データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アジア新時代における日印パートナーシップ 〜日印グローバル・パートナーシップの戦略的方向性〜

[場所] ニューデリー
[年月日] 2005年4月29日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文]

1.現在、小泉純一郎総理は、マンモハン・シン・インド共和国首相の招きにより、2005年4月28日から30日までの間インドを公式訪問している。両首脳は、4月29日に深みのある会談を行い、二国間関係及び相互に関心を有する地域問題、国際問題の全般にわたり協議した。会談では、二国間関係の着実な発展及び国際情勢における深遠な変化、就中、アジアにおける新たな変革のうねりを勘案しつつ、二国間関係に一層の実質を加えること、また、日印グローバル・パートナーシップを更に深化させる方策について、特に焦点が当たった。

2.両首脳は、今回の会談が「日印グローバル・パートナーシップ」の5周年に当たる時に行われていることを想起した。また、両首脳は、精神的な親しさ、永年にわたる文化的交わり、民主主義・寛容・多元主義及び開かれた社会という理想へのコミットメント、並びに政治・経済・戦略的関心に係る高度な共通性が長期的パートナーシップの強い基盤を提供するものであるとすると共に、日印グローバル・パートナーシップの意義の高まりに留意し、8項目の取り組みを通じてこれを強化することを決定した。

アジア新時代

3.両首脳は、相互依存とグローバリゼーションの到来に特徴づけられる現下の国際情勢が、日印双方にとって相互の利益のために関与を強化する新たな機会を提供するものであると認識する。この文脈において、両首脳は、アジアで進行しつつある急速な変容を歓迎すると共に、向かう先に明るい将来があるとの自信を表明した。変化、創造性、活力という新たなうねりが、二国間及び地域的な取極、地域的統合の深化に向けた構想、並びに多国間貿易自由化を含む経済的連関の強化を伴って、アジアを変容させつつある。今、アジアは世界経済の主導的な成長センターとして真に現出しつつあり、世界情勢の中でかつてない大きな影響を及ぼしている。

4.両首脳は、このような進展が将来のアジアの経済及び政治の輪郭を形作ることを十分に承知している。両首脳は、また、アジアにおける平和、安定及び発展が世界の平和と発展にとって不可欠であり、また世界の将来はアジアの将来と密接に繋がっているとの認識を共有する。両首脳は、肯定的な進展がアジアにおける成長、繁栄、安定及びより緊密な統合を伴って「優位と繁栄の弧」へと転換するために、アジア諸国の間で協調した努力を行う必要があると認識する。両首脳は、また、この現れつつあるアジアの新時代において両国が担う責任を認識し、その目的に向けて緊密に協力することにコミットしている。

パートナーシップの共通ビジョン

5.日本とインドは、持続的発展を基礎に平和、安定及び繁栄の均霑を内容とするグローバル・ビジョンを共有する。民主主義的価値観並びに人権、多元主義、開かれた社会及び法の支配へのコミットメントを共有していることが両国間のグローバル・パートナーシップの留め金である。このグローバル・パートナーシップは、両国の長期的な政治的、経済的及び戦略的利益、希求、目的、関心が幅広く合致していることを反映するものである。日本とインドは、そのグローバル・パートナーシップに則り、世界規模及び地域的な挑戦に対応する責任と能力を有するパートナーとして互いを認める。したがって、力強く、繁栄し、躍動性のあるインドは日本にとっての利益であり、また、その逆もその通りである。以上の文脈において、また、現下の国際情勢に鑑み、両首脳は、日本とインドのグローバル・パートナーシップの戦略的焦点を強化することを決定した。

協力関係の拡大:グローバル・パートナーシップの新たな戦略的焦点

6.アジア新時代におけるパートナーである日本とインドは、新たな戦略的方向性を得て、アジアの責任ある二主要国、更には共通の価値観と原則を共有する国家として、その伝統的な二国間の協力からアジア、更には世界における協力関係へと拡大させていく。この新たな焦点に基づき、日本とインドは、アジアにおける安全保障、安定及び繁栄を推進すること、並びに国際的な平和と衡平な発展を前進させることについて共通の関心と補完的な責任を有する平和のパートナーとなる。

7.日印の新たなパートナーシップは次の三層の協力から構成されることとなる。

(1)二国間では、両国は、協力関係を更に強化し、二国間関係の全面において包括的な発展に取り組むこととする。その中で、現存の及び潜在的な経済的補完性を完全に活用することを通じ、経済関係の強化に特に喫緊の焦点を当てる。

(2)地域面では、両国は、アジアにおける平和、安定及び繁栄を確保するため、民主主義と発展を促進するため、更には、アジアにおける一層緊密な地域的協力のための新たな枠組みを追求するために、対話と協力の増進に努める。

(3)地球規模の協力では、両国は相互の戦略的共通性を活用し、発展させることにより、環境、エネルギー、軍縮、不拡散及び安全保障などの多様な分野において協力を強化する。

グローバル・パートナーシップを強化するための8項目の取り組みみのに

8.両首脳は、グローバル・パートナーシップの潜在性すべてを顕在化させるために、8項目の取り組みを決定し、その実施に最大限の努力を行うことを決定した。この8項目の取り組みは、次の鍵となる8分野における協力のための措置であり、すなわち、(1)ハイレベル交流のモメンタムの強化、ハイレベル戦略対話の発足及び現行の対話の枠組みの完全な活用を含む対話の枠組みの強化と高度化、(2)物及びサービスの貿易、投資、他の分野における経済的な協力の拡大、並びに日印経済連携協定の可能性の追求を通じた、包括的な経済的関与の強化、(3)安全保障対話・協力の強化、(4)科学技術イニシアティブ、(5)お互いの存在感と位置づけを高めるための文化・学術面での構想及び人と人の交流強化、(6)アジア新時代の幕を開けるための協力、(7)国連改革、就中、安保理改革の早期実現のための協力を含め、国連及び他の国際組織における協力、(8)地球規模の挑戦と機会に対応する上での協力である。8項目取り組みの詳細は別添のとおり。

9.小泉総理は、インド政府及び国民に対し、その暖かい歓待に謝意を表明すると共に、マンモハン・シン首相に対し、相互に都合がよい時期に日本を訪問するよう招待した。マンモハン・シン首相は、招請を喜んで受け入れた。訪問の期日は外交ルートを通じて決定されることとなる。

日本国総理大臣

小泉純一郎

インド共和国首相

マンモハン・シン

 

2005年4月29日 ニューデリー