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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] エルシャド大統領主催晩餐会における海部内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1990年5月1日
[出典] 海部演説集,222−225頁.
[備考] 
[全文]

 エルシャド大統領閣下、令夫人

 アーメド副大統領閣下、アーメド首相閣下

 ご列席の皆さま

 今夕、私ども一行のため、大統領閣下をはじめ皆さまお集まりのうえ、このように盛大で心あたたまる晩餐会を催していただきまして、厚くお礼申し上げます。

 私は今日午前、緑濃く、大河織りなす貴国バングラデシュの土を踏むことができました。我が国の総理大臣が貴国を訪れるのはこれが初めてであります。私がその光栄に浴することとなり、まことに感激に堪えません。空港到着以来の貴国官民上げての暖かいご歓迎に心から感謝申し上げたいと存じます。

 大統領閣下

 閣下は、過去八年間にわたり、常に喜びと悲しみを国民と分かち合い、国造りに邁進してこられました。閣下の行政改革、民間企業の活性化を通ずる工業振興、あるいは食糧増産政策等によって、貴国経済は着実に成果を上げつつあります。また、大統領閣下は国連、非同盟会議、イスラム諸国会議等の場を通じて外交分野でも目ざましい業績を収められ、貴国の国際社会における地位は揺るぎないものとなっています。とりわけSAARCの発足は、閣下のご貢献をおいては考えられません。私は、バングラデシュのみならず南アジア地域の平和と繁栄を何としても達成しようとされている閣下のご努力に、深い敬意を表します。

 このような閣下のご熱意がどこから生まれてくるか、私は、その秘密の一端を解くことができたような気がしております。その鍵は、私が今回の旅に携えてきた一冊の詩集であります。

 その表紙にはフセイン・ムハマド・エルシャド作「ライト・ザ・ゴールデン・ランプ」と印刷されており、中を見ると、そこには、バングラデシュの青い空、黄金なす大地、豊かな海、そして、いきいきと生活する人々の姿が、高らかに歌われております。これらの詩の作者がいかにバングラデシュとバングラデシュ人を愛しているか、私は痛いほど知ることができました。そして、それが私にとって秘密を解く鍵だったのであります。これらの詩に打たれたものが、ぜひともバングラデシュの各地を巡歴したいと思うのは当然でありましょう。私の滞在日程が極めて短いことが残念であります。

 大統領閣下

 私は今日、大統領閣下との実り多い会談の後、まず、メグナ橋の完工式に参列いたしました。メグナ橋は、貴国と我が国との揺るがぬ信頼の証でもあり、今回の訪問を機会に、この記念すべき行事に立ち会うことができたことを、心からうれしく思いました。チッタゴンからダッカまでの時間距離を短縮するのに大いに役立つことを期待いたします。ついで、私は、サバール独立記念塔に詣で、独立達成のために血を流された自由独立戦士の霊の前に花を捧げました。私は、バングラデシュの今日あるのは、これらの方々の尊い犠牲があったからこそであることを改めて痛感し、強い感銘を覚えずにはいられませんでした。

 これらの場所への往復に、短時間ではありますが、バングラデシュの美しい風光を目にして、大統領閣下をはじめこの国の人々が、なぜ祖国をこれほど愛するかが、分かったような気がいたしました。この自然を、人々への恵みとして生かしていくことが大切です。私は、できるかぎり、そのためのお手伝いをしてまいりたいと存じます。

 大統領閣下

 貴国と我が国との関係は、これまで深い信頼の絆を基に、大きな発展を遂げてきました。近年においては、両国の要人の往来が活発化し、また、今年の秋以降に、週一回バングラデシュ航空の東京、名古屋への乗り入れが予定されており、今後の発展が期待されます。

 我が国は、常に貴国を経済協力の最重点国の一つと位置づけ、農業開発、インフラストラクチュアの整備、医療等の幅広い分野で、協力を推進してまいりました。特に、私自身その創設に深く参加した青年海外協力隊は、現在その隊員を約八十名派遣し、彼らは各地に分散して、多くの分野で活躍していると聞きます。これまでバングラデシュにはほとんど見られなかった野菜や果物が日本から紹介され、中には、隊員の名前で呼ばれる野菜が貴国国民に親しまれるようになったとのことであり、まことに心強く感じました。

 私は、このような日本国民の努力を背景に、バングラデシュの実情や開発ニーズをより詳細に把握し、今後ともできるかぎりの協力を行っていく考えであります。

 大統領閣下

 私の今回の歴訪は、今日、第三世界においてますますその指導力を高め、新たな発展を期しつつある南アジア諸国と、これら諸国と古くから深い精神的な結びつきのある我が国との関係を、二十一世紀を前に、より一層緊密なものとするためであります。旅に出てまだ僅かでありますが、私は、皆さまのお力添えによって、その目的が達せられるという予感に心がふるえる思いであります。

 それでは、エルシャド大統領閣下と令夫人、アーメド副大統領閣下と令夫人、アーメド首相閣下と令夫人のご健康とご多幸を祈り、バングラデシュ人民共和国とその国民の繁栄を願い、日本とバングラデシュの友好関係の一層の発展を祈念して、私はここに、詩人フセイン・ムハマド・エルシャド氏の作られた詩の一節を朗読してから、杯を上げたいと存じます。

 「大地と民との抱擁の中より発する輝けるもの

  それは生命の至福と歓喜、

  神々しき力を求め

  いざ我等手をとりて進まん理想の国へ。」

 乾杯。