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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 「武器輸出に関する政府統一見解」が三木武夫総理によって表明された国会質疑

[場所] 東京
[年月日] 1976年2月27日
[出典] 国会会議録,第077回国会 予算委員会 第18号
[備考] 
[全文]

(前略)

○正木委員 (中略)さて、それに関連をいたしまして、午前中にも御質問があったようでございますが、武器の輸出について、武器輸出三原則の問題に関連いたしまして統一見解が出されております。

 これは委員長、お伺いいたしますが、これは議事録に記録してもらうためには読み上げてもらわぬといかぬのですか、それとも――読み上げないといけない・・・。

○正示委員長代理 理事会で便宜お読みにならなくとも載せるような相談をいたします。

○正木委員 ぜひ載せていただく方法をとっていただきたい。(発言する者あり)

○正示委員長代理 それでは簡単にお読み願って。

○正木委員 それじゃ総理大臣読んでください。――内閣の統一見解だから、総理大臣にやらしてください。

○河本国務大臣 この前も、武器の問題につきましては私から便宜説明した経緯がございますので・・・(「総理々々」と呼ぶ者あり)

○三木内閣総理大臣 正本君、従来の関係から通産大臣から政府の統一見解を読み上げます。

○正木委員 ぼくはこんなことで時間をとりたくありませんが、内閣の統一見解を総理大臣がやれないという理由は何ですか。

○三木内閣総理大臣 

 一、政府の方針

「武器」の輸出については、平和国家としての我が国の立場から、それによって国際紛争等を助長することを回避するため、政府としては、従来から慎重に対処しており、今後とも、次の方針により処理するものとし、その輸出を促進することはしない。

  (一) 三原則対象地域については、「武器」の輸出を認めない。

  (二) 三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。

  (三) 武器製造関連設備(輸出貿易管理令別表第一の第百九の項など)の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。

 二、武器の定義

  「武器」という用語は、種々の法令又は行政運用の上において用いられており、その定義については、それぞれの法令等の趣旨によって解釈すべきものであるが、

  (一) 武器輸出三原則における「武器」とは、「軍隊が使用するものであって、直接戦闘の用に供されるもの」をいい、具体的には、輸出貿易管理令別表第一の第百九十七の項から第二百五の項までに掲げるもののうちこの定義に相当するものが「武器」である。

  (二) 自衛隊法上の「武器」については、「火器、火薬類、刀剣類その他直接人を殺傷し、又は武力闘争の手段として物を破壊することを目的とする機械、器具、装置等」であると解している。なお、本来的に、火器等をとう載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段としての物の破壊を目的として行動する護衛艦、戦闘機、戦車のようなものは、右の武器に当たると考える。

 これが武器輸出についての政府の統一見解であります。

○正木委員 そこで総理にお尋ねをいたしますが、この中の(一)で「三原則対象地域については、「武器」の輸出を認めない。」(二)には「三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。」となっていますね。「認めない」というのと「慎む」というのはどんな違いがあるのですか。

○河本国務大臣 「認めない」ということは、言葉のとおり認めないということであります。「慎む」という言葉は、慎重にする、こういう意味でございます。

○正木委員 いまのお答えで通常解釈いたしますと、三原則対象地域については、武器の輸出申請が出されたときには通産省はその許可を承認をしない。しかし、三原則対象地域以外については、武器輸出については慎重には対処はするけれども承認を与えることあり得べし、こういうことですか。

○河本国務大臣 そのとおりであります。

○正木委員 この前の質問のときにも、総理にも再三申し上げましたけれども、憲法の精神からいっても、日本が平和国家としてしかも国連中心主義で、国連の中でいわゆる軍縮問題にしろ国際的な平和努力の問題にしろ、日本が平和国家としての成果というものが定着しつつあるというところに活動の重みというものが当然生じてくるわけでありまして、三原則該当地域以外にはいわゆる武器の輸出を可能にする道を開いておくということは、私は決して今後の日本にとって好もしいものではないと思いますが、総理いかがですか。

○三木内閣総理大臣 これは「慎むものとする。」ということで政府の消極的な態度を表現してあるわけでございます。

○正木委員 一切武器の輸出はしないという、いわゆる三原則にかかわらず武器の輸出はしないということは、三木内閣として、総理として明言できませんか。

○三木内閣総理大臣 政府の統一見解のごとく「慎むものとする。」ということが政府の見解でございます。

○正木委員 私の質問に答えてもらいたいと思うのですが、一切武器輸出はしないということをあなたは明確にここでおっしゃることはできませんか。

○三木内閣総理大臣 だから一方は「しない」、こちらは「慎む」といたしたわけでございます。

○正木委員 そうすると、これを押し問答していてもしようがありませんけれども、三木総理は平和を口にするけれども、武器輸出ということについては三原則対象地域外には輸出をする可能性を残す。それは慎重でありましょう。慎重にするとはおっしゃっておりますが、「認めない」というのと「慎む」というのはこれはおのずから違うわけでありますから、そういうふうに受け取ってよろしいですか。

○三木内閣総理大臣 平和を口にするということは――これは要らぬことだと思いますが、平和を口にするけれどもこうやってするというのは、そういう意味でわれわれが平和というものを、日本が平和主義というものを捨てるという意味ではありませんよ。平和を口にするけれどもということではなくして、やはりこれはできるだけ慎重にしたい。従来の速記録も私読んでみたのです。そうしてやはり政府がずっと――田中通産大臣のときですかね、その速記録も読んでみて、慎むという態度、その中に政府が進んで武器の輸出を奨励しようというような立場でないのだけれども、やはり慎重にこの問題に対処していこうということで、そういうことを政府はずっと方針としてきておるわけで、やはりこれを踏襲していきたいと考えておる次第でございます。

○正木委員 するかもしれないということしかとれませんね。

(後略)