[文書名] 日スリランカ共同声明 〜海洋国家間の新たなパートナーシップ〜
1. 安倍晋三日本国総理大臣は,マヒンダ・ラージャパクサ・スリランカ民主社会主義共和国大統領による2013年3月の訪日の際の招待により,2014年9月7日から8日までスリランカを公式訪問した。日本国総理がスリランカを訪問したのは1990年以来24年ぶりである。
2. 安倍総理とラージャパクサ大統領は,9月7日に首脳会談を行った。両首脳は,1957年に安倍総理の祖父である岸信介総理(当時)が日本の総理として初めてスリランカを公式訪問したことを想起し,世代を超えた両国の強固な友好の絆を再確認した。両首脳は,2013年3月の共同声明「国交樹立60周年を越えた日本・スリランカのパートナーシップの強化」に挙げられた事項の重要な進展を歓迎し,これら目的のために更なる行動を追求することで一致した。
3. 両首脳は,インド洋の海洋国家としてのスリランカの極めて大きな潜在性を認識し,長期の友好関係に基づき成熟・多様化した日スリランカ関係を「海洋国家間の新たなパートナーシップ」へと高め,太平洋・インド洋地域の安定と繁栄に重要な役割を果たせるよう協力関係を一層強化していく決意を表明した。
共通の価値及び政策対話
4. 民主主義や法の支配の共通の価値の重要性を再確認し,両首脳は,2013年3月以降のハイレベルでの建設的な交流や両国友好議員連盟の会長による相互訪問を歓迎した。両首脳は,二国間関係を拡大し,強固なものとするため,両国外務省の高級事務レベルでの政策対話に対するコミットメントを再確認し,これを促進することで一致した。
海洋分野での協力強化
5. 両首脳は,アジアとアフリカにまたがるインド洋シーレーン上にあるスリランカの戦略的な地理的位置に留意した。同地域における航行の自由と安全の確保の重要性に留意しつつ,両首脳は,海洋における相互に関心を有する問題に効果的に取り組むために,海上安全保障及び海洋に関する日スリランカ対話を立ち上げることで一致した。海洋の連結性に係る協力を加速することを視野に入れ,両首脳は,海洋分野においても協力を促進する意図を共有した。ラージャパクサ大統領は,港湾開発及び海洋教育の分野における協力に期待を表明した。
6. 安倍総理は,スリランカ政府に対し,海上自衛隊艦艇の寄港のための便宜に対し謝意を表明した。両首脳は,2013年3月に開催された前回の首脳会談で確認されたとおり,両国の防衛当局間の協力と交流の促進が着実に進展していることに満足の意を表明した。両首脳は,海上安全保障分野における協力と交流を一層促進することで一致した。両首脳は,海上自衛隊及びスリランカ海軍による訓練やシンポジウムへの参加により強調される広範にわたる協力に留意した。
7. 両首脳は,海上における法執行,捜索救助,災害リスク軽減及び環境保護の分野における海上保安当局間の協力を歓迎した。ラージャパクサ大統領は,スリランカ沿岸警備隊への日本人専門家の派遣に謝意を表するとともに,巡視艇供与を通じた沿岸警備能力の向上のための更なる支援に対する期待を表明した。安倍総理は,スリランカにおける海上の安全に係る能力強化の重要性を再確認し,巡視艇供与を視野に入れ,JICAによる調査を実施する旨表明した。
スリランカにおける国民和解に向けた取組
8. 両首脳は,平和と安定はあらゆる人々の願いであると認識し,多民族,多宗教が共存するスリランカの恒久平和のためには国民和解が重要であることを再確認した。安倍総理は,これまでの進展を認識しつつ,国民和解のための全ての関係者間での対話や,スリランカ政府が「過去の教訓・和解委員会(LLRC)」の勧告に基づく行動計画の実施を促進するための取組の重要性を強調した。また,安倍総理は,2013年9月の北部州議会選挙の実施,証人保護法の国会への提出,帰還民に関する合同ニーズ調査報告書の作成,国際的に知られた有識者により構成される諮問委員会の設置を含む失踪者調査委員会のマンデート拡大等の具体的取組を高く評価した。
9. 国民和解を実現するためのスリランカ政府の努力を後押しするため,両首脳は,紛争影響地域の地方行政官の能力向上及び三言語政策への支援等の日本の取組みを想起し,後発地域における農産物の生産・販売促進のための専門家派遣をはじめとする最近の進展を歓迎した。安倍総理は,日本が国民和解に向けたスリランカの努力を支援し続けていくことを約束した。
10. ラージャパクサ大統領は,地域の社会基盤の再建,地方住民の生計手段の確保促進,ジャフナ大学キリノッチ校農業部のキャンパス施設改善に関する調査の開始を含む地域住民組織の能力構築に加え,日本の平和構築への継続した建設的関与に謝意を表明した。ラージャパクサ大統領は,スリランカ政府により現在行われている国際社会及び国連システムへの関与を改めて表明した。安倍総理は,特に人権理事会及び関連機構並びに国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)とのスリランカ政府の継続的な関与,また,国連人権高等弁務官とのハイレベル対話の実施に対するスリランカ政府の意欲,そして同高等弁務官の2014年中のスリランカへの招待を歓迎した。また,安倍総理は,今月後半のジュネーブにおける国連強制失踪作業部会との協議の調整及び相互にとって適切な時期における同作業部会のスリランカへの招致が追求されていることを評価した。安倍総理は,国民和解に向けたラージャパクサ大統領の政治的指導力を評価した。
スリランカの中進国への発展
11. ラージャパクサ大統領は,1954年の日本のコロンボ・プラン加盟以来,60年間に亘り,スリランカの社会・経済開発において重要な役割を果たしてきた日本の政府開発援助(ODA)を高く評価した。さらに,ラージャパクサ大統領は,日本の先進技術を活用することにより,スリランカの経済・社会開発を促進していく考えを詳細に述べた。安倍総理は,人間の安全保障を考慮しながら,2020年までに貧困から脱し中進国になるとのスリランカの目標並びに,マヒンダ・チンタナ国家開発政策枠組,ミレニアム開発目標の達成に向けた前進,及びポスト2015年開発アジェンダの策定のコミットメントを達成するためのスリランカ政府の努力を,日本政府が引き続き支援するとの意思を表明した。
12. 安倍総理は,スリランカにおける地上デジタルテレビ放送方式として,日本方式(ISDB―T)を採用したことを歓迎した。両首脳は,アンテナ塔,送信所,デジタル放送ネットワーク運営機関(DBNO)運営所,デジタル・テレビセンターの建設,及び電気機材の整備を含む「地上テレビ放送デジタル化計画」として,供与限度額137. 17億円の円借款に関する交換公文の署名を歓迎した。ラージャパクサ大統領は,日本政府からの教育及びドキュメンタリー番組の提供を視野に入れた調査の実施を歓迎した。両首脳は,防災、教育、交通管制、医療、海上安全,農業、観光及び電子政府等の分野における協力強化に貢献する地上デジタル放送を普及するための能力向上を含む,情報通信技術(ICT)分野における二国間協力を推進することで一致した。
13. 両国が津波による大きな被害を経験したことを想起し,両首脳は,人材育成,教育及びインフラ開発を通じて,このような自然災害によりもたらされる課題に対する強靱性を高めることの重要性を強調した。ラージャパクサ大統領は,災害リスクの軽減に向けた日本の協力に謝意を表明するとともに,日本の経験と知見の共有に対する関心を表明した。安倍総理は,スリランカにおける気象レーダー・システム及び災害管理情報システムの導入を視野に入れた調査を実施することを表明するとともに,災害リスクの軽減,気象予報及び土砂災害軽減活動への技術協力を含むスリランカへの支援を継続する意図を表明した。
14. 両首脳は,交通渋滞を緩和し交通障害を解消する大量高速輸送システムの導入を含む都市部における交通インフラに関するJICAの調査結果を歓迎した。ラージャパクサ大統領は,JICA調査の有益な結果は,スリランカ政府によって策定される過程にある「戦略2020」に反映されること,及び日本の先進的な専門知識と技術が具体的な案件の実施にあたり更に活用されることへの期待を表明した。安倍総理は,日本は引き続きこの分野で必要となる支援を行うとの意思を表明した。
15. 両首脳は,スリランカに平和と安定が到来したことにより,近年,日本からの観光客を含め,スリランカへの観光客が増加していることを歓迎した。この関連で,ラージャパクサ大統領は,日本によるバンダラナイケ国際空港建設事業フェーズ2の進展をはじめ同事業の切れ目のない実施のための支援を歓迎し謝意を表明した。また,ラージャパクサ大統領は,高速道路や水力発電建設事業を含むインフラ開発における日本政府の支援に謝意を表明するとともに,協力の機会を更に模索したいとの要望を伝えた。さらに,ラージャパクサ大統領は,文化遺産の保存及び観光促進に対する日本からの支援に謝意を表明した。両首脳は,このような協力が人的交流の強化に貢献することに留意した。
16. 両首脳は,温室効果ガス排出削減のためには,高効率の石炭火力発電技術の利用が重要であることについて認識を共有した。これに関し,両首脳はトリンコマレにおける石炭火力発電所の新設のために,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)により実施されているフィージビリティー・スタディ(F/S)の継続を歓迎し,日本産業によるクリーン石炭技術をスリランカに導入する可能性を模索する意図を共有した。
17. 両首脳は,スリランカ国会と日本のコンソーシアム間でスリランカ国会議事堂改修事業に関する継続的な協議が行われていることを歓迎した。両首脳は,適切なファイナンスによる日本の物品・サービスの利用に関する議論が一層進展することに期待を表明した。
18. 両首脳は,スリランカの医療部門の発展に対するこれまでの日本の貢献を歓迎するとともに,医療分野の人材育成を含む更なる協力の可能性を模索する意図を表明した。
農業分野での協力
19. 両首脳は,農業の国家開発における重要性及び両国国民の生活水準向上に対する貢献を認識し,農業及び関連分野の協力に関する協力覚書の署名を歓迎した。
科学・技術及びイノベーションの分野での協力
20. 両首脳は,国家経済の発展における,科学・技術及びイノベーションの重要性につき一致した。これに関し,両首脳は,日本の文部科学省とスリランカ民主社会主義共和国の科学技術・研究省との間での科学・技術及びイノベーションの分野における協力に関する意図表明書簡の署名を歓迎した。
貿易及び投資の強化
21. 両首脳は,スリランカの継続的な経済成長に留意し,スリランカが環インド洋経済圏の重要拠点となる潜在性を有するとの考えを共有した。両首脳は,安倍総理に同行した著名な日本企業の最高経営責任者一行を歓迎した。両首脳は,両国の民間部門間の互恵的なビジネス連携の発展のため,ビジネス・フォーラムの開催を歓迎し,スリランカへの日本の投資を促進する意図を再確認した。両首脳は,2013年10月の日本貿易振興機構(JETRO)によるビジネス・ミッションの成功及びJETROが実施したビジネスニーズ調査を評価するとともに,JETROによるIT産業マッチング事業を歓迎した。
22. 両首脳は,二国間の貿易,投資及び経済的取組を活性化させることを視野に,両国間で署名された政府間経済政策対話の促進に関する協力覚書を歓迎した。
23. 両首脳は,日本企業によるスリランカへの更なる投資に対する期待を表明し,スリランカの金融及び物流分野における最近の日本企業の投資を歓迎した。ラージャパクサ大統領は,2014年7月に開催された官民合同フォーラムの成果の適切なフォローアップを通じて,日本企業にとり好ましいビジネス環境の促進を確約した。
24. 両首脳は,現在の海外産業人材育成協会(HIDA)の同窓会組織である日本スリランカ技術文化協会(JASTECA)が,日本式経営の技能やノウハウのスリランカへの導入において果たしている役割を評価した。
人材への投資
25. 両国間の協力的な関係を多様化し,友好関係を高めるため,両首脳は,人的交流を促進する重要性を強調した。両首脳は,スリランカ財務総合学院(AFS)への日本の多大な支援及び人材育成奨学計画(JDS)を通じた公的部門の人材研修が,スリランカの国家開発に寄与する公的部門の職員の能力向上にとって重要であることを確認した。
26. 安倍総理は,自身の「女性が輝く社会」を創る構想に言及し,スリランカの女性のエンパワーメントの促進に貢献する決意を表明した。ラージャパクサ大統領は,女性のエンパワーメントへの日本の貢献を評価し,また,女性の起業を発展させるためのイニシアティブにおいて連携を求めた。
27. 両首脳は,青年・スポーツ分野における協力強化の重要性を改めて表明した。安倍総理は,「Sport for Tomorrow」プログラムを通じた二国間のスポーツ交流を強化する意図を表明した。
地域及び国際場裡における協力
28. 安倍総理は,ラージャパクサ大統領に対し,「積極的平和主義」及び切れ目のない安全保障法制の整備についての閣議決定について説明し,そのコンセプトは,日本自身の安全保障政策として,同大統領から支持された。
29. ラージャパクサ大統領は,安倍総理に対し,アジアのハブとしてのスリランカの将来についての同大統領のヴィジョンを説明した。安倍総理は,日本が積極的に貢献できるこのヴィジョンを認識した。
30. 両首脳は,公海における航行及び上空飛行の自由,民間航空の安全,妨げられない合法的な商業活動,及び国際法の原則に従った紛争の平和的解決の重要性を再確認した。
31. 両首脳は,北朝鮮に対し,拉致問題の早期解決を含む,国際社会が有する懸念への対応を改めて求めた。また,両首脳は,北朝鮮に対し,弾道ミサイル発射を含む,六者会合の進展を妨げる更なる挑発行動を自制し,非核化及びその他の目標に向けて具体的な行動を取るよう求めた。
32. ラージャパクサ大統領は,南アジア地域協力連合(SAARC)メンバー国への日本の建設的な取組み及び日SAARCエネルギー・シンポジウムを含む連結性の強化への取組みを歓迎した。安倍総理は,SAARCとの関係を一層強化する意図を表明した。
33. 安倍総理は,日本の国連安全保障理事会常任理事国入りに対するスリランカの継続的な支持に対し謝意を表明した。また,両首脳は,国連創設70周年である明年中に,常任理事国及び非常任理事国双方の拡大を含む安全保障理事会の改革について具体的な成果を得るため共に取組むことで一致した。
34. 両首脳は,犯罪者,端緒,動機にかかわらず,あらゆる形態のテロを非難した。両首脳は,進化するテロの性質は,更なる情報とインテリジェンスの共有などを通じたテロとの闘いにおけるより強固な国際的パートナーシップを求めるものである旨強調した。また,両首脳は,国連包括的国際テロ防止条約の早期妥結と採択を含むテロに対する多国間の行動の再活性化を呼びかけた。
35. 両首脳は,気候変動,環境問題及び災害リスク軽減を含む地球規模課題について,ポスト2015年開発アジェンダの策定及び第21回締約国会議(COP21)で採択される予定である気候変動に関する国際連合枠組条約の下での気候変動のための新たな国際的枠組みに向けた協力を含め,これらの差し迫った地球規模課題に取り組むことの重要性を認識するとともに,これらに対処するための更なる協力を再確認した。また,両首脳は,2015年3月に仙台で開催される第3回国連防災世界会議への積極的な参加と,会議の成功に向けた協力を再確認した。
36. 両首脳は,多国間フォーラムにおける共通の関心及び関連事項に関する継続的な協力につき支持を改めて表明した。
37. 両首脳は,継続した強固な二国間関係を反映するものとして,安倍総理のスリランカ公式訪問の成果に満足の意を表明した。安倍総理は,今次訪問の間のラージャパクサ大統領及びスリランカ国民により示された温かい歓迎と厚意に謝意を表明した。