[文書名] フセイン・モハマッド・エルシャド=バングラデシュ人民共和国大統領の訪日に際しての日本とバングラデシュの人民共和国共同コミュニケ
1.フセイン・モハマッド・エルシャド=バングラデシュ人民共和国大統領及び同令夫人は,日本国政府の招待により,1985年6月19日から22日まで国賓として日本国を訪問した。
2.今回の訪日中,1985年6月19日,大統領及び同令夫人は,皇居において天皇陛下に拝謁した。
3.中曽根康弘日本国総理大臣とフセイン・モハマッド・エルシャド大統領は,6月20日,共通の関心を有する国際的及び地域的な諸問題並びに2国間の諸問題について意見交換を行った。この会談には,日本側より藤波孝生官房長官他が、また,バングラデシュ側よりアンワル・ホセイン・エネルギー鉱物資源大臣及びフマユーン・ラシード・チョードリー外務担当大統領顧問他が同席した。
首脳会談は,両国関係に特有の友好,親善及び相互理解の雰囲気の中で行われた。
両首脳は,大統領訪日中の意見交換が2国間の理解と協力を推進する上で末永く寄与するものと確信する旨述べた。
4.右首脳会談に先立ち,安倍晋太郎日本国外務大臣は,6月19日,大統領を表敬訪問し,両国が関心を有する主要な問題につき意見を交換した。この会談には,フマユーン・ラシード・チョードリー外務担当大統領顧問が同席した。
5.今回の訪日中,大統領及び同令夫人は,日本の各界要人との接触,国際科学技術博覧会の視察を通じて親しく日本の国情に接した。
6.総理大臣は,去る5月24日から25日にかけてバングラデシュを襲ったサイクロンによりもたらされた生命,財産の損失に対して改めて深い哀悼の意を表した。また,総理大臣は,サイクロンにより生じた被害からの迅速な復旧を願っている旨述べるとともに,大統領自身の指揮の下に行われている被災地域の生存者の苦難を最小限にするためのバングラデシュ政府の努力を賞賛した。
大統領は,今次サイクロン災害に対し日本国政府がバングラデシュに対して直ちに120万米ドルの緊急災害援助の実施を決定したことについて深甚なる感謝の念を表明した。
7.大統領は,バングラデシュ政府が国内では民生移管と経済開発を進め,また,近隣諸国との間では平和,友好及び協力を推進すべく行っている努力について説明した。総理大臣は,バングラデシュが南アジア地域の安定のためにこれまで果たしてきた不可欠かつ重要な役割を高く評価し,このために大統領が払っている努力に対し,深甚なる敬意を表明した。
8.総理大臣及び大統領は,日本とバングラデシュとの間の緊密かつ友好的な関係が近年ますます増進されつつあることに満足の意を表した。更に,両首脳は,政府,経済,文化その他の幅広い分野における両国関係を一層拡大していく用意があることが改めて表明した。
9.大統領は,日本のバングラデシュに対する経済協力が一貫して順調な進展をみ,もってバングラデシュの経済・社会開発に対して貢献していることを高く評価するとともに,日本の経済協力が今後一層推進されることを希望した。
10.大統領は,1985年7月から開始される予定のバングラデシュ第3次5ヵ年計画につき,特に,エネルギー開発,インフラストラクチュアの整備,産業振興,農村開発等の重点分野に言及しつつ説明し,同計画の遂行に当たり日本の協力が重要であることを強調した。
11.総理大臣は,バングラデシュ政府の行っている経済・社会開発に対する努力を高く評価し,日本国政府としてもバングラデシュの経済・社会開発に対する自助努力を支援するため,バングラデシュに対する経済協力を実施してきている旨述べるとともに,日本とバングラデシュの友好関係に鑑み,今後ともバングラデシュに対しバングラデシュの開発計画の重点分野に留意しつつ可能な限りの経済協力を推進していく考えである旨述べた。
12.総理大臣は,バングラデシュにおけるインフラストラクチュア及び産業施設の整備と併せ国際収支の改善に資するため,商品借款並びに「大ダッカ圏電話網整備計画」及び「チッタゴン製鋼所修復計画」に対するプロジェクト借款として総額275億円までの円借款を本年度分として供与する用意がある旨述べた。
13.総理大臣及び大統領は,ダッカとチッタゴンというバングラデシュの二大都市の間の交通事情改善に資するため,「メグナ川橋梁建設計画」実施のための日本の援助につき,両国政府が引き続き協議していくことで意見の一致をみた。また,大統領は,メグナ・グムチ川橋梁建設の重要性につき説明した。
総理大臣及び大統領は,「ナラヤンガンジ総合病院建設計画」を含む5計画に対し日本が無償資金協力を行うことについて,大統領の訪日中に書簡の交換が行われたことにつき満足の意を表明した。
また,総理大臣は,バングラデシュから要請のあった文化無償資金協力のうち優先度の高い「ダッカ大学に対するスポーツ機材」案件につき実施する用意がある旨表明した。
14.総理大臣は,日本国政府がバングラデシュに対し人造り,家族計画及びその他の技術協力の可能な各種分野における技術協力を今後とも推進していく用意がある旨述べた。総理大臣は,また,将来の開発プロジェクトの計画策定のため,開発調査を積極的に推進する用意がある旨表明した。
15.大統領は,総理大臣のこれらの発言を歓迎するとともに,バングラデシュの経済・社会開発にとって重要な貢献を行ってきている日本の経済協力に対して深い感謝の念を表明した。
16.総理大臣及び大統領は,貿易促進,合弁事業及び技術移転を含む両国間の経済関係を徐々に強化していくとの決意を表明した。
17.両首脳は,南アジア地域における域内諸国間の関係に改善の動きが見られることを歓迎した。大統領は,同地域の7カ国による「南アジア地域協力」の枠組が着実に進展していることを説明した。総理大臣は,この進展が同地域の安定と民生の向上に大いに資することとなるとして歓迎した。
18.両首脳は,朝鮮半島問題は基本的に南北間の直接対話を通じて平和的に解決されるべきであることにつき意見の一致をみた。
19.両首脳は,カンボディア問題が東南アジアの平和と安定にとり重大な障害となっていることに懸念を表明した。両首脳は,関連する国連決議に基づくカンボディア問題の包括的政治解決の実現に向けての努力を支持していくことを確認した。
20.両首脳は,アフガニスタンに係る状況について深い懸念を表明するとともに,アフガニスタンからのソ連軍の全面撤退が行われ,国際社会の支持する諸原則に則った平和的な政治解決が達成されることが必須であることを強調した。両首脳は,国連事務総長がこの問題の解決のために行っている努力に対し,評価及び支持を表明した。
21.両首脳は,イラン・イラク紛争の継続に大きな懸念を表明し,紛争の早期かつ公正な平和的解決の必要性を確認した。この関連で総理大臣は,イラン・イラク紛争の平和的解決に向けての環境づくりのために行っている日本の外交努力について説明し,大統領は,総理大臣の説明を多とした。
22.両首脳は,公正で永続的かつ包括的な中東和平の達成のためには1967年戦争以来の東エルサレムを含む全アラブ占領地からのイスラエル軍の完全撤退及び自らの主権国家を建設する権利を含む,国連憲章に基づくパレスチナ人の民族自決に対する不可譲の権利の承認が不可欠であるとの共通の立場を再確認した。両首脳は,レバノンの主権及び領土保全を支持する旨述べた。
23.大統領は,バングラデシュが77カ国グループの議長国を務めるなど開発途上国の中で積極的な役割を果してきている旨説明した。総理大臣は,バングラデシュのかかる重要な役割に対して敬意を払う旨述べた。
24.両首脳は,現下の国際貿易の現状に鑑み,ガットの下における多角的貿易交渉の新ラウンドの明年春の開始に向け,その準備を促進することの重要性につき合意するとともに,新ラウンドにおいては途上国の関心に適切な考慮が払われるべきであることを確認した。
25.両首脳は,エルシャド大統領の今回の日本訪問が両国間の相互理解及び友好関係の一層の増進に大いに貢献し,また,国際情勢に関する意見交換が極めて有意義であったことに満足の意を表明した。
26.大統領は,日本訪問中に大統領令夫人及び随員一行が受けた厚遇につき天皇陛下並びに日本国民及び日本国政府に対し,深い感謝の念を表明した。
27.バングラデシュ人民共和国大統領は,日本国総理大臣夫妻に対しバングラデシュを訪問するよう招請した。この招請は,感謝の念をもって受諾された。訪問の具体的な時期は,外交経路を通じて決定される。