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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 我が国国民の北方領土入域問題に関する内閣官房長官談話

[場所] 
[年月日] 1989年9月19日
[出典] 内閣府
[備考] 
[全文]

1.北方領土問題の解決は、我が国国民の強い願いである。

 北方領土は我が国固有の領土であるにもかかわらず、遺憾なことに戦後

40年以上を経た今日もなおソ連の不法占拠の下に置かれている。

 この北方領土の一括返還を実現して日ソ平和条約を締結し、両国間に真の相互理解に基づく安定的な関係を確立することは、我が国対ソ外交の基本方針であり、政府は、国民の総意及び国会での全党一致による累次の北方領土問題解決促進決議に基づき、従来からそのための交渉を粘り強く続けてきたところである。この交渉は、昨年12月の日ソ外相間定期協議以来活発化しているが、ソ連の立場については、残念ながら、依然として実質的な変化が見られない状況である。

2.他方、最近、ソ連は、その不法占拠による施政の下で北方領土への我が国国民の入域を受け入れるとの政策をとり始め、その結果、一部の我が国国民がソ連当局の査証発給を受けて北方領土に入域するとの事例が見られた。

3.そこで、政府としては、国民各位に対し、ソ連の不法占拠下にある北方領土への入域の問題点をお伝えして御理解を求めたい。

4.即ち、我が国国民がソ連の出入国手続に従うことを始めとしてソ連の不法占拠による施政の下で北方領土に入域することは、北方領土が我が国の領土であるにもかかわらず、あたかもソ連の領土であるかのごとく入域することであり、北方領土に関する国民の総意及び国会の関係諸決議並びにそれらに基づく政府の政策と相いれないものである。

 また、人道上の問題である北方領土への墓参に関し、昭和51年にソ連側が、長年にわたり確立されてきた慣行に反し、我が国墓参団に対し外国に旅行する場合と同じように旅券・査証方式を要求してきたために、我が国の多数の遺族の方々が、その後約10年間にもわたりこの墓参の中断を余儀なくされ、その結果一部の遺族におかれては墓参を果たせないまま亡くなられたとの経験があったことが想起されるべきである。

 更に、このような入域が、現在政府が行っている対ソ交渉に政治的影響を及ぼす可能性があることも留意されるべきである。よって、政府としては、国民各位に対し、北方領土問題の解決までの間、このような北方領土への入域を行わないよう要請するものである。

5.以上のことは、もとより通常の日ソ間の交流の進展を妨げる趣旨のものではなく、また、政府としては、今後とも、北方領土問題を解決して日ソ平和条約を締結するために鋭意努力を重ねていく所存である。