データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国際問題における日本国とロシア連邦の協力に関する共同声明

[場所] 東京
[年月日] 2000年9月5日
[出典] 外交青書44号,367−368頁.
[備考] 
[全文]

 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領(以下「双方」という。)は、日本国とロシア連邦との間の創造的パートナーシップ構築に関するモスクワ宣言を遵守することを確認し、両国間の信頼に基づく政治対話の深化を重視し、国際社会に存在する問題への解決にあたり、国際場裡における日本とロシアの建設的な協力の活性化が、両国間のパートナーシップ構築の重要な一環であると認識し、そのような協力が国際情勢の予見可能性の向上に資するとともに、第三国や領域に対して向けられたものではないことを宣言し、国際社会に対する責任に基づき、国連憲章に基づく国際の平和及び安全の強化に向けた共同の努力を活発化することの重要性を確認し、主要な国際問題に対するアプローチが近似していることに立脚して、以下を宣言する。

I.グローバルな問題

 1.双方は、創造的パートナーシップの精神に則り、国際の平和と安全のために主要な役割を担う国連とも協力しつつ、相互尊重、平等及び互恵的協力の原則に基づく様々な国家の民族的、精神的、文化的及び経済的な価値の多様性を維持しながら、武力紛争の予防とその平和的解決を目指す新しい世界秩序の形成のために、共通の努力を払う。

 2.双方は、地域レベルを含む核兵器の軍備管理・軍縮・不拡散体制の強化に向けられた国際社会の一層の努力を維持し及び強化することを確認するとともに、この目的のために協議を継続する。

 双方は、NPT運用検討会議において核軍縮についての更なる措置を含む最終文書が採択されたことを歓迎する。

 双方は、また、CTBTの可及的速やかな発効の必要性を支持するとともに、未だにCTBTに未署名または未批准の諸国、特にその批准が条約発効のために必要とされている国家に対して、遅滞なく署名及び批准を行うよう呼びかける。双方は、戦略的安定性の礎石として、また戦略的攻撃兵器の更なる削減の基盤として、ABM条約の維持及び強化を支持する中で、START IIの早期発効及び完全な実施並びにSTART IIIの可能な限り早期の締結を期待する。

 双方は、ミサイル及びミサイル技術の不拡散のために、ミサイル輸出管理レジーム(MTCR)に沿った努力を今後とも維持し、強化していくことを確認する。更に双方は、ミサイル拡散の抑制のための更なる多国間措置を検討し、推進する必要性を認識する。これに関連して、双方は、MTCRの重要な作業を強く支持し、グローバルな監視体制に関する提案を検討していく。

 双方は、国際原子力機関(IAEA)による保障措置の効率性及び実効性を向上させることの重要性を強調し、保障措置協定の追加議定書に規定される追加的措置が、未申告の核物質及び原子力活動に対する同機関の検知能力の向上を促進するとの確信を表明する。

 双方は、地域を不安定化するような武器の過度の蓄積を防止するために、武器移転の透明性向上のために協力して取り組む。

 3.双方は、現代世界の要請及び挑戦に応じて国連が機動的かつ効率的に行動する能力を高めることを目的として、国連改革に関する協調行動を深化させるとの意向を表明する。双方は、国連改革の文脈の中で、加盟国の一般的な合意の達成に基づき、既に機の熟している安全保障理事会の改革を行うことにより、安全保障理事会の役割及び権威を一層高めることが特別な位置を占めていると考える。ロシア連邦は、候補国たる日本国の安全保障理事会常任理事国入りを支持する。

 双方は、また、G8サミットの枠組みにおける議論に積極的に参画し、G8間での協力の一層の進展に貢献することを確認する。

 4.双方は、経済発展の問題に関し、対話及び協力を強化していく。双方は、また、世界貿易機関(WTO)への加盟をはじめとするロシア連邦の国際経済体制への統合が進展することが重要であることにつき意見が一致した。日本国政府は、ロシア連邦政府によって行われている改革路線を引き続き支持していくことを確認し、ロシア企業経営者・公務員養成計画に対する協力をはじめとする技術協力その他の協力を引き続き積極的に推進していく意向を表明する。ロシア連邦は、アジアの金融・経済危機の克服に向けた日本の努力を、ロシア連邦の経済情勢にも肯定的な影響を及ぼすものとして、評価し、支持する。

 5.双方は、社会的・経済的発展と環境保護の相互依存性を確認し、また「持続可能な開発」政策の地球規模での実施に向けられた、環境保護に基礎を置く協力を深化させることが必要であることを確認する。双方は、この関連で、開発途上国の発展及び移行期経済にある諸国の世界経済への統合の促進を目的とした支援の調整にあたって、国連が更に重要な役割を果たしうるとの認識で一致した。

 双方は、また、気候変動を始めとする地球環境問題に協調して取り組んでいく意向を表明する。

 6.双方は、テロリズムの防止、抑止及び廃絶並びにテロ行為の準備及び実行に関与した者の法による訴追のための実行可能で効果的な措置をとることを含む、あらゆる形態のテロリズムとの闘争を目的とした国際協力の全面的な強化に賛同する。

 双方は、テロリズムのための資金の供与の防止に関する国際条約の採択を歓迎し、この条約が他のテロ防止関連条約と併せ、テロリズムの脅威への抵抗に係る協力のための国際法的基盤の拡大を促進するものであることを確信する。

 双方は、また、国連国際組織犯罪条約の案文の確定を歓迎し、また、これを補足する3つの議定書に関する作業を2000年中に完了させるために積極的に協力していく。

 双方は、犯罪対策、特に、薬物及び銃器の不正取引並びに水産物の密漁及び密輸といった形態の犯罪対策に関する二国間の意見交換その他の実務的協力を継続する意向を表明する。

II.アジア太平洋地域

 1.双方は、北東アジアを含むアジア太平洋地域における安全保障問題を最重視し、アジア太平洋地域における信頼強化、安定性及び情勢の予測可能性の向上に建設的な貢献をするよう最大限の努力をする。

 双方は、アジア太平洋地域において、多国間の枠組みを通じた政治的対話及び経済的発展のプロセスに一層積極的に参加していくことについての関心を確認する。

 2.双方は、既存の両国間の接触及び協議を活用し、またASEAN地域フォーラム(ARF)をはじめとする、アジア太平洋地域における多国間の対話の仕組みの中で協力する可能性を活用して、地域安全保障に関する広範な諸問題について意見交換及び協力を発展させる用意があることを表明する。

 双方は、このような努力が、経済的発展の加速化、両国国民の福祉の向上、アジア太平洋地域の経済プロセス及び世界経済へのロシア連邦のより深い統合並びに地域経済の安定及び最適化を促進するものであることに立脚して、APECの枠内における協力を発展させるとの意向を表明する。

 双方は、ASEAN、ARF及びAPEC等の地域的な枠組みが、アジア太平洋地域における安定、経済的発展及び国際協力を確保するために好ましい環境を整備する上で果たしている役割を高く評価する。

 日本国は、ASEMの活動に参画するとのロシアの意向を理解をもって受け止め、ASEMへのロシアの参加問題の解決プロセスの進展のためロシアと協力していく。

 3.双方は、大量破壊兵器及びその運搬手段の不拡散体制の強化に賛同し、東南アジア非核兵器地帯条約の付属議定書の署名に向けて、ASEANと核兵器国との間で協議が継続していることを支持する。双方は、非核兵器地帯がNPT体制の強化と非核化された世界という目標の達成に資するであろうことに留意する。

 4.双方は、朝鮮半島における緊張緩和の重要性についての認識を共有し、そのために韓国と北朝鮮が対話を一層進展させていくことが望ましいことを確認する。この観点から、双方は2000年6月に行われた南北首脳会談の成果を歓迎する。

III.地域的問題

 1.中東和平:双方は、国連安保理決議242及び338、並びに「領土と平和の交換」のフォーミュラを含むマドリード会議の諸原則に基づき、中東における包括的で強固かつ公正な和平を達成するための努力に対する支持を確認する。

 双方は、中東における安定の強化と協力の進展のための多国間協議を含め、全ての交渉トラックにおいて和平プロセスが進展することへの確固たる支持を表明する。

 2.中央アジア:双方は、アジア地域における安全と安定の水準の向上を最重視し、中央アジアに非核兵器地帯を創設するとの構想、並びに国家的、地域的及び世界的な安全保障のための同地域の諸国の努力を支持する。

2000年9月5日

東京

日本国総理大臣 森喜朗 

ロシア連邦大統領 プーチン、ウラジーミル・ウラジーミロヴィッチ