データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日ロ首脳共同記者会見

[場所] 
[年月日] 1998年4月19日
[出典] 橋本内閣総理大臣演説集(上),559−564頁.
[備考] 
[全文]

一、冒頭発言

○橋本総理

 今回はみなさんありがとうございます。クラスノヤルスクで培われたボリスとの信頼に満ちた友人関係を一層高めることができました。また、クラスノヤルスク会談以後着実に進展してきた日口関係をすべての分野にわたり一層拡大、拡充することができました。

 そして、「橋本・エリツィン・プラン」の進捗{しんちょくとルビ}に2人とも大変満足を感じています。更に着実に実施していくことについても一致しました。そして、日本からロシアヘの投資を促進するために、ロシアと協力して、投資会社を作ることを検討することとしました。そのため、外務、大蔵、通産各省からなるチームを協議のため五月初めにもロシアに派遣することにしました。

 安全保障対話・防衛交流についても、着実に進めていきます。また、文化交流を一層促進するため日本文化祭’98を実施することになりました。

 もちろん、私たちは、平和条約に関するクラスノヤルスク合意を実現するために真剣な話し合いを行いました。その結果、私たちは、同条約が東京宣言第二項に基づいて四島の帰属の問題を解決することを内容とし、二十一世紀に向けて日ロの友好協力に関する原則などを盛り込むこととなるべきことで一致しました。更にクラスノヤルスク合意の実質的前進及びそのための作業の加速化を図るとの決意の下に、次の平和条約締結問題日口合同委員会次官級分科会を近く開催することにしました。

 私たちは、これから大変頻繁に会うことにしています。まず、バーミンガムのサミット。そして本年秋、私がお招きを受けたロシア公式訪問。そしてマレイシアで行われるAPEC首脳会談。そして来年の大統領の公式訪問。その時はお互いにネクタイをしめてお目にかかることになります。

 そして、両陛下を是非ロシアにご招待したいとの正式なご招待を受けました。私からこのご招待は両陛下に正確にお伝えするとお答えしました。

 今日二人がノーネクタイで会うために、静岡県、伊東市、川奈ホテル及びすべてのその他の関係者の皆様にお世話になり、そして今日も町で歓迎してくれた市民の方々にも、心からお礼を申し上げたいと思います。

○エリツィン大統領

 私は、冒頭発言はあまりしないようにする。まず始めに私の友人であるリュウに対して、この素晴らしい川奈にお招き頂き感謝する。そして、川奈での私たち二人の仕事を行き届いた形で組織してくれたことを感謝する。休んでいたが、この二日間大変忙しい仕事を二人で成し遂げた。合わせて十八時間くらいの仕事であった。それに加え、往復の飛行時間は二〇時間である。

 実は、私、我々の代表団、ロシア全体にとり、クラスノヤルスク会談の結果は予想以上のものとなった。その会談以降、日ロ関係と日ロ協力は、すべての分野で急速に発展し始めた。特に「橋本・エリツィン・プラン」を実施する上で、関係が大変急速に進んだ。この計画には幾つかの案件が加えられた。そして、その追加的な案件にどのようなものが入っているかというと、リュウが言及した投資会社をつくることがある。これはロシアヘの日本の色々な投資案件に従事するものであり、共同で会社の資金を組む訳である。

 その他、クリール諸島における大きな水産加工工場の建設という提案もあった。それは港湾、飛行場等すべてのインフラを備えた大きな工場になる。もう一つの案件は、モスクワ州に大きな日本の自動車工場を建設し、ロシア市場で日本製の車を生産するようになる。ロシア人は質の高い、比較的安い日本車を喜んで買う。

 私たち二人は、平和条約に関する委員会を迅速に作ったが、ただ今日意見を交わした時、この委員会の仕事がなかなか遅いということで二人とも不満を表明した。その仕事ぶりは、私とリュウの仕事の調子より大きく遅れていると思う。我々としては、委員会のロシア側部分に弾みを付けたいと思う。

二、質疑応答

○日本側記者

 平和条約、あるいはロシア側が提案した平和友好協力条約のいずれを締結するにしても、国境線の画定が不可欠と思う。それはロシアにとって大きな政治的決断となるが、大統領自身が決断するのか、それとも次世代に委ねるのか。

○エリツィン大統領

 まずはじめに言いたいのは、あなたは、私の提案と九三年に私が署名した(東京)宣言を覚えておられると思う。私は、この宣言及び五段階方式から後退はしていない。我々は、段階ごとに進んでいる。今になって、リュウがプロセスを活発化させたという訳である。そして、日ロ平和条約に関する委員会がつくられ、今まで働いていなかったものが、ようやく今活動を始め、いろいろな諸問題を討議し始めた。リュウは追加的に興味深い提案をした。この提案をよく検討する必要がある。私は、今すぐにこの提案に答えられないが、私は楽観的な気持ちを抱いている。一例を挙げたいと思う。クラスノヤルスクの会談前、七年間にわたり「南クリル水域」における操業に関する協定の交渉が続いていた。クラスノヤルスクの会談で、我々は強固な立場をとり、一か月後に署名するように大変強く述べると、確かに一か月後に署名された。

○ロシア側記者

 総理はエリツィン大統領との個人的関係が今回更に改善したと考えますか。また、非公式なつきあいのメリットは何だと考えますか。

○橋本総理

 先ほど冒頭に報告した中で一つ忘れたことがあります。クラスノヤルスクで私は魚一匹を釣り、ボリスはゼロでした。今日、海の上で改めて釣りをし、私は一匹も釣れませんでしたがボリスは二匹釣りました。赤いイサキが一匹とボラが一匹でした。どちらもおいしい魚です。

○エリツィン大統領

 サッカーで言えば二対一である。

○橋本総理

 今日は二対○では私が負けた。その際ボリスが私にいばるくらい我々の間にカベがなくなった。また妻とナイナさんも我々以上に情報交換をし、緊密になったのではないでしょうか。実はこれは我々としては用心しないといけないことです。

○エリツィン大統領

 メリットについて述べると、質問をした彼女は厚いジャケットを着ているが、おそらく暑いでしょう。我々は、非公式な形で上着を脱いで、大変涼しい。

○橋本総理

 このことがすべてを物語っている。

○ロシア側記者

 クラスノヤルスク会談と今回の会談で経済協力という分野における前進を受けて、日本は経済などの分野においてロシアの戦略的パートナーとなったと言えるか。この点について意見を聞きたい。

○エリツィン大統領

 私は確信している。つまり、クラスノヤルスク会談の前の時期に、経済関係は全くゼロの水準にあったのに対し、今は経済関係が積極的に進んでいる。そして、私が確信しているのは、日ロという両大国の経済的戦略的パートナーシップとなるということである。

○日本側記者

 橋本総理にうかがいます。昨夜の総理とエリツィン大統領との会談で平和友好協力条約に関する提案がありましたが、これについては合意したと解釈してよろしいのでしょうか。また、この中に四島の主権の問題はきちんと含まれると考えてよろしいのでしょうか。また、北方領土について先ほどエリツィン大統領より興味ある提案が橋本総理よりあったと述べておりましたが、差し支えなければ少しでもその内容を教えて頂けないでしょうか。

○橋本総理

 私が誤解が生じないよう正確に申し上げたことは、これからボリスとまとめていく平和条約は東京宣言第二項に基づく四島の帰属の問題の解決を内容とする、さらに二十一世紀に向けた日ロの友好協力に関する原則も盛り込まれるべきだと私はそう申し上げました。我々の関係は、これをしてくれればこれもする、これをしてくれないとこれもしない、といったゼロからマイナスの関係を作るのではありません。そしてボリスと私が一生懸命築こうとしているのは、私もこうする、あなたもこうするよう努力してほしい、といったよりよい将来をつくるものです。私としては当然、東京宣言第二項といえば分かるので、これ以上は付け加えません。こうした努力に並行して我々としてはボリスの言う四島での水産加工プロジェクトについて相談していくことができると思います。平和条約にどとまる{ママ}のか、それとも友好と協力を加えることになるのか、我々も努力し、また次官級分科会も早く行おうということで合意しました。そして私はボリスに真剣な提案をしました。ロシア側はそれを真剣に受けとめて検討してくれるものと信じております。しかし私はボリスとロシア政府に対して先に提案し、ボリスに真剣に検討してもらっています。これを皆さんに先に検討してもらうのでは順番が違うのではないでしょうか。いずれにせよ我々はこれから頻繁に会いますし、ハイレベルの交流もあります。何よりも次官級分科会を非常に早く開くようにお互い指示しました。いずれにせよ二人とも後ろに戻るつもりはありません。ありがとう。

○エリツィン大統領

 我々二人の間はすでに平和となった。

○橋本総理

 魚一匹の借りはあるけれども。