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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 安倍外務大臣の訪ソ関連文書,ソ連側主催午餐会における安倍外務大臣スピーチ

[場所] モスクワ
[年月日] 1986年5月30日
[出典] 外交青書31号,355−356頁.
[備考] 
[全文]

シェヴァルナッゼ大臣閣下御夫妻

御列席の皆様,

本日,第7回目の日ソ外相間定期協議が開始されました。

申すまでもなく,日ソ間の最も重要な政治対話の場としての役割を果たしておりますのが外相間定期協議であります。1967年に合意されたこの協議は少なくとも年に1回開催することになっていたにもかかわらず,定期的な開催という合意が守られなかったのみならず,本年の貴大臣との定期協議は,実に8年振りという情況でありました。今年1月貴大臣の日本国訪問の際この重要な政治対話の場を本来の姿に戻すことに合意したことは,いわば当然のこととはいえ大いに勇気づけられることであります。私は,1月の東京における会談で貴大臣と率直かつ建設的な話し合いを行ったことは,日ソ関係を好ましい方向に進めることに貢献し得たと確信しております。また,このことについて我が国においても,また貴国においても肯定的に評価されていることを喜ばしく思います。

私が今般訪ソを決意するに至った背景には,このモメンタムを失うことなく、外相間定期協議及び平和条約交渉を定着させることが必要であるとの判断があります。私としては貴大臣との間で培ってさた{前2文字ママ},友好的な個人的関係を基礎として、私自らの手でこの協議及び交渉を定着化させることが,外務大臣としての私の責務であると考えた次第であります。

日ソ両国間には,御承知の通り,解決を要する諸懸案が存在しております。その中で今般日ソ文化協定が署名される運びになりましたことは,日ソ両国間の文化交流を,相互主義の原則のもとに,均衡した形で拡大する途を招くものであります。北方墓参の問題につきましても,東京において先祖の墓の慰霊が日本人の精神生活の中で重要な役割を果たしていることを貴大臣に説明し,人道的な見地からの御配慮をお願いいたしました。日本国民は,閣下が国民感情を理解すると発言されたことに深い感銘を覚えた次第であり,好意的な結論が出されることを強く期待しております。

 特に私は,ここで,何よりも戦後未解決の諸問題を解決し,平和条約を締結することが私どもの最大の責務であることを強調したいと思います。そうしてこそ,日ソ両国は,確固たる基礎の上に立って,友好的な協力を進めうることになると私は信じます。私の今回の訪ソがそのための一歩となりうることを念じます。

 次に,私は,貴大臣との政治対話が単に日ソ関係にとどまらず,国際情勢全体の脈絡において有する意義についても指摘したいと思います。現下の複雑な国際情勢の下では,社会体制を異にする諸国の間で高いレベルの政治対話が頻繁に行われることが,相互不信の除去と問題の解決のために不可欠であります。日ソ両国は,わずか4カ月の間に,2度にわたり,直接的な政治対話の機会をもち,平和と軍縮の問題を始め,現下の緊要な国際問題について,率直かつ有益な意見交換を行いました。今回の私どもの会談は,世界的にもかなり強い関心が持たれております。私は,貴国と他の諸国との間の政治対話の重要性も指摘したいと思います。何故ならば,対決でなく対話が国際政治の基調となることを私は強く希望するからであり,この関連で私は,軍縮・軍備管理という世界の最重要課題について重大な責任を担っている貴国と米国との間の政治対話,就中,第2回米ソ首脳会談が早期に開催されることを全世界の国民が強く期待している事実を指摘したいと思います。

私は,今般の貴国訪問が極めて短期間であることを残念に思いますが,その間,貴大臣をはじめソ連側関係者より示されております温かいおもてなしに対し心より御礼を申し述べます。

ここに杯を上げ,シェヴァルナッゼ大臣御夫妻の御健康と日ソ両国の友好関係の発展のため乾杯いたしたいと思います。