データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] エリツィン大統領訪日における「東京宣言」,「経済宣言」,日本国とロシア連邦との間の貿易経済及び科学技術の分野における関係の今後の展望に関する宣言

[場所] 東京
[年月日] 1993年10月13日
[出典] 外交青書37号,222−224頁.
[備考] 仮訳
[全文]

日本国政府及びロシア連邦政府は,民主主義の強化,市場経済への移行及び法と正義の原則に基づく外交への転換に向けた改革に努力するとのロシア連邦の決意に留意し,両国が有する協力の巨大な潜在性を考慮しつつ,次のとおり貿易経済分野における両国関係を,平等互恵の原則に基づいて,両国関係全般を均衡をとりつつ拡大するとの考え方の下で,将来にわたり発展させることを志向する旨表明する。

1 日本国政府及びロシア連邦政府は,国際社会における相互依存関係が深まっている状況の下で,ロシア連邦における改革の推進は,ロシア連邦の諸民族のみならず,世界全体にとり極めて重要な意義を有すること,ロシア連邦における改革の成功と同国の世界経済体制への統合は,国際社会の冷戦構造から新たな国際秩序への移行を確保するために重要な要因であること,また,ロシア連邦の改革に対する支持と実際的な支援は,形成されつつある新たな国際秩序の重要な構成部分であることを確認した。

2 日本国政府及びロシア連邦政府は,市場経済への移行を目指すロシア連邦の努力に対する支援に当たって,戦後の日本国の経済発展の経験が有効となり得ることにつき,共通の理解を有する。日本国政府は,マクロ経済政策及び財政・金融制度並びに産業構造の改革,中小企業の育成をはじめとする諸分野におけるかかる経験を,ロシア連邦と分かち合う用意がある旨を確認する。

3 以上の基本認識を踏まえ,日本国政府及びロシア連邦政府は,以下の分野において両国が従来より行ってきた協力を肯定的に評価するとともに,これまでに達成された成果を踏まえ,ロシア連邦における改革の進展に応じ,貿易経済分野における両国関係が発展する可能性が増大することに留意して,両国関係全般を均衡をとりつつ拡大させるとの考え方の下で,これらの分野における将来にわたる協力を一層発展させるため今後とも努力していくことに同意する。

 −燃料・エネルギー

 −鉄鋼及び非鉄,木材,木材加工,紙パルプ等

 −運輸及び通信

 −銀行制度

 −原子力発電所の安全性確保

 −軍民転換

 −宇宙空間の平和利用

 −環境保護

 −農業・漁業

 −保健・医療

 −人材の養成

4 日本国政府及びロシア連邦政府は,両国間の貿易・経済関係の実態を踏まえて,このような関係の円滑化のため環境整備を行うことが重要であることについて意見の一致を見た。

5 日本国政府及びロシア連邦政府は,出来る限り幅広い経済情報の交換の促進が両国の利益に応えるものであることを確認する。

6 日本国政府及びロシア連邦政府は,北西太平洋の生物資源の保存と合理的利用に関し協力する意向を確認するとともに,互恵の基礎の上に,両国の企業,団体等の間の漁業の分野における協力の発展が重要であることについて認識を共有する。双方は,このような協力を,一層発展させるためには,建設的な協議の継続が必要であることについて意見の一致を見た。

7 日本国政府及びロシア連邦政府は,科学技術分野における協力が両国間の交流において重要な地位を占めていることに鑑み,それぞれの関係法令に従い基礎及び応用研究分野で,その成果が経済,産業面で導入されることも考慮しつつ,将来にわたり協力を発展させる意向である。

8 日本国政府及びロシア連邦政府は,両国の諸地域間の経済その他の分野における交流が当該諸地域の繁栄のみならず両国関係全般の進展に貢献することに留意しつつ,かかる交流の発展を奨励することに同意する。

9 日本国政府及びロシア連邦政府は,国際経済体制の枠内で,特に両国が共に加盟している種々の国際金融機関における協力を発展させることに同意する。日本国政府は,IMF,世銀等の国際機関へのロシアの加盟を積極的に支持してきたが,ロシアが未加盟の国際経済組織への同国の参加又は加盟について,適切な協力を行う。

10 日本国政府及びロシア連邦政府は,自由貿易及び開かれた地域協力という一般に認められた原則を考慮し,アジア・太平洋地域における重要な隣国としての自覚を踏まえ,当該地域の国家間の経済関係の活発化に資することが重要であると考える。

11 日本国政府及びロシア連邦政府は,1993年1月の政府間貿易経済協議の開催を想起しつつ,両国間の貿易経済関係を進展させる上で双方が抱える二国間の諸問題,また,双方が関心を有する国際経済諸問題に関し協議を行うことを確認する。

12 日本国政府及びロシア連邦政府は,今後,両国関係全般を均衡をとりつつ拡大するとの考え方の下で,この宣言に盛り込まれた事項の具体化のために必要かつ適切と認められる場合には,そのための取極その他の適当な文書の作成の可能性があるとの認識を共有する。

1993年10月13日に東京で

日本国総理大臣   細川護煕

ロシア連邦大統領 B.N.エリツィン