データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 極東・東シベリア地域における日露間協力強化に関するイニシアティブ

[場所] 
[年月日] 2007年6月7日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 アジア太平洋地域は、域内の互恵的な相互依存・協力関係を強化しつつ、他地域に例を見ないダイナミックな進化・発展を遂げてきている。同地域の戦略的安定と持続可能な発展の確保は、日本を含む域内各国の将来にとって、基本的な重要性を帯びている。にもかかわらず、同地域の重要な構成国であるべきロシアのアジア太平洋地域との関係は、昨年10月、30年以上の日露間の協力の結果、サハリンからの本格的な原油の輸出が開始される等エネルギー分野での協力関係はあるものの、その他の分野での関係は未だ十分強いものとは言えない。

 こうした状況の下、ロシアは、極東・東シベリア地域の社会・経済発展を、アジア太平洋地域全体の統合プロセスの中に位置付けた。極東・東シベリア地域が今後その安定を維持しつつ、経済的潜在力を活かした社会・経済発展を成し遂げ、関係諸国と連携・協調しながら、透明性をもってアジア太平洋地域との経済的、社会的、人的つながりを強化していけば、アジア太平洋地域の戦略的安定と持続可能かつ互恵的な発展において、ロシアが建設的な役割を担うことが期待される。

 かかる観点から、日本として、以下の分野を中心に、互恵的な政府間及び民間協力の推進・促進を両国間で検討していくことを提案する。

1.エネルギー{前7文字太字}

 アジア・太平洋諸国の中長期的なエネルギー安全保障及び極東・東シベリア地域の発展のためのエネルギー安定供給の確保に向け、石油、天然ガス、原子力平和利用等の分野において日本が有する高度な技術とロシアの事業基盤を相互補完的に活かしつつ、極東・東シベリア地域における日露両国企業の協力を促進する。

2.運輸{前4文字太字}

 輸送・物流網の整備を通じた経済・人的交流促進は不可欠。特に、アジア太平洋諸国がシベリア鉄道を活用したロシア、欧州への物流ルートを確保することは、ロシアにもアジア太平洋諸国にとっても戦略的利益となる。かかる考え方を踏まえ、これらの分野における協力のあり方について両国関係者の間で検討する。

3.情報通信{前6文字太字}

 極東・東シベリア地域は、情報面においてもアジア・太平洋地域との重要な結節点となり得る。例えば、東アジアと欧州を、極東・東シベリアを経由する光ファイバー網によって結ぶことは、ロシアにとってもアジア太平洋諸国にとっても戦略的利益となる。世界最高水準のブロードバンド環境や携帯電話技術等を有する我が国の情報通信技術(ICT)を活用することも視野に、日露両国のICT関連企業間の協力を奨励する。

4.環境{前4文字太字}

 アジア・太平洋地域の持続可能な発展に向けて、環境対策に十分配慮していく必要がある。かかる考え方を踏まえ、極東・東シベリア地域において、森林保全、既設発電所のリハビリ、京都議定書に基づく共同実施等の温室効果ガスの削減に向けた取組や、環境モニタリング、油濁防止、原潜解体等を含め、豊かで多様な生態系を有するオホーツク海及びその周辺地域の環境保全に向けた協力を検討する。

5.安全保障{前6文字太字}

 極東・東シベリアの安全保障・治安上の脆弱性は北東アジアの不安定要因となり得る。関係諸国とも連携しながら、かかる脆弱性を早期に克服することが重要。かかる観点から、薬物・銃器の密輸、密漁等の犯罪対策、国際テロ対策、不審船対策、海難救助等の分野における日露協力、アジア太平洋地域の平和と安全の強化に資する防衛交流、及び、原潜解体や核、ミサイルを含む大量破壊兵器等の軍縮・不拡散分野における日露協力を進めていく。

6.保健・医療{前7文字太字}

 相対的に医療事情が劣悪で、乳児死亡率が高い極東・東シベリア地域における保健分野の状況改善のために、最先端医療等を紹介する可能性を検討する。

7.貿易投資の拡大及び環境の改善{前16文字太字}

 日露貿易投資協力拡大に関する行動プログラムに基づき、貿易投資の拡大を図る。また、貿易投資環境の改善を進めるために、ロシアにおいて産業・輸送インフラの整備、金融・決済制度の整備、税務行政の簡素化・透明化、税関手続の一層の簡素化・透明性向上、司法制度の整備、知的財産権保護の強化、投資家保護の強化等、貿易投資環境の改善に向けた必要な措置がとられることを期待し、今後のロシア側の動きを注視していく。日露貿易投資促進機構は、この分野において、一定の役割を果たすことができる。

8.地域間交流の促進{前10文字太字}

 地方自治体間の協力や、観光交流を含む国民間交流を促進する。来る2008年に北海道の洞爺湖において開催されるG8サミットは、極東・東シベリアと北海道との間の交流を深める良い機会である。特に、来年のG8北海道洞爺湖サミットに際して日露の青年交流を飛躍的に強化するイニシアティブを打ち出し、その中で極東・東シベリア地域との交流強化に重点を置くことを検討する。