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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] エリツィン露大統領歓迎午餐会における細川内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1993年10月13日
[出典] 細川演説集,75−76頁.
[備考] 
[全文]

 本日、ここに、大統領閣下及び令夫人をお迎えし、宴を催す機会を得ましたことは、私どもにとりまして、大きな喜びであります。

 我が国は、二十一世紀へ向け、新たな時代の要請に適合した政策の選択を模索しております。約四十年振りの政権交替により誕生したこの内閣は、国内での「責任ある改革」が国際社会への貢献につながるとの確信を出発点として、政治改革、経済改革、行政改革という三つの改革に挑戦しています。日露両国が現在置かれている状況や、その目指す改革はそれぞれ異なりますが、私は、我が国の改革の責任者として、貴大統領がロシアにおける改革において常に示されてきたリーダーシップに深い敬意と共感を感じております。

 貴大統領が、旧ソ連邦の全体主義体制を崩壊させ、ロシアに自由と民主主義の潮流をもたらす上で果たしてこられた役割は歴史的なものであります。守旧派により引き起こされた先般のモスクワ市内の騒乱で多数の犠牲者が出たことは遺憾なことでありましたが、貴大統領は強い意志をもって遂に改革路線を擁護されました。貴大統領が進める改革への支持が不変であること、貴国において国民の意思が反映する真に民主的な社会が誕生して改革が更に推進されることが期待されていることは、私がG7議長として取りまとめたG7メッセージにおいて述べたところであります。

 二十一世紀を目前に控えて日露両国が各々歴史的変革を遂げようとしている今日、日露関係に新たな息吹を吹込むことが日露両国指導者の使命であります。今や国際政治の上で重要な影響力を有する日露両国の関係は、両国国民のためにもまた国際社会全体の利益のためにも、「共通の価値観を分かち合うバートナーシップ」と呼べるような次元にまで飛躍しなければなりません。

 今次会議においてエリツィン大統領は、ロシア政府及び国民を代表して非人間的な行為たるシベリア抑留に対し謝罪の意を表明されました。また、日露両国間において最大の懸案たる領土問題についても、これは必ず解決されなければならぬとの固い決意を明確に述べられました。私は、日本政府及び国民を代表して、かかるエリツィン大統領の勇気ある発言を高く評価するものであります。いまこそ完全な日露関係の正常化に向い、新しい歴史のページを繰る時を迎えております。今回の貴大統領の訪日はまさにその為の重要な第一歩をしるすものであります。

 ここに、日ロ新時代が確固として定着することを念ずるとともに、エリツィン大統領閣下並びに令夫人の御健康と御多幸を願って、杯を上げたいと存じます。