データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] エリツィン大統領のロシア国民への手紙

[場所] 
[年月日] 1991年11月14日
[出典] 内閣府
[備考] 
[全文]

親愛なる祖国民へ

 南クリル諸島の運命に対する憂慮を表明した貴方がたの手紙を受け取り、

ロシア連邦の立場を声明することが私の義務であると考えます。

 私は、今の世代のロシア人には、以前の我が国の指導者が行った政治的な

冒険に対し責任はないとの点につき、貴方がたに全く同意します。同時に、新しいロシアの指導部が負う無条件の義務は、今日なおロシアと国際社会との正常な相互関係の発展の障害となっている、過去の政治から踏襲されてきた問題の解決方法を探求することにあります。国際社会の一員としての民主主義的なロシアの将来及びその国際的な権威は、結局のところ、困難な過去の遺産をいかに早く我々が克服し、国際社会の規範を受け入れることが出来るか、すなわち、合法性、正義、国際法の諸原則の無条件の遵守というものを自らの政策の規範となし得るか、ということに多くかかっているのです。

 近い将来において我々が解決しなければならない問題の一つに、日本との関係における最終的な戦後処理の達成があります。私は、ロシア人の利益の観点からみて、日本との間に平和条約がないために両国関係が事実上凍結しているという状態に今後とも甘んじていくということは、許し難いことであると確信しています。

 周知のとおり、この条約締結への主な障害として、ロシアと日本との間の境界確定問題が提起されています。この問題は、長い歴史を有していますが、最近、ロシア国民の幅広い注意と様々な感情がこの問題に集まって来ています。我々は、この問題に対する自らのアプローチにおいて、正義と人道主義に則りつつ、南クリルの住民をはじめとするロシア人の利益と尊厳を強く守っていくつもりです。私は、貴方がたに対し、南クリルの住民の誰一人の将来も壊さないようにすることを確約します。歴史的に積み重ねられて来た現実を考慮し、その社会・経済及び財産上の利益が十分に確保されるでしょう。

 日本との間でいかなる合意が行われる場合も、その出発点となる原則は、我々の単一かつ不可分の偉大な祖国の幸福に対する配慮であります。私は、我が国の歴史上初めて民主的に選ばれた大統領として、貴方がたに対し、ロシアの世論が、自国の政府の意図や計画についての情報を適時に、かつ十分に与えられることを確約します。

 貴方がたの理解と支持を衷心より期待しています。

B・エリツィン