データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日ソ共同声明(1991年4月18日)

[場所] 東京
[年月日] 1991年4月18日
[出典] 外交青書35号,432-436頁.内閣府
[備考] 
[全文]

1 エム・エス・ゴルバチョフ・ソヴィエト社会主義共和国連邦大統領は、日本国政府の招待により、1991年4月16日から19日まで日本国を公式訪問した。エム・エス・ゴルバチョフ・ソヴィエト社会主義共和国連邦大統領には、ア・ア・ベススメルトヌィフ・ソヴィエト社会主義共和国連邦外務大臣その他の政府関係者が同行した。

2 エム・エス・ゴルバチョフ・ソヴィエト社会主義共和国連邦大統領夫妻は、4月16日、皇居にて天皇、皇后両陛下と会見した。

3 エム・エス・ゴルバチョフ・ソヴィエト社会主義共和国連邦大統領は、海部俊樹日本国内閣総理大臣と、平和条約締結交渉を含む日ソ間の諸問題及び相互に関心を有する主要な国際問題について率直かつ建設的な話し合いを行った。エム・エス・ゴルバチョフ・ソヴィエト社会主義共和国連邦大統領は、海部俊樹日本国内閣総理大臣に対し、ソヴィエト社会主義共和国連邦を公式訪問するよう招待し、この招待は、謝意をもって受諾された。訪問の具体的時期は、外交経路を通じて合意される。

4 海部俊樹日本国内閣総理大臣及びエム・エス・ゴルバチョフ・ソヴィエト社会主義共和国連邦大統領は、歯舞群島、色丹島、国後島及び択捉島の帰属についての双方の立場を考慮しつつ領土画定の問題を含む日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の平和条約の作成と締結に関する諸問題の全体について詳細かつ徹底的な話し合いを行った。

 これまでに行われた共同作業、特に最高レベルでの交渉により、一連の概念的な考え方、すなわち、平和条約が、領土問題の解決を含む最終的な戦後処理の文書であるべきこと、友好的な基盤の上に日ソ関係の長期的な展望を開くべきこと及び相手側の安全保障を害すべきでないことを確認するに至った。

 ソ連側は、日本国の住民と上記の諸島の住民との間の交流の拡大、日本国民によるこれらの諸島訪問の簡素化された無査証の枠組みの設定、この地域における共同の互恵的経済活動の開始及びこれらの諸島に配置されたソ連の軍事力の削減に関する措置を近い将来とる旨の提案を行った。日本側は、これらの問題につき今後更に話し合うこととしたい旨述べた。総理大臣及び大統領は、会談において、平和条約の準備を完了させるための作業を加速することが第一義的に重要であることを強調するとともに、この目的のため、日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦が戦争状態の終了及び外交関係の回復を共同で宣言した1956年以来長年にわたって二国間交渉を通じて蓄積されたすべての肯定的要素を活用しつつ建設的かつ精力的に作業するとの確固たる意志を表明した。

 同時に、日本国と日本国に隣接するロシア・ソヴィエト連邦社会主義共和国を含むソヴィエト社会主義共和国連邦との間の相互関係における善隣、互恵及び信頼の雰囲気の中で行われる貿易経済、科学技術及び政治の分野での並びに社会活動、文化、教育、観光、スポーツ、両国国民間の広範で自由な往来を通じての建設的な協力の展開が、合目的的であると認められた。

5 双方は、政治対話の拡大が日ソ関係の増進にとって有益かつ効果的な方途であることを確信し、最高首脳レベルでの定期的な相互訪問による政治対話を継続し、深化させ、発展させるために努力するとの決意を表明した。

6 双方は、1966年に合意された両国外務大臣間の協議の定期的な実施の重要性を指摘し、少なくとも年1回、必要な場合にはより頻繁に、協議を行うことを確認した。

7 双方は、両国が、相互の関係において、国際連合憲章第2条に掲げる原則、なかんずく次の原則を指針とすることを確認した。

(イ) その国際紛争を、平和的手段によって、国際の平和及び安全並びに正義を危うくしないように、解決すること。

(ロ) その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使は、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎むこと。

8 双方は、今回の首脳会議が両国にとって極めて有益であったことにつき意見の一致をみた。双方は、実務分野における協力を拡大し及び活性化することの重要性を指摘し、これに関連して次の文書を作成した。

 ‐日ソ政府間協議に関する覚書

 ‐ソヴィエト社会主義共和国連邦における市場経済への移行のための改革に対する技術的支援に係る協力に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定

‐日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の1991年から1995年までの期間における貿易及び支払に関する協定

‐ソヴィエト社会主義共和国連邦極東地方との消費物資等の貿易に関する交換公文

‐展覧会及び見本市の相互開催の勧奨に関する日ソ共同声明

‐漁業の分野における協力の発展に関する日ソ共同声明

‐航空業務に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定の附属書Iの改正に関する交換公文

‐シベリア経由路線による航空業務の拡大に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の交換公文

‐環境の保護の分野における協力に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定

‐原子力の平和的利用の分野における協力に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定

‐チェルノブイリ原子力発電所事故の住民の健康に対する影響を緩和するための日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協力に関する覚書

‐1991年4月1日から1993年3月31日までの間における文化交流に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定の実施に関する計画の承認に関する交換公文

‐文化財の保護の分野における日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の交流及び協力に関する覚書

‐現代日本研究センターの活動に関する協力に関する日ソ共同声明

‐捕虜収容所に収容されていた者に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定

9 双方は、日ソ両国国民の生活水準の向上及び国際社会の一層の進歩に貢献することを目的として、友好及び互恵の基礎の上に、政治、経済、貿易、産業、漁業、科学技術、運輸、環境、文化及び人道を含む様々な分野において、均衡のとれた形でかつ可能な範囲で両国間の実務関係を更に深化させ及び発展させることの必要性につき意見の一致をみた。

10 双方は、日ソ政府間貿易経済協議及び日ソ・ソ日経済委員会の活動を高く評価するとともに、互恵の基礎に基づく両国間の貿易経済関係の一層の拡大を促進する用意があることを表明した。双方は、ソヴィエト社会主義共和国連邦におけるペレストロイカが今後とも推進されることがソヴィエト社会主義共和国連邦のみならず世界全体にとって意義を有することにつき認識の一致をみた。

11 双方は、漁業の分野における現行の政府間諸協定に基づく両国間の協力を高く評価するとともに、このような協力を長期的かつ互恵的な基盤の上に一層発展させるため、建設的な意見交換の継続が望ましいことにつき意見の一致をみた。これに関連して、双方は、市場経済の基礎の上に、日本国及びソヴィエト社会主義共和国連邦極東地方の企業及び団体の間における広範な関係の発展に賛意を表明した。双方は、世界の海洋における生物資源の保存、管理、再生産及び最適利用に関し、両国政府がともに参加している国際機関の活動を含む国際的協議の場を通じて密接な協力を維持し、発展させていくことの必要性を認めた。

12 双方は、科学技術協力委員会の活動及び互恵の基礎の上に両国間で実施されている科学技術分野の協力の着実な進展に満足の意を表明し、このような協力の一層の進展を図るとともに、双方によって必要と認められるその他の分野における協力を拡大することにつき意見の一致をみた。

13 双方は、近時両国間の文化交流が活発化し両国国民間の相互理解が深まりつつあることに満足の意を表明した。双方は、既存の協定に基づく両国間の文化交流が着実に進展していることを評価し、両国の伝統的及び現代の文化及び社会に対する相互理解を一層促進するための交流が重要であることにつき意見の一致みた。

14 双方は、人道的分野における両国間の協力が、両国国民の相互信頼の深化に大きく資するものであることを認め、墓参、捕虜収容所に収容されていた者及びソヴィエト社会主義共和国連邦に常住する日本人の問題に係る協力が活発化していることに満足の意を表明した。

15 双方は、世界的及び地域的規模での国際情勢の改善の過程が不可逆的な性質を持ち、更に発展すべきであることに同意した。双方は、国際の平和及び安全の維持のために努力が継続されることの必要性並びに均衡のとれた形で可能な限り低い軍事力及び軍備の水準を達成するとの課題の重要性を強調した。この関連で、双方は、軍備管理・軍縮面で達成された成果を歓迎し、その誠実な実施の重要性を確認するとともに、この分野において進行中の二国間及び多国間の交渉における速やかな合意の達成を支持した。

16 双方は、湾岸における危機の厳しい教訓を考慮し、核兵器、化学兵器等の大量破壊兵器及びミサイルの不拡散並びに通常兵器の移転に関する透明性及び公開性の増大並びに各国による通常兵器の移転の自主性な管理の強化について、国際の平和及び安全の維持の見地から、国際社会が努力を強化することが必要であるとの認識を共有した。

17 双方は、冷戦体制の終焉とともに急速に変化を遂げつつある現在の国際秩序の中で、国際政治及び国際経済において双方が占める地位及び双方が果たすべき責任にかんがみ、日ソ関係の完全な正常化を達成して飛躍的発展への展望を開くことが重要であり、その現実が両国の利益にこたえるのみならず、アジア・太平洋地域ひいては世界の平和と繁栄に資するとの点で一致した。

18 双方は、国際連合その他の国際機関の活動を高く評価するとともに、これらによる地域紛争の解決並びに世界における相互理解、信頼及び安定の強化並びに現代国際社会における建設的協力及び協調の拡大に対する重要な貢献を高く評価する。双方は、国際連合が政治、経済及び環境の問題並びに麻薬の不法な取引との闘いの問題を含む他の世界的問題の解決に果たす役割の重要性について意見の一致をみた。双方は、平和のための活動に係る国際連合の潜在力を十分に開花させ、国際連合が世界的問題に果たす役割を高めるよう支援するため、両国間で協力及び協議を更に進める必要性につき認識の一致をみた。

 双方は、国際連合憲章における「旧敵国」条項がもはやその意味を失っていることを確認するととにも、国際連合の憲章及び機構の強化の必要性に留意しつつこの問題の適切な解決方法を探求すべきことにつき意見の一致をみた。

19 双方は、湾岸における危機に対して、国際社会が国際連合を中心として連帯し、協力したことがクウェイトの解放という成果を可能としたとの認識を共有するとともに、イラクが国際連合安全保障理事会の関連諸決議を早期に履行することにより、地域の平和と安全が回復されなければならないことにつき意見の一致をみた。

 双方は、中東地域が国際平和にとり極めて重要な地域であることを認識し、中東地域のみならず世界の平和と繁栄の確保のために、地域の戦後の経済復興に対し、地域内の諸国の意向や活動を尊重しつつ、国際社会全体が協調して積極的に協力していくことが重要であるとの認識で一致した。

 双方は、湾岸地域の危機後の建設に関する努力とともに、中東における他の尖鋭化した紛争の火種、まず第一に中東和平問題の早期解決及びそのための真剣な和平プロセスの開始を国際社会が支援することが極めて重要であると考える。

20 双方は、アジア・太平洋地域における平和と繁栄のための努力を評価した。双方は、これに関連して、同地域における紛争の平和的手段による公正で合理的な解決を支持するとともに、同地域の諸国家の自主性を尊重しつつ、これらの諸国の適切な自助努力に対し建設的な協力を行っていくことが重要であるとの認識で一致した。

21 双方は、朝鮮半島の平和と安定の確保について大きな関心を表明するとともに、その実現のために南北対話の進展が重要であるとの共通の認識に立って、南北間の総理会談の継続を支持した。これに関連して、日本側は韓ソ国交樹立を、ソ連側は日朝間の関係正常化に関する話合い開始を、いずれも朝鮮半島の緊張緩和に資するものとして歓迎した。双方は、朝鮮民主主義人民共和国がIAEAとの保障措置協定を速やかに締結することを希望する旨表明した。

22 双方は、国際連合安全保障理事会の5常任理事国及びカンボディアに関するパリ国際会議の共同議長によって作成されたカンボディア問題の包括的政治解決に関する諸協定案の重要性に言及した。これに関連して、日本側は、国際連合安全保障理事会の常任理事国としてのソ連の貢献を評価し、また、ソ連側は、包括和平案のカンボディア当事者による受入れを促進する日本の最近の努力を歓迎した。双方は、カンボディア包括和平の早期達成のため、今後とも引き続き努力することの必要性につき意見の一致をみた。

23 双方は、国際情勢における緊張緩和の傾向を更に強化することの必要性につき、また、アジア・太平洋地域の平和と繁栄を推進するとの見地から安全保障面を含む広範な問題について両国間の対話と交流を拡大していくことの重要性につき、意見の一致をみた。このための方途として、双方は、1990年12月に行われた両国外務省間の政策企画協議を高く評価し、同協議を継続することにつき賛意を表明した。

24 双方は、自由と開放性の原則の下に、アジア・太平洋地域の各国間において及び関連の経済的諸機構において、地域の繁栄のための協力が進められていることを評価した。これに関連して、日本側は、ソヴィエト社会主義共和国連邦が、上記の原則を共有しつつ太平洋経済協力会議の構成員になろうとする意向を有することを歓迎した。ソヴィエト社会主義共和国連邦側は、地域の経済発展を促進することを目的として日本国が行っている貢献を積極的に評価した。

1991年4月18日に東京で

 日本国内閣総理大臣 海部俊樹

 ソヴィエト社会主義共和国連邦大統領 M・ゴルバチョフ