データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 経済安全保障協力に関する日印共同宣言

[場所] 
[年月日] 2026年7月2日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文] 

1 日本とインドは、日印特別戦略的グローバル・パートナーシップの根幹をなす柱の一つとして、経済安全保障の重要性への共通のコミットメントを再確認する。両国の経済安全保障パートナーシップは、相互の信頼、共有される価値、及び一致した利益に支えられており、また、双方の繁栄、安全保障及び経済的な未来が深く連関しているとの認識を体現するものである。

2 本宣言は、進化した「自由で開かれたインド太平洋」と、「諸地域間の相互的かつ包括的推進による安全保障と成長(MAHASAGAR)」イニシアティブの相乗効果が、経済安全保障協力を更に推進する原動力を双方に提供するとの認識を体現するものである。

3 本宣言は、戦略的自律性及び不可欠性に基づいた日印の経済安全保障パートナーシップを強化、加速、補強する形で戦略的かつ実践的な指針を示し、我々の経済安全保障の協力関係を新たな水準へ引き上げることを目指す。

4 両首脳は、サプライチェーンの混乱につながるおそれのある、特に重要鉱物及び重要産業部門に対する恣意的な輸出制限及び価格操作を含む、経済的威圧及び非市場的政策・慣行(NMPPs)の使用への深刻な懸念を改めて表明する。両国は、公正で競争的なグローバル環境を維持すること、集団的強靱性を促進すべく同志国間における強靱で信頼性のあるサプライチェーンを構築・保護することの重要性につき一致する。

5 今後、両国は、半導体、重要鉱物、情報通信技術、クリーンエネルギー、医薬品を含む特定された5つの優先分野におけるプロジェクトベースの協力及び官民パートナーシップを促進するとのコミットメントを確認する。

経済安全保障協力の制度化

6 両国は、次官級が共同議長を務める第2回日印経済安全保障対話(GtoG)、及び経団連及びインド工業連盟と連携して開催された初の経済安全保障に関する民間対話(BtoB)を通じ、経済安全保障に関連する法令、投資審査のツール、進化する政策課題についての定期的な情報と見解の交換が可能となり、日印間の経済安全保障協力の制度化が一層深化したことに満足の意を表する。両国は、経済的威圧によって引き起こされるサプライチェーンの混乱や、インド及び日本の経済と国民に影響を及ぼし得る地政学的緊張の高まりなど、経済安全保障関連の予期せぬ事態において相互に調整を継続する。

7 この目的のために、既存のメカニズムは強化され、具体的な協力を進めるための機能的な対話は活用される。両国は、政府、産業界、各分野の専門家の間でのトラック1.5対話の立上げに向けて共に取り組んでいく。共有された進行中のプロジェクトの一覧に関する協力を促進するための連絡担当者を指名することによる、フォローアップ・メカニズムが実装される。

5つの優先分野における二国間協力

半導体:

8 日印企業間の技術提携をもたらしているインド半導体ミッションを基盤として、両国は、

・ 半導体の製造におけるサプライチェーンを強化し、多角化する

・ 人材育成、製造、研究開発及び設計における協力を深化させる

・ インドに対する半導体製造分野におけるマスタートレーナーの能力向上のための技術支援の供与において連携する

・ インド半導体ミッション2.0及び経済特区(SEZ)の下を含む、インドの半導体エコシステムへの日本企業の一層の参画を歓迎する。

重要鉱物:

9 重要鉱物の安定的かつ予見可能な供給を維持し、産業製品の安定的な生産を確保する観点から、両国は、

・ インド地質調査所とJOGMECの間で、鉱物探査分野において技術協力及び情報交換を促進する

・ 電気・電子機器廃棄物の収集とリサイクルを促進することにより、関連サプライチェーンにおいて重要鉱物の回収を高めるためのエコシステムを確立する。

情報通信技術(ICT):

10 ICT及びAIの基盤を成すデジタル・インフラの安全性、信頼性、強靱性を支える観点から、両国は、

・ 5G高度化技術、オール光ネットワーク(APN)、データセンター、高度道路交通システム、海底ケーブル、5GオープンRAN製品とソリューション、及びB5G/6Gの先端技術に関する標準の共同開発において、ビジネスの一層の関与を促進する

・ Bharat 6Gアライアンスと日本の主体との関与の深化を含め、研究・イノベーション、産学連携、人材育成及び交流を促進する

・ 多角化された、強靱な、信頼性のあるサプライチェーンの強化により、安全、安心で信頼できるAIを促進する。両国は、外務省主導の日印AI戦略対話及び日印経済安全保障対話を通じて以下を実施する

  ・ 共有された計算資源の活用を促進する

  ・ 最先端の基盤モデル(LLMを含む)を含む基盤モデルの開発を促進する

  ・ 能力構築を含むAI人材及び企業の交流・協力を支援する

  ・ AIインパクト・サミット及び広島AIプロセスにおける協力を踏まえ、モデル評価、ベンチマーキング及びリスクテスト、共通の安全ツール、枠組み及びベストプラクティスの運用化において協力する

  ・ AIガバナンスにおける国際協力を進める

  ・ AIテックスタックにおいて、サプライチェーンの依存を含め、経済安全保障上のリスクに対する認識を高め、必要な対策を講じる。

クリーンエネルギー:

11 日印クリーンエネルギー・パートナーシップを踏まえ、両国は、

・ 著しい成長が見込まれる分野であるクリーン水素及びアンモニアに関する共同研究、投資及びプロジェクトの実施を促進する

・ オディシャ州において日印協力の画期的なクリーンアンモニアプロジェクトを確立し、両国政府は当該プロジェクトの投資予見可能性及び持続可能性を確保するための支援を行う

・ 両国の民間主体間の連携を促進することで、更なるクリーン水素及びアンモニア・プロジェクトの可能性を検討する

・ 蓄電池分野における協力覚書(MoC)に基づき、蓄電池及び蓄電池サプライチェーンの分野での両国間のビジネス機会を拡大する

・ 太陽電池モジュール、原子力エネルギー、その他における連携を促す

・ パリ協定第6条2の下での二国間クレジット制度の実施文書を確定させ、国際炭素クレジット取引における二国間協力を強化する

・ バイオ燃料を含む自立的なエネルギー源の実現性を促進する

・ 日印バイオガス成長イニシアティブ(CBGイニシアティブ)を通じて、インドにおけるバイオガスの利用と生産供給を拡大する

・ POWERR Asiaなどの地域枠組みやインド独自の地域・国際イニシアティブの下で、エネルギー供給体制を強化し、エネルギー源の多様化を図るとともに、産業の高度化を推進する。

医薬品:

12 両国は、

・ 原薬(API)及び主要出発原料(KSM)における代替サプライチェーンを模索する。

・ API及びKSMの両国への安定供給を含め、相互協力の可能性を模索するため、各原料及びサプライチェーンの各段階について脆弱性分析及びマッピングを実施する

・ バイオ医薬品やバイオシミラーなどの分野において、両国の関連する機関における研究協力を促進する。

重要新興技術における協力

13 両国は、

・ AI、データセンター、量子技術、宇宙科学、スーパーコンピューティング、先端材料研究及び海底ケーブルを含む重要新興技術について、国家的科学ミッションを含む両政府、民間セクター及び学術界の間の機会を促進する

・ 特にSTEM分野において、両国間で活力ある研究開発エコシステムを創出するため、学術及び科学交流、研究開発インフラへのアクセスを強化する

・ イノベーションを加速化させ、技術的依存を低減するため、両国間の人材の双方向の流動性を促進する。

インド太平洋地域における関与の強化

 本宣言は、G7、G20及び日米豪印の下でのより広範な多国間・複数国間の取組と整合させつつ、日印間の経済安全保障協力を進めることを目指す。両国は、インド太平洋地域における経済的強靱性を引き続き強化する、日本による海外経済安保事業展開支援及び進化した「自由で開かれたインド太平洋」、インドによるアフリカ、南アジア及び東南アジアを含む地域における独自のイニシアティブの重要性に留意する。