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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ラオ・インド首相歓迎晩餐会における宮澤内閣総理大臣の挨拶

[場所] 
[年月日] 1992年6月23日
[出典] 宮沢演説集,156−158頁.
[備考] 
[全文]

 ラオ首相閣下、並びに御列席の皆様

 日印国交四十周年の記念すべきこの年に、首相閣下とそのご一行を我が国にお迎えし、ここに歓迎の宴を催す機会を得ましたことは、私共にとり大きな喜びであります。

 日印両国間の四十年は友情に彩られております。今夕は長年にわたり日印関係に携わってこられた方々が多数出席しておられます。本年は、国交四十周年を記念して関係者により様々な行事が予定されていますが、貴首相を始めとして、要人の交流においても画期的な年になるものと考えます。ここにご出席の桜内衆議院議長は日印協会会長として八月に訪印されると伺っております。また、秋篠宮殿下及び同妃殿下の貴国ご訪問について貴国より招待のご意向が表明されました。今後両国政府間で具体的な取り進めが図られますが、両殿下のご訪問は両国間の友好親善のため誠に意義深いものと考えます。

 この機会に日印関係の四十年を顧りみますと、貴国は、我が国が終戦直後の荒廃から立ち直り、ようやく国際社会に復帰しようとしていた時期に、暖かい友情の手を差し伸べてくださいました。

 一九四九年にはネルー首相から一頭の子象が上野動物園に贈られました。この子象は、その後父君の後を襲い自ら首相となられた令嬢の名に因んで、「インディラ」と名付けられましたが、当時の日本の国民、特に子供達を大いに元気付けるものでありました。そして、四十周年の本年、日印間の友好を新たに象徴するものとして、日本の特別天然記念物である丹頂鶴とインドで神聖視されているインド大鶴を交換することが合意され、先ほど、鈴木東京都知事とアスラニ在京インド大使との間でその写真が交換されました。

 また、貴国は、一九五一年未だ占領下にあった我が国を、第一回アジア競技大会に招待され、我が国はニュー・デリーの空高く日の丸の旗を掲げることができました。

 一九五二年、貴国は我が国と二国間で友好の精神にあふれる平和条約を締結し、国交を樹立されました。そして、この条約において、インドは日本に対する全ての賠償請求権を放棄し、我が国の国民に大きな感銘を与えました。

 首相閣下

 国交樹立以来、両国の関係は貿易や経済協力を中心として発展してまいりました。インドの鉄鉱石は、我が国の製鉄業の発展に大きく貢献しました。経済協力に関しては、一九五八年に我が国はインドをその最初の対象国として円借款の供与を開始致しました。その後、我が国は世界第一の援助国となり、インドに対しても最大の援助国となっております。

 劇的に変化しつつある国際情勢の中で、インドは現在抜本的な経済改革に乗り出しておられます。去る一月、日本政府は、今晩この宴に御出席の石川六郎日本商工会議所会頭を団長とする経済使節団をインドに派遣しましたが、この使節団からは、貴首相の卓越した指導力の下インドにおいて経済自由化及び規制緩和政策が不退転の決意をもって実施されているとの報告を得ております。八億四千万人の国においてこれまでの体制を根本的に改革していくということは容易なことではありません。我が国の経済界においても自由化の進展に伴い、インド経済に対する関心が高まりつつありますが、我が国としてはインドの経済改革を歓迎し、一層の自由化に向けて可能な限りご支援する方針であり、このためにも投資、貿易を通じた両国間の経済交流が一層拡大することを期待します。

 首相閣下

 第二次世界大戦後の国際政治を規定してきた東西冷戦は既に過去のものとなり、新しい国際秩序が求められております。これまで国際社会においてそれぞれの役割を果たしてきた日本とインドも、同じアジアの民主主義国として新しい協力関係を築いていくことができると信じます。このような意味で、本日午後、貴首相との間で二国間間係のみならず東西アジア地域の諸問題、その他の国際的諸問題に関しても忌憚のない意見交換ができたことは誠に有意義でありました。今後とも、アジアと世界の平和と繁栄のためなすべきことは多く、このため両国は対話と交流を盛んにし、互いに協力を進めていくべきものと思います。

 このたびの貴首相のご訪日は、日印関係に新たな一章を開くものであり、誠に喜ばしいことであります。

 首相閣下は、天皇皇后両陛下のご引見をはじめとする重要日程を終わられた後、京都など関西地方を視察されると承っておりますが、ご一行が我が国の伝統文化を満喫され、ご滞在を心ゆくまで楽しまれることを祈念致します。

 それでは、御列席の皆様、ラオ首相閣下のご健康、ご一行の皆様とインド国民の一層のご発展、さらには国交樹立四十周年を迎えた両国の友好関係の一層の発展を願って、ここに杯を上げたいと思います。

 乾杯。