データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] クラスノヤルスクにおけるゴルバチョフ書記長演説(日本関係部分)

[場所] 
[年月日] 1988年9月16日
[出典] われらの北方領土 2015年版 資料編,外務省
[備考] 
[全文]

 ソ日関係の状態は、疑いなくこの地域の情勢全体にとり重大な意味を有する。石橋元社会党委員長、安倍自民党幹事長、不破共産党副議長、土井社会党委員長といった一連の日本の著名な政治家との会談並びに日本の社会団体や文化人との書簡やメッセージの交換によって、私にはソ日関係の問題点とその停滞打破の可能性がよりよく見えるようになった。

 最近の中曽根前総理との率直な会談によって、二国間及び地域の利益のバランスに基づいて両国関係を活発化するための土壌と双方の志向が存在することに、私はますます確信を持つようになった。この様な肯定的な傾向が今後の政府的接触の進展に際して、継続され、((注)ソ日関係をより高いレベルに引上げ)、正常な発展の道へと導き出すことを希望する。

 ソ連においては、日本の全国知事会との交流が再開したことや日本がソ連の主要な貿易・経済パートナーの地位に復帰することに日本の実業界が再び関心を示し出したことを然るべく評価している。信頼譲成を妨げている人道及び漁業分野で存在する問題は克服できると考える。しかしながら、米国との「負担の分担」の枠組みの中で日本がその軍事的潜在力を継続的に増強していることは、ソ連人及び日本の遠近いずれの隣人をも不安にしていることを指摘せざるを得ない。

 軍事目的へのGNPの1%は控え目のように見える。しかし、もしその実際額を日本の増大する経済力と共に考えるならば、この1%を極めて深刻に考えざるを得ない。日本人は、現代世界において軍国主義に頼らずに大国のステータスを得ることが可能であることを実証したように思われる。事実、疑問が起こる。何故に全人類にとってこのようにユニークで非常に教訓的な経験の価値を失墜させるのであろうか。何故、諸国民の目の前で全世界に拡がる日本の経済的プレゼンスの並外れた活力に対し、戦前及び戦中の歴史的連想によって重荷を負わせるのであろうか。

(注)括弧内の語句は、プラウダ掲載の演説テキストでは脱落している。