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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 武器輸出三原則が佐藤栄作総理によって表明された国会質疑

[場所] 東京
[年月日] 1967年4月21日
[出典] 国会会議録,第055回国会 決算委員会 第5号
[備考] 
[全文]

(前略)

○華山委員 それから伺いますが、これは大臣にきめていただかなくちゃいけない問題だと思うのです。東大のロケットの問題について私が伺ったのでございますが、その中で、東大のロケットをインドネシア、ユーゴに輸出しておる。武器に転換する性格のあるようなものは輸出すべきではないじゃないかということを申したのでございますけれども、今度軍需産業におきまして、いろいろな武器が日本において開発され、または製造されるという段階になった。そのことについての批判は別にいたしますけれども、その際に、この武器を外国に輸出するつもりなのかどうか。これは、日本の佐藤総理大臣は、常に平和に徹すると言われた。平和に徹するということは、日本憲法の精神でもありますし、日本憲法の平和の思想は、国際的な平和の保持によって、その間において日本の平和を維持していこうというのが精神なんだ。そういう立場からいえば、日本において開発しあるいは製造された武器というものが外国に行くということは、私は絶対にやめていただきたいと思うのでございますけれども、所見を伺っておきたい。

○佐藤内閣総理大臣 いまの華山君のお話、これはやや説明を要するかと思いまするが、私は平和に徹する、こういう考え方を持っております。しかし自衛のために必要なものはわが国自身も持つ。だからどこの国でも平和に徹すると言ったからといって、その国の自衛力、これを否定するというものでないことは御了承いただきたいと思います。私どもが自衛隊を持ち、自衛力を確保する、そうして安全が確保できて初めて日本は平和であるのであります。平和に徹するというのはそういう立場でございます。また、その武器等防衛のために必要なものを国産するということ‐‐これは外国から全部買うのでなしに、国産することがいいことだ、かように思いますので、国産をはかります。また国産をいたしまする以上、防衛的な武器等については、これは外国が輸出してくれといえば、それを断わるようなことはないのだろうと思います。この武器を輸出するという問題になりますと、これは輸出貿易管理令がございますから、当面問題を起こしておるようなところに武器を送るわけにいきません。また紛争の渦中にある、あるいは特殊な国に対しましては武器を送ってはならない、こういうような取りきめもございます。等々の制約は受けますけれども、私は、一切武器を送ってはならぬ、こうきめてしまうのは、産業そのものから申しましても、やや当を得ないのじゃないか。ことに防衛のために必要な、安全確保のために必要な自衛力を整備する、こういう観点に立つと、一がいに何もかも輸出しちゃいかぬ、こういうふうにはいかぬと私は思います。

○華山委員 それは大きな問題だと私は思うのです。とにかく世界の平和、できるだけ戦争は国際的になくそう、こういう立場に立ちながら、戦争のために使われるものを日本から輸出するというふうなことは、これは私は絶対にやるべきではない。何のためにやる。何のために輸出するか。要するに佐藤大臣のことばから言うならば、いろいろな経済上の、あるいは会社のために、そういうふうにも聞こえる。何のために日本で開発された武器を外国に輸出しなければならないのか。積極的なその理由を伺いたい。

○佐藤内閣総理大臣 いま申しますように、防衛のために、また自国の自衛力整備のために使われるものならば差しつかえないのではないか、かように私は申しておるのであります。輸出貿易管理令で特に制限をして、こういう場合は送ってはならぬという場合があります。それはいま申し上げましたように、戦争をしている国、あるいはまた共産国向けの場合、あるいは国連決議により武器等の輸出の禁止がされている国向けの場合、それとただいま国際紛争中の当事国またはそのおそれのある国向け、こういうのは輸出してはならない。こういうことになっております。これは厳に慎んでそのとおりやるつもりであります。

○華山委員 いま大臣の言われるようなことは私も知っておるし、官僚から聞けばわかる。そういうようなことではいけないのではないか。いままでは、日本は武器というものは発達しておらなかった。しかし今日武器というものが発達してくる。そういう段階において、外国に輸出するのであるというふうなことは、平和に徹するという精神ではないと私は思うのです。あらためてひとつ考え直していただきたい。と申しますことは、経団連が、輸出をさせろ、そしてその輸出によった利益というものを、自国の防衛機器産業のコストを下げるようなことには使わないでくれ、こういうえてかってなことを言っている。まるで輸出奨励政策なんです。武器は輸出させる、それによったところの利益は、国内のコストを下げることには使わないでくれ、こういうふうなえてかってな、そういうものの考え方、そういうことにより日本の武器が輸出される、こういう考え方であるならば、私はたいへんな間違いであると思う。これはそんな理念的なことは言いたくありませんけれども、防衛産業というものがだんだん戦争に近づいていくんだ、そういう理念に近いものなのだ、それだから私は心配して申し上げた。いまおっしゃったようなことは、私は法律のことは知っておりますから、そういう法律をいまここで‐‐防衛機器産業に進もうというならば、考え直してもらいたいということを総理大臣に申し上げた。いまここで答弁をいただけるならばよろしゅうございますけれども、ひとつ、よく考えますとでもおっしゃられるかどうか・・・。

○佐藤内閣総理大臣 どうも答えを強制されるようですが、私はただいま考えるとは申しません。と申しますのは、日本の武器は、たびたび説明しておるように、他国を脅威するような武器ではございません。これはどこまでも防衛産業、いわゆる防衛的な立場から製造するものでございます。でありますから、日本の武器そのものは、外国へ行きましても、日本で攻撃的な機能を持たないのですから、外国へ行っても、やはり攻撃的な機能は持たないのです。でありますから、そういうものは、国連その他の決議による輸出、こういう場合には輸出しないという、もうそれだけで十分だと私は思います。

 もう一つお話ししておきたいのは、たとえば飛行機をつくった、その飛行機が直ちに爆撃機に変わるのじゃないか、こういうような御心配があったり、あるいは東大がペンシルロケットを輸出した、そういうものが、その国の武器の発達に寄与している、こういうようなお話でございます。私は、そういう問題は、各国においての各国の行き方、いろいろあるだろうと思います。ユーゴへ行ったものが、ユーゴで武器開発にペンシルロケットを使ったからといって、それをとめる方法はない。しかし日本のペンシルロケットは、将来そういうところに使われるから輸出してはまかりならない、これは少し偏狭じゃないかと思います。したがいまして、ただいま言われました、華山君も十分御承知の、法律的に、自由主義の国は共産国に向けては武器は送らないとか、あるいは国連でこういう決議をした場合には送らないとか、また交戦国、紛争当事国には送らない、こういうことが最小限度いま要求されておる。これは厳重に厳格に守り、そして日本自身が攻撃的な武器をつくらないのだ、これはひとつ徹してもらいたいと思います。また日本の産業自身が武器を開発することにいたしましても、国内で使うことが目的でございますから、それより以上のものをつくるとは私は思っておりません。そういう点で、誤解のないようにお願いをしておきます。

○華山委員 私は、総理大臣は、大局的なことでお答えになることと思いましたけれども、たいへんこまかいところまでおっしゃいますから、私もこまかいことまで言わなければならない。それは東大のロケットですよ。東大のロケットというものは、それがそのまま武器にはならないでしょう。しかしこれがインドネシアに行きました場合に、立ち会ったのは、あれは軍人なんですよ。科学者は立ち会っておらない。そしてそのときに私が指摘したのでございまして、最近また新聞に出ておりますけれども、東大の宇宙航空研究所にはインドの軍人が入っているのです。総理大臣の考えるほどなまやさしい問題ではないのです。

 それから、日本では攻撃用のものはつくらないとおっしゃるけれども、局地的戦争、そういうものが世界各国に起こるじゃありませんか。その局地的戦争には十分使われるものなのだ。そういうような意味で、あれは防御的なものだからという甘い考えでは私は困ると思う。それは局地戦争には十分使われる。そういうふうなことから考えまして‐‐また国際的にきめたことだとおっしゃいますけれども、日本は日本独自の自主性があっていいと思います。平和に徹すると言われる以上、日本の総理大臣の独自の立場の、平和に徹する考えがあっていいと思うのです。明快な御答弁は得られませんけれども、これで私の質問は終わります。

○佐藤内閣総理大臣 華山君の御意見はよく伺っておきます。おりがとうございました。

(後略)