データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] エリツィン大統領発橋本総理宛メッセージ

[場所] 
[年月日] 1996年10月19日
[出典] 内閣府
[備考] 
[全文]

橋本総理大臣閣下

 日露両国の外交関係回復40周年という記念すべき日を迎えるにあたり、貴総理及び日本国民にお祝いを申し上げます。

 1956年10月19日に署名されたソ日共同宣言は、両国の平和と善隣友好関係を宣言致しました。この文書は、両国国民の歴史における重要な道標となり、また、両国国民を相互交流の強化と協力の発展へと向かわせるものとなりました。国際場裡において大きな影響力をもつ両国の正常な国家間関係の回復は、国際的に広く肯定的な反響を呼びました。

 もちろん、双方が互いに歩み寄ることは容易ではありませんでした。過去の重荷と「冷戦」の雰囲気は、隣人である両国国民が相互理解を探求する上でその痕跡を残しました。

 対立の時代の終焉は、時代の要求と、ロシア人と日本人の希望に応える両国関係の質的転換を開始する可能性を与えました。今日、新生ロシアと日本は対立する陣営に存在するわけでもなく、イデオロギー的対立もなく、両国国民は共通の価値観を有しております。

 画期的出来事となったのは、1993年10月、最初の露日首脳会談において達成された合意、即ち、露日関係に関する東京宣言及びロシア連邦と日本国との間の貿易経済及び科学技術の分野における関係の今後の展望に関する宣言であります。これらの宣言は、充実した協力へ向けて前進するための戦略を規定しました。

 私は、集中的な政治対話、種々の分野における互恵的協力の拡大、相互理解及び信頼の一貫した深化によりこの戦略を実現し得るものと考えます。現存する大きな潜在力を最大限に実現する必要があります。これは我々の時代の求めるところであり、ロシアと日本の国益の求めるところでもあると考えます。

 困難な諸問題については、当然のことながら、現実主義の立場から、具体的な諸問題に対処していくことにより、相互に受け入れ可能な解決に向けて進んでいくことに致しましょう。醸成されつつある露日関係の肯定的雰囲気を大切にするアプローチを示すことが必要であります。

 40年、これは成熟、経験及び明日に対する確信の期間です。両国国民の歴史的な英知と政治家の意志が、根本的に新たな水準の協力関係に速やかに到達するための担保になるものと信じております。

 衷心よりの祝意を表するとともに、日本国民の平和と繁栄を祈念致します。

敬具

1996年10月19日

モクスワ市、クレムリン

 B.エリツィン