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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 鳩山由紀夫総理大臣とマンモハン・シン・インド首相による共同声明〜日印戦略的グローバル・パートナーシップの新たな段階〜

[場所] ニューデリー
[年月日] 2009年12月29日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.日本国とインドの両首脳は、年次首脳会談のため、2009年12月29日に会談を行った。両首脳は、二国間の案件及び地域的・地球規模の案件についても議論した。

2.両首脳は、共通の価値観と戦略的利益を共有するパートナーである日印両国が、「日印戦略的グローバル・パートナーシップ」を、二国間関係の強化ならびに世界の平和と繁栄のために発展させることを再確認した。

3.両首脳は、日印間の年次首脳会談の重要性を改めて表明した。両首脳は、外相間戦略対話及びその他の閣僚級の政策対話の深化に、満足の意をもって留意した。両首脳は、2009年11月、東京において日印防衛大臣が表明した、防衛分野における対話及び交流の強化に向けた年次防衛大臣会合を行いたいとの要望を歓迎した。

4.両首脳は、2008年10月に発出された日印間の安全保障協力に関する共同宣言にもとづき、安全保障協力が進展するための具体的な措置を伴った行動計画がとりまとめられたことに満足の意を表明した。両首脳は、行動計画に従って日印間の安全保障協力を強化すること及び新たに立ち上げられる、行動計画において支持された次官級2プラス2対話の枠組みを通じて議論を深めることにコミットした。

5.両首脳は、経済連携協定(EPA)/包括的経済連携協定(CEPA)交渉の現状に留意し、政府関係者に対して、可能な限り早期に互恵的な協定を締結することを目的として、残る論点の解決に向けて精力的に取り組むことにより、同交渉を加速化するよう指示した。両首脳は、EPA/CEPAの締結により、両国の経済関係がより一層発展するとの認識を共有した。

6.両首相は、日本の政府開発援助(ODA)が、インドにおける貧困削減、経済社会インフラ整備、環境問題への対応及び人的資源開発の改善のために引き続き重要な役割を果たすべきであるとの認識を共有した。インドの首相は、日本国民がインドの発展のために寛大な役割を果たしてきたことに対し、感謝の意を表明した。

7.両首脳は、貨物専用鉄道建設計画(DFC)西回廊についての日印協力が、2009年10月ニューデリーにおいて、第1フェーズ(レワリ〜バドーダラ区間)に係るエンジニアリング・サービス借款のための交換公文署名を以て開始されたことを歓迎し、日印経済関係の更なる推進に資することが期待される本邦技術活用条件(STEP)を活用した西回廊全体の早期実現に向けた両国の決意を再確認した。両首脳はまた、第2フェーズの協力準備調査が開始されたことを歓迎し、2つのフェーズが同時並行的に早期に完成するよう最大限の努力を払っていく。両首脳は、更に、2010年3月までに、第1フェーズの本体借款に係る合意を締結し、第2フェーズの支援を2010年のできるだけ早い時期に開始できるよう共に取り組んでいく。両首脳は、西回廊全体についての資金と実施スケジュールの早期確定に努力する。

8.両首脳は、インド工科大学(IIT)ハイデラバード校の設立における協力の着実な進展に満足の意を表明するとともに政府開発援助を通じた協力を含め日本からの多様な貢献を通じた協力へのコミットメントを再確認した。両首脳は、日本側が、産官学により構成されるIITHコンソーシアムを設立したことにつき、満足の意を持って留意した。

9.両首脳は、デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)計画が、計画段階から実施段階へと前進しているとの認識を共有し、日本企業による投資の促進に重要な役割を果たすとともに、アジア地域全体の発展を促進する可能性のあるDMIC計画を実現するとの決意を再確認した。この観点で、両首脳は、日本国際協力銀行(JBIC)の支援を得て日印両国が主導するプロジェクト開発基金(PDF)の共同設立に、満足の意を表明した。両首脳は、先行インフラ案件(アーリー・バード・プロジェクト)の進展及び地域全体開発計画の完了を含むDMIC計画の実質的な進展を歓迎した。両首脳は、DMIC開発公社とJETROによる「スマート・コミュニティー及びエコ・フレンドリー・タウンシップ」に関する覚書に留意した。

10.両首脳は、日本の中小企業による対インド投資をさらに加速化することとなる日本貿易振興機構(JETRO)チェンナイ事務所設立の決定を歓迎した。

11.両首脳は、日印閣僚級エネルギー対話の下で、特に、石炭、電力分野に加えエネルギー効率及び省エネルギー分野におけるエネルギーに関する二国間協力が強化されていることを歓迎した。両首脳は、これらの極めて重要な分野における二国間協力を加速化する必要性を強調するとともに、次回のニュー・デリーでの閣僚級エネルギー対話で実現され得る進展に対する強い期待を表明した。両首脳は、原子力エネルギーが世界的なエネルギー需要の増大に対応するための安全かつ持続可能な、汚染のないエネルギー源として重要な役割を果たしうるという認識を共有した。両首脳はまた、日印閣僚級エネルギー対話のもとで、両国のエネルギー担当大臣が、各々の原子力エネルギー政策に関する見解と情報をやりとりすることに留意した。

 両首脳はまた、商業ベースで二国間におけるエネルギー協力を拡大するために両国の産業界同士の協力を促進することの重要性を認識した。この観点から、両首脳は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)とインドのエネルギー資源研究所(TERI)との間で開催された日印エネルギー・フォーラムにおける進展を歓迎した。

12.両首脳は、二国間のパートナーシップにおける技術協力の役割を認識しつつ、ハイテク貿易に関する二国間協議のメカニズムの進展に留意し、輸出管理を含む各々の懸念に対処することにより、そのような貿易を促進するための取組を強化することを決意した。

13.両首脳は、6月に開催された第3回日印都市開発ワーキンググループにおける成果に満足の意を表明するとともに、この成果をふまえて、都市開発の分野において具体的な協力のための取組を継続することを再確認した。

14.両首脳は、日印ICTセミナーの立ち上げを歓迎するとともに、閣僚級を含む二国間の協議を通じて情報通信技術の分野において協力を強化するとの見解を共有した。

15.両首脳は、2008年1月1日に開始された外交旅券保持者に対する査証要件の免除に満足の意をもって留意した。両首脳は、日本を含む5ヶ国からの観光客を対象とした到着時の査証発給プログラムが、最近のインド政府の決定により、試験的にインド政府により導入されたことによって、インドを訪問する日本人観光客が増加することに対する期待を表明した。両国間の往来を促進するために、両首脳は、関係当局に対し、査証手続きの簡素化についての協議を加速化し、一年以内に完了させるよう指示した。

16.両首脳は、核兵器の全面的な廃絶に向けた新たな国際的な関心を歓迎するとともに、右に向けたコミットメントを確認した。鳩山総理は、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効の重要性を強調した。シン・インド首相は、一方的かつ自主的な核実験モラトリアムに対するインドのコミットメントを改めて表明した。両首脳は、兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の軍縮会議における即時交渉開始及び早期締結を支持した。両首脳はまた、核テロリズム及び違法な拡散に対処することを目的とした国際協力の強化を支持した。

17.両首脳は、コペンハーゲン合意を歓迎した。両首脳は、合意された成果が第16回締約国会議において採択されるよう、国連気候変動枠組みの下での交渉において緊密に協力する決意を再確認した。シン・インド首相は、「鳩山イニシアティブ」の発表を歓迎した。

18.両首脳は、国連安全保障理事会の包括的な改革、特に常任理事国及び非常任理事国の双方の拡大を実現するとの決意を再確認した。両首脳は、国連総会での政府間交渉において、双方の拡大が加盟国から最も多くの支持を集めているとのこれまでの進展を歓迎した。両首脳は、新たな世紀における課題に対処するために安全保障理事会の代表性、信頼性、実効性を一層高めるため、第64回国連総会会期中に意義のある成果を達成することを目指し、G4ならびに他の志を同じくする国々と緊密に協力しつつ両国の取り組みを加速していくことを決意した。

19.両首脳は、2010年のWTOドーハ・ラウンドの野心的かつバランスのとれた妥結が、世界的な経済危機への対処において、重要な役割を果たすことを再確認するとともに、この目的に向けて協力することにコミットした。

20.両首脳は、G20を国際経済協力の第一のフォーラムであるとして、危機におけるG20の時宜を得た強力な対応策を賞賛した。特に、両首脳は、ピッツバーグで立ち上げられた「強固で持続可能かつ均衡ある成長のための枠組み」を歓迎するとともに、その着実な実施を期待した。両首脳は、危機の再発を防止するための規制的措置に関する包括的なパッケージが重要であることをあらためて強調した。両首脳は、ピッツバーグ・サミットで、信頼性、ガバナンス及び有効性を改善するために、国際金融機関改革への対処に焦点があたったことを歓迎するとともに、合意されたスケジュールの中で改革が実施されることに期待を寄せた。両首脳は、財、サービスの貿易及び投資ならびに資金の流れにおけるあらゆる形態の保護貿易主義を控えるとのコミットメントを再確認した。友情と協力の精神のもと、両首脳は、両国間あるいは他の国々と協力することに期待した。

21.両首脳は、行った者や行われた場所、またその目的の如何を問わず、あらゆる形態のテロを批難することを改めて確認した。両首脳は、国連におけるテロ対策協力を両国が重視していることを再確認するとともに、包括的テロ防止条約の締結に向けて協力を継続することを再確認した。鳩山総理は、昨年のムンバイで起こったテロ攻撃を強く非難した。両首脳はこのテロ攻撃の犯罪者を裁判に付することが最重要であることを強調した。日本は、金融活動作業部会への加入のためのインドの取組に対する支持を表明した。二国間においては、両国間では、日印テロ協議を通じた協力を強化するとの決意を強調した。

22.両首脳は、開放的かつ、包摂的、透明かつ前向きなフォーラムとしての東アジア首脳会議に対する支持を再確認した。両首脳は、東アジア包括的経済連携のフェーズ1及び2報告についての提言につき議論するよう経済高級事務レベルに指示したEAS経済大臣の決定を歓迎した。両首脳は、準地域的開発を促進し、中間層を拡大し、消費市場を活性化することに焦点をあてて、東アジアの経済成長を促進するとともに、アジア開発銀行及びASEAN事務局と協力して、地域の連結性向上に向けた「包括的アジア開発計画」の完成を加速化している東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)の取組を歓迎した。

23.両首脳は、地域協力の枠組において協力していくことにコミットすることを再確認した。シン・インド首相は、鳩山総理の東アジア共同体構想を評価しつつ留意した。

24.鳩山総理は、全アジア諸国から最も聡明で勤勉な学生が、教養と人間教育を受けることができ、非国家的、非営利的、非宗教的、自律的で大陸を中心とする国際的な機関としてのナーランダ大学を設立するとのイニシアチブを歓迎した。両首脳は、このイニシアチブは、アジア諸国の文化的・文明的な結びつきを強化するものとなると認識した。

25.鳩山総理は、シン・インド首相の温かい歓迎に謝意を表した。鳩山総理は、シン・インド首相を、双方にとり都合のよい時期につき外交ルートで調整される日本での次回年次首脳会談に招待した。シン・インド首相は招待を喜んで受諾した。

2009年12月29日

日本国内閣総理大臣

鳩山 由紀夫

インド共和国首相

マンモハン・シン