[文書名] 安倍外務大臣の訪ソ関連文書,ソ連側主催午餐会におけるシェヴァルナッゼ外相スピーチ
先般の東京での会談において,我々は日ソ対話の再開を満足の意をもって指摘した。
現在貴大臣がモスクワにこられたことは,本政治対話が継続的性格を帯びたということができる。
2回目の会談を迎え,我々は対話の今後の方向,内容を日ソ関係の全ての分野における発展へ向け確定することが重要である。隣国関係から善隣関係への道は,国際情勢の改善,緊張緩和,国際的な安全保障の強化を通じて横たわっているのである。我々は日本が相互理解,信頼及び協力関係の発展を促進するために自己の少なからぬ重みと権威を行使しうると強く確信している。
その場合には両国関係の若干の厳しい問題について別の見方をすることができよう。我々の核廃絶への探究は,原爆の恐怖を知る日本人の強い支持をうける必要がある。それゆえ我々は1986年1月15日のゴルバチョフ書記長声明にある核廃絶計画の現実化において日本の協力を期待する。我々は核実験の完全全面禁止に関する国際合意の達成へ向けての政策を遂行するのみならず,全ゆる核爆発についてのモラトリアムを一方的に行っている。先般ゴルバチョフ書記長は,モラトリアムを8月6日まで有効であるとし,レーガン大統領にヨーロッパの都市または広島において核実験停止について合意するための会談をもつことを提案した。もし広島で米ソがかかる合意に達成するのであれば,これはまさしく歴史的出来事となろう。残念ながら,これについてワシントンより反応は全然ない。アメリカは核実験を続行し,日本国民を含む諸国民の期待に応えていない。
我々は,「スター・ウォーズ」計画により他国の安全が向上すると信じ込ませようとする試みを知っている。これに関連した決定を行うのは勿論日本側の問題である。しかしながら私は核兵器の危険な対抗手段として開発された宇宙兵器の攻撃的性格に注目したい。この兵器の出現とともにすべての国の安全保障はあやういものとなり,軍拡競争の制限を続けることは実際上不可能となろう。
米側の最近の声明を見てもアメリカは核その他の戦力拡大に対するあらゆる制限をできるだれ早くのがれようとやっきになっている。これは,SALT−2への米側の態度を見れば明白である。アメリカの新型核ミサイルが合意された「天井」にぶち当たりそれを破りつつあるのである。条約によって定められた制限がじゃまになったのである。これこそが,戦略兵器制限の分野における最も重要な合意に対する批准を拒んだ軍国主義勢力の「論理」である。
かかる行動は全世界に大きな不安をひきおこしている。
この発言は日本とその同盟国の関係にあつれきをもたらすためのものでは全くない。
我々は,隣人との話合いは完全な率直さを前提としているとの点のみに立脚している。隣人同士は互いに真実を話さねばならない。
隣国関係の要因は,アジア・太平洋地域における緊張の緩和,アジア諸国の安全強化,互恵的協力等を促進するものでなければならない。
アジア地域の情勢に関する先般のソ連政府声明において具体的見解が述べられている。我々は関係諸国間の意見交換をできるだけ早く開始したいと考えている。最も重要なのはアジア・太平洋地域の平和と安全保障の強化に関し,共同歩調をとること。
このような共同歩調は,太平洋地域諸国が関心を有する最も広範で民主的な問題の議論であると思われる。このような議論は,多国間においても,二国間においても可能である。
我々は,我々と同じ意見を持つ人とも,別の意見の人とも話し合う用意がある。
ソ連と日本は,そのお手本となり多くのことを成し遂げることができよう。この2国が協力すれば,それは他の国々の利益にもなる。
ソ連と日本の間に善隣関係の基礎を強化するためにも多くのことをすることができるし,また,しなければならない。
1月に東京で会談したときは,我々は大ぎょうな計画を立てたり,立場の違いを大げさに強調したりせず,両国の立場が近づいていく可能性を明らかにした。そして結果として悪くない合意と目に見える前進が生まれた。
また,今我々は肯定的な結果について考えている。もし,今後の両外相間の会談ごとにたとえ必ずしも大きくなくとも肯定的な合意を達成していくならば,我々は一歩一歩互いにかなりの距離を歩み寄ることになろう。止まらないで動き続けることが重要である。(予定されている文化協定の署名が両国人民間の相互理解に重要な貢献を行う旨指摘。)
両国間により広汎な相互活動,協力の可能な諸般の分野が存在する。このテーマにつき東京で,また今モスクワで詳細に話し合った。多数の問題で我々の見解が一致したのは結構なことである。
この点から出発して,我々は貴大臣のモスクワ訪問を両国間の政治的対話の意義深い継続と考えている。これは相互理解の深化あるいは現在両国がかかえる問題の解決への共通の態度を生み出すための対話である。
貴大臣閣下並びに大臣夫人および日本からのお客様に対し御健康と御発展を,そして日本国民の皆様に対し平和と繁栄をお祈りする。