[文書名] ジアウル・ハック=パキスタン回教共和国大統領の訪日に際しての日本とパキスタンの共同コミュニケ
1.ジアウル・ハック=パキスタン回教共和国大統領及び同令夫人は,日本国政府の招待により,1983年7月17日から22日まで国賓として日本国を訪問した。
2.今回の訪日中,1983年7月18日,大統領及び同令夫人は,皇居において天皇陛下を拝謁した。
3.中曽根康弘総理大臣とジアウル・ハック大統領は,7月18日及び19日の2回に亘り,共通の関心を有する国際的及び地域的諸問題並びに二国間の諸問題について意見交換を行った。この会談には日本側より安倍晋太郎外務大臣,後藤田正晴官房長官,パキスタン側よりサーハブザダ・ヤクブ・カーン外務大臣,エラーヒ・バクシュ・スームロ工業大臣,ラージャー・ザファルル・ハック情報・放送大臣,マハブーブル・ハック計画開発大臣が同席した。
首脳会談は,日本とパキスタンとの伝統的な友好親善及び相互信頼の雰囲気の中で行われた。両首脳は,大統領訪日中の意見交換が二国間の理解と協力を一層増進する上で末永く寄与すると確信する旨述べた。
4.大統領は,パキスタン政府が国内では経済開発を進め,また近隣諸国との間では平和と協力を推進している努力について説明した。総理大臣は,パキスタンが南アジア地域及び中東地域の安定化のためにこれまで果たしてきた重要な役割を高く評価し,またハック大統領の平和への努力に対し,深甚なる敬意を表明した。
5.両首脳は,南アジア地域の平和と安定がアジア地域のみならず世界の平和と安定にとって重要な意義を有することを再確認した。両首脳は,南アジア地域における域内諸国間の関係が改善していることを歓迎した。大統領は,南アジア7か国による地域協力の枠組みが進展していることを説明した。総理大臣は,この進展が地域の安定と民生の向上に大いに資することになるとして歓迎した。
6.両首脳は,アフガニスタンに係る状況について深い懸念を表明するとともに、国際社会によって支持された諸原則に則った平和的な政治解決が必須であることを強調した。両首脳は,アフガニスタンからのソ連軍の全面撤退,アフガニスタンの独立及び非同盟としての立場の回復,外部からの強制または圧力から自由なアフガニスタン国民の自決権の尊重,並びにアフガン難民の安全かつ名誉ある帰還が可能となるような所要の条件の創出を呼びかけた。この関連で両首脳は,国連事務総長がこの問題の解決のために行っている努力に対し,評価及び支持を表明した。
総理大臣は,300万人のアフガン難民に対するパキスタン政府及び国民の寛大な人道的な支援を評価すると共に,日本国政府が引き続きアフガン難民への救済援助をさしのべるとの意図を表明した。総理大臣は,アフガン難民救済援助として,本年度日本国政府が国際連合難民高等弁務官(UNHCR)のアフガン難民救済計画に対してすでに拠出済みの150万米ドルに加え,さらに13.2億円(約550万米ドル)を追加拠出する意図を表明した。総理大臣は,さらに世界食糧計画(WFP)を通ずるアフガン難民に対する食糧援助についても今般20.5億円までの小麦の供与を行うため我が国政府及びWFP代表との間で書簡の交換が行われた旨述べた。大統領は,総理のこの発言を歓迎し,日本国政府の寛大な協力に感謝した。
7.両首脳は,カンボディア問題が東南アジアの平和と安定にとり重大な障害となっていることに懸念を表明した。両首脳は,カンボディア国際会議宣言及び国連決議に基づいたカンボディア問題の包括的政治解決の実現に向けての努力を支持していくことを確認した。
8.両首脳は,イラン・イラク間の武力紛争に重大な懸念を表明するとともに,同紛争の継続が地域全体の平和と安定を脅かす惧れがあることを深く憂慮した。両首脳は,本紛争の早期終結及びこの隣接する二国間の相互に受容可能で衡平な平和的解決が必要であることを強調した。
9.両首脳は,公正で永続的かつ包括的な中東和平の達成のためには1979年戦争以来のエルサレムを含む全アラブ占領地からのイスラエル軍の完全撤退及び自らの主権国家を建設する権利を含む,国連憲章に基づくパレスチナ人の民族自決に対する不可譲の権利の回復が不可欠であるとの共通の立場を再確認した。両首脳は,レバノンの主権及び領土保全を支持する旨述べた。
10.両首脳は,国際経済の現状について意見交換を行った。両首脳は,世界経済を再活性化するとともに開発途上国の直面している債務の累積等の困難を打開し,経済開発を改めて軌道に乗せることが極めて重要であることに意見の一致をみた。両首脳は,また,相互依存関係がますます深まりつつある今日の国際社会において,理解と協調の精神に立ち,新たな協力の方途を探究することが重要であることを強調した。
11.総理大臣及び大統領は,日本とパキスタンとの間の緊密かつ友好的な関係が近年ますます増進されつつあることに満足の意を表した。更に,両首脳は,政治,経済,文化その他幅広い分野における両国関係を一層拡大していくために、両国政府が今後とも緊密な協力を継続する用意があることを改めて表明した。
12.総理大臣及び大統領は,貿易促進,合弁事業及び技術移転を含む両国間の経済関係を徐々に強化していくとの決意を表明した。さらに両首脳は,日本・パキスタン両国が相互の利益のため,経済関係を一層強固なものとしていくべきであることを確認した。
13.大統領は,日本のパキスタンに対する経済協力が近年順調な進展を見,もってパキスタンの経済社会開発に対して貢献していることを高く評価するとともに,日本の経済協力が今後一層推進されることを希望した。
大統領は,1983年7月に開始されたパキスタンの第6次5か年計画につき,特にエネルギー開発,農村開発,社会福祉開発,工業部門における民間企業の再活性化等の同計画における最重点分野に言及しつつ説明し,同計画の遂行に当たり日本の協力が重要であることを強調した。
14.総理大臣は,パキスタンが困難な世界経済情勢の下,着実な経済成長を遂げていることに留意し,パキスタン政府の行っている経済社会開発に対する努力を高く評価した。更に,総理大臣は,日本国政府としてもパキスタンの経済社会開発に対する自助努力を支援するため,近年パキスタンに対する経済協力を強化してきている旨述べた。
総理大臣は,日本とパキスタンの伝統的友好関係にかんがみ,今後ともパキスタンに対し可能な限りの経済協力を推進していく考えである旨述べるとともに,かかる経済協力の実施に当たっては,すでに3回にわたり開催されている日本・パキスタン両国政府間の経済協力年次協議等の場での緊密な協議の成果を踏まえつつ,パキスタンの開発計画の優先分野にも留意していく方針である旨述べた。
15.この関連で総理大臣は本年度の円借款としてパキスタンのエネルギー開発に資するため,ジャムショロ火力発電所計画(第1期)に対し総額217.36億円までのプロジェクト借款を,また,同国の国際収支改善に資するため,83億円までの商品借款を,それぞれ供与する意図がある旨述べた。
総理大臣及び大統領は,パキスタンのエネルギー事情の緩和に資するため,両国政府が,発電船の供与のための特別な援助につき,事情の許す限り協議していくことで意見の一致を見た。
総理大臣及び大統領は,パキスタンの医療事情改善に資するため,イスラマバード小児病院建設計画(第2期)に対し,25億円を限度とする日本の無償資金協力を行うことについて,近く書簡の交換が行われる運びとなったことに対し満足の意を表明した。
総理大臣は,パキスタン政府から要請のあったその他の無償援助に関し,食糧増産援助についてはパキスタンの食糧増産努力を支援するとの観点より,29億円を限度とする贈与を行う予定である旨述べた。更に,総理大臣は,農場市場間道路整備計画についてはパキスタンの農村開発に資するために協力を行う用意がある旨表明した。
両国首脳は,パキスタンの経済社会開発戦略の策定及び個別プロジェクトの形成に資するための開発調査面での種々の協力を今後とも積極的に推進することが必要であることにつき意見の一致を見た。この関連で総理大臣は本年度新規開発調査案件として,イスラマバード・ラワルピンディ市給水計画に対し協力を行う旨述べた。
16.総理大臣は,パキスタンの経済社会開発を担う人造りの重要性を強調し,日本国政府は,今後ともパキスタンに対し人造りのための各種分野における技術協力を推進していく旨述べた。
17.大統領は,総理大臣のこの発言を歓迎するとともに,パキスタンの経済開発にとり重要な貢献を果たしてきている日本の経済技術協力に対して深い感謝の念を表明した。
18.両首脳は,文化面での両国間の協力の進展に満足の意を示した。
大統領は,日本・パキスタン文化交流促進の一環として,ガンダーラ美術展の日本開催に対し,パキスタン政府として協力を行うとの意図を表明した。
総理大臣は,パキスタンにおける文化財の保存に貢献するために,今年度の文化無償協力によりアラマ・イクバール記念博物館及びラホール城内博物館の文化財保存用機材購入のための資金を供与する意図を表明した。
19.両首脳は,ハック大統領の今回の日本訪問が両国間の相互理解及び伝統的な友好関係の一層の増進におおいに貢献したことに深い満足の意を表明した。
20.両首脳は,両国が世界の平和と安定に重大な関心を有していることに留意し,両国政府間で国際問題に関する協議を行うことの重要性につき強調した。
21.更に,両首脳は,今回のハック大統領の訪日の成果を踏まえて,政治,経済,商業及び文化等幅広い分野における両国間の協力関係をさらに推進するために,日本・パキスタン合同委員会を設置することに意見の一致をみた。この合同委員会は,双方の適当なレベルで,今後必要に応じて両国の首都において開催されることとなる。
22.大統領は,日本訪問中に大統領令夫人及び随員一行が受けた厚遇につき天皇陛下並びに日本国政府及び日本国民に対し,深い感謝の念を表明した。
23.パキスタン回教共和国大統領は,日本国総理大臣に対しパキスタンを訪問するよう招請した。この招請は,感謝の念をもって受諾された。訪問の具体的な時期は,外交チャネルを通じて決定される。