[文書名] 日本国とパキスタンとの間の友好通商条約
日本国及びパキスタンは、両国間に伝統的に存在する平和及び友好の関係を強化し、両国の国民の間の貿易上及び通商上の関係を促進し、並びに相互に有益な投資及びその他の形態の経済的協力を助長することを希望して、無条件に与えられる最恵国待遇の原則を一般的に基礎とする友好通商条約を締結することに決定し、そのための全権を有する、日本国内閣総理大臣池田勇人及び日本国外務大臣小坂善太郎とパキスタン大統領元帥モハマッド・アユーブ・カーンは、それぞれ日本国及びパキスタンのために、次の諸条を協定した。
第一条
いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域に当該他方の締約国の法令に従って入ることを許され、かつ、当該他方の締約国の領域への入国並びに同領域内における滞在、旅行及び居住に関するすべての事項について、最恵国待遇を与えられる。
第二条
1 いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域内において、(a)良心の自由を享有し、(b)公私の宗教上の儀式を行ない、(c)国外の公衆に周知させるため資料を収集し、及び送付し、並びに(d)当該領域の内外にある他の者と郵便、電信その他一般に公衆の用に供される手段によって通信することを許される。
2 この条の規定は、公の秩序を維持し、及び公衆の道徳又は安全を保護するため必要な措置を執る締約国の権利の行使を妨げるものではない。
第三条
1 いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域内において、いかなる種類の不法な迫害も受けることはなく、かつ、いかなる場合にも国際法の要求する保護及び保障よりも少なくない不断の保護及び保障を受けるものとする。
2 いずれか一方の締約国の領域内で他方の締約国の国民が抑留された場合には、もよりの地にあるその者の本国の領事官は、その者の要求に基づき、直ちにその旨を通告され、かつ、その者を訪問し、及びその者と通信することが許される。その者は、(a)相当なかつ人道的な待遇を受け、(b)自己に対する被疑事実を正式にかつ直ちに告げられ、(c)自己の弁護のための適当な準備に支障がない限りすみやかに裁判に付され、及び(d)自己の弁護に当然必要なすべての手段(自己が選任する資格のある弁護人の役務を含む。)を与えられる。
3(a) いずれの一方の締約国の国民も、他方の締約国の領域内において、すべての強制軍事服役及びその代りに課されるすべての課徴金を免除される。
(b) いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、すべての強制公債、軍事取立金、軍用徴発又は強制宿営に関して、最恵国待遇を与えられる。
第四条
1 いずれの一方の締約国の国民及び会社の財産も、他方の締約国の領域内において、不断の保護及び保障を受けるものとする。
2 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、その住居、事務所、倉庫、工場その他の建造物で他方の締約国の領域内にあるものについては、不法な侵入及び妨害を受けないものとする。当該建造物及びその中にある物件について必要がある場合に行なう当局の捜索及び検査は、占有者の便宜及び業務の遂行に周到な考慮を払い、法令に従ってのみ行なうものとする。
3 いずれの一方の締約国も、他方の締約国の国民又は会社がその設立した企業、その資本又はその提供した技能、技芸若しくは技術に関し適法に取得した権利又は利益で当該一方の締約国の領域内にあるものを害するおそれがある不当な又は差別的な措置を執ってはならない。
4 いずれの一方の締約国の国民及び会社の財産も、他方の締約国の領域内において、公共のためにする場合を除くほか、収用し、又は使用してはならず、また、正当な補償を迅速に行なわないで収用し、又は使用してはならない。その補償は、実際に換価することができるもので行なわなければならず、また、収用し、又は使用した財産に十分相当する価額のものでなければならない。
5 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、2及び4に規定する事項に関しては、いかなる場合にも、最恵国待遇よりも不利でない待遇を与えられる。
第五条
1 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、税金の賦課、裁判所の裁判を受け、及び行政機関に対して申立てをする権利、財産権、法人への参加並びに一般にあらゆる種類の事業活動及び職業活動の遂行に関するすべての事項について、最恵国待遇を与えられる。
2 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、他方の締約国の領域内において、特許権の取得及び保有並びに商標、営業用の名称及び営業用の標章に関する権利並びにすべての種類の工業所有権に関して、内国民待遇を与えられる。
3 1の規定にかかわらず、各締約国は、相互主義に基づき、又は二重課税の回避若しくは脱税の防止のための協定により、租税に関する特別の利益を与える権利を留保する。
第六条
一方の締約国の国民又は会社と他方の締約国の国民又は会社との間に締結された仲裁による紛争の解決を規定する契約は、いずれの一方の締約国の領域内においても、仲裁手続のために指定された地がその領域外にあるという理由又は仲裁人のうちの一人若しくは二人以上がその締約国の国籍を有しないという理由だけでは、執行することができないものと認めてはならない。その契約に従って正当にされた判断で、判断がされた地の法令に基づいて確定しており、かつ、執行することができるものは、いずれの一方の締約国の領域内においても、その判断がされた地がその領域外にあるという理由又は仲裁人のうちの一人若しくは二人以上がその締約国の国籍を有しないという理由だけでは、無効と認め、又は執行のための有効な手段を拒否してはならない。
第七条
すべての種類の関税及び課徴金で、輸入若しくは輸出について若しくはそれらに関連して課され、又は輸入品若しくは輸出品のための支払手段の国際的移転について課されるものに関し、それらの関税及び課徴金の賦課の方法に関し、輸入及び輸出に関連する規則及び手続に関し、輸出貨物に対する内国税の適用に関し、輸入貨物について又はこれに関連して課されるすべての内国税その他すべての種類の内国課徴金に関し、並びに輸入貨物の国内における販売、販売のための提供、購入、分配又は使用に影響を及ぼすすべての法令及び要件に関し、いずれか一方の締約国がいずれかの第三国を原産地とする産品又はいずれかの第三国に仕向けられる産品に対して与えているか、又は将来与えるすべての利益、特典、特権又は免除は、他方の締約国の領域を原産地とする同様の産品又は他方の締約国の領域に仕向けられる同様の産品に対し、即時に、かつ、無条件に与えられるものとする。
第八条
1 いずれの一方の締約国の国民及び会社も、両締約国の領域の間における支払、送金及び資金又は金銭証券の移転に関して、並びに他方の締約国の領域と第三国の領域との間における支払、送金及び資金又は金銭証券の移転に関して、最恵国待遇を与えられる。
2 1の規定は、いずれか一方の締約国が、国際通貨基金協定の締約国として有するか又は有することがある権利及び義務に合致するような為替制限を課することを妨げるものではない。
3 いずれの一方の締約国も、他方の締約国のすべての産品の輸入に対し、又は当該他方の締約国の領域に仕向けられるすべての産品の輸出に対し、なんらの制限又は禁止をも課してはならない。ただし、すべての第三国の同様の産品の輸入又はすべての第三国への同様の産品の輸出が同様に制限され、又は禁止されている場合は、この限りでない。
4 3の規定にかかわらず、いずれの一方の締約国も、貨物の輸入及び輸出について、当該一方の締約国が、2の規定に基づいて当該時に課することができる為替制限と同等の効果を有する制限又は統制をすることができる。
第九条
両締約国は、両国間の貿易を発展させ、及び経済関係を強化すること並びに、特にそれぞれの領域内における経済の発展及び生活水準の向上に資するため、科学及び技術に関する知識の交換及び利用を促進することを目的として、相互の利益のため、協力することを約束する。
第十条
1 各締約国は、(a)その政府が所有し、又は支配する企業及びその領域内で排他的の又は特別の特権を与えられた独占企業又は機関が、他方の締約国の通商に影響を与える輸入又は輸出を伴う購入又は販売を商業的考慮(価格、品質、入手可能性、市場性、運送その他購入又は販売の条件等に関する考慮をいう。)によってのみ行なうべきこと並びに(b)他方の締約国の国民、会社及び通商が、前記の購入又は販売に参加するために競争する適当な機会を通常の商慣行に従って与えられるべきことを約束する。
2 各締約国は、他方の締約国の国民、会社及び通商に対し、(a)政府による需品の購入、(b)特権の賦与その他政府による契約及び(c)政府又は排他的の若しくは特別の特権を与えられた独占企業若しくは機関が行なう役務の販売に関しては、第三国の国民、会社及び通商に与える待遇と比べて公正なかつ衝平な待遇を与えなければならない。
第十一条
1 この条約のいかなる規定も、いずれか一方の締約国が関税及び貿易に関する一般協定若しくは国際通貨基金協定又はそれらを修正し若しくは補足する多数国間の協定の締約国として有するか、又は有することがある権利及び義務については、両締約国が当該協定の締約国である限り、影響を及ぼすものではない。
2 この条約は、次の措置を執ることを妨げるものではない。
(a) 金又は銀の輸入又は輸出を規制する措置
(b) 核分裂性物質、核分裂性物質の利用若しくは加工による放射性副産物又は核分裂性物質の原料となる物質に関する措置
(c) 武器、弾薬及び軍需品の生産若しくは取引又は軍事施設に供給するため直接若しくは間接に行なわれるその他の物資の取引を規制する措置
(d) 国際の平和及び安全の維持若しくは回復に関する自国の義務を履行し、又は自国の重大な安全上の利益を保護するため必要な措置
(e) 美術的、歴史的又は考古学的価値のある国宝の保護のために執られる措置
(f) 公衆衛生の保護並びに病気、害虫及び寄生物に対する動植物の保護に関する措置
(g) 第三国の国民がその所有又は管理について直接又は間接に支配的利益を有する会社に対してこの条約に定める利益(法律上の地位を認めること及び裁判所の裁判を受ける権利を除く。)を拒否する措置
3 第七条及び第八条の規定は、いずれか一方の締約国が与える次の利益には適用しない。
(a) 内国漁業の産品に与える利益
(b) 国境貿易を容易にするため隣接国に与える利益
(c) 当該一方の締約国が加盟国となる関税同盟又は構成地域となる自由貿易地域の存在に基づいて与える利益。ただし、当該一方の締約国が、自国の計画を他方の締約国に通報し、かつ、協議のための適当な機会を当該他方の締約国に与える場合に限る。
第十二条
1 「内国民待遇」とは、一締約国の領域内で与えられる待遇で、当該締約国のそれぞれ国民、会社、産品その他の対象が同様の場合にその領域内で与えられる待遇よりも不利でないものをいう。
2 「最恵国待遇」とは、一締約国の領域内で与えられる待遇で、第三国のそれぞれ国民、会社、産品その他の対象が同様の場合にその領域内で与えられる待遇よりも不利でないものをいう。
3 この条約において「為替制限」とは、いずれか一方の締約国が課するすべての制限、規制、課徴金、租税その他の要件で両締約国の領域の間における支払、送金又は資金若しくは金銭証券の移転について負担又は妨害となるものをいう。
4 この条約において「会社」とは、関係法令に基づいて設立された商業、工業、金融業その他営利を目的とする事業活動に従事する社団法人、組合、会社その他の団体をいう。
第十三条
1 各締約国は、他方の締約国がこの条約の実施に関する事項について行なう申入れに対しては、好意的考慮を払い、かつ、その申入れに関する協議のため適当な機会を与えなければならない
2 この条約の解釈又は適用に関する両締約国間の紛争で外交交渉により満足に調整されないものは、両締約国が他のなんらかの平和的手段による解決について合意しなかつたときは、国際司法裁判所に付託するものとする。
第十四条
1 この条約は、批准されなければならない。批准書は、できる限りすみやかにラワルピンディで交換されるものとする。
2 この条約は、批准書の交換の日の後一箇月で効力を生ずる。この条約は、五年間効力を有し、その後は、この条に定めるところにより終了するまで効力を存続する。
3 いずれの一方の締約国も、他方の締約国に対し一年前に文書による予告を与えることによって、最初の五年の期間の終りに又はその後いつでもこの条約を終了させることができる。
以上の証拠として、下名は、この条約に署名した。
千九百六十年十二月十八日に東京で、英語により本書二通を作成した。
日本国のために
池田勇人
小坂善太郎
パキスタンのために
モハマッド・アユーブ・カーン