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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日印戦略的グローバル・パートナーシップの前進に関する共同声明

[場所] 
[年月日] 2008年10月22日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.日本国とインドの両首脳は、年次首脳会談のため、2008年10月22日に東京で会談を行った。両首脳は、日印両国が、価値と利益を共有するアジアの主要国として、アジアと世界の平和と安定、繁栄を促進するとの観点から、二国間の協力及び地域と国際社会における協力を前進させなければならないとの認識を共有した。両首脳は、この目的のため、さらには日印関係のあらゆる潜在性を活用するとの観点から2006年に構築された「戦略的グローバル・パートナーシップ」の重要性を再確認した。

2.両首脳は、「新次元における日印戦略的グローバル・パートナーシップのロードマップ」の履行状況を確認するとともに、両国間の協力によって継続的な進捗が得られていることに満足の意を表明した。また、両首脳は、二国間関係のさらなる拡大に向けて、未だ活用されていない膨大な潜在性が存在することを認識した。両首脳は、両国関係を地域の将来の枠組みにおける柱に発展させるべく、共通の利益を基礎とし、拡大及び深化に向けて引き続き取り組んでいくことを約した。

3.両首脳は、安全保障分野における両国間の協力の方向性に関する検討を歓迎し、この検討に基づいて「日本国とインドの間の安全保障協力に関する共同宣言」を発出した。両首脳は、安全保障協力に関する共同宣言に基づく日印間のさらなる協力は、アジアと世界の平和と繁栄のために有益であることを認識した。両首脳は、関係機関に対し、共同宣言に基づき、具体策を盛り込んだ行動計画を早期に作成するよう指示した。

4.両首脳は、外相間戦略対話及びその他のレベルでの政策対話の深化について満足の意を表明した。また、両首脳は、防衛交流及び協力の着実な進展を歓迎するとともに、2006年5月の共同発表に基づいて対話と協力を強化するよう、それぞれの防衛省、国防省を促すことを決意した。両首脳は、既存の二国間協議の枠組みによる成果を歓迎するとともに、引き続きその有益な取組を継続するよう指示した。

5.両首脳は、2010年までに200億米ドルに達すると見込まれる二国間の貿易の拡大に満足の意を表明した。両首脳は、経済連携協定(EPA)交渉の実質的な進展を歓迎するとともに、交渉が可能な限り早期に妥結することへの期待を表明した。両首脳は、日印間のEPAが双方に恩恵をもたらし、経済連携の真の潜在力を十分に活かすことになるとの信念を表明した。

6.両首脳は、近年増加傾向にある両国間の長きにわたる投資関係、特にインド国内における日本の多国籍企業の活動に満足の意を表明した。この関心は、日本からの直接投資の実質的な拡大を受けて、近年において、特に高まっている。既に計画されている今後の投資予定も目覚ましいものとして受け止められた。この観点から、両首脳は、日本貿易振興機構(JETRO)その他の機関による、日本の中小企業の対インド投資を支援する取組を歓迎した。また、両首脳は、現在の投資の増加傾向が今後も継続することへの期待を表明した。

7.両首脳は、日本のODAがインドの経済発展に貢献し、インド国民の間に親日感情を育んできたとの認識を共有した。両首脳は、日本のODAが、インドにおける貧困削減、経済・社会インフラ整備、環境問題への対応及び人的資源開発の面で、引き続き一層の役割を果たすべきであるとの認識を共有した。インドの首相は、日本国民がインドの発展のために寛大な役割を果たしてきたことに対し、感謝の意を表明した。

8.両首脳は、2006年12月に打ち出された特別経済パートナーシップ・イニシアティブ(SEPI)が、両国間の経済・通商関係に強い刺激を与えはじめ、新たなビジネスの機会を提供していることに満足の意を表明した。

9.両首脳は、貨物専用鉄道建設計画(DFC)西回廊を、本邦技術活用条件(STEP)を活用した日本の円借款を得ながら、日印協力の新たな象徴的プロジェクトとして実現するとの決意を再確認するとともに、計画の第1フェーズ(レワリ〜バドーダラ間)を共同で開始する準備が整ったことを確認した。この観点から、日本側は、DFC西回廊を電気牽引方式により整備するというインド側の決定を歓迎した。支援はエンジニアリング・サービスのための円借款を通じて開始され、第1フェーズへの円借款の総額は、本案件の暫定的な設計に基づき、現時点で約4500億円と概算されている。また、両首脳は、西回廊全体への支援を早期に最終確定するために共に取り組む決意を表明した。

10.両首脳は、DFC西回廊と繋がるデリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)が、日印間の経済交流の力学を大きく変える可能性を秘めているとの認識を表明するとともに、この構想をさらに追求していくことを決意した。両首脳は、国際協力銀行(JBIC)とインド・インフラ金融公社(IIFCL)、DMIC開発公社(DMICDC)の間で覚書への署名が行われたことを歓迎するとともに、プロジェクト開発基金の共同設立に向けて、引き続き緊密に取り組むことを確認した。双方は、DMIC地域における、物流、人的資源開発、発電及び特定地域開発に関する5つの先行インフラ案件(アーリーバード・プロジェクト)への日本企業の積極的な参加を歓迎した。また、双方は、マスタープランの作成及び計画地域における先行実施案件の選定に向けた、DMIC開発公社によるイニシアティブを歓迎した。両首脳は、両国の長期的な利益に資する互恵的なビジネス関係をさらに促進するために、DMICに関する全般的な協力について引き続き協議を行いたいとの意向を表明した。

11.両首脳は、ハイテク貿易に関する二国間協議の進展を歓迎するとともに、この分野における協力の大きな可能性に留意した。両首脳は、双方向のハイテク貿易の円滑化と両国の輸出管理制度に関する事項を扱うための協議を継続することの重要性を認識した。

12.両首脳は、2007年8月に両国間で署名された「環境保護及びエネルギー安全保障における協力の強化に関する共同声明」を想起するとともに、これらの重要分野における二国間協力をさらに推進する必要性を強調した。両首脳は、日印閣僚級エネルギー対話の下で実現された進展を歓迎した。この対話では、特にインドにおける地方省エネルギーセンターの設立に関する協力を通じた省エネルギー分野における協力の強化、また石炭・電力分野における包括的な協力の促進が確認された。また、両首脳は、日印閣僚級エネルギー対話の中で、両国のエネルギー担当大臣が、各々の原子力エネルギー政策についての見解と情報をやりとりすることを確認したことに留意した。両首脳は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とインドのエネルギー資源研究所(TERI)の間で開催された日印エネルギー・フォーラムにおける進展を歓迎するとともに、二国間における商業的なエネルギー協力を拡大するために両国の産業界同士の協力を促進することの重要性を認識した。

13.両首脳は、2008年6月に開催された第2回日印都市開発ワーキンググループにおける成果に対して満足の意を表明するとともに、このワーキングループ会合の定期開催を継続していく意図を再確認した。

14.両首脳は、研究協力及び広域無線通信技術の導入を含め、情報通信分野における協力を強化するという認識を共有した。

15.両首脳は、ハイレベルによる第2回ビジネス・リーダーズ・フォーラムの開催後に提出された報告書を歓迎した。両首脳は、両国のビジネス界及び産業界が貿易、投資及び経済関係全般の強化のために果たしている極めて重要な役割を認識した。両首脳は、関係者に対し、ビジネス・リーダーズ・フォーラムの提言を迅速に検討し、実行に移すよう指示した。

16.両首脳は、文化、学術、青少年等の分野における交流の重要性を強調した。両首脳は、「麻生プログラム」の下、「21世紀東アジア青少年大交流計画」に基づく交流も含め、両国間の人の交流が促進されたことに満足の意を表明するとともに、現在の拡大傾向を今後も続けていくとの決意をあらためて共有した。

17.両首脳は、日本の支援を得た新規のインド工科大学(IIT)の設立における可能な協力を検討するために設置された日印作業部会の取組を前向きに評価するとともに、作業部会から提出された報告書を歓迎した。両首脳は、ハイデラバードに新設されるIITに対して協力するとの決意を確認した。同校は、日本からの様々な貢献を通じて、インドにおける一流の教育を促進するための日印共同の取組の象徴となる。また、両首脳は、かかる協力は、双方に有益な分野を特定するため、両国の学術専門家を含む関係者間による共同作業を必要とすることを認識した。

18.両首脳は、インド情報技術大学(設計・製造)ジャバルプール校の発展のためには、2006年12月に署名された覚書に沿って、あらゆる努力を行うことが必要であることを確認した。

19.両首脳は、原子力エネルギーが地球規模で増大するエネルギー需要に対応するための安全かつ持続可能な、汚染のないエネルギー源として重要な役割を果たしうるという認識を共有した。両首脳は、国際的な核軍縮・不拡散の取組が強化されるべきであるとの認識を共有した。また、両首脳は、核兵器のない世界の実現という共通の目標に向けた両国の取組を強化する重要性をあらためて強調した。

20.両首脳は、東アジア共同体の実現に向けて、各国共通の関心事項に関する協力を促進し、また地域的な経済統合を進めるため、東アジア首脳会議を、開放的、包括的かつ透明性のある、また首脳によって導かれる枠組みとすべきとの目標を再確認した。両首脳は、次回の東アジア首脳会議においてこの目標を促進すべく、日印間で、また地域の他の諸国とともに取り組むことを決意した。また、両首脳は、「東アジア・ASEAN経済研究センター」(ERIA)の設立を歓迎するとともに、本年12月に提出される予定の「東アジア包括的経済連携」(CEPEA)に関する研究報告に言及した。

21.両首脳は、様々な国際会議の場において、日印間の緊密な協力を維持する重要性を再確認した。両首脳は、常任理事国及び非常任理事国の双方における国連安全保障理事会の改革及び拡大は、国連の包括的な改革過程において中核を成すとの認識を共有した。両首脳は、遅くとも2009年2月28日までに政府間交渉を開始するとの国連総会の決定を歓迎した。両首脳は、安全保障理事会の代表性、信頼性及び実効性を高めるため、安全保障理事会の真の改革に向けた迅速で前向きな動きを達成するための緊密な協力を継続することを決定した。この関連で、両首脳は、G4及び二国間での協議、並びに幅広い国連加盟国への関与の重要な役割を強調した。

22.両首脳は、あらゆる形態、目的のテロを非難し、テロが国際の平和と安全に対する深刻な脅威となっていることを再確認するとともに、この脅威と闘うために両国が行っている取組を歓迎した。両首脳は、日印テロ協議及び国連の枠組みを通じて、テロと闘うための二国間協力を強化する決意を強調した。両首脳は、国連で行われている包括的テロ防止条約交渉の迅速な妥結に対する希望を再確認した。

23.両首脳は、現在の世界経済が金融不安を含む不確実性に直面しており、両国が、地域と世界の安定と成長のために議論を継続することが重要であるとの認識を共有した。両首脳は、世界的な成長と発展の妨げとなる原油価格の高止まり及び不安定性を緩和するため、全ての消費国・生産国による共同の取組の必要性を認識した。また、両首脳は、国際的な食料価格が依然高い水準にあることに対する懸念を表明し、国際的な食料安全保障の課題に対応するため、一層の協力的な取組の必要性を訴えた。さらに、両首脳は、WTOドーハ・ラウンド交渉の現状について議論するとともに、バランスの取れた包括的な結論を伴う早期かつ成功裡の交渉妥結に向けて、両国間の協力を継続するとの意志を再確認した。

24.両首脳は、「バリ行動計画」への支持を表明するとともに、すべての国が参加する、柔軟、公正かつ実効的な、現在、2012年まで及び2013年以降についての(COP15で)合意される結果に向けた決意を再確認した。日本側は、先般インドが「気候変動に関する国家行動計画」を発表したことを歓迎し、インド側は、気候変動問題について日本が取ってきた様々なイニシアティブを歓迎した。両首脳は、すべての国による行動が、共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力の原則に沿う形で、各国の状況及び様々な指標に基づいて実施されるべきであるとの認識を共有した。両首脳は、気候変動枠組条約の下での交渉において、締約国が世界全体の排出量の削減について世界全体の長期目標を採択することが望ましいとの認識を再確認するとともに、この点につき来年の気候変動枠組条約第15回締約国会議に向けて緊密に協力することを約束した。この観点から、両首脳は、2050年までに世界全体の排出量を少なくとも50%削減するというビジョンを、気候変動枠組条約のすべての締約国と共有することに関するG8諸国の希望に留意した。また、両首脳は、持続可能な開発のための公平な責任分担が、共有のビジョンに関する交渉の指針となるべきであることに留意した。両首脳は、エネルギー効率を確保し気候変動問題に対応するため、個別の、また可能であればセクター別の目標及び行動計画の実施を通じて、エネルギー効率を上昇させ省エネルギーを促進することを再確認した。両首脳は、様々なセクターにおける行動が、エネルギー効率改善等の取組を通じ、世界的な排出削減のための有益な手段となりうることを認識し、第3回日印エネルギー大臣対話で確認されたとおり、他国とも協力しながら、協力的セクター別アプローチ及びセクター別の行動を実際的に展開させていくことを決定した。両首脳は、開発と環境保全の相乗効果を促進することの重要性を強調するとともに、途上国における適応措置のための資源を増大させていくよう努力することの必要性を認識した。両首脳は、日印両国が気候変動問題について、関連する国際的な議論の場で緊密に連携して取り組んでいかなければならないとの認識を共有した。

25.インドの首相は日本政府による温かな歓迎に謝意を表明するとともに、日本の総理大臣に対し、次回の年次首脳会談のために、今後外交当局間で調整される双方にとって都合のよい日程にて2009年中にニューデリーを訪問するよう招請した。

2008年10月22日

日本国内閣総理大臣

麻生 太郎

インド共和国首相

マンモハン・シン