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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 麻生総理とプーチン・ロシア首相との共同記者会見

[場所] 首相官邸
[年月日] 2009年5月12日
[出典] 首相官邸
[備考] 
[全文]

【冒頭発言】

1.麻生総理

 (イ)日本政府を代表して、プーチン首相の訪日を心から歓迎する。今回のプーチン首相の訪日は、アジア太平洋地域において日露関係を高い次元に引き上げようとする、ロシア首脳部の関心の表れと受け止めている。本日、極めて率直で真剣な議論を行うことができたことに、満足している。

 (ロ)会談では、まず第一に、最近行われた一連の日露首脳会談を踏まえ、プーチン首相との間でも、

  (i)日露が、戦略的に重要なパートナーとしての関係を構築していくこと。

  (ii)そのために、アジア太平洋地域における日露双方の関心事項の実現が重要であることで一致した。

 (ハ)第二に、ロシアは現在、特にプーチン首相のリーダーシップの下で、極東・東シベリア地域を開発し、アジア太平洋地域への統合を目指すとの方針をとっている。私から、日本として、こうしたロシア側の関心に応える用意があることを伝えた。その上で、

  (i)2012年の「ウラジオストクAPEC」の準備や、

  (ii)エネルギー、省エネ、運輸を含め、ロシア側が関心を有している分野で、互恵的協力を進めていくことで一致した。

 (ニ)第三に、先程、原子力、刑事共助、税関相互支援などに関する諸文書が署名された。お互い隣国として、当然必要となるこうした実務分野での協力を着実に積み上げていくことでも一致した。中でも原子力は、日露両国にとって戦略的な意義を有する、重要な協力分野と考えている。今後、日露原子力協定が批准手続きを経て発効することとなる場合には、民間同士の協力が進展することが期待される。

 (ホ)北方領土問題については、プーチン首相は、大統領時代を通じ、北方領土問題という日露間の障害を取り除くべく、尽力されてきた。今回、首相としての立場から、以下の点で一致をみた。

  (i)第一に、両国間に平和条約が存在しないことは、幅広い分野における日露関係の進展にとり支障になっていること。

  (ii)第二に、領土問題という日露間の障害を取り除くためには、四島の帰属の問題の最終的な解決を図る必要があること。

  (iii)第三に、この問題を我々の世代において解決するために、これまでに達成された 諸合意・諸文書に基づき、現状から抜け出すための、双方に受入れ可能な方策を模索する作業を加速すること、である。

 (ヘ)また、この関連で、プーチン首相より、メドヴェージェフ大統領が7月の首脳会談において領土問題への取り組みについて詳しく話す用意がある、世界の力関係が早く変化していく中で、過去の負の遺産を早く取り除くことを日本と同様に強く望んでいると述べた。

 (ト)今回のプーチン首相の訪日は、先般のサハリンでの首脳会談に引き続き、日露関係を高い次元に引き上げる上で、重要な一歩になったと考える。

2.プーチン首相

 (イ)まず、今回の日本への実務訪問への招待に対し、日本政府と麻生総理に感謝申し上げる。また、本日の我々の共同の作業において実務的な協力関係を作り出していただいたことにも感謝する。今回の訪日は、充実した内容となり、建設的かつ友好的な雰囲気の下で行われた。

 (ロ)麻生総理と先ほど会談を終えたところであり、二国間の幅広い問題について意見を交わしたほか、喫緊の国際問題についても議論を行った。二国間関係がダイナミックに発展していることに満足している。2003年に採択された露日行動計画の実施の中で、同計画に記された目標のほとんど全てを達成しつつある。露日行動計画は、我々にとって真のロードマップとなっていることを、本日改めて確信した。定期的な、信頼関係に基づく政治対話が、日露関係の発展を大きく促進していることに、本日の会談では肯定的な評価が与えられた。

 (ハ)また、貿易経済協力に関しても、両国のアプローチが一致していることを指摘したい。貿易経済関係が近年早いペースで発展していることに満足しており、両国間の貿易高は記録を更新している。前回自分が訪日した2005年から、貿易高は3倍となった。さらに、投資分野でも協力が進んでおり、ロシアにおける日本企業は増えている。世界的な金融危機の克服に向けた共同の取組についても議論した。危機を乗り越えるために、緊密に協力する必要がある。また、強固で透明性のある世界金融・経済の構造の創設に関して、我々のアプローチは近いことを確認した。この危機は、両国の貿易投資関係を新たに質的に向上させるユニークなチャンスでもある。

 (ニ)この他、イノベーション、エネルギー、情報通信、ナノテク、省エネ、宇宙、運輸分野における協力、そして、アジア太平洋地域におけるエネルギー安全保障の強化についても議論した。また、人道、文化、教育、地域間の分野での協力も同じように重要である。もちろん、平和条約締結問題についても十分な注目が向けられた。総じて、今回の会談は、建設的で有意義なものであり、特に、多面的な日露関係の発展にとって有意義であった。

【質疑応答】

1.対麻生総理

(問)

 原子力協定など様々な文書が署名されたなかで、特に原子力協定はインパクトがあるが、具体的にどのような協力関係が期待できるのか。こうした分野で本当の成果を上げるには、領土問題の解決と平和条約締結が不可欠と考えるが、今回の会談で具体的にどのようなやりとりがあったのか。

(答)

 原子力協定は、今後、国会の承認を経て発効する場合には、原子力発電所建設などに高い技術を有する日本と、豊かなウラン資源と世界有数の濃縮能力を有するロシアとの間で、民間ベースを含む互恵的協力の進展が期待される。

 領土問題に関する成果については、先ほど申し上げたとおりである。今回、プーチン首相とのやりとりを通じ、同首相もこの問題の最終的解決に向けて強い意向を有されていることが確認されたことは、7月のサミットの際の首脳会談に向けて大変有意義であった。

2.対プーチン首相

(問)

 本日、アジア太平洋地域での協力については多く言及されている。今も、エネルギー分野を含むアジア太平洋地域での協力について言及があった。この方向性において、現在、どんな協力が日露間で進められているのか。露日協力は、アジア太平洋地域でのエネルギー安全保障を含む、同地域の協力の進展においてどの程度貢献していると評価するか。また、太平洋パイプラインについての協力、また、本日締結された原子力協力協定において、いかなる具体的な方向性があるのか。

(答)

 質問の最後の部分からお答えする。この文書(原子力協定)が原子力分野における協力において重要な文書であるという点で麻生総理に同意する。この分野では、本日署名された政府間の協定なくしては、建設的で、広範な実りのある協力を行うことはできない。今回原子力協定が署名されたことにより、経済団体レベルでの契約と関連する商業契約が可能となった。核燃料サイクル、ウランの採掘、開発、濃縮、原子力発電関連資機材や、両国及び第三国の領域での共同の作業について触れているものである。ご存じのように、ロシアには原子力分野の開発計画がある。本日会談で言及したことであるが、ソ連時代に我々は大規模な32の原子力施設を建設した。2020年、もしくは21年、22年までには、28の原子力施設の建設が計画されている。ロシア及び日本では原子力技術は非常に発展しており、両国の協力の可能性及び自国の可能性を高め、第3国における市場開拓に向けて、双方が共にこの協力に関心がある。

 本日も触れたが、その他のエネルギー分野の協力の方向性としては、省エネ技術に注目したい。

 その他の分野としては、石油・ガス資源がある。この分野には多くの可能性があり、既に協力は進んでいる。「サハリン2」プロジェクトからの液化天然ガスの最初の出荷が行われた。今後の計画としては、サハリン3プロジェクトがある。極東における可能性は現在の協力の水準よりもかなり高いという話をした。現在進めている協力を拡大することも、新たなプロジェクトを開始することもできる。オホーツク海の大陸棚にあるサハリン3プロジェクトにおける可採埋蔵量は、7億トンの石油と、1.5兆立米の天然ガスである。サハリンプロジェクトは、今後、4、5、6、7と続いていくものである。つまり、協力の範囲は十分あることになる。

 その他、ウラジオストク地域では、LNGプラント建設計画があり、ロスネフチには、極東における石油精製工場の建設計画がある。これも今後の共同作業の対象となる。そのほか、太平洋岸まで繋がる太平洋パイプラインプロジェクトの第2段階については、課題がまだ解決していないが、東シベリアでの石油採掘が進むにつれて、解決されていくであろう。既に年間5000万〜8000万トンの石油採掘が可能とのことであり、これにより、パイプラインに石油を流すことができ、経済的にも合目的的となる。このプロジェクトについては、経済界との協議においても、麻生総理との協議においても話をした。

3.対プーチン首相

(問)

 領土問題に関し、「3.5島返還」で決着させる案が取り沙汰されているが、このアイデアについてどう考えるか。日本側には、領土問題で具体的な動きがない中で、経済協力だけが進展することに対し、「領土問題が置き去りになるのではないか」という懸念があるが、こうした懸念にどう答えるか。

(答)

 世論の様々な見方があり、ロシア国内にも様々なアプローチがあるが、私は今ここで全てを取り上げて分析するつもりはない。しかし、自分(プーチン首相)は、問題の解決を志向している世論に基づいて自分の考えを判断する。貿易経済関係と平和条約を結びつけようとする考えについて、まず申し上げたいのは、我々が平和条約交渉を行うのは、経済協力発展のための条件を醸成するためではないということである。平和条約が締結されるための条件を醸成するために、経済関係を発展させているのである。ロシアはこの問題について話し合う用意がある。麻生総理とメドヴェージェフ大統領は、本年7月イタリアで開催されるG8サミットで会談し、平和条約問題についても議論することで合意している。自分は、まさにこの会談において、貴記者が言及されたものも含めて、この目的のために、あらゆるオプションが議論されると考える。

4.対麻生総理、対プーチン首相

(問)

 二国間関係においては、露日貿易経済協力の発展の動きを明らかに抑制しているよく知られた問題が存在している。この問題に加え、世界的な経済危機の影響が加わった。これらの問題が二国間関係に与える否定的な影響を最小化するために、二国間でどのような協力が可能か、見解を伺う。プーチン首相としても付け加えることがあれば、お伺いしたい。

(答:麻生総理)

 我が国としては、ロシアとの間で、アジア太平洋地域における重要なパートナーとしての関係を構築する用意がある。本日の会談では、プーチン首相との間で、こうした関係を構築していくために、双方の関心事項の実現が重要であることで一致した。

 アジア太平洋地域における日露の互恵的協力は、この地域全体の発展に大きく貢献し得る。プーチン首相も言及されたが、過去5年で、日露間の貿易額は5倍に増加した。こうした発展の象徴的な出来事として、2月に私も式典に参加した、サハリンにおけるLNG生産の開始を挙げることができる。

 さらに、本日の会談では、今後、2012年の「ウラジオストクAPEC」の準備や、エネルギー、省エネ、運輸を含めた互恵的協力を進めていくことで一致した。

 こうした互恵的協力の進展とともに、両国間の領土問題という、「とげ」を取り除くことができれば、この地域において真のパートナーとしての関係を構築することが可能となる。

(答:プーチン首相)

 中長期的に露日関係の発展は、地域間関係の発展と安全保障の重要な要素となっている。この考えに則って、パートナーである日本との関係を発展させたい。それ以外の目的のためではなく、まさにこのために、我々の関係をすべて「きれいしに」、協力の発展を妨げる全ての政治的、経済的、金融的な問題から「きれいにする」ことを目指していく。現在の世界経済の状況では、我々が望むような形でプロジェクトを実現することができないかもしれないが、これは逆に効率的に進むことを追求させる。こうした状況にうまく対処していくだけでなく、これまでに確定された、そして本日の会談で確定された課題が今後解決していくことを確信している。