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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日露間領土問題の歴史に関する共同作成資料集の新版(日本国外務省・ロシア連邦外務省)

[場所] 
[年月日] 2001年1月16日
[出典] 日露間領土問題の歴史に関する共同作成資料集の新版
[備考] 
[全文]

序文

 ロシア連邦が形成され、ソ連邦と継続性を有する国家として国際舞台に登場したことにより、日露関係は新たな進展を得た。ロシア指導部により民主的改革及び市場経済改革の実施という路線が遂行され、日本が二国間関係においてこのような路線を支持した結果、政治的競争並びにイデオロギー的及び軍事的対立は解消され、両国は民主主義社会の普遍的価値観という共通の基盤に立つという、根本的に全く異なる状況が作り出された。このような質的に新たな状況において、あらゆる分野において日露関係を抜本的に改善し、活性化させるための幅広い可能性が開かれた。

 このような文脈において最も重要な課題の一つは、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題を解決して平和条約を締結し、もって両国関係の戦後期における完全な正常化を達成するという、二国間関係における過去の遺産の克服である。

 1993年以降、双方により、この問題に関する一連の重要な文書が新たに採択された。

 1993年10月13日、細川護煕日本国総理大臣とB.N.エリツィン・ロシア連邦大統領は、日露関係に関する東京宣言に署名した。これは、二国間関係の進展の主要な方向性を定める、日本とロシア連邦の間の最初の包括的な文書であった。この文書においては、上記の諸島の帰属に関する問題を、歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結する必要性が明記されており、故にこの文書は特に重要である。

 東京宣言は平和条約の締結に関する日露交渉の基礎となった。

 1997年のクラスノヤルスク非公式首脳会談において、橋本龍太郎日本国総理大臣とB.N.エリツィン・ロシア連邦大統領は、東京宣言に基づき、2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くすことで合意した。

 クラスノヤルスク会談がもたらした肯定的な弾みは、日露関係に、何よりも平和条約問題に関する対話の活発化の面で、非常に多くのものを与えた。

 両国外務大臣が議長を務める平和条約締結問題日露合同委員会が設置された。

 1998年4月の川奈での橋本龍太郎日本国総理大臣とB.N.エリツィン・ロシア連邦大統領の会談において、日本側から上記の問題の解決のための提案がなされた。これに対する回答は、1998年11月のモスクワでの首脳会談において、小渕恵三日本国総理大臣に伝達された。これは、互いの立場についての双方の理解の深化に貢献するとともに、それによって、上記の問題について双方が受け入れ可能な解決方法の探求を継続することに貢献した。

 クラスノヤルスク首脳会談以降、諸島の地域における二国間交流及び接触は急激に活発化され、それらは日露関係の重要な肯定的要素となるとともに、平和条約交渉を巡る雰囲気を本質的に改善させた。

 90年代前半には、1991年10月14日の日本国外務大臣及びソ連邦外務大臣の間の往復書簡に基づいて、日本国民が諸島を、ロシア人島民が日本を訪問する査証なしの相互訪問が開始された。さらに、特に1994年の地震後、日本国政府によって島民への人道支援の供与が実施されている。

 1998年2月21日、諸島の周辺水域における日本漁民による操業を可能とすることを確保する、日本国政府とロシア連邦政府との間の海洋生物資源についての操業の分野における協力の若干の事項に関する協定が署名された。

 1998年9月18日、緊急人道支援の供与を目的とした査証なしの訪問に関する口上書の交換が在ロシア連邦日本国大使館とロシア連邦外務省との間で行われた。

 1998年11月13日の小渕恵三日本国総理大臣のロシア公式訪問に際しては、日本国とロシア連邦の間の創造的パートナーシップ構築に関するモスクワ宣言が署名された。この文書では、二国間関係史上初めて、両国間にパートナーシップを構築する課題が示された。同宣言に従って、平和条約交渉の活発化を目的として、平和条約締結問題日露合同委員会の枠内に国境画定に関する委員会及び諸島における共同経済活動に関する委員会の2つの委員会が設置された。

 また、同宣言の該当する規定を実施するため、1999年9月2日、双方は旧島民及びその家族たる日本国国民による諸島への最大限に簡易化された訪問の方式を策定した。

 2000年4月29日のサンクト・ペテルブルグでの森喜朗日本国総理大臣とV.V.プーチン・ロシア連邦大統領との会談の中で、現代世界におけ

る日露関係の戦略的重要性についての共通の理解が確認され、国際問題における戦略的な協調行動、貿易・経済分野の協力及び平和条約の締結という将来の関係発展の主要な方向性が定められた。

 2000年9月3日から5日、V.V.プーチン・ロシア連邦大統領の日本公式訪問が行われた。その結果、双方は、真のパートナーシップに向けて二国間関係を顕著に前進させることができた。

 この首脳会談の結果、交渉プロセスの効率性を高めるとの志向に則り、森喜朗日本国総理大臣とV.V.プーチン・ロシア連邦大統領は平和条約問題に関する声明に署名した。ここにいう交渉プロセスの効率性の向上とは、平和条約締結問題日露合同委員会及び国境画定に関する委員会の作業を加速化させるための新たな方策を策定すること、日露間領土問題の歴史に関する共同作成資料集の新版を準備すること並びに平和条約締結の重要性を両国の世論に説明するために努力することである。

 森喜朗日本国総理大臣とV.V.プーチン・ロシア連邦大統領の決定に従い、日本国外務省及びロシア連邦外務省によって作成された両国間の領土問題の歴史に関する共同作成資料集の新版を読者に供する。この資料集は、1992年9月に作成された「日露間領土問題の歴史に関する共同作成資料集」の増補版として出版されたものであり、1993年以降に作成された文書が収められている。

 この資料集を参照することが、その中で触れられた問題に関する客観的な理解の形成に役立つことを希望する。

2001年1月16日

日本国外務省

ロシア連邦外務省


日露間領土問題の歴史に関する共同作成資料集の新版(目次)

1.日露関係に関する東京宣言(1993年10月)

2.日本国政府とロシア連邦政府との間の海洋生物資源についての操業の分野における協力の若干の事項に関する協定(1998年2月)

3.緊急人道支援の供与を目的とした択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島への査証なしの訪問に関する在ロシア連邦日本国大使館の口上書(1998年9月)

4.日本国とロシア連邦の間の創造的パートナーシップ構築に関するモスクワ宣言(1998年11月)

5.旧島民及びその家族たる日本国国民による択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島への最大限に簡易化された訪問の方式に関する日本国外務省の口上書(1999年9月)

6.択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島における共同経済活動の発展に関する日露協力プログラム(2000年9月)

7.平和条約問題に関する日本国総理大臣及びロシア連邦大統領の声明(2000年9月)


1.日露関係に関する東京宣言

 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、

 冷戦の終馬により、地球的及び地域的レベルにおいて並びに諸国家間の二国間関係において、世界が対立構造から、国際協力の発展に対して新たな展望を開く協力へと向かいつつあり、このことは、日露二国間関係の完全な正常化にとり好ましい前提を作り出しているとの認識に基づき、

 日本国及びロシア連邦が、自由、民主主義、法の支配及び基本的人権の尊重という普遍的価値を共有することを宣言し、

 市場経済及び自由貿易の促進が両国経済の繁栄及び世界経済全体の健全な発展に寄与するものであることを想起し、

 ロシア連邦において推進されている改革の成功が、新しい世界の政治経済秩序の構築にとって決定的な重要性を有するものであることを確信し、

 国連憲章の目的及び原則の尊重の上に両国関係を築くことの重奏性を確認し、

 両国が、全体主義の遺産を克服し、新たな国際秩序の構築のために及び二国間関係の完全な正常化のために国際協力の精神に基づき協力していくべきことを決意して、

 以下を宣言する。

1 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、ロシア連邦で行われている民主的変革と経済改革が、同国の国民のみならず世界全体にとって極めて重要な意義を有しているとの認識を共有するとともに、同国が真の市場経済への移行に成功し、民主的な国際社会に円滑に統合されることが、世界の安定を強化し、新しい国際秩序の形成過程を不可逆的なものとする上で、不可欠の要因であるとの見解を有する。

2 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、両国関係における困難な過去の遺産は克服されなければならないとの認識を共有し、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題について真剣な交渉を行った。双方は、この問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続し、もって両国間の関係を完全に正常化すべきことに合意する。この関連で、日本国政府及びロシア連邦政府は、ロシア連邦がソ連邦と国家としての継続性を有する同一の国家であり、日本国とソ連邦との間のすべての条約その他の国際約束は日本国とロシア連邦との間で引き続き適用されることを確認する。

 日本国政府及びロシア連邦政府は、また、これまで両国間の平和条約作業部会において建設的な対話が行われ、その成果の一つとして千九百九十二年九月に「日露間領土問題の歴史に関する共同作成資料集」が日露共同で発表されたことを想起する。

 日本国政府及びロシア連邦政府は、両国間で合意の上策定された枠組みの下で行われてきている前記の諸島に現に居住している住民と日本国の住民との間の相互訪問を一層円滑化することをはじめ、相互理解の増進へ向けた一連の措置を採ることに同意する。

3 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、政治対話の拡大が日露関係の増進にとって有益かつ効果的な方途であることを確信し、最高首脳レベル、外務大臣レベル及び外務次官級レベルでの定期的な相互訪問による政治対話を継続し、深化させ、発展させることに同意する。

4 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、自由と開放性という共通の原則の下に、アジア・太平洋地域が二十一世紀の世界において発揮するであろうダイナミックな発展の可能性につき共通の認識を有する。双方は、ロシア連邦が法と正義の原則を実践することにより、この地域において積極的かつ建設的なパートナーとなり、地域諸国間の政治・経済関係の発展に一層貢献していくことの意義を確認するとともに、このことを実現するためには、この地域において重要な役割を果たしている日本国とロシア連邦の関係の完全な正常化が、この地域を平和で安定した地域とすること及びロシア連邦を含むすべての国々及び地域に開放された自由貿易体制を基礎とする経済面での協力の促進の場とすることとの関連で、本質的な重要性を有するとの認識を共有する。

 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、アジア・太平洋地域における平和と安定を進展させる必要性についての共通の認識に立脚しつつ、安全保障面を含む広範な諸問題についての両国政府当局間の対話の重要性を確認し、このような交流を一層活発化させることに同意する。

5 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、軍備管理・軍縮の分野でこれまで達成された成果を歓迎し、その誠実な実施の必要性を確認するとともに、このようなプロセスを一層促進し、不可逆的なものとすることが重要であるとの認識を共有する。

 双方は、核兵器の解体並びにそれに伴う核物質の貯蔵、管理及び処理の問題が世界全体の安全保障にとり有する重要性についての認識を共有するとともに、これらの分野において協力する意向を確認する。双方は、また、放射性廃棄物の海洋投棄が、世界的規模において、就中、周辺諸国の環境に与える影響の見地から、深刻な懸念を呼び起こすものであることを確認するとともに、この問題につき更に検討するため、日露合同作業部会を通じて緊密に協議していくことに同意する。

 双方は、千九百九十三年一月パリにおいて化学兵器の禁止に関する条約が署名されたことを歓迎し、右条約が可能な限り多数の国の参加を得て世界の平和と安定に寄与することへの期待を表明する。双方は、また、大量破壊兵器及びこれらの運搬手段並びに関連資機材、技術及び知識の不拡散を実効的に確保するため、及び通常兵器の移転に係る透明性の向上を促進するため、密接に協力していくことに同意する。

6 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、国際連合が、変化する国際情勢に適合しつつ新たな世界平和の維持と創造のために中心的役割を果たし得るよう、その機能、組織の在り方を含めた議論が国際連合において重ねられていることに注目するとともに、グローバルな及び地域的諸問題の解決に向けた国際連合の努力に対する両国の貢献を活性化し、もって国際連合の権威を一層高めるよう共通の努力を払うことに同意する。

 千九百九十三年十月十三日に東京で

  日本国総理大臣 細川護煕

  ロシア連邦大統領 B.N.エリツィン


2.日本国政府とロシア連邦政府との間の海洋生物資源についての操業の分野における協力の若干の事項に関する協定

 日本国政府及びロシア連邦政府(以下「両政府」という。)は、

 日本国とロシア連邦との間の善隣関係の発展及び強化の促進を希望し、

 千九百八十四年十二月七日に東京で署名された日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の両国の地先沖合における漁業の分野の相互の関係に関する協定及び千九百八十五年五月十二日にモスクワで署名された漁業の分野における協力に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の協定に基づく関係を含む漁業の分野における両国の間の伝統的かつ互恵的な関係の一層の発展及び強化を志向し、

 千九百九十三年十月十三日付けの日露関係に関する東京宣言並びに日本国とロシア連邦との間の貿易経済及び科学技術の分野における関係の今後の展望に関する宣言において規定されている諸原則に基づき、

 生物資源の保存、合理的利用及び再生産のための協力(海洋環境の保護のための協力を含む。)の一層の進展を重視し、

 この協定に規定する水域における日本国の漁船による商業的基礎に基づく暫定的な性格を有する操業並びに当該水域における生物資源の保存、合理的利用及び再生産の態様を定めることを希望して、

 次のとおり協定した。

第一条

 両政府は、この協定に定めるところにより、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の周辺の付表に示される緯度及び経度の点を順次結ぶ測地線により囲まれる水域において日本国の漁船による生物資源についての操業が実施されるため、また、当該水域における生物資源の保存、合理的利用及び再生産のため、協力する。

第二条

 1 第一条に規定する水域における日本国の漁船による生物資源についての操業は、両政府が外交上の経路を通じて相互に通報することにより確定されるそれぞれの国の団体の間で毎年合意される了解覚書に従って実施されることとなる。

2 両政府は、この条の1にいうそれぞれの国の団体の間で合意される取決めをこの条の1にいう了解覚書として認知する旨を外交上の公文の交換により相互に通報する。

3日本国政府は、生物資源についての操業、保存及び再生産に関連して、この条の1にいう日本国の団体により、この協定及びこの条の1にいう了解覚書に従い、支払が行われるよう日本国の法令の範囲内で措置をとる。

第三条

 両政府は、相互に関心を有する場合に、漁獲物の市場価格の動向に関する情報の交換及び漁獲物の加工を含む両国間の漁業一般の分野における協力の発展に努める。

 両政府は、適当な場合には、それぞれの国の関係法令の範囲内で、相互の漁業関係の分野における両国の団体及び企業の間の協力の発展を奨励する。

第四条

 両政府は、相互に合意する時期に、原則として一年に一回、この協定の実施に関連する諸問題につき協議を行う。

第五条

 両政府は、適当な場合には、この協定の実施に関連し、日本国農林水産省水産庁、日本国運輸省海上保安庁、ロシア連邦農業食糧省、ロシア連邦国境警備庁その他の両政府の関係機関の間の連絡を促進する。

第六条

 この協定、この協定に従って行われる活動及びこの協定の実施のための措置並びにこれらに関連するいかなる活動及び措置も、相互の関係における諸問題についてのいずれの政府の立場及び見解をも害するものとみなしてはならない。

第七条

1 この協定は、両政府がこの協定の効力発生のために必要なそれぞれの国内法上の手続が完了したことを外交上の経路を通じて相互に通告した日に効力を生じ、いずれか一方の政府がこの協定を終了させようとする日の少なくとも六箇月前までに他方の政府に書面によってその旨を通告しない限り、三年間効力を有する。

2 この協定は、三年間効力を有した後、いずれか一方の政府がこの協定の有効期間の満了の日の六箇月前までにこの協定を終了させる意思を他方の政府に書面によって通告しない限り、自動的に順次一年間効力を延長される。

 一九九八年二月二十一日にモスクワで、ひとしく正文である日本語及びロシア語により本書二通を作成した。

 日本国政府のために

 ロシア連邦政府のために


3.緊急人道支援の供与を目的とした択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島への査証なしの訪問に関する在ロシア連邦日本国大使館の口上書

1998年9月18日

 在ロシア連邦日本国大使館は、ロシア連邦外務省に対し敬意を表するとともに、日本国民と択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島(以下、「諸島」という)の住民の相互訪問を一層円滑化することをはじめ、相互理解の増進へ向けた一連の措置を採るとの日本国政府とロシア連邦政府の合意を記した1993年10月13日付けの日露関係に関する東京宣言並びに日本国民の諸島への訪問並びに諸島の住民による日本国の諸地域への訪問に関する1991年10月14日付けの日本国外務大臣とソヴィエト社会主義共和国連邦外務大臣との間の往復書簡、上記の訪問の手続きの一部修正及び補足に関する1993年4月20日付けの在ロシア連邦日本国大使館とロシア連邦外務省との間で交換された口上書に言及し、人々の生命や健康に対する脅威の発生といった緊急事態の場合を含む緊急人道支援の実施、及び当該支援に関連する技術協力を目的とする、日本国民の諸島への訪問及び諸島の住民による日本の諸地域への訪問は、上記往復書簡及び口上書に規定された手続きにより実施されることを通報する光栄を有する。

 本件手続きにより行われる訪問及び協力は、これら訪問及び協力に関連するいかなる問題についてもいずれの一方の側の法的立場をも害するものと見なしてはならない。

 大使館はこの機会を利用し、ロシア外務省に対し改めて深甚なる敬意を表する。


4.日本国とロシア連邦の間の創造的パートナーシップ構築に関するモスクワ宣言

 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、

 二十一世紀を目前に控え、国際社会において、民主化のプロセスが進

むとともに、現代世界の現実に対応した新たな形の国家間相互関係の形成が活発に進む中で、日露両国の役割と責任が増大しつつあること、及び、両国は一層緊密に協力を進める必要があることについて認識を共有し、

 自由、民主主義、法の支配及び基本的人権の尊重という普遍的価値で今や結びつけられている日本国とロシア連邦が、千九百九十三年十月十三日の日露関係に関する東京宣言及びこの宣言に基づき両国関係を完全に正常化することを含め、その戦略的・地政学的利益に合致する創造的パートナーシップを構築すべきであることを確信し、

 この創造的パートナーシップ構築に向けての基礎となった東京宣言に基づく日本国とロシア連邦の関係の発展を肯定的に評価するとともに、両国関係をあらゆる分野で一層発展させることを決意し、

 クラスノヤルスク及び川奈での非公式首脳会談を含む両国家首脳の建設的対話の結果、現在、二国間関係は急速な進展を見ており、東京宣言にいう過去の困難な遺産を克服すべき時が到来しつつあるとの共通の認識を確認し、

 両国間の経済的協力の潜在的可能性は、より広くかつ効果的に現実化させる必要があり、このことはロシアにおける経済改革の継続及び日本側からの支持により多くの点で可能となるものであることを指摘し、

 日露関係の質的な改善が、国際情勢、特に、その政治的及び経済的意義を増大させ続けているアジア太平洋地域の状況に好ましい影響を与えることを認識し、

 国際連合憲章の目的と原則に基づく国際の平和と安全の強化のための共通の努力、及び、緊急の対応を要する地球的規模の問題の解決のための共通の努力を活発化することの重要性を認識して、

 以下を宣言する。

Ⅰ二国間関係

1 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、両国の関係がそれぞれの国家の対外政策の中で重要な地位の一つを占めるものであることを表明する。日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、信頼、相互利益、長期的視点及び緊密な経済的協力という原則に立脚して、長期的な創造的パートナーシップを様築することが両国の最重要課題であることを認識する。

 両首脳は、このパートナーシップの下で、二国間の諸問題を共同して解決するばかりでなく、国際的な場における協力を通じて、アジア太平洋地域及び国際社会の平和と安定に寄与するとともに、地球的規模の諸問題の解決のための協力を活発化し、「信頼」の強化を通じて「合意」の時代へと両国関係を発展させることを決意する。

2 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、本年四月の川奈における首脳会談において日本側から提示された択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に係る問題の解決に関する提案に対してロシア側の回答が伝えられたことにかんがみ、東京宣言並びにクラスノヤルスク及び川奈における首脳会談に際して達成された合意に基づいて平和条約の締結に関する交渉を加速するよう両政府に対して指示する。

 両首脳は、平和条約を二〇〇〇年までに締結するよう全力を尽くすとの決意を再確認する。このため、両首脳は、既存の平和条約締結問題日露合同委員会の枠内において、国境画定に関する委員会を設置するよう指示する。

 両首脳は、また、国境画定に関する委員会と並行して活動し、上記の諸島においていかなる共同経済活動を双方の法的立場を害することなく実施し得るかについて明らかにすることを目的とする、上記の諸島における共同経済活動に関する委員会を設置するよう指示する。

 両首脳は、人道的見地から、旧島民及びその家族たる日本国民による、上記の諸島への最大限に簡易化されたいわゆる自由訪問を実施することにつき原則的に合意し、このような訪問手続の法的・実際的側面を検討するよう指示する。

3 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、日露両国の隣接する地域の住民の間の相互理解の促進及び多面的、互恵的な協力の発展を図り、もって平和条約の早期締結のための環境を整備することを目的とする、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島をめぐる協力の重要性を認識する。

 この関連で、両首脳は、人道的観点から緊急の対応を要する場合の両国間の協力の枠組みが拡充されたことを歓迎する。

 また、両首脳は、日本国政府とロシア連邦政府との間の海洋生物資源についての操業の分野における若干の事項に関する協定の締結及びこの協定の下での操業の円滑な実施を高く評価するとともに、これが両国間の信頼関係の強化に大きく貢献していることを確認する。

4 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、両国間の政治対話を深め、強化するとの確固たる意図を有する。双方は、毎年首脳レベルでの公式の接触を実現し、両首脳間の非公式会談の慣行を積極的に利用し続ける意図を表明する。

5 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、最近発展してきている日露間の安全保障及び防衛の分野における交流を肯定的に評価し、このような交流が、単に二国間関係における信頼と相互理解を強化しているのみならず、アジア太平洋地域の安全保障の分野において、信頼醸成措置の向上及び透明性の確保という肯定的プロセスを促進するものであることを考慮し、これを継続及び深化させる用意があることを確認する。

6 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、組織犯罪及び密輸防止の分野における協力の重要性を考慮し、両国の治安当局間の交流の活発化を促進する。

7 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、日露関係の更なる着実な発展のために好ましい雰囲気を確保する上で、社会レベルでの幅広い交流が極めて重要な役割を担うとの点で一致した。双方は、上記の目的の下、ロシア連邦においてロシア二十一世紀委員会が設立され、また、日本において日ロ友好フォーラム二十一が設立されたことを歓迎し、それらの活動にあらゆる支持を行う意図を有する。

 また、両首脳は、日本国及びロシア連邦の間の国家及び地域レベルでの広範な交流の重要性を指摘する。

8 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、両国の文化、伝統及び国民の世界観に多くの共通点があること、並びに、日本及びロシアの国民の文化を相互に豊かにするよう協力することの重要性を指摘するとともに、文化及び情報の交換の分野における多様な両国関係を一層促進する意図を有する。

9 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、両国の青少年同士の交流の活性化が、日露関係の重要性に関する彼らの正確かつ客観的な理解及びその将来に対する責任感の形成を促進することを考慮し、両国の青少年の交流に特別な意義を認める。

10 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、貿易・経済分野における両国の協力の更なる強化が、双方の利益に合致することを確認するとともに、この分野の協力を、長期的視点に立ち、一層発展させる決意を表明する。両首脳は、この関連で、両国首脳によって合意された包括的な日露経済協力プログラムである「橋本・エリツィン・プラン」の重要な役割に留意し、引き続き同プランを着実に実施し、その更なる拡大のために可能な方法を検討する。

 両首脳は、シベリア及びロシア極東の豊富な天然資源の開発を含め、両国間の経済分野における協力に十分な潜在力が存在するとの共通の認識の下、この協力を更に促進する意図を表明する。両首脳は、このような方向に向けた両国の協力が、二十一世紀における両国及びアジア太平洋地域全体の繁栄に貢献するものであるとの認識を共有する。

 両首脳は、以上の課題の達成及び両国間の貿易・投資を巡る環境の改善に向けて、両国が引き続き作業していくことを確認する。これらの目的のため、双方は、毎年貿易経済に関する日露政府間委員会の会合を開催する。

 両首脳は、投資保護協定が署名されたこと、及び、投資会社の設立に向けた作業が継続されていることを歓迎する。

11 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、ロシア連邦の経済発展及び国際社会への統合が、両国関係の発展のみならずアジア太平洋地域更には世界全体の繁栄に資するとの共通の認識を有する。ロシア連邦は、安定した経済基盤の形成と国際経済体制への最も速やかな統合に向けた改革を継続し、日本国政府は、ロシアのこのような改革努力に対しあらゆる支持を与え、国際社会との緊密な協調の中でその実現のために努力していく。

12 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、両国間の科学技術協力のための潜在的可能性が極めて大きいことを認識し、現代社会の発展及び将来にわたる持続的な経済成長の実現に向けられた基礎及び応用科学研究並びに将来性のある研究開発の分野における、共同プロジェクトを含めた交流と協力を支持する。

Ⅱ 国際問題における協力

 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、以下の方向で国際問題にお

ける日本国及びロシア連邦の協調行動を拡大し深化させるとの意図を表明する。

グローバルな問題

1 日本国及びロシア連邦は、G8の枠内で協調行動を深める。

2 日本国及びロシア連邦は、安全保障理事会の改革を含む国連改革の諸問題に関する対話を継続する。ロシア連邦は、日本国が安全保障理事会の常任理事国となることを志向していることを理解し、これを支持するとともに、日本国がかかる地位を得る有力な候補であるとの認識を表明する。

3 日本国及びロシア連邦は、核兵器不拡散条約の強化、包括的核実験禁止条約の早期発効及び核兵器その他の核爆発装置のための核分裂性物質生産禁止に関する条約の作成における協力を拡大するとともに、双方が参加する国際輸出管理レジームにおける協調関係を拡大し、国内輸出管理問題に関する対話を継続し、化学兵器禁止条約及び生物兵器禁止条約の実効的実施の確保において協調的に行動する。

4 日本国及びロシア連邦は、平和維持活動に関する情報交換を促進する。双方は、世界の紛争地帯での紛争防止及び状況の正常化のための国際社会の努力に協力する。日本国及びロシア連邦は、テロリズムとの戦いを目的として、G8の枠組みをはじめとする種々の場において協調行動を深める。

5 日本国及びロシア連邦は、気候変動をはじめとする環境分野の様々な取組みにおいて協調的に行動する。

アジア太平洋地域

6 日本国及びロシア連邦は、緊密な二国間の接触及び他の諸国との協力の下、アジア太平洋地域における信頼醸成、平和の確保及び安全保障のための努力に積極的に参加する。

7 日本国及びロシア連邦は、東南アジア諸国連合との協調行動を継続するとともに、安全保障問題に関するASEAN地域フォーラム(ARF)の活動に引き続き建設的な貢献を行うよう努力する。

8 日本国及びロシア連邦は、朝鮮半島における緊張緩和、対話及び協力関係の発展を支援するため、協議及び協力を行い、カンボディア問題の調整に関する協調行動を継続していく。

9 日本国及びロシア連邦は、朝鮮半島の和平に関する四者会合の進展に期待する。

 更に両国は、将来的に、北東アジアの安全保障及び信頼醸成に関する日露両国を含む関係国間の話し合いの場を設けていくことが、北東アジアの平和と安定への貢献との観点から意義深いものであるとの考え方を共有する。

10 日本国は、アジア太平洋経済協力(APEC)の活動へのロシアの建設的な参加を支援する。日本国及びロシア連邦は、アジア太平洋地域における安定的な経済発展についての対話の深化を図る。

 日本国及びロシア連邦は、アジア太平洋地域におけるエネルギー分野の国際協力の発展が、同地城のエネルギー安全保障、地球温暖化問題の解決、ひいては安定及び社会経済的発展を促進することを考慮し、そのために協力する。

11 日本国及びロシア連邦は、海洋汚染、酸性雨等アジア太平洋地域における環境問題に対処するため引き続き協力を行う。

地域的問題

12 日本国及びロシア連邦は、中東和平の進展を促進するために協力を継続する。

13 日本国及びロシア連邦は、中央アジア及びトランスコーカサス地域との安定的な多面的協力の環境を創り出すため、協力関係を進展させる。

国際問題に関する協議

14日本国及びロシア連邦は、国際問題に関する日露間の協力を強化し、より効果的なものとするため、様々な地域・分野に係わる国際問題について両国間の定期的な協議及び情報交換を積極的に実施していく。

 千九百九十八年十一月十三日にモスクワで

  日本国総理大臣 小渕恵三

  ロシア連邦大統領 B.N.エリツィン


5.旧島民及びその家族たる日本国国民による択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島への最大限に簡易化された訪問の方式に関する日本国外務省の口上書

平成11年9月2日

 外務省は、在本邦ロシア連邦大使館に敬意を表するとともに、以下の内容の1999年9月2日付け同大使館口上書第138号を受領したことを確認する光栄を有する。

 「在日本国ロシア連邦大使館は、日本国外務省に対し敬意を表するとともに、べ・エヌ・エリツィン・ロシア連邦大統領及び小渕恵三日本国総理大臣により1998年11月13日に署名されたロシア連邦と日本国との間の創造的パートナーシップ構築に関するモスクワ宣言第Ⅰ部第二項に言及し、同項に規定された、旧島民及びその家族たる日本国民による、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島(以下「諸島」という。)への最大限に簡易化されたいわゆる自由訪問の実施に関する原則的な合意に関し、1991年10月14日付けのソ連邦及び日本国の外務大臣の間の往復書簡(以下「往復書簡」という。)及び1993年4月20日付けのロシア連邦外務省と在ロシア連邦日本国大使館との間で交換された口上書(以下「交換された口上書」という。)により規定された日本国民による諸島への訪問及び諸島の住民による日本の諸地域への訪問の既存の方式及び手続に留意し、ロシア連邦が、本口上書に添付された手続に従って、旧島民及びその家族たる日本国民による、諸島への最大限に簡易化された訪問の方式が実施されるために必要な措置をとる用意がある旨を通報する光栄を有する。

1.(1)諸島への訪問は、数次訪問のための身分証明書及び挿入紙(以下「身分証明書」及び「挿入紙」という。)並びにそれらに添付される必要書類(訪問団の名簿及び訪問日程)に基づき、団体によって旅券及び査証なしで行われる。訪問団には、同行者として中央のまたは地方の当局の者(二名以下)、医師及び通訳を含めることができる。

(2)訪問団の訪問に関する基本的事項を定める計画は、往復書簡2.(2)に規定される協議において年に一回調整される。個々の訪問の詳細を定める計画は、往復書簡2.(2)に従い決定される。

2.この方式は次の条件の下で実施される。

(1)この方式は、往復書簡及び交換された口上書により規定された諸島の訪問の方式及び1986年7月2日付けの双方の然るべき口上書により規定された墓参の方式に、いかなる影響をも与えるものではない。

(2)この方式の下での訪問は、本件訪問に関連するいかなる問題についていずれの一方の側の法的立場をも害するものとみなしてはならない。

3.ロシア連邦政府は、この方式の実施状況及び改善の可能性を含め、この方式の適用に関連して発生することのあるいかなる問題についても、日本国政府と協議する用意があることを表明する。

 日本国外務省が、日本国政府を代表して上記の内容に同意することを確認する場合には、この口上書及びこの口上書と同じ内容の日本国外務省の回答の口上書は、この口上書に述べられた条件の下での協力の実施に関するロシア連邦政府と日本国政府の間の相互理解を構成する。

 ロシア連邦大使館は日本国外務省に対し、この機会に改めて深甚なる敬意を表する。」

 日本国外務省は、日本国政府を代表して、在本邦ロシア連邦大使館の口上書に述べられている必要な措置がとられることに同意することをこの口上書をもって通報する光栄を有する。

 1999年9月2日付け在本邦ロシア連邦大使館口上書第138号に添付された手続

旧島民及びその家族たる日本国民による諸島への訪問の手続

Ⅰ.一般事項

1.旧島民及びその家族たる日本国民とは、1945年末までの期間において諸島に居住していた日本国民並びにその配偶者及び子をいうものとする。

2.日本側はロシア側に対し、毎年外交ルートを通じ旧島民及びその家族たる日本国民の名簿(諸島における旧居住地の記載を含む。)を提示する。

3.訪問は身分証明書及び挿入紙並びにそれらに添付される必要書類(訪問団の名簿及び訪問日程)に基づき実施される。

4.日本国政府は身分証明書を作成する。その様式及び記載事項については別途ロシア側と合意するものとする。

5.数次訪問のための挿入紙は、交換された口上書3.に規定された事項を記載の上、日本国の然るべき機関により発行される。

Ⅱ.事前手続

1.日本国外務省は、原則として訪問開始予定日の2週間前までに、在日本国ロシア連邦大使館に対し交換された口上書1(1)に規定された事項並びに入域手続及び出域手続を行う通過点を口上書をもって通報する。

2.在日本国ロシア連邦大使館は日本国外務省に対し、口上書に示された訪問団の参加者の受入れの可否について口上書をもって通報する。

Ⅲ.入域及び出域の際の手続

1.訪問団の長は、訪問団の構成員の名簿を所持し、訪問団が通過点に到着した際ロシア側に渡す。

 訪問団の構成員は、身分証明書及び挿入紙を所持する。

2.ロシア側は、訪問団の通過点への到着及び通過点からの出発の際、身分証明書に添付された挿入紙に然るべき記入を行う。

 数次有効の身分証明書は、挿入紙とともにその所持者に返却される。


6.択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島における共同経済活動の発展に関する日露協力プログラム

 加藤良三日本国外務審議官及びA.P.ロシュコフ・ロシア連邦外務次官は、1998年11月13日付けの日本国とロシア連邦の間の創造的パートナーシップ構築に関するモスクワ宣言第2項に従って設置された択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島における共同経済活動に関する委員会の共同議長として、上記の諸島においていかなる共同経済活動を実施し得るかについて明らかにすることを目的として、同委員会の枠内において行われた作業に基づき、以下を確認する。

1.諸島における段階的な共同経済活動の発展は、この地域における日露間の相互理解及び信頼の強化、平和条約に関する二国間交渉の進展のための望ましい環境の整備並びに日露関係における全般的な雰囲気の改善に向けて進められる。

2.双方は、海洋生物資源の再生産及び養殖並びに漁獲物の加工を含め、相互に関心を有する分野における協力を、将来の共同経済活動のあり得べき形態として見ている。

3.共同経済活動を軌道に乗せるため、諸島において、1998年2月21日に署名された日本国政府とロシア連邦政府との間の海洋生物資源についての操業の分野における協力の若干の事項に関する協定(以下「協定」という。)に基づいて、海洋生物資源の再生産に関する分野における協力を実現することが合目的的である。このような協力の形態としては、現段階においては、ウニ及び貝類の栽培漁業があり得る。

4.海洋生物資源の再生産の分野における日露間の協力は、協定第一条に従い実施される。

 海洋生物資源の再生産の分野における共同経済活動は、協定の付表に示されている水域において実施される。

 この協力の進捗状況は、共同経済活動に関する委員会の会合において検討される。ウニ及び貝類の栽培漁業に関する文書の早期策定の問題について、同委員会の枠内の作業グループにおいて精力的な検討作業が継続される。

5.本プログラムの枠内での海洋生物資源の再生産の分野における協力は、これに関連するいかなる問題についていずれの一方の側の法的立場をも害するものとみなしてはならない。

日本国外務審議官

加藤良三

ロシア連邦外務次官

A.P.ロシュコフ


7.平和条約問題に関する日本国総理大臣及びロシア連邦大統領の声明

1.日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、日本国とロシアとの間にその戦略的・地政学的利益に合致する創造的パートナーシップを構築するとの志向に則り、本年9月4日及び5日東京にて、平和条約の問題を含め、二国間関係全体について詳細な交渉を行った。

2.双方は、1997年のクラスノヤルスクにおける日露首脳会談において、東京宣言に基づき2000年までに平和条約を締結するよう全力を尽くすことが合意されて以降、次のような肯定的実績を上げたことを確認した。

‐外務大臣レベルの平和条約締結問題合同委員会が設置された。

‐国境画定に関する委員会が設置され、その枠内において積極的な交渉が継続されている。

‐共同経済活動に関する委員会が設置され、積極的に作業している。

「択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島(以下「諸島」という。)における共同経済活動の発展に関する日露協力プログラム」が署名された。

‐海洋生物資源についての操業の分野における協力の若干の事項に関する協定が署名され、成功裡に実施されている。

‐諸島への最大限に簡易化された手続によるいわゆる自由訪問について達成された合意が実施されている。

‐1991年の合意に従って実施されている諸島に現に居住している住民と日本国の住民との間の相互訪問の参加者の範囲が1998年から拡大されている。

‐1994年の地震に関連して実施が開始された人道支援の分野に、緊急の支援を要する場合が含められている。

3.双方は、クラスノヤルスク合意の実現のための努力を継続すること及びその肯定的実績を一層強固なものとするよう最大限助長していくことが不可欠であることを一致して認めた。

4.双方は、1993年の日露関係に関する東京宣言及び1998年の日本国とロシア連邦との間の創造的パートナーシップの構築に関するモスクワ宣言を含む今日までに達成された全ての諸合意に依拠しつつ、「択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題を解決することにより」平和条約を策定するための交渉を継続することに合意した。

 交渉のプロセスの効率性を高めるとの志向に則り、双方は、平和条約締結問題合同委員会における各々の代表者に対し、以下の措置をとるよう指示を与えた。

‐平和条約締結問題合同委員会及び国境画定に関する委員会の作業を一層加速化するための新たな方策を策定すること。

‐日露間領土問題の歴史に関する共同資料集につき、これに93年以降の時期に関わる資料を含めることをはじめとして、その新しい版を準備するための措置をとること。

‐平和条約締結の重要性を各々の国の世論に説明するための努力を活発化させること。

5.V.V.プーチン・ロシア連邦大統領は、様々な分野における二国間関係の一層の発展及び平和条約交渉の積極的前進を図るため、ロシア連邦を公式に訪問するよう森喜朗日本国総理大臣を招待した。森喜朗日本国総理大臣は、感謝をもって招待を受け入れた。訪問の時期は外交ルートで合意される。

 双方は、できる限りの機会を活用し、今後とも積極的な対話を維持することが有益であると認めた。

6.交渉は、率直、信頼及び相互尊重の雰囲気の下で行われた。

2000年9月5日東京

日本国総理大臣 森喜朗

ロシア連邦大統領 V.V.プーチン