距離ミサイルに加え、新たなミサイルを同地域に移転することはアジアの緊張を不心要に増大させるものであり、ひとり我が国のみならず他のアジア諸国の批判をよぶことになろう。極東におけるミサイルの削減の問題については、昨年5月、故ブレジネフ書記長は、ソ連はソ連のミサイルが対峙している核手段の保有者とのみ交渉するとの態度を明らかにしたが、これは核を有さぬ国とは核兵器削減問題については話し合いさえも行わないとする「強者の論理」に他ならない。

 また、近年、極東におけるソ連の急速な軍備拡大は、この地域の平和と安定にとって大きな不安を与えている。日本側の度重なる抗議にもかかわらず、昨年末には我が国の北方領土に従来は飛来して来なかった新たなソ連軍用機が飛来する等北方領土におけるソ連の軍備増強が継続していることは極めて遺憾であり、この機会にこの点についても日本側の考え方を表明しておきたい。