[文書名] 航空業務に関する日本国とインドとの間の協定
昭和三〇年一一月二六日ニュー・デリーで署名
昭和三一年五月一日承認の内閣決定
昭和三一年五月一一日東京で承認通知書交換
昭和三一年五月一一日効力発生
昭和三一年五月一一日公布(条約第七号)
前文
日本国政府及びインド政府は、
それぞれの領域の間の及びその領域をこえての航空業務を開設するために協定を締結することを希望し、
よつて、このためそれぞれの代表者を任命した。これらの代表者は、次のとおり協定した。
第一条
国際民間航空条約の規定の適用
この協定に関しては、千九百四十四年十二月七日にシカゴで署名された国際民間航空条約(以下「国際民間航空条約」という。)の規定でこの協定に基いて開設される航空業務に適用することができるものは、現在の条項又は同条約の関係規定に従って両締約国に関し改正された条項により、この協定の存続期間中、両締約国の間に適用されるものとする。
第二条
定義
(1)この協定の適用上、文脈により別に解釈される場合を除くほか、
(a)「航空当局」とは、日本国にあつては運輸省及び同省が現在遂行している任務又はこれに類似する任務を遂行する権限を有する人又は機関をいい、インドにあつてはインド民間航空局長官及び同長官が現在遂行している任務又はこれに類似する任務を遂行する権限を有する人又は機関をいう。
(b)「指定航空企業」とは、第四条の規定に従い、一方の締約国が、他方の締約国に対し、通告書により、その通告書に定める路線における航空業務の運営について指定し、かつ、他方の締約国が適当な運営許可を与えた航空企業をいう。
(c)「航空業務」とは、旅客、貨物又は郵便物の公衆用の運送のために航空機で行う定期航空業務をいう。
(d)「国際航空業務」とは、二以上の国の領域上の空間にわたつて行う航空業務をいう。
(e)「航空企業」とは、国際航空業務を提供し、又は運営する航空運送企業をいう。
(f)「運輸以外の目的での着陸」とは、旅客、貨物又は郵便物の積込又は積卸以外の目的で着陸することをいう。
(g)「附表」とは、この協定の附表又は第十五条の規定に従つて改正される同附表をいう。
(2)附表は、この協定の不可分の一部をなすものとし、「協定」というときは、別段の定がある場合を除くほか、附表を含むものとする。
第三条
特定路線の協定業務の開設
各締約国は、他方の締約国に対し、その指定航空企業が附表の該当する部に定める路線(以下「特定路線」という。)における国際航空業務(以下、「協定業務」という。)を開設することができるようにするため、この協定で定める権利を許与する。
第四条
協定業務開始の手続
(1)いずれの特定業務における協定業務も、第三条の規定に基いて権利を許与された締約国の選択により、即時又は後日開始することができる。ただし、次のことが行われた後でなければならない。
(a)権利を許与された締約国がその特定路線について一又は二以上の航空企業を指定すること。
(b)権利を許与する締約国が当該航空企業に対し適当な運営許可を与えること。同締約国は、(2)及び第七条(1)の規定に従うことを条件として、遅滞なくこの許可を与えなければならない。
(2)一方の締約国の航空当局は、他方の締約国が指定した各航空企業が、同航空当局により国際航空業務の運営に通常かつ合理的に適用される法令で定める要件を満たす者である旨を立証することを、その航空企業に要求することができる。
第五条
指定航空企業の運営上の特権
(1)各締結約国の指定航空企業は、この協定の規定に従うことを条件として、特定路線における協定業務を運営する間、次の特権を享有するものとする。
(a)他方の締約国の領域を無着陸で横断飛行する特権
(b)運輸以外の目的で他方の締約国の領域に着陸する特権
(c)国際運輸の対象たる旅客、貨物及び郵便物の積卸及び積込のため、当該特定路線について附表で定める他方の締約国の領域内の地点に着陸する特権
(2)(1)の規定は、一方の締約国の航空企業に対し、他方の締約国の領域内の別の地点に向う旅客、貨物又は郵便物をその領域内において積み込む特権を与えるものとみなしてはならない。
第六条
課徴金
(1)各締約国がその管理の下にある空港その他の施設の使用について他方の締約国の指定航空企業に課し、又は課することを許す料金は、自国の航空企業が類似の国際航空業務を行うに当つての当該空港その他施設を使用するため支払う料金よりも高額のものであつてはならない。
(2)一方の締約国の領域内で他方の締約国の指定航空企業の航空機に取り付けられ、又は積載される需品としての燃料、潤滑油、予備部品、正規の装備品及び航空機貯蔵品で、その航空機により又はその航空機において使用することのみを目的とし、かつ、同領域内の最終着陸点である空港からの出発の際にその航空機に保留されているものに関する関税、検査手数料及びこれらに類似する国が課する租税その他の課徴金については、その他方の締約国の指定航空企業は、その一方の締約国が最恵国の航空企業又は国際航空業務に従事する自国の航空企業に許与する待遇よりも不利でない待遇を与えられるものとする。ただし、いずれの締約国も、自国の指定航空企業に対して他方の締約国が関税、検査手数料その他これらに類似する国が課する租税その他の課徴金を免除し、又は払いもどさない限り、他方の締約国の指定航空企業に対し、これらの課徴金を免除し、又は払いもどす義務を負わないものとする。
第七条
特権の制限及び停止
(1)各締約国は、他方の締約国が指定した航空企業の実質的な所有及び実効的な支配がその航空企業を指定した締約国又はその締約国の国民に属していないと認めた場合には、第五条(1)に定める特権をその航空企業に関して与えず、若しくは取り消す権利又はその航空企業によるそれらの特権の行使に対し必要と認める条件を課する権利を留保する。
(2)各締約国は、他方の締約国の指定航空企業が(1)において言及した特権を許与する締約国の法令で国際民間航空条約第十一条及び第十三条に掲げるものを守らなかつた場合又はこの協定で定める条件に従つて運営しなかつた場合には、その航空企業による前記の特権の行使を停止し、又はその行使に対し必要と認める条件を課する権利を留保する。ただし、重ねて法令の違反が生ずることを防止するため、即時に停止し、又は条件を課するやむを得ない必要がある場合を除くほか、この権利は、他方の締約国と協議した後にのみ行使しなければならない。
第八条
機会均等の原則
両締約国の航空企業は、両締約国の領域の間の及びその領域をこえての協定業務を開設し、及び運営する公平なかつ均等な機会を有する。
第九条
相手国航空企業の利益の考慮
一方の締約国の指定航空企業が協定業務を運営するに当つては、他方の締約国の指定航空企業が同一の路線の全部又は一部において行う業務に不当な影響を及ぼさないように、その他方の締約国の指定航空企業の利益を考慮しなければならない。
第十条
輸送力
(1)締約国の指定航空企業が行う協定業務は、協定業務に対する公衆の需要量と密接な関係を有しなければならない。
(2)指定航空企業が行う協定業務は、その航空企業を指定した締約国の領域から発し、又はその領域へ向う旅客、貨物及び郵便物の運送に対する当該時期における需要量及び合理的に予測される需要量に適合する輸送力を供給することを第一の目的としなければならない。その航空企業を指定した国以外の国の領域内の特定路線上の地点で積み込み、及び積み卸す旅客、貨物及び郵便物の運送は、輸送力が次のものに関連すべきであるという一般原則に従つて規律されるものとする。
(a)その航空企業を指定した締約国の領域への及びその領域からの運輸需要量
(b)直通航空業務運営の需要量
(c)その航空企業の路線が経由する地域の地方的業務を考慮した上でのその地域の運輸需要量
第十一条
運賃
(1)いずれの協定業務に対する運賃も、運営の経費、合理的な利潤、提供する役務の特性(たとえば、速力及び設備の程度)及び特定路線のいずれかの部分についての他の航空企業の運賃を含むすべての関係要素に十分な考慮を払い、合理的な水準に定めなければならない。これらの運賃は、この条の次の規定に従つて定めるものとする。
(2)運賃に関する合意は、可能なときはいつでも、関係指定航空企業が国際航空運送協会の運賃決定機関を通じて行うものとする。それが不可能なときは、各特定路線に関する運賃は、関係指定航空企業の間で合意しなければならない。いずれの場合にも、運賃は、両締約国の航空当局の認可を受けなければならない。
(3)関係指定航空企業が運賃に関し(2)の規定に従つて合意することができなかつた場合又はいずれか一方の締約国の航空当局が提供された運賃を(2)の規定に従つて認可しなかつた場合には、両締約国の航空当局は、適当な運賃について合意が成立するように努めなければならない。
(4)(3)の規定に基く合意が成立しなかつた場合には、その紛争は、第十四条の規定に従つて解決しなければならない。
(5)新たな運賃の決定は、いずれか一方の締約国の航空当局がそれについて満足しない場合には、効力を生じないものとする。ただし、第十四条(3)の規定に基く場合は、この限りでない。この条の規定に従つて運賃が決定されるまでの間は、すでに実施されている運賃が適用されるものとする。
第十二条
統計表の提出
(1)名{前1文字ママ}締約国の航空当局は、要請を受けたときは、他方の締約国の航空当局に次のものを提供しなければならない。
(a)協定業務の運航回数及び設備を検討するための適当な貨客の統計表
(b)指定航空企業が協定業務において運送する貨客に関して合理的に必要とされる定期的報告書で、その貨客の出発地及び目的地に関する情報を含むもの
(c)協定業務の運営に関して合理的に必要とされるその他の情報
(2)各締約国の指定航空企業は、他方の締約国の航空当局に対し、あらかじめできる限り早期に、時間表、運賃表及び協定業務において運航される航空機の種類に関する明細書を提供しなければならない。
第十三条
協定実施に関する協議
両締約国に航空当局は、この協定の実施に関するすべての事項について緊密な協力を確保するため定期的にしばしば協議しなければならない。
第十四条
紛争の解決
(1)この協定の解釈又は適用に関して両締約間{前4文字ママ}に紛争が生じた場合には、両締約国は、まず、両国の間の交渉によつてその紛争を解決するように努めなければならない。
(2)両締約国が交渉によつて紛争を解決することができなかつたときは、その紛争は、いずれか一方の締約国の要請により、各締約国が指名する各一人の仲裁委員とこうして選定された二人の仲裁委員が合意する第三の仲裁委員との三人の仲裁委員からなる仲裁裁判所に決定のため付託することができる。ただし、第三の仲裁委員は、いずれかの締約国の国民であつてはならない。各締約国は、一方の締約国が紛争の仲裁を要請する外交上の公文を他方の締約国から受領した日から六十日の期間内に一人の仲裁委員を指定しなければならず、第三の仲裁委員については、その後六十日の期間内に合意されなければならない。一方の締約国が六十日の期間内に自国の仲裁委員を指定しなかつたとき、又は第三の仲裁委員につて前記の期間内に合意されなかつたときは、いずれか一方の締約国は、国際司法裁判所長に対し、当該仲裁委員を任命するように要請することができる。
(3)両締約国は、(2)の規定に基いて行われた決定を守ることを約束する。
第十五条
協定及び附表の改正
いずれの一方の締約国も、この協定を改正するため、いつでも、他方の締約国との協議を要請することができる。この協議は、要請があつた日から六十日の期間内に開始するものとする。改正が附表についてのみ行われる場合には、協議は、両締約国の航空当局の間で行うものとする。両締約国の航空当局が新たな又は修正された附表について合意したときは、この事項に関する両締約国の航空当局の勧告は、外交上の公文の交換によつて確認された後に効力を生ずる。
第十六条
国際条約への適合のための改正
日本国政府及びインド政府が多数国間の航空運送協定の当事国となつたときは、この協定は、その多数国間の協定の規定に適合するように改正しなければならない。
第十七条
登録
この協定及び第十五条の規定に従つて交換される外交上の公文は、国際民間航空機関に登録しなければならない。
第十八条
発効
(1)この協定は、各締約国によりその国内法上の手続に従つて承認されなければならない。この協定は、その承認を通知する外交上の公文の交換の日に効力を生ずる。
(2)この協定は、一年間効力を存続し、いずれか一方の締約国がこの期間の満了の日の三箇月前までにこの協定を終了させる意思を他方の締約国に通告しないときは、さらに一年間なお効力を存続するものとし、その後も同様とする。
第十九条
正文
この協定は、日本語、ヒンディ語及び英語によるものとする。解釈の相違がある場合には、英語の本文による。
以上の証拠として、下名は、各自の政府により正当に委任を受け、この協定に署名した。
千九百五十五年十一月二十六日にニュー・デリーで、本書二通を作成した。
日本国政府のために
吉沢清次郎
インド政府のために
ジャグジーヴァン・ラーム
附表
第一部
日本国の指定航空企業が運営する路線
両方向に、東京‐大阪‐福岡‐沖縄‐台湾における地点‐香港又はマニラ‐インド・シナ内の地点‐タイ内の一地点‐ビルマ内の一地点‐ダッカ‐カルカッタ/デリー及び、希望するときは、以遠の地点
日本国の指定航空企業が前記の路線において行う協定業務は、日本国の領域内の一地点を起点とするものでなければならない。ただし、その路線上の他の地点は、いずれかの又はすべての飛行に当つて、その指定航空企業の選択により省略することができる。
第二部
インドの指定航空企業が運営する路線
両方向に、インド内の地点‐東パキスタン内の一地点‐ビルマ内の一地点‐タイ内の一地点‐インド・シナ内の地点‐マニラ又は香港‐沖縄‐東京及び、希望するときは、以遠の地点
インドの指定航空企業が前記の路線において行う協定業務は、インド領域内の一地点を起点とするものでなければならない。ただし、その路線上の地点は、いずれかの又はすべての飛行に当つて、その指定航空企業の選択により省略することができる。