[文書名] 「日印戦略的グローバル・パートナーシップ」に向けた共同声明
1.マンモハン・シン・インド首相は、安倍晋三日本国総理大臣の招待により、2006年12月13日から16日まで日本を公賓として訪日している。シン首相には、グルシャラン・コール夫人及びハイレベルの訪問団が随行している。
2.マンモハン・シン首相は12月14日に歓迎行事を受けた。天皇皇后両陛下がシン首相夫妻を御引見された。シン首相は安倍晋三総理との間で幅広い意見交換を行い、安倍晋三総理大臣はシン首相夫妻のために晩餐会を催した。シン首相は、12月14日に国会において演説した。また、麻生太郎外務大臣、尾身幸次財務大臣、甘利明経済産業大臣、森喜朗元総理大臣(日印協会会長)、中山太郎日印友好議員連盟会長がシン首相を表敬した。両首脳は、12月14日に開催された「日本におけるインド祭」の開会式典に出席し、日印両国で催される「2007年日印交流年」の共通ロゴを発表し、開始を宣言した。更に、シン首相は、経済団体主催の歓迎昼食会においてスピーチを行い、安倍総理は、シン首相に同行したインド経済界代表団の表敬を受けた。塩崎恭久官房長官、太田昭宏公明党代表は、12月16日にシン首相を表敬する。
3.両首脳は、近年の特筆すべき日印関係の発展を想起し、2000年の森喜朗総理の訪印に際してグローバル・パートナーシップの構築に合意したこと、また、昨年の小泉純一郎総理の訪印の際に両国間のパートナーシップを戦略的観点から強化することが決定されたことに特に留意する。また、両首脳は、2005年4月29日にニューデリーにて両首脳間で署名された共同声明「アジア新時代における日印パートナーシップ:日印グローバル・パートナーシップの戦略的方向性」及び「日印グローバル・パートナーシップ強化のための8項目の取組」の実施に向けた幅広い取組に満足の意を示すとともに、これらの文書に含まれる原則と見解を再確認する。
戦略的グローバル・パートナーシップ
4.両首脳は、両国間に古くから存在する絆と誇るべき文明の遺産を想起した。現在の日印関係は、地域及び世界全体の情勢に対して、日印両国が同様の認識を有していることに基づいている。日印両国の関係は、長きにわたって相互に収斂していく政治的、経済的、戦略的な利益と熱望そして関心によって促進されるとともに、民主主義、開かれた社会、人権、法の支配及び自由な市場経済への共通のコミットメントによって支えられている。また、両国の関係は、アジアそして国際の平和と安定及び発展の促進に向けた相互の貢献に対し深い尊敬の念を有しており、歴史的な相違によって阻害されることがないことに基づいている。
5.両首脳は、日本とインドは、アジアで最も発展した民主主義国及びアジア最大の民主主義国として生来のパートナーであること、そして相手国の発展と繁栄に相互に利害を有することを確認した。強く、繁栄し、活力あふれるインドは日本の利益であり、同様に、強く、繁栄し、活力あふれる日本はインドの利益である。両国は、地域的・世界的な挑戦に対応する責任と能力を有しており、アジアひいては国際の平和と安定の促進のために積極的な役割を果たさなければならない。両国は、一層の相互依存が進みつつある世界経済において、アジアが主導的な成長センターとして台頭していることを認識し、地域における包括的な経済連携を追求するとともに、開かれ、かつ、協力的な地域の枠組みの中で、持続的な経済成長、社会平和及び政治的寛容の発展を促進する。
6.両首脳は、二国間関係を更なる高みへと引き上げるとの決意を抱き、日印間に「戦略的グローバル・パートナーシップ」を構築することへの決意を共有した。日印間の戦略的グローバル・パートナーシップは、二国間関係を政治、経済及び戦略的な角度から強化し、両国の長期的な関心に応え、全面的な協力関係を促進し、地域の更なる平和と安定に貢献する。
7.日印間の戦略的グローバル・パートナーシップは、二国間関係、地域的課題、多国間における課題、更には地球規模の課題への一層緊密な政治的、外交的な調整を伴う。また、包括的な経済関係、より強固な防衛関係、一層の技術協力、文化的結びつき、教育分野での連携、人と人の交流の拡大に向けた取組を伴う。このパートナーシップは、両国が、相互補完性と相手国の長所を活用しつつ、二国間関係の大きな潜在性を活かすことを可能にし、更に両国が地域的・国際的な課題に応えるために協力することを可能にするものである。
政治、防衛、安全保障における協力
8.両首脳は、様々な既存の対話メカニズムが二国間の協力に重要な貢献を果たしていることを歓迎する。両首脳は、二国間関係の促進と発展を高い視点から導き、維持させるべく、首脳会談をどちらかの首都で毎年実施するとともに、国際会議の機会においてもこれを実施するとの意思を確認する。日本の総理大臣は、インド首相の招請を受け、次回の首脳会談のために2007年にインドを訪問する。両首脳は、外務、防衛、財務、貿易産業、農業、情報通信技術、科学技術、観光及び航空の分野を担当する大臣間の交流を定期的に行い、また促進することを奨励する。また、両首脳は、外相間戦略的対話及びインド国家安全保障首相顧問と日本側カウンターパートの間での定期的な政策対話を制度化すること確認する。
9.両首脳は、日印関係における共通の課題を前進させるため、外務次官級政務協議を含む両国外務省間の協議の継続と促進を確認する。インド側は、バンガロールに出張駐在官事務所を設置するとの日本の計画を歓迎する。
10.両首脳は、2006年5月の日本の防衛庁長官とインド国防大臣の会談後に発出された共同発表を歓迎するとともに、アジアと世界全体の安全と安定、繁栄を促進し、地域的・世界的な安全保障上の課題に取り組むという共通の目標を達成するため、防衛協力を強化するとのコミットメントを再確認する。両首脳は、関係当局に対し、防衛及び安全保障に関する協力と交流の年間予定を策定し、ハイレベルの交流と軍種間の協議を含む協力活動を次第に高めていくことを指示する。両首脳は、UNDOFでの協力を含む軍種間の最近の取組強化を評価する。両国は、日本の海上自衛隊とインド海軍との間の親善訓練を2007年に実施する。
11.両首脳は、日本とインドが広大な排他的経済水域と海上の利益を有しているとの認識の下、キャパシティ・ビルディング、技術協力、情報共有に関する関係当局間の協力を強化し、海賊対策に取り組むため、緊密に協力することを確認する。両首脳は、日本とインドが、両国及び地域の経済的発展にとって重要な国際海上交通の安全確保のために緊密に協力しなければならないとの認識を共有する。
12.両首脳は、海上保安庁長官間の会談、巡視船の相互訪問、連携訓練の実施を通じた海上保安当局間の定期的な交流を確認する。両首脳は、両国の海上保安当局間の協力に関する覚書への署名を歓迎した。また、両首脳は、アジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)の発効を歓迎するとともに、同協定の枠組みを通じた海賊対策措置に関する協力の強化を再確認する。
13.両首脳は、あらゆる形態のテロを断固として非難し、いかなるテロ行為も正当化し得ないことを強調する。両首脳は、国際社会がこの苦難と闘うための努力と協力を更に強化しなければならないとの認識を共有し、両国が日印テロ協議を通じて協力を続けていくことを確認する。また、全ての国連加盟国に対し、包括テロ防止条約の早期採択に向け努力するよう呼びかける。
包括的な経済パートナーシップ
14.両首脳は、物品の貿易、サービスの貿易、投資の流れ、経済パートナーシップ、経済協力を促進する上での日本の政府開発援助(ODA)の役割及びその他の経済関係の協力分野について提言した日印共同研究会(JSG)による報告書を歓迎し、これらの提言を速やかに実施に移すよう指示する。両首脳は、両国間の包括的な経済交流が日印両国の戦略的パートナーシップの中核にならなければならないとの信念と、より緊密な日本とインドの経済の結びつきが広大なアジア地域における更なる成長と安定を促すことに貢献するとの認識の下、JSGの勧告に基づき、二国間の経済連携協定の締結に向けた交渉を速やかに開始することを決定した。両首脳は、経済連携協定に関する政府間交渉を実施する共同タスクフォースの設置を定めた大臣間の共同ステートメントがシン首相の日本滞在中に署名されたことに満足の意を表した。共同タスクフォースは、およそ2年のうちの可能な限り早期に交渉を実質的に終了させることを目指して交渉の迅速化に努める。
15.両首脳は、二国間の経済関係における最近の進展を歓迎すると同時に、両国間の経済パートナーシップの潜在性は十分に活かされていないことを認識する。
16.インド側は、現在インドが日本のODAの最大の受取国であることに対して謝意を表する。日本側は、インドが引き続きODAの重点国であることを再確認する。両国は、日本のODAが、引き続き、経済・社会開発を加速するというインドの取組を支援するとともに、日印間のパートナーシップを更に強化することを確認する。両首脳は、特にインフラ、環境、社会開発、人材育成といった重点分野において、ODAを通じた協力を強化するよう、それぞれの関係機関に対して指示する。
17.経済連携協定の交渉が行われている間も経済面での交流が拡充するよう、両国首脳は「日印特別経済パートナーシップ・イニシアティブ(SEPI)」を発表した。このイニシアティブは、豊富な技術力及び人的資源、インド政府の官民パートナーシップ政策イニシアティブを最大限活用しつつ、日本からインドへの投資拡大を促進するとともに、インドのインフラと製造能力の強化を助けるものである。SEPIはとりわけ以下の取組によって構成される。
A.インフラの整備及び製造業、貿易、投資の促進
●ムンバイ・デリー間、デリー・ハウラー間における幹線貨物鉄道輸送力強化計画の実現のための更なる協力。両首脳は、国際協力機構(JICA)が同計画に関する開発調査の中間報告を提出したこと、また開発調査の最終報告書が2007年10月までに完成する見通しであることに満足の意を表する。両首脳は、幹線貨物鉄道輸送力強化計画について、本邦技術活用条件(STEP)と日本の技術及び専門知識を活用しながら実現する方法について、更に協議していくことを確認する。また、両首脳は、車両、信号及び電気設備、鉄道建設において日本の技術を活用する可能性を検討する。
●デリー・ムンバイ間の幹線貨物鉄道によって支えられる「デリー・ムンバイ間産業大動脈」の開発。「デリー・ムンバイ間産業大動脈」には、インド西岸の1ないし2か所の港湾の整備、高いレベルの経済・社会インフラを備えた工業団地及び経済特区の開発等の取組が含まれる。「デリー・ムンバイ間産業大動脈」の開発は、現在必要とされているインフラの整備及び投資の促進のために、両国の官民の協力を通じて行われる。両国は、マスタープランの作成を含め、産業大動脈の開発をどのように円滑化するかについて協議を継続する。
●インドにおいて日本からの投資を促進するための、製造・加工産業用設備、宿泊・娯楽施設、教育・訓練センターを有する多品目経済特区の設置に関する協力。多品目経済特区は、産業界のニーズとグローバルな最善の慣習に則った統合集積体となる。インド政府は、特区の設立を促進する。
●日本企業の対印投資を促進するための、経済特区や工業団地に関連するインフラ整備の支援を含む日本政府の努力。
●ジェトロによる日本の中小企業への業務立ち上げ支援。インドにおけるジェトロのビジネス・サポート・センターが当初の業務立ち上げを支援する。
●インド政府が「一村一品運動」計画の下で行う農村地区の商業・産業促進のための取組に対するパイロット・プロジェクトの実施を通じたジェトロの支援。
●インド電力部門への日本企業の参加促進(「インド電力タスクフォース」設立に関する日本の経済産業省の取組を含む)。インド側が日本企業の参加を提案するプロジェクトの中には、タミルナド州のチャイユール地区における4,000メガワットの沿岸地区巨大電力計画及びアルナチャル・プラデーシュ州における3,000メガワットのロヒト水力発電計画が含まれる。
B.製造業促進のための人材育成
●日本の支援による「製造業経営幹部育成(VLFM)」計画の枠組みにおける協力。この協力の下で、日本の製造業に関する経営方法と技術がインド製造業の経営幹部に移転される。
●日本の民間部門による訓練と品質管理への継続的な関与、日本政府の訓練プログラムの継続的な活用。
●インド情報技術大学(設計・製造)ジャバルプール校(IIITDM・J)の発展に向けた協力、両国の工科大学間の交流。
18.日本の経済産業省とインド商工省の政策対話は、閣僚レベルに格上げされ、SEPIの関連要素を促進する。デリー・ムンバイ間産業大動脈に関する覚書が日本の経済産業大臣とインドの商工大臣の間で署名された。
19.両首脳は、インドの資本市場、銀行、保険業界への日本の参加を含む金融分野における協力の活性化を歓迎する。また、両首脳は、インド政府と日本国際協力銀行(JBIC)の間における協力に関する合意を通じた連携を歓迎する。両首脳は、JBICとインドのICICI銀行のビジネス協力に関する合意について、日本とインドの企業が双方の国内で現地通貨の調達を可能とする有益なモデルとして留意する。日印双方の財務省は、金融部門における協力を促進するため、地域の金融と資本市場の発展について更なる意見交換を行う。
20.両首脳は、スズキ株式会社、本田技研工業株式会社、日産自動車株式会社、三井物産株式会社のプロジェクトのような日本からインドへの主要な投資プロジェクトを歓迎する。両国は、以下のプロジェクトの促進のために協力する。
●自由貿易倉庫制度に基づく、鉄道と連結したインランド・コンテナ・デポ(ICD)と特殊倉庫を持つ統合物流プラットフォームの設立と拡充。
●日本の自動車・自動車部品企業によるインドにおける新たな生産能力の構築。
21.両首脳は、経済交流の強化に向けた民間部門の役割の重要性を強調し、両国の10名のビジネスリーダーからなるビジネスリーダーズ・フォーラムの立ち上げを表明する。このフォーラムは、ビジネスレベルでの両国の協力関係及びパートナーシップの強化に向けたロードマップを作成するとともに、SEPIの目標進捗及びEPA交渉進展のためのアイデアを生み出す役割を担うことになる。両首脳は、このフォーラムが、日印間の包括的な経済交流を促進するためのインプットを両首脳に提供するよう希望する。また、両首脳は、ビジネスリーダーズ・フォーラムに助言を与えるための上級代表を指名する。
22.日本側は、インドから日本への投資を歓迎する。両国は、日本におけるインド企業の活動を支援するために協調する。両国は、ソフトウェア開発及びIT関連サービス分野におけるインドの競争的優位性を認識し、日本の同分野におけるインド企業の活動を支援するために共に取り組む。
23.両国は、水供給、衛生、日印パートナーシップの輝ける成功例であるデリーメトロに倣った都市交通システムの建設等の都市開発分野において協力を継続していく。両国は、水環境、都市開発、都市交通の分野に関するワーキンググループ開催に向け調整する。
24.両首脳は、日印ICTフォーラム・ワーキンググループにおいて得られた成果を歓迎する。この成果には、日本の広域無線通信技術「i-Burst」の導入に向けたインドでの実証実験、日本の独立行政法人情報通信研究機構(NICT)とインドの高度コンピューティング開発センター(CDAC)による自然言語処理に関する共同研究、並びに研究者、ソフトウェア専門家その他の技術者の交流が含まれる。両首脳は、それぞれの関係する省に対し、ワーキンググループにて特定された分野での協力の積極的な実施を促す。日本側は、インド国内におけるナショナル・ギガビット・バックボーン・ネットワークの構築に関する支援についてのインド側の要請を検討する。
25.両国は、地球規模でのエネルギー安全保障問題に共同で取り組むことを決意し、両政府間の対話の強化を指示する。両首脳は、2005年9月に作成された炭化水素分野での協力に関する日本の経済産業大臣とインドの石油天然ガス大臣間の共同ステートメント、5つの覚書の署名及びこれらの下での進展を歓迎する。
26.両首脳は、両国において必要とされるエネルギーを充足させることが極めて重要であることを認識し、エネルギー部門における協力の度合いと範囲を拡充する希望を共有する。両首脳は、経済産業大臣とインド計画委員会副委員長が共同議長を務める日印エネルギー対話の設立を確認する。同対話は、エネルギー分野における協力を包括的な形で促進する。同対話が扱う分野には、石油、天然ガス、石炭、電力、省エネ、再生可能エネルギーその他関連分野が含まれる。2006年12月に成功裡に第1回会合を開催した日本の独立行政法人新エネルギー産業技術総合開発機構(NEDO)とインドのエネルギー資源研究所(TERI)の間の既存のフォーラムは、日印エネルギー対話への知的貢献を行う。
27.両国は、専門家の交流とキャパシティ・ビルディング、技術協力を通じて、省エネ分野における協力を促進する。
28.両首脳は、日印双方のハイテク及び知識経済分野におけるそれぞれの強みと協力の強化による潜在的な利益を認識すると同時に、不拡散の目的を促進する重要性を認識し、二国間のハイテク貿易を円滑化し両国の輸出管理制度に関する事項を扱うための協議メカニズムを立ち上げることを決定する。
29.両首脳は、経済発展のためには知的財産が重要であることを認識し、両国政府が、知的財産の分野において、人材育成を含むキャパシティ・ビルディングにおいて引き続き協力することを確認する。
科学技術イニシアティブ
30.両首脳は、最先端分野における研究開発を含む科学技術分野での協力が、両国間の戦略的パートナーシップの主要な構成要素であるとの信念を表明する。両首脳は、2005年11月に開催された第7回日印科学技術合同委員会及び2006年10月に開催された日印科学技術イニシアティブ会合を歓迎する。両首脳は、これらの会合及び科学技術担当大臣間の協議を含む最近数か月間における両国間の集中的な協議の成果に留意しつつ、科学技術イニシアティブの下で、以下の共同プロジェクトを立ち上げることを承認した。
●ナノテクノロジー、生命科学、情報通信技術(ICT)といった分野における共同研究開発プログラム
●個別に又は両国の産学官の連携を通じて実施されている或いは今後行われる研究に関する「オープン・アクセス・データベース」の開発
●科学的深海掘削分野における協力
31.両首脳は、両国の関係機関の間における相互利益的な研究協力を強化する重要性を認識する。この関連で、両首脳は以下の覚書への署名を歓迎する。
(i)科学技術協力に関する独立行政法人理化学研究所とインド科学技術省(DST)の覚書
(ii)科学協力プログラムに関する独立行政法人科学技術振興機構とインド科学技術省(DST)の覚書
(及び、拠点大学交流事業に関する、独立行政法人日本学術振興会(JSPS)とインド科学技術省(DST)の既存の覚書を歓迎。)
また、両首脳は、日本の産業技術総合研究所とインドの科学産業研究評議会(CSIR)、バイオテクノロジー庁、ジャワハルラール・ネルー先端科学研究センター(JNCASR)の間で行われている先端産業科学技術分野における協力を歓迎する。この分野には、ナノテクノロジー、ナノ素材、エネルギーと環境(クリーンコール、バイオマス資源)、生命科学、情報通信技術が含まれる。
32.両首脳は、宇宙の平和利用に関する宇宙航空研究開発機構(JAXA)とインド宇宙研究機関(ISRO)との間の相互利益的な協力に満足の意を表する。また、両首脳は、月探査とX線天文学を含む宇宙科学、衛星リモートセンシング、衛星通信、災害管理支援の分野において協力していくことを再確認した。また、両首脳は、アジア太平洋地域において、宇宙空間利用のためのキャパシティ・ビルディングと地域的協力を促進していく重要性を認識し、日本側は、アジア防災・危機管理システムである「センチネル・アジア」へのISROの参加決定を歓迎する。
33.両首脳は、両国が参加するITER協定の署名を大変喜ばしく思う。
国民交流
34.両首脳は、日印戦略的パートナーシップを具体化するためには、文化、学術及び人の交流が量的に拡大されなければならないとの信念を表明する。こうした国民交流は、両国が互いに抱く相手国への好意を強化し、また、日本におけるインドの、そしてインドにおける日本の評価を高める。こうした大きな政策的目標を念頭に置きつつ、両首脳は、国民交流を拡大するための数々のイニシアティブを確認する。
35.両首脳は、より緊密な国民交流を実現する上で、両国の若者が果たす重要な役割を認識し、主に以下の要素から構成される「未来への投資イニシアティブ」の開始を発表した。
●日本側は、インド側の支援の下、日本語、技術及び若者交流等の分野において、日印間で今後3年間に5千人の交流を支援することを目標として、2006年1月に発表された「麻生プログラム」を拡大する。
●インド側は、インドがJETプログラムの対象国となったことを歓迎した。JETプログラムに基づく交流は拡大される。
●両国政府は、2010年までにインドにおける様々なレベルでの日本語学習者を3万人に引き上げることを目標とし、インドにおける日本語学習を促進するために協力する。日本側は、インドの中等教育課程において日本語が選択外国語として導入されたことを歓迎する。
●両国は青年海外協力隊事業を通じ、インドの日本語学習を引き続き促進する。
●日本側は、インド工科大学7校に日本語教育部門を開設し、インドの選ばれた機関及び大学において日本語学習センターを設立するために協力する。
36.両首脳は、日本の支援の下でインド情報技術大学(設計・製造)ジャバルプール校(IIITDM・J)の発展に関する覚書への署名を歓迎する。また、両国は、インド工科大学の発展に向けた協力のために努力する。
37.両首脳は、2007年を「日印観光交流年」と位置づけることを確認し、関係省庁に対し、観光交流を促進するための各種事業を実施するよう指示する。両首脳は、両国間の観光交流拡大に関する共同文書を歓迎する。インド側は、インドの仏教巡礼回廊を含む観光インフラ整備における日本の支援に謝意を表した。両国は、インドの仏教遺跡におけるインフラ整備に関する現在継続中のプロジェクトを促進する。
38.両首脳は、二国間の民間航空はより緊密な経済交流及び国民交流を促すための重要な要素であることに留意しつつ、航空当局間協議における成果を歓迎するとともに、それぞれの関係機関に対し、拡大する経済関係と増大する観光交流に応じて航空便を増やすため、同協議において合意された措置を実行するよう指示する。インド側は日本側に対し、官民パートナーシップ及びODAを通じて、インドの空港開発に参加するよう提案し、日本側はこの提案に対して真剣な検討を行う。
39.両国は、かつてナーランダ大学が国際大学として仏教・世俗研究に重要な役割を果たしたことを想起しつつ、地域協力として、国際大学を設立し、主要な研究地としてナーランダを再興する構想を探求する。
40.両首脳は、国際交流基金とインド文化交流評議会との間の連携に関する覚書への署名を歓迎する。
41.両首脳は、福岡県とデリー準州、岡山県とマハラシュトラ州が姉妹提携に関して共通の了解に達したことを歓迎するとともに、人の交流と緊密な経済関係の促進のために、このような姉妹提携が更に増えるよう奨励する。
42.両首脳は、関係当局に対し、外交旅券所持者の査証免除の調整を早期に実行するよう指示する。また、両首脳は、双方向の渡航を円滑化するための査証手続の緩和を可能な限り早期に行うよう指示する。
地域的・国際的協力
43.両首脳は、東アジア首脳会議(EAS)の枠組みにおいて引き続き緊密に協議する意図を確認する。両首脳は、この新たな地域枠組みを創設する過程における推進力としてのASEANの役割を認識しつつ、EAS参加16か国すべてが、地域におけるより緊密な協力と共同体構築という目標に全面的に参加し、積極的に貢献する必要性を再確認する。この関連で、両首脳は、EASの枠組みにおいて、東アジア共同体の漸進的な実現に向けたロードマップ及びモダリティを策定することの重要性を強調した。
44.両首脳は、地域の経済統合を一層促進する必要性を再確認するとともに、「汎アジアFTA」構想と「東アジア包括的EPA」構想というそれぞれの提案を想起する。両首脳は、これらの構想を前進させるための研究において相互に協力することを決定する。また、両国が、地域の経済統合を促進するための研究、分析、政策提言を行う「東アジア・ASEAN経済研究センター」の設立に向けて協力することが決定された。
45.両首脳は、国連安保理改革に向けたG4の取組によって、国連安保理改革の問題が国際社会の関心事項になったことに留意する。更に両首脳は、世界の現実を反映するために安全保障理事会の常任・非常任理事国の双方を拡大することを含め、包括的な国連改革の実現に向けた両国間の協力と調整を強化していく決意を再確認する。
46.両首脳は、日本、インド及びアジア太平洋地域の他の同様な考えを持つ諸国との間で、共通の関心事項について対話を行うことが有益であるとの認識を共有する。両国政府は、その方法について協議する。
47.両首脳は、軍縮・不拡散の目標に向けたコミットメントと、拡散に対抗するパートナーとして協力していくという決意を改めて表明する。両首脳は、核兵器のない世界を実現するという共通の目標に向けたアプローチについてそれぞれの立場を表明しつつ、二国間関係全般の促進に資するべく、両国が、引き続き建設的な方法で、共通性を促進し、相互協力に向け一致する分野を特定していくことを再確認する。この関連で、両首脳は、2006年5月、ニューデリーにて、第1回軍縮・不拡散局長級年次協議が開催されたことを歓迎するとともに、第2回協議を2007年に東京で開催することを確認する。
48.両首脳は、地域と世界が直面する大量破壊兵器とその運搬システムの拡散という脅威に対して深刻な懸念を表明した。両首脳は、日本とインドが、平和な社会を危うくするこれらの脅威に有効に対処するために、協調して対処する必要性を再確認した。
49.両首脳は、朝鮮半島における最近の動きについて意見交換を行い、北朝鮮が実施した核実験について、地域の安全保障環境を極めて複雑化させ、秘密裏の拡散の広がりの実態を示すものとして深刻な懸念を共有した。両首脳は、国連安保理決議1718の完全な履行の重要性を強調し、同決議の履行という目的に向け、実践的な協力を進めていくことを確認する。両首脳は、北朝鮮も支持している目的である朝鮮半島の非核化のための六者会合の再開に向けた最近の進展を歓迎する。両首脳は、人道上の懸念である拉致問題の可能な限り早期の解決を強く求める。
50.両首脳は、原子力エネルギーが地球規模で増大するエネルギー需要に対応するための安全かつ持続可能な汚染のないエネルギー源として重要な役割を果たし得るという点、また、国際的な民生用原子力協力は、適切なIAEA保障措置の下、建設的なアプローチによって促進されるべきであるという点について認識を共有する。両国は、インドに関する国際的な民生用原子力協力の枠組みについて議論を継続する。
51.両国は、環境と気候変動に関する政府間協議を立ち上げる。また、両国は、クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)における協力を促進する。
52.両国は、地震、津波、サイクロン等の自然災害による被害を軽減するための能力を強化することも、両国にとって優先度の高い課題であることを認識し、アジア防災センターを通じた協力を含め、兵庫行動枠組みに沿って防災分野での相互協力を促進することを確認する。
53.両首脳は、インドのASEM参加と日本の南アジア地域協力連合(SAARC)へのオブザーバー参加に満足の意を表明する。両国は、これらの枠組みにおいて、緊密に協議しながら取り組んでいく。インド側は、2007年4月にニューデリーで開催される第14回SAARC首脳会議への日本のオブザーバー参加を期待する。
54.両首脳は、多国間貿易システムの重要性に関する共通の認識を再確認する。両国は、G6の責任あるメンバーとして、WTOドーハ・ラウンド交渉の早期妥結に向け最大限努力する。
結語
55.両首脳は、マンモハン・シン首相の日本への公式訪問の成功と戦略的グローバル・パートナーシップを構築するという両国の決断によって、両国間の友好的かつ協力的な関係に新たな章が開かれたとの信念を表明する。
56.マンモハン・シン首相は、天皇皇后両陛下の国賓としてのインド御訪問を招請した。
57.マンモハン・シン首相は、日本滞在中に日本政府及び日本の人々から寄せられた温かな歓迎に謝意を表明する。インドの首相は、安倍晋三総理に対し、2007年の相互に都合の良い時期におけるインドへの訪問を招請した。安倍総理はこの招請をありがたく受け入れ、外交ルートを通じて日程が調整される。
日本国内閣総理大臣
安倍晋三
インド共和国首相
マンモハン・シン
2006年12月15日 東京