[文書名] ガンジー・インド首相歓迎晩餐会における鈴木内閣総理大臣の挨拶
ガンジー首相閣下並びに御列席の皆様
今夕、このささやかな宴を催すにあたり、まずはじめに、日本国政府と日本国民を代表して、首相閣下とその御一行の御来日に対し、心からなる歓迎の意を表したいと思います。とりわけ首相閣下には、米国公式訪問の長い御旅行の帰途にもかかわらず、私ども夫妻の晩餐会への御招待を快くお受けいただきました。これは、首相閣下が日印両国の友好親善関係の増進に寄せられる御熱意のあらわれでありまして、同じく両国関係の前進を願う私としては、まことに感激にたえません。
首相閣下
空腹は最上のソースであると申しますが、多弁は決して優れた食前酒ではありません。従いまして、私は最近の貴国の外交姿勢及び日印関係について日頃私が強く感じている二点のみについて述べさせていただきたいと存じます。
まず私は、アジア及び世界の指導者としての首相閣下の卓抜な識見と行動力に、かねてより深い敬意を抱いておりました。私は、首相閣下がインドの直面している内外の厳しい情勢の中で、インド国民の福祉と発展のため、ひいては世界の平和と繁栄のために、自ら世界を飛び回り身を粉にして尽力されていることを良く承知しています。
貴首相の指導の下、貴国政府が、目下、非同盟運動の健全な発展のため特段の努力を払われるとともに同じアジアの主要国である中国、パキスタンとの関係改善に鋭意努め、また新たに芽生えてきた南アジア地域協力の構想に力強い支持を与えられていることはアジア及び世界の平和と安定強化に大きく資するものと考えます。
更に貴首相の今次訪米の結果大きな成果を収められたことは、単に印米両国にとってのみならず、世界の将来にとって極めて意義深いものがあると存じます。
第二に、日、印両国は、同じアジアの主要国として、アジア及び世界の平和と繁栄のため共に重要な役割を担っていますが、率直に申してこれまでの両国関係は、今日両国がそれぞれ国際的に有する地位にふさわしい相互の関係に見合ったものとは必ずしも言い難いものがあります。
しかし、最近の両国の政治的対話、経済、経済協力関係の徐々の進展等各分野の交流の緊密化の動きは、我々を勇気づけるものであります。とくに諸困難にも拘らず貴国が経済の自由化の動きを着実に進められていることは、両国間の経済交流の一層の活発化に今後大きく資するものと考えます。
このような好ましい状況の下に両国間の交流の一層の促進と両国関係の強化のため櫻内外務大臣が今月末に訪印を予定しておりますが、私自身も早い機会に訪印が実現することを祈念しております。
この私の短い御挨拶を終えるに当たり、我が国の国民に代わり、インド国民に対する私どもの友情と信頼の念をお伝えするとともに、首相閣下が御家族共ども、久しぶりに日本の風物に触れ、訪米「冒険旅行*(注)*」のお疲れを癒されるよう心から念ずる次第です。
では、御列席の皆様
ここに杯をあげ、インディラ・ガンジー首相閣下の御健康と御多幸、インド及びインド国民の発展と繁栄のため乾杯いたしたいと存じます。
乾杯!
*(注)* ガンジー首相は、七月二十九日のホワイトハウス南庭での歓迎式でのスピーチの中で冒頭「自分にとってはどの旅行も冒険であるが、今次訪米は、理解と友情を探究する冒険旅行である」旨述べ、同個所は、米紙、本邦紙にも広く報じられ、良く知られている。