[文書名] 第14回シャングリラ会合大臣スピーチ全体会合2「アジアにおける安全保障協力の新しい形」 〜地域協力のための新たな指針“シャングリラ・ダイアログ・イニシアティブ”の提唱〜(中谷元防衛大臣)
(イントロダクション)
チップマン所長、IISSの皆様、シャングリラ会合にお招きいただき、感謝申し上げます。インドネシアのリャミザルド国防大臣、再びご一緒できうれしく思っております。インドのシン国防担当閣外大臣、初めてお目にかかります。日本国防衛大臣の中谷元でございます。
私は、いまから約15年前第1回会合にも、防衛庁長官として出席しました。毎年、シャングリラ会合が大きなニュースになるたびに、そのときのことを思い出しておりました。今回、再び改めて防衛大臣として出席することは誠に光栄です。第1回会合で国防大臣であったテオ・チーヒン副首相にも再びお目にかかれ、大変うれしく思います。
第1回会合で、私は「『アジア太平洋国防大臣級会合』の定例化」を提案いたしました。現在、まさにシャングリラ会合が、その役割を果たしていることを思うと感無量であります。シャングリラ会合をここまで発展させてきたチップマン所長をはじめとする関係者の方々、一貫してこれに支援をしてこられましたリー・シェンロン首相、テオ・チーヒン副首相はじめシンガポール政府のご努力に敬意を表します。また、同国政府を長い間率いてこられた、リー・クアンユー氏が先日亡くなられたことについて、改めて弔意を表します。
(アジア太平洋地域の「サクセスストーリー」と安全保障協力)
我々が暮らすアジア太平洋地域は、歴史に残る経済発展を享受しております。他方、安全保障分野においては、「ヨーロッパでは多国間安全保障枠組が成立しているがアジア地域では未成熟」としばしば言われております。しかしながらご列席のみなさま、思い起こしてください。アジア太平洋地域には、いくつかの深刻な安全保障上の問題が存在しているにもかかわらず、冷戦終結後、これまで平和を享受しているのです。我々は、経済のみならず安全保障においても「サクセスストーリー」を残してきているのです。
何がこの「サクセスストーリー」を可能にしたのでしょうか。一言で言うと、ここにいる皆様を始めとする地域諸国の努力の積み重ねです。例えばASEANの結束と寛容、アメリカを中心とする2国間同盟のネットワーク、米軍の安定的なプレゼンスと現在進めているリバランス、ARF・ADMM・ADMMプラスのような多国間の枠組み、地域における軍同士の協力、さらにARF開始当時から進められてきた国防政策の透明性の向上の努力などです。
このように様々なツールを組み合わせ、アジア太平洋地域では、課題に適した取り組みが行われてきました。その中で、ASEAN諸国は重要な役割を果たしてきております。これからも、ASEANの中心性は引き続き地域における基本原則であり、わが国はそれを崩そうとするいかなる試みにも反対いたします。
安全保障上の課題は、ひとりでに消えてなくなることはありません。無法が放置されれば、秩序は破壊され平和と安定は崩れてしまいます。我々のサクセスストーリーは、課題を解決するための努力が払われてこそ紡ぎ出されてきたわけでございます。何より重要なことは、1国家は何事か主張をなすとき、法に基づいてなすべし、2主張を通したいからと言って、力や威圧を用いない、3紛争解決には平和的収拾を徹底すべし、という3つの原則です。
しかしながら、極めて残念なことに、今この瞬間も、南シナ海において、大規模な埋め立てや、港湾・滑走路の建設が急速に進められております。東シナ海においても現状の変更を試みる動きがあります。我が国を始め周辺諸国は、こうした状況に不安を抱いております。
私は改めてこの地域の皆様に呼びかけたい。共に歩んでいこうとする限り、誰も国家の平和的発展を妨害したりしないということです。我々には、この地域の平和と安定を未来に託すために、圧力によるのではなく、対等の立場から協力して未来を切り開いていく責任があります。私は中国を含む各国が、このような責任ある立場で振る舞うことを期待いたします。例えば、南シナ海行動規範の早期策定のような取組についても、これを言葉だけでなく、行動を以て実践することが重要なのです。
中国の偉大な思想家、老子の残した言葉を引用させていただきます。「足るを知れば辱{はずかしとルビあり}められず、止まるを知れば殆{あやとルビあり}うからず」。今こそ耳を傾けるに値する
のではないでしょうか。
(Security Collaborationの推進についての我が国の考え方)
現在の世界では、どの国も自らの努力だけで自国の安全保障を全うすることはできません。国々がパートナーとして共に協力していくことが非常に重要な時代になっております。わが国は、国際協調主義に基づく積極的平和主義の下、それを3つの柱とともに進めてまいります。
1つ目の柱は、日米同盟です。4月27日、日米両国は、日米同盟を進化させるため、新たな「日米防衛協力のための指針」を策定しました。
この新たなガイドラインについて、本日は3つのことを申し上げたいと思います。第1に、新ガイドラインは、日本の平和と安全を確保するための、平時から緊急事態までのシームレスな協力を実現します。現在の世界では、安全保障上のリスクは瞬く間に広がります。そうしたリスクに機敏に対応していくために、シームレスな協力を整備していくことが不可欠なのです。第2に、新ガイドラインは、同盟の協力のスコープの拡大を反映しています。地理的にも領域横断的にも瞬く間に広がりうるリスクに備え、日米両国は、アジア太平洋とそれを越えた地域の平和と安全、さらに宇宙・サイバー空間といった新たな戦略的領域における課題にも一層協力して対応していきます。第3に、日米以外のパートナーとの協力を重視しています。日米両国は、パートナーの能力構築支援や、三カ国、多国間の安全保障及び防衛協力を推進していきます。日米両国はこうした取組をすでに行ってきており、例えば、日米の艦艇は、昨年10月上旬から約1ヶ月間、南シナ海において共同巡航しました。このように、日米は南シナ海においても共同訓練を行い、海洋安全保障のための具体的な協力を行っています。日米同盟は、これまでも、そして今後とも地域の平和と安定に貢献していきます。
2つ目の柱は、わが国自身の取組です。戦後、日本は、先の大戦に対する痛切な反省を胸に歩んできました。我々は、自らの行いが、アジア諸国民に苦しみを与えた事実から目を背けていません。これらの点について、安倍政権の考え方は、歴代政権と全く変わるものではありません。その上でわが国は、アジア太平洋地域の平和と繁栄のため、力を惜しまず、歩んできました。
いま日本の国会では、平和安全法制についての議論を行っています。これは、国際協調主義に基づく積極的平和主義を掲げるわが国が、これまでよりもさらに積極的に国際的な協力を進め、世界の平和と安定に貢献するための取り組みです。
ここで一つ大切なことを申し上げます。わが国は、専守防衛に徹し、軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持し、戦後一貫して日本国憲法の下で平和国家としての道を歩んできました。平和安全法制の整備を進めるに当たっても、日本の国家としてのフィロソフィーはみじんも揺らいでおりません。わが国は、防衛大綱や新ガイドライン、平和安全法制整備の議論を通じて、防衛政策の今後の具体的な内容を透明性のある形で示しています。それをきちんとご覧になれば、私の言葉を明確にご理解いただけると思います。また、このように、防衛政策の具体的な内容について透明であることは、今日の国際社会における安全保障協力を進めていく責任ある国家に不可欠であると、私は考えます。
3つ目の柱は、地域諸国と肩を並べて共に協力していく基盤の構築です。これには、関係各国が歩調を合わせて協調していく必要があります。そのための1つのアイデアとして、このシャングリラ会合に集う国々にとっての指針となり得る考え方について提案いたします。これは、「シャングリラ・ダイアログ・イニシアティブ」、SDIとも言うべきものであり、3つの要素から成ります。
1つ目は地域の海と空における共通のルールと法規の普及です。そのための具体的な取組として、飛行・航行の安全と自由を保全するための知見の向上に資する支援や、2週間ほど前に自衛隊とフィリピン海軍との間で実施したような「CUES」、これは洋上で不慮の遭遇をした場合の行動基準ですが、CUESを用いた共同訓練を積極的に推進していきましょう。また、この地域で導入が進められている潜水艦の事故を防ぐ方策も考えていかなければなりません。また、2つ目は海と空の安全保障です。シーレーンの要衝である地域の海を守るために、ASEAN諸国の海洋監視能力や警戒監視能力を向上させていくことは極めて重要です。昨年、行方不明となったマレーシア航空機は残念ながら未だ発見に至っておりませんが、地域の空を24時間、監視・管制できるシステムがあれば、航空機の航行をさらに安全にできます。3つ目は地域における災害対処能力の向上です。自然災害はこの地域における共通の課題です。災害対処能力向上のため二国間の協力に加えて、例えば、ASEAN人道支援調整センターやシンガポールの情報融合センターといった地域の防災拠点を有機的に連携させることにより、地域全体としての災害対処能力を高めていくことが重要です。今般のネパール大地震の際もそうでしたが、災害発生時には、一刻も早い救援が必要となります。そこで、例えば、災害救援の際における被災地への航空機の迅速な展開のための手続きをより円滑化することができないか、スピードアップすることができないか、各国軍当局間で検討することが必要と考えます。
我が国はこの「シャングリラ・ダイアログ・イニシアティブ」、SDIを率先して実行に移し、地域の諸国と共に協力していく考えです。私のような古い世代の人間は、SDIというとアメリカの「スターウォーズ計画」を思い出してしまいます。しかし、私がここで述べるSDIは、冷戦期の「スターウォーズ計画」ではなく、21世紀の、今の安全保障上の課題に協力して立ち向かうためのものです。この会場にいらっしゃる新しい世代をになう方々は、この新たなSDIをこそ記憶にとどめていただきたい。私たちの世代を含め、本日ここにお集まりの皆様、この新たなSDIにご賛同いただけるようお願いいたしますが、いかがでしょうか。
(まとめ)
アジア太平洋地域は、経済のみならず、安全保障においても、様々な困難にも関わらず、これまでサクセスストーリーを紡ぎ出してきております。このサクセスストーリーを続けていくことが、ここに集まった全ての参加者の責任なのです。日本も、そのために、米国との同盟、我が国自身の努力に加え、ASEAN諸国を始め、オーストラリアやインド、韓国、欧州とも協力をこれまでにも増して進めてまいります。
大事なことは、違いをおそれず、話し合いを行い、不測の事態を防ぐことです。中国とも海洋の安全について、海空連絡メカニズムの協議も続けております。問題があるからこそ、話し合わなければなりません。わが国は、各国との対話の扉は常にオープンです。
私はかつて、自衛官でありました。その間、厳しい訓練の下毎日を過ごし、自らを律してまいりました。私の体験はそのほんの一部でしかありませんが、この60年あまり、日本の自衛隊は、平和のために、ただただ厳しい訓練を積み、精強さを磨いてきました。この精強さの下に、わが国はアジア太平洋地域の「サクセスストーリー」の未来のために、より大きな責任を果たしてまいります。
そのために今、わが国は、平和安全法制の整備を進めています。新たなガイドラインに基づいて防衛協力を進め、在日米軍の駐留を引き続きサポートし、また、アメリカのリバランス政策を支持し、日米同盟を強化していきます。地域諸国とも、先程申し上げた「シャングリラ・ダイアログ・イニシアティブ」に基づき「ともに働く」基盤を作って参ります。その上で、国際協調主義に基づく積極的平和主義の下、わが国はこれまで以上に国際社会の平和と安定に積極的に貢献していくことをここに約束して、私の話の結びといたします。ご清聴ありがとうございました。