[文書名] 日・スリランカ包括的パートナーシップに関する共同宣言
I. 総論
1. ラニル・ウィクラマシンハ・スリランカ民主社会主義共和国首相は,安倍晋三日本国総理大臣の招待により,2015年10月4日から7日まで日本を公式実務賓客として訪問した。
2. 安倍総理とウィクラマシンハ首相は,2015年10月6日に首脳会談を行った。両首脳は,法の支配や民主主義といった基本的価値を共有する両国間のパートナーシップの強化が両国の繁栄のみならず,太平洋・インド洋地域の繁栄に貢献することを再確認した。この目的のため,両首脳は,「包括的パートナーシップ」の下,以下の多角的な分野で協力を深化させることで一致した。スリランカの経済成長及び開発の重要性に鑑み,両首脳は,1投資・貿易促進,2スリランカ国家開発計画に係る協力,3国民和解・平和構築におけるイニシアティブを推進することに特に注力していくことで一致した。
II. 貿易・投資の促進
3. ウィクラマシンハ首相は,新政権が日本企業の投資を誘致するために透明性及び良い統治を確保し,より望ましい投資環境を整備する旨述べた。
4. 近年,スリランカは,着実な経済成長を遂げ,製造拠点・物流拠点として存在感を高めていることに鑑み,両首脳は,将来の経済関係強化のための具体的方策を検討する枠組として,政府高官による経済政策対話を明年前半に開催することで一致した。
5. 両首脳は,本年10月6日にジェトロによって開催されたスリランカ・ビジネス・セミナー及び昨年ジェトロによって開始されたIT産業マッチング事業を歓迎した。
6. 南アジアの投資パートナーとしてのスリランカの重要性に鑑み,両首脳は,貿易・投資の促進のため,官民合同フォーラムや経済合同委員会,並びにスリランカ投資庁への日本人投資促進専門家の派遣を最大に活用することで一致した。
III. スリランカ国家開発計画に係る協力
7. 両首脳は,「質の高いインフラパートナーシップ」の下,両国が引き続きスリランカにおける持続的な経済成長のために協力していくことを再確認した。両首脳は,この関連でバンダラナイケ国際空港改善計画(フェーズ2)(第二期)の交換公文が締結されたことを歓迎した。また,両首脳は,スリランカ国家開発計画を支援するために,経済協力政策対話に加えて,新たな枠組である「国家開発協力に関する協議」を開始することで一致した。
8. ウィクラマシンハ首相は,モノレールを含む大量高速輸送システムの導入を始め,都市交通インフラに関するJICAの調査結果が,スリランカ政府によって策定中の「西部メガポリス構想」の下,検討される旨述べた。また,ウィクラマシンハ首相は,日本の先進的な専門知識と技術が高速道路やキャンディ市都市計画のような具体的なプロジェクトの実施に活用され得る旨述べた。安倍総理は,日本が電力マスタープランの策定を始めとする電力分野における協力を引き続き実施していくことを表明し,ウィクラマシンハ首相はこれを歓迎した。
9. 情報通信技術が国の発展の基盤を支えることに鑑み,両首脳は,情報通信技術の将来的発展において,両国が二国間協力を更に強化し,拡大する必要があるとの考えを共有した。安倍総理は,地デジ日本方式がスリランカにおいて採用されることを期待した。ウィクラマシンハ首相は,機能及び実行可能性を基に公平で透明性のある選定プロセスが現在進行中であることを説明した。
10. 第3回国連防災世界会議の成果を踏まえ,長期的視点に立った防災投資の重要性に鑑み,安倍総理は,日本が気象観測レーダーの供与を念頭に置いた調査を含む,防災分野における協力を引き続き実施していく旨表明した。ウィクラマシンハ首相は,ハード及びソフトの両面においてこれまで防災分野で供与された日本の支援に対し謝意を表明した。ウィクラマシンハ首相は,津波に対する理解を深め,津波対策の重要性について意識を向上させるために,11月5日を「世界津波の日」と定める安倍総理の提案を支持した。
11. 両首脳は,高効率石炭火力発電の促進がエネルギー安全保障及び温室効果ガス排出削減に貢献するとの考えを共有するとともに,高効率石炭火力発電に対するOECD加盟国の継続的な公的金融支援の必要性について同意した。この関連で,両首脳は,クリーンコールテクノロジー分野における緊密な協力を歓迎した。
IV. 国民和解・平和構築
12. ウィクラマシンハ首相は,良い統治及び民主主義の促進に係る新政権の取組,並びに国民和解・平和構築に向けたコミットメントを説明した。安倍総理は,紛争影響コミュニティ,特に北・東部州の社会経済の課題に緊急に対処するための新政権の取組を歓迎した。明石康日本政府代表が紛争解決プロセス及びスリランカ復興に向けて貢献し,日本政府が2003年のスリランカ復興開発に関する東京会議の成功に重要な役割を担ったことが想起された。両首脳は,紛争影響コミュニティの復興と社会経済状況の改善のための取組において,スリランカ政府を支援するためのプロセスを開始するために,国際社会とともに協働する必要性についての考えを共有した。
13. 安倍総理は,日本が上水道を始めとするコミュニティ・インフラ整備への支援を継続し,ジャフナ大学農学部の整備を念頭に置いた調査を引き続き実施していく旨表明した。また,安倍総理は,マナー県の教育施設の整備のほか,日本が学校給食プログラムの改善のため,国連世界食糧計画(WFP)を通じて2.4億円の食糧援助を行うことを表明した。
14. 安倍総理は,スリランカが,先般ジュネーブで行われた人権理事会において採択された決議に共同提案国入りしたことに関し,スリランカ政府を称賛した。安倍総理は,和解プロセスに対する日本の貢献の一環として,本年10月に野口検事を派遣することを強調した。
V. 政策協議・海洋協力
15. 両首脳は,2014年の日スリランカ共同声明において提起されたとおり,外務省高級事務レベル政策対話,並びに海上安全保障及び海洋に関する対話を含め,二国間政策対話におけるこれまでの進捗を歓迎し,これらが本年中に実施されることを期待した。
16. 安倍総理は,ウィクラマシンハ首相に対し,国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の下での日本の取組及び最近の「平和安全法制」について説明した。ウィクラマシンハ首相は,日本の平和国家としての取組と国際の平和と安定及び繁栄への貢献を評価し,日本の安全保障政策としての最近の法制に係る取組を支持した。
17. 両首脳は,海洋国家の指導者として,公海における航行・上空飛行の自由,民間航空の安全,妨げられない合法的な商業活動,及び国際法の諸原則に従った紛争の平和的解決の重要性を再確認した。両首脳は,海洋連結性の改善の重要性を認識した。
18. 安倍総理は,巡視艇の供与を念頭に置いた調査を含め,海上における法執行,捜索救助,災害リスクの軽減及び環境保護等の分野において,スリランカの海上保安能力向上に貢献するため,日本が引き続き協力していく旨表明し,ウィクラマシンハ首相はこれを歓迎した。
19. 両首脳は,海上自衛隊艦艇の寄港等を通じ,海洋安全保障に関する両国の防衛当局間の協力と交流の重要性を認識した。
VI. 人材育成・人的交流
20. ウィクラマシンハ首相は,行政能力強化のための日本の支援を評価した。安倍総理は,日本が「紛争影響地域におけるコミュニティ開発人材育成プロジェクト」の下で,2016年までに1,800名程度のスリランカ人地方行政官に対する研修等を実施することを表明した。安倍総理は,良い統治及び法の支配の分野での能力向上及び行政組織の強化の重要性を確認し,日本はそのために必要な協力を継続的に実施していく旨表明した。安倍総理は,日本が「人材育成支援無償資金協力(JDS)」を通じて,これまでスリランカから75名の優秀な若手行政官等を留学生として受け入れてきていると述べた。両首脳は,JDSの継続的な実施の重要性を確認した。
21. 両首脳は,両国間の相互信頼と理解の促進,並びに未来に向けた友好・協力関係を更に促進するための基礎を築くために人的交流促進の重要性を再確認した。安倍総理は,この観点から,JENESYS2015によりスリランカから約30名を招へいする意図を表明した。
VII. 国際場裡での協力
22. 両首脳は,北朝鮮に対し,拉致問題の早期解決を始め,国際社会が有する懸念への対応を改めて求めた。また,両首脳は,北朝鮮に対し,弾道ミサイル発射を含むいかなる挑発行動も自制し,朝鮮半島の非核化に向けた具体的な行動をとるよう求めた。
23. 両首脳は,人間の安全保障及びグローバルパートナーシップの考え方,並びに保健,教育,防災分野における努力を包含する,「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が最近採択されたことを歓迎した。両首脳は,アジェンダの実施において引き続き密接に調整することを確認した。
24. 両首脳は,ニューヨークにおける政府間交渉への積極的関与等を通じて,国連安全保障理事会の早期改革に向けての協力を促進することを確認した。安倍総理は,日本の常任理事国入りへのスリランカの継続的な支持に謝意を表明した。
25. 両首脳は,「核兵器のない世界」の実現のために,核軍縮・不拡散分野及び原子力の平和的利用の分野において更に協力していくことで一致した。
東京
2015年10月6日