[文書名] 政策研究グループにおける大平総理大臣の発言,(6)総合安全保障研究グループにおいて
(一) 今日,われわれの住む地球社会は,ひとつの共同体として,その相互依存の度を高め,ますます鋭敏に反応し合うようになってきた。このような「地球社会の時代」を迎え,地球上に生起するどのような問題も地球社会全体を前提に考えなければ有効な対応ができなくなってきている。特に資源と市場の多くを海外に求めなければならないわが国にとって,世界のいかなる地域のどのような紛争もその生存を脅かすことになりかねない。まさしく,世界の平和と安定なくしては,わが国の生存はあり得ない。
(二)ところが,国際政治は,いよいよ多元化の傾向を強めており,世界の経済秩序は,ますます不安定の度合いを高くし,局地的な武力紛争もかえって増加の傾向すらみられるのが世界の現実である。
このような状況の中で,わが国が名誉ある生存を確保するためには,わが国として,国際社会において期待されている役割責任をしっかりと果たしていくとともに,自らの安全保障のため周到かつ総合的な努力を払う必要がある。
すなわち,わが国は,平和戦略を基本とした総合安全保障体制を整備しなければならない。
(三) このような総合安全保障は,ひとつには,節度ある質の高い防衛力を整備するとともに,これを補完する日米安全保障条約の誠実かつ効果的な運用を図らなければならない。二つには,政治,経済,教育,文化等,内政全般の秩序正しい活力ある展開を図り,また,わが国にとって安定的な国際協力システムを作りあげるための外交努力を強化する等,わが国が保有するすべての力を総合的に結集してはじめて確保されるものと考えている。
(四) このような意味で,この研究グループの研究課題は,極めて幅広いものになると思われ,ここにお集まりいただいた先生方も広く各方面にわたっている。先生方には総合安全保障のもつ意味,その目的と手段等について自由かつ自主的な立場からご研究いただき,忌憚のないご提言をいただければ幸いである。