[文書名] 刑事に関する共助に関する日本国とロシア連邦との間の説明書
一 概説
1 条約の成立経緯
政府は、平成十七年(二千五年)十一月のプーチン大統領(当時)の訪日の際に刑事共助条約の締結交渉を開始することで一致したことを受け、平成十八年(二千六年)十二月からロシア連邦政府との間で交渉を行った。その結果、条約案文について最終合意をみるに至ったので、平成二十一年(二千九年)五月十二日に東京において、日本側中曽根弘文外務大臣(当時)とロシア連邦側コノヴァロフ法務大臣との間でこの条約の署名が行われた。
2 条約締結の意義
この条約は、一方の締約国が他方の締約国の請求に基づき、捜査、訴追その他の刑事手続について共助を実施すること、そのための枠組みとして中央当局(我が国については法務大臣又は国家公安委員会等が、ロシア連邦についてはロシア連邦法務省及びロシア連邦最高検察庁が務める。)を指定し、相互の連絡を直接行うこと等を定めるものである。この条約の締結によって、我が国からロシア連邦に対して請求する共助がロシア連邦において一層確実に実施されることを確保できるとともに、共助に関する連絡を中央当局間で直接行うことにより、共助の効率化・迅速化が期待される。
二 条約の主要な内容
この条約は、前文、本文二十箇条及び末文から成り、それらの主要な内容は、次のとおりである。
1 各締約国は、他方の締約国の請求に基づき、捜査、訴追その他の刑事手続について条約の規定に従って共助を実施すること等について定める。(第一条)
2 条約に規定する任務を行う中央当局として、日本国は法務大臣及び国家公安委員会並びにこれらがそれぞれ指定する者を、ロシア連邦はロシア連邦法務省及びロシア連邦検察庁を、それぞれ指定すること等について定める。(第二条)
3 被請求国が共助を拒否することができる場合等について定める。(第三条)
4 共助の請求の方法、共助の請求に当たって通報することが必要な事項等について定める。(第四条)
5 条約に基づき請求された共助の実施に当たっては、被請求国は当該共助を条約の関連規定に従って速やかに実施すること、被請求国の権限のある当局は当該共助を実施するためにその権限の範囲内で可能なあらゆる措置をとること等、被請求国が請求された共助を実施するに当たってとらなければならない手続等について定める。(第五条)
6 請求された共助の実施に要する費用の負担等について定める。(第六条)
7 条約の規定に従って提供される証言又は供述を文書化し、又は記録した物その他の物件について請求国に課される使用目的の制限及びこれらに関する請求国の秘密保全等について定める。(第七条)
8 条約の規定に従って提供される物件の輸送、保管及び返還に関する条件について定める。(第八条)
9 証言、供述又は物件の取得について定める。(第九条)
10 人、物件又は場所の見分について定める。(第十条)
11 人、物件若しくは場所又はこれらの所在地の特定について定める。(第十一条)
12 被請求国の立法機関、行政機関若しくは司法機関その他の国家機関又は地方公共団体の保有する物件の堤供について定める。(第十二条)
13 請求国における出頭が求められている者に対する招請についての伝達及び出頭を求める文書の送達等について定める。(第十三条)
14 被請求国の領域において拘禁され又は刑に服している者の身柄の移送であって、証言の取得その他の目的のためのものについて定める。(第十四条)
15 刑事手続に関する文書の送達(第十三条1に既定する文書を除く。)について定める。(第十五条)
16 犯罪の収益又は道具の没収及び保全並びにこれらに関する手続についての共助について定める。(第十六条)
17 締約国が条約に従って送付する書類であって、当該締約国の権限のある当局又は中央当局の押印によって証明されているものは、認証その他の証明なしに、他方の締約国によって受領されること等について定める。(第十七条)
18 条約のいずれの規定も、いずれか一方の締約国が他の適用可能な国際協定又は適用可能な自国の法令に従って他方の締約国に対し、共助を要請し、又は実施することを妨げるものではないことについて定める。(第十八条)
19 両締約国の中央当局は、条約に基づく迅速かつ効果的な共助の実施を促進する目的で協議するものとし、当該目的に必要な措置について決定することができ、また、両締約国は、必要に応じ、条約の解釈又は実施に関して生ずるいかなる問題についても協議することについて定める。(第十九条)
20 条約の批准、効力発生及び終了について定めるとともに、条約の効力発生の日以後に行われた共助の請求(当該請求がこの条約の効力発生の日前に行われた行為に係るものである場合を含む。)について条約を適用することについて定める。(第二十条)
三 条約の実施のための国内措置
この条約を実施するための新たな立法措置及び予算措置は、必要としない。