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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日・スリランカ首脳会談共同声明 −日・スリランカ包括的パートナーシップの深化と拡大−

[場所] 
[年月日] 2017年4月12日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

I. 総論

1. 2017年4月12日,安倍晋三日本国内閣総理大臣及びラニル・ウィクラマシンハ・スリランカ民主社会主義共和国首相は,東京において首脳会談を行った。

2. 両首脳は,国際社会の安定と繁栄の礎として法の支配に基づく自由で開かれた海洋秩序を維持・強化することの重要性を強調し,インド太平洋地域の平和,安定及び繁栄を確保するという共通の戦略的な目標のために,共に取り組む強いコミットメントを表明した。ウィクラマシンハ首相は,日本による「自由で開かれたインド太平洋戦略」及び同戦略の下での地域における日本のより大きな関与を歓迎した。両首脳は,地域の成長の鍵は,スリランカが,ASEAN,インド,中東及びアフリカとの貿易の流れを自由で開かれた海洋を通じて結ぶ地域のハブとして,より大きな役割を果たすことであると強調した。両首脳は,「質の高いインフラ投資」を含む関連のイニシアティブを通じ,地域の連結性を強化するための二国間の協力を一層促進することで一致した。

3. これらの目的を達成するため,両首脳は,2015年10月の「日スリランカ包括的パートナーシップに関する共同宣言」の下での協力を更に深化・拡大させることを決定した。その際,1投資・貿易の一層の促進,2「質の高いインフラパートナーシップ」及び「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」に基づく,持続的な経済成長に向けた協力等,スリランカ国家開発計画に係る具体的協力の促進,3海洋事項にかかる協力の更なる拡大,4国民和解・平和構築に係る具体的協力の促進,を重点事項とする。

II. 貿易・投資の促進

4. 両首脳は,日・スリランカ経済関係が,民間主導で急速に発展していることに留意し,更に投資環境を改善する決意を表明した。

5. 両首脳は,2016年7月に開催された第1回経済政策対話の成功と投資促進に向けた具体的道筋を示すことを目的とする日・スリランカ投資促進ロードマップの策定,及び2017年3月に開催された日本貿易振興機構(JETRO)アジア経済研究所とスリランカ開発戦略・国際貿易省主催の政策提言セミナー「コロンボ会議:アジアバリューチェーンへの統合に向けた挑戦~東アジアの経験~」の成功を歓迎した。

6. 両首脳はまた,日本企業のスリランカ進出の拡大を企図した民間企業間の交流が堅調に拡大していることに満足の意を示した。これらには,2016年6月の日・スリランカ経済合同委員会によるスリランカ訪問団派遣,2017年3月にコロンボで開催された国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)主催日・スリランカ・テクノロジー・ビジネスセミナー2017,2017年4月11日に東京で開催されたJETRO主催スリランカ・ビジネスセミナー等が含まれる。

III. スリランカ国家開発計画に係る協力の促進

7. ウィクラマシンハ首相は,スリランカにおけるインフラの開発と近代化に重要な役割を果たしてきた日本の政府開発援助(ODA)に対して,謝意を表明した。両首脳は,スリランカをインド洋の主要なハブとして発展させる重要性や持続可能な経済成長を達成するとの目標を認識し,「質の高いインフラパートナーシップ」及び「質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブ」に基づき,港湾,交通インフラの開発,その他の国家開発プロジェクトのための協力を加速させることを約束した。

8. ウィクラマシンハ首相は,本日書簡の交換が行われた総額約450億円の日本による円借款に謝意を表明した。これらの借款は,スリランカの国家開発への取組に対する日本の追加支援として供与されたものである。これらは,西部州の上水道拡張整備及び紛争影響地域を中心とする4州(北部州,東部州,北中部州,ウバ州)の住民の生活環境改善に資する基礎インフラ整備のためのプロジェクトを含む。安倍総理は,これらの支援が,スリランカの経済発展と人々の暮らしの質の向上に貢献することへの期待を改めて表明した。

9. ウィクラマシンハ首相はまた,2016年10月に書簡の交換が行われた開発政策借款(DPL)及びアヌラダプラ県北部上水道整備計画(フェーズ2)に関する総額約331億円の円借款に関し,日本の支援に対する謝意を表明した。

10. 両首脳は,スリランカにおける近年の経済成長,海上輸送の需要の増加や地域における連結性の強化を認識し,港湾施設がスリランカ政府の完全な管理下に置かれ,開放され,透明性をもって,商業目的で利用されることの重要性を再確認した。この関連で,両首脳は,本日,そのための書簡の交換が行われた,東部州トリンコマリー港の港湾管理の機能向上に資する設備整備のための10億円の無償資金協力を歓迎した。また,両首脳は,コロンボ北港及びコロンボ周辺の物流ハブ地域開発の調査が具体的に進展していることを歓迎した。両首脳は,世界基準の海運業界において日本が有する豊富かつ長期にわたる専門性により,その競争力を高めていくことを考慮して,コロンボ港開発への日本の民間部門による投資を奨励した。

11. 安倍総理は,スリランカの経済成長の基盤にとって鍵となる分野である電力・エネルギー供給,交通及び上下水道のインフラ並びに防災の分野において,引き続き協力していく意図を表明した。この点において,ウィクラマシンハ首相は,コロンボにおける新たな公共交通システムとしてのライトメトロ・システム導入に向けた調査の進展を歓迎した。両首脳は,日本の経済産業省による,スリランカのLNG供給チェーン開発に向けた事業実施可能性調査の進展を歓迎し,同開発における協業の可能な方策について意見交換を行った。安倍総理は,世界最大のLNG消費国としての日本の豊富な経験と競争力が,スリランカにおける効率的かつ費用効果の高いLNG供給チェーン導入に向けたスリランカの取組に貢献することへの期待を表明した。

12. ウィクラマシンハ首相は,日本と文化的なつながりも深い古都である,キャンディ市の都市開発において,日本による調査が進展していることに謝意を表明した。

13. 両首脳は,スリランカ政府により日本方式の地上デジタル放送(地デジ)導入に係る計画の実施機関として電気通信規制委員会が指名されたこと,及び2017年2月14日に日本方式の地デジ導入に係る運営委員会が開催されたことを歓迎した。ウィクラマシンハ首相は,費用対効果見積りや実施計画を早期に準備する必要性を強調した。両首脳は,緊急警報放送やデータ放送を通じた災害情報,遠隔教育,電子政府,医療情報,交通情報,天気予報等の享受といった日本方式の地デジから得られる利益を考慮しつつ,同方式の円滑な導入に向けた取組が加速されることの重要性を再確認した。

IV. 海洋協力の拡大

14. 両首脳は,海洋国家の首脳として,航行及び上空飛行の自由,阻害されない通商を含む法の支配に基づく海洋秩序の維持の特別な重要性を強調し,海賊対策を含め,海洋安全保障及び海上の安全における協力と交流を一層促進することで一致した。

15. 安倍総理は,スリランカ政府に対し,海上自衛隊艦艇の寄港に際する便宜に関し,謝意を表明した。また,両首脳は,海上自衛隊艦艇のスリランカへの寄港の機会を捉えた海上自衛隊とスリランカ海軍との間の親善訓練の実施を歓迎した。

16. ウィクラマシンハ首相は,日本政府に対し,スリランカ沿岸警備庁の海洋安全能力向上に向けた日本政府からの支援に謝意を表明し,昨年6月に書簡の交換が行われた,海上安全能力向上のための無償資金協力において,巡視艇2隻の調達プロセスが適時進展していることを評価した。

17. 両首脳は,昨年12月の宮澤博行防衛大臣政務官のスリランカ訪問,及び本年6月に予定されているスリランカ海軍司令官ラウィンドラ・ウィジェーグナラトナ海軍中将の訪日を含め,両国間でハイレベルの防衛交流が大きく前進していることを歓迎した。また,両首脳は,日・スリランカ防衛当局間対話の設置や本年7月の第2回海洋対話の実施等,重層的な交流の拡大を歓迎した。

18. 両首脳は,インドで開催予定の次期日印海保連携訓練へのスリランカのオブザーバー参加も含め,地域の海上保安当局間の協力を更に深める方策について一致した。

19. 安倍総理は,両国間の海洋協力を一層強化する観点から,海上保安大学校,政策研究大学院大学,国際協力機構(JICA)及び日本財団が共同で実施する海上保安に関する修士レベルの教育を行う海上保安政策課程へのスリランカ沿岸警備庁職員の参加に対する期待を表明した。

V. 国民和解・平和構築に係る協力の促進

20. 両首脳は,スリランカの更なる発展のため国民和解を加速する重要性を強調した。

21. 安倍総理は,紛争影響コミュニティ,特に北・東部州の社会経済の課題に対処するためのスリランカ政府の取組を歓迎した。安倍総理はまた,スリランカが,ジュネーブ人権理事会における決議に関し,引き続き共同提案国としてのコミットメントを示したことを歓迎し,同コミットメントの下でのスリランカによる今後の更なる取組に期待を示した。

22. ウィクラマシンハ首相は,紛争影響地域におけるジャフナ大学への支援や地雷除去活動等,スリランカの復興・平和構築に対する日本の支援に謝意を表明した。

23. 安倍総理は,2015年10月以降,2度にわたりスリランカを訪問した野口元郎氏による専門知識の共有を通じるものを含め,日本が国民和解に係るスリランカの取組を引き続き支援していくことを表明した。

VI. 科学技術・人的交流に係る協力

24. 両首脳は,日・スリランカ両国にとって,人的資源が財産であると認識し,その人的資源開発のための二国間の協力と交流を強化していくことで一致した。

25. 安倍総理は,科学技術振興機構(JST)が実施する「日本・アジア青少年サイエンス交流事業(さくらサイエンスプラン)」の下で,スリランカから学生等が日本を訪問し始めたことを認識し,本プログラムにより,両国の若い世代の間の科学技術分野における交流が一層強化されることへの希望を表明した。

26. 両首脳は,昨年9月,スリランカで初めてとなるSTSフォーラムが開催されるなど,科学技術に関する学術交流が具体的に進んでいることを歓迎した。

27. 両首脳は,JICA中小企業海外展開支援事業を活用し,蓄電池,防災,廃棄物管理等の分野で,日本企業の高度技術を生かした協力が具体的に進展していることを歓迎した。

VII. 国際場裡での協力

28. 両首脳は,国際社会の平和及び安定に対する挑戦並びにグローバルな課題に対処するため,国際場裡における両国間の協力を一層進めることで一致した。

29. 両首脳は,北朝鮮の度重なる核実験及び弾道ミサイル発射を最も強い表現で非難するとともに,北朝鮮に対しいかなる挑発的な行動も自制し,関連する国際連合安全保障理事会決議及びその他の国際的なコミットメントを遵守し,朝鮮半島の非核化に向けた具体的な行動をとるよう求めた。両首脳は,関連する国連安保理決議の厳格かつ全面的な履行の重要性を強調した。また,両首脳は,北朝鮮に対し,拉致問題の即時解決を強く求めた。

30. 両首脳は,シーレーンが両国の経済活動及び成長のために極めて重要であることを認識し,南シナ海における平和及び安定,全ての国の航行及び上空飛行の自由の権利,並びに阻害されない適法な海上通商の重要性を再確認した。この関連で,両首脳は,自制,非軍事化,及び海洋法に関する国際連合条約を含む国際法に従った,継続的かつ建設的な対話と協力を通じた,紛争の平和的解決の重要性を共有した。

(了)