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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アジアにおける海賊行為及び船舶に対する武装強盗との戦いに関する地域協力協定(アジア海賊対策地域協力協定,ReCAAP)

[場所] 
[年月日] 2006年9月4日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳文
[全文] 

 この協定の締約国は、

 アジアにおける海賊行為及び船舶に対する武装強盗の事件の件数が増加していることを憂慮し、海賊行為及び船舶に対する武装強盗の問題の複雑な性質に留意し、

 千九百八十二年十二月十日の海洋法に関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」という。)に規定する航行の権利を行使する船舶(その乗組員を含む。)の安全の重要性を認識し、

 国連海洋法条約に基づく海賊行為の防止及び抑止に協力するという諸国の義務を再確認し、

 二千年三月の「東京アピール」、二千年四月の「アジアにおける海賊対策のための二千年の課題」及び二千年四月の「東京モデル行動計画」を想起し、

 国際連合総会が採択した関連決議並びに国際海事機関が採択した関連する決議及び勧告に留意し、

 海賊行為及び船舶に対する武装強盗を効果的に防止し、及び抑止するために、国際協力が重要であること並びにアジアにおいて影響を受けるすべての国の間の地域的な協力及び調整の強化が緊急に必要であることを認識し、

 締約国間での情報の共有及び能力の開発がアジアにおける海賊行為及び船舶に対する武装強盗の防止及び抑止に大きく貢献することを確信し、

 各締約国が海賊行為及び船舶に対する武装強盗を防止し、及び抑止するための措置を強化することが、この協定の一層の実効性を確保するために不可欠であることを確認し、

 地域協力を更に促進し、及びそのような協力の実効性を高めることを決意して、次のとおり協定した。

 第一部 序

  第一条 定義

1 この協定の適用上、「海賊行為」とは、次の行為をいう。

 (a) 私有の船舶又は航空機の乗組員又は旅客が私的目的のために行うすべての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為であって次のものに対して行われるもの

 (i) 公海における他の船舶又は当該船舶内にある人若しくは財産

 (ii) いずれの国の管轄権にも服さない場所にある船舶、人又は財産

 (b) いずれかの船舶又は航空機を海賊船舶又は海賊航空機とする事実を知って当該船舶又は航空機の運航に自発的に参加するすべての行為

 (c) (a)又は(b)に規定する行為を扇動し、又は故意に助長するすべての行為

2 この協定の適用上、「船舶に対する武装強盗」とは、次の行為をいう。

 (a) 私的目的のために船舶又は当該船舶内にある人若しくは財産に対して行われるすべての不法な暴力行為、抑留又は略奪行為であって、締約国がそのような犯罪について管轄権を有する場所において行われるもの

 (b) いずれかの船舶を船舶に対する武装強盗を行うための船舶とする事実を知って当該船舶の運航に自発的に参加するすべての行為

 (c) (a)又は(b)に規定する行為を扇動し、又は故意に助長するすべての行為

  第二条 総則

1 締約国は、自国の国内法令に従い、かつ、利用可能な資源又は能力の範囲内で、最大限可能な限りこの協定を実施する(海賊行為及び船舶に対する武装強盗を防止し、及び抑止することを含む。)。

2 この協定のいかなる規定も、締約国が当事国である国際協定(国連海洋法条約を含む。)及び国際法の関連規則に基づく当該締約国の権利及び義務に影響を及ぼすものではない。

3 この協定のいかなる規定も、軍艦及び非商業的目的のために運航するその他の政府船舶に与えられる免除に影響を及ぼすものではない。

4 この協定のいかなる規定又はこの協定の下で行われるいかなる行為若しくは活動も、領域主権に関する紛争又は海洋法に関する問題についてのいずれの締約国の立場も害するものではない。

5 この協定のいかなる規定も、締約国に対し、他の締約国の領域内において、当該他の締約国の当局がその国内法により専ら有する裁判権を行使する権利及び任務を遂行する権利を与えるものではない。

6 締約国は、第一条1の規定の適用に当たり、第三者の権利を害することなく、国連海洋法条約の関連規定に妥当な考慮を払う。

  第三条 一般的義務

1 締約国は、次の事項について効果的な措置をとるため、自国の国内法令及び適用可能な国際法の諸規則に従ってあらゆる努力を払う。

 (a) 海賊行為及び船舶に対する武装強盗を防止し、及び抑止すること。

 (b) 海賊又は船舶に対する武装強盗を行った者を逮捕すること。

 (c) 海賊行為又は船舶に対する武装強盗に用いられた船舶又は航空機を拿捕すること、海賊又は船舶に対する武装強盗を行った者によって奪取され、かつ、それらの者の支配下にある船舶を拿捕すること及び当該船舶内の財産を押収すること。

 (d) 海賊行為又は船舶に対する武装強盗の被害船舶及び被害者を救助すること。

2 この条のいかなる規定も、締約国がその領土において(a)から(d)までの規定について追加的な措置をとることを妨げるものではない。

 第二部 情報共有センター

  第四条 構成

1 海賊行為及び船舶に対する武装強盗を防止し、及び抑止することについて締約国間の緊密な協力を促進するため、情報共有センター(以下「センター」という。)を設立する。

2 センターは、シンガポールに置く。

3 センターは、総務会及び事務局で構成する。

4 総務会は、各締約国の一人の代表者で構成する。総務会は、総務会が別段の決定を行わない限り、少なくとも毎年一回シンガポールで会合する。

5 総務会は、センターのすべての事項に関する政策を立案し、及び議長の選出方法を含む総務会の手続規則を採択する。

6 総務会は、コンセンサス方式により決定を行う。

7 事務局は、職員の補佐を受ける事務局長を長とする。事務局長は、総務会が選出する。

8 事務局長は、総務会が決定する政策及びこの協定に従ってセンターの管理上、運営上及び財政上の事項について責任を負うものとし、総務会が決定する他の事項についても責任を負う。

9 事務局長は、センターを代表する。事務局長は、総務会の承認を得て、事務局の規則を作成する。

  第五条 本部協定

1 センターは、この協定の締約国から成る国際機関として、その任務の遂行に必要な法律上の能力、特権及び免除をセンターの接受国において享有する。

2 事務局長及び事務局の職員は、その任務の遂行に必要な特権及び免除を接受国において与えられる。

3 センターは、1及び2に規定するものを含む諸事項について接受国と協定を締結する。

  第六条 財政

1 センターの経費は、総務会が決定する予算において規定され、次のものを財源とする。接受国による資金供与及び支援

 締約国からの任意拠出金

 総務会が採択する関連基準に従った国際機関その他の団体からの任意拠出金

 総務会が合意する他の任意拠出金

2 センターの財政上の事項は、総務会が採択する財政規則によって規律する。

3 総務会によって任命される独立の会計検査専門家が、毎年、センターの会計検査を行う。検査報告は、財政規則に従い、総務会に提出され、及び公表される。

  第七条 任務

 センターの任務は、次のとおりとする。

 (a) 締約国間の海賊行為及び船舶に対する武装強盗の事件に関する情報の迅速な流れを管理し、及び維持すること。

 (b) 締約国が伝達する海賊行為及び船舶に対する武装強盗に関する情報(海賊行為及び船舶に対する武装強盗を行う個人及び国際的かつ組織的な犯罪集団に関する他の関連情報がある場合には、当該関連情報を含む。)を収集し、取りまとめ、及び分析すること。

 (c) (b)の規定に従って収集され、及び分析された情報に基づいて統計及び報告を作成し、並びにそれらを締約国に配布すること。

 (d) 海賊行為及び船舶に対する武装強盗の脅威が急迫していると信ずるに足りる相当な理由がある場合には、可能なときはいつでも、締約国に適当な警報を発出すること。

 (e) 第十条に規定する要請及び第十一条に規定する措置でとられたものに関連する情報を締約国に通報すること。

 (f) (b)の規定に従って収集され、及び分析された情報に基づいて秘密でない統計及び報告を作成し、並びにそれらを海運業界及び国際海事機関に配布すること。

 (g) 海賊行為及び船舶に対する武装強盗を防止し、及び抑止するため、総務会が合意する他の任務を遂行すること。

  第八条 運営

1 センターの日常の運営は、事務局が行う。

2 センターは、その任務の遂行に当たり、締約国が提供する情報の秘密性を尊重し、また、当該締約国の同意が事前に与えられない限り当該情報を開示し、又は配布しない。

3 センターは、総務会が立案する政策に従って効果的で透明性のある態様で運営されるものとし、また、締約国間の既存の活動との重複を避ける。

  第三部 情報共有センターを通ずる協力

   第九条 情報の共有

1 締約国は、センターとの連絡に責任を有する中央連絡先を指定し、及び第十八条に規定する署名又は通告書の寄託の際に当該中央連絡先の指定について表明する。

2 締約国は、センターの要請に基づき、センターから伝達される情報の秘密性を尊重する。

3 締約国は、自国の指定された中央連絡先と他の権限のある国内当局(救助調整本部を含む。)及び関係非政府機関との間の円滑かつ効果的な連絡を確保する。

4 締約国は、海賊行為又は船舶に対する武装強盗の事件を関係国内当局(中央連絡先を含む。)及び適当な場合にはセンターに速やかに通報するよう自国の船舶、船舶所有者又は船舶運航者に対して要求するため、あらゆる努力を払う。

5 海賊行為又は船舶に対する武装強盗の急迫した脅威又はそれらの事件に関する情報を受領し、又は入手した締約国は、自国の指定された中央連絡先を通じて、関連情報をセンターに速やかに通報する。

6 締約国は、第七条 の規定により海賊行為又は船舶に対する武装強盗の急迫した脅威に関するセンターの警報を受領した場合には、このような急迫した脅威が存在する地域内に所在する船舶に対し、速やかに当該警報を周知する。

   第十条 協力の要請

1 締約国は、センターを通じて又は直接に、他の締約国に対し、次に掲げる者、船舶又は航空機を発見することについて協力するよう要請することができる。

 (a) 海賊

 (b) 船舶に対する武装強盗を行った者

 (c) 海賊行為又は船舶に対する武装強盗に用いられた船舶又は航空機、並びに海賊又は船舶に対する武装

 (d) 強盗を行った者によって奪取され、かつ、それらの者の支配下にある船舶

 (c) 海賊行為又は船舶に対する武装強盗の被害船舶及び被害者

2 締約国は、センターを通じて又は直接に、他の締約国に対し、国内法令及び適用可能な国際法の諸規則が許容する範囲内で1 、 又は に規定する者又は船舶に対して逮捕又は拿捕を含む適当な措置をとるよう要請することができる。

3 締約国は、センターを通じて又は直接に、他の締約国に対し、海賊行為又は船舶に対する武装強盗の被害船舶及び被害者を救助するため効果的な措置をとるよう要請することができる。

4 1から3までの規定に基づき直接に協力の要請を行った締約国は、当該要請をセンターに速やかに通報する。

5 犯罪人引渡し又は刑事問題に関する法律上の相互援助を伴う協力についての締約国の要請は、他の締約国に対して直接に行われる。

   第十一条 要請を受けた締約国の協力

1 締約国は、第十条の規定に基づく要請を受けた場合には、第二条1の規定に従うことを条件として、当該要請を実施するため効果的かつ実行可能な措置をとるようあらゆる努力を払う。

2 締約国は、第十条の規定に基づく要請を受けた場合には、当該要請を実施するため、当該要請を行った締約国に対し追加的な情報の提供を求めることができる。

3 締約国は、1に規定する措置をとった場合には、とられた措置に関連する情報をセンターに速やかに通報する。

  第四部 協力

   第十二条 犯罪人引渡し

 締約国は、自国の国内法令に従うことを条件として、自国の領域内に所在する海賊又は船舶に対する武装強盗を行った者を、それらの者に対する裁判権を有する他の締約国の要請に基づき、当該他の締約国に引き渡すよう努める。

   第十三条 法律上の相互援助

 締約国は、自国の国内法令に従うことを条件として、他の締約国の要請に基づき、刑事問題に関する法律上の相互援助(海賊行為及び船舶に対する武装強盗に関する証拠の提出を含む。)を行うよう努める。

   第十四条 能力の開発

1 締約国は、海賊行為及び船舶に対する武装強盗を防止し、及び抑止する締約国の能力を向上させるため、協力又は援助を要請する他の締約国と最大限可能な限り協力するよう努める。

2 センターは、能力の開発のための援助を提供することについて最大限可能な限り協力するよう努める。

3 能力の開発のための協力には、経験及び最良の慣行を共有するための教育及び訓練に関する計画等の技術援助を含めることができる。

   第十五条 協力のための措置

 適当な場合には、関係締約国間で、合同訓練その他の形態の協力等の協力のための措置について合意することができる。

   第十六条 船舶の防護措置

 各締約国は、関連する国際的な基準及び慣行(特に、国際海事機関が採択する勧告)を考慮して、適当な場合には、船舶、船舶所有者又は船舶運航者が海賊行為及び船舶に対する武装強盗に対する防護措置をとるよう奨励する。

  第五部 最終規定

   第十七条 紛争の解決

 この協定の解釈又は適用から生ずる紛争(第十条2の規定に基づいて行った要請又は第十一条1の規定に従ってとられた措置によりもたらされた損失又は損害に対する責任に関する紛争を含む。)は、適用可能な国際法の諸規則に従い、関係締約国間の交渉によって友好的に解決する。

   第十八条 署名及び効力発生

1 この協定は、2に規定する寄託者において、バングラデシュ人民共和国、ブルネイ・ダルサラーム国、カンボジア王国、中華人民共和国、インド共和国、インドネシア共和国、日本国、大韓民国、ラオス人民民主共和国、マレーシア、ミャンマー連邦、フィリピン共和国、シンガポール共和国、スリランカ民主社会主義共和国、タイ王国及びベトナム社会主義共和国による署名のために開放しておく。

2 シンガポール政府は、この協定の寄託者とする。

3 この協定は、1に掲げる国がその国内手続を完了した旨を通告する十番目の通告書が寄託者に寄託された日の後九十日目の日に効力を生ずる。その後は、この協定は、1に掲げる他の国が通告書を寄託者に寄託した後三十日目の日に、当該他の国について効力を生ずる。

4 寄託者は、1に掲げるすべての国に対し、3の規定によるこの協定の効力の発生について通報する。

5 この協定は、効力を生じた後、1に掲げる国以外の国の加入のために開放しておく。この協定への加入を希望する国は、その旨を寄託者に通報することができるものとし、寄託者は、そのような通報を受領したことを速やかに他のすべての締約国に対し通報する。当該加入を希望する国は、寄託者が当該通報を受領した後九十日以内に締約国から書面による異議が申し立てられない場合には、加入書を寄託者に寄託することができるものとし、当該加入書の寄託の後六十日目の日にこの協定の締約国となることができる。

   第十九条 改正

1 締約国は、この協定が効力を生じた後はいつでも、この協定の改正を提案することができる。当該改正は、すべての締約国の同意を得て採択される。

2 改正は、すべての締約国による受諾の後九十日目の日に効力を生ずる。受諾書は、寄託者に寄託されるものとし、寄託者は、他のすべての締約国に対し当該受諾書の寄託について速やかに通報する。

   第二十条 脱退

1 締約国は、この協定の効力発生の日の後、いつでもこの協定から脱退することができる。

2 脱退は、脱退の通告書により寄託者に通報する。

3 脱退は、寄託者が脱退の通告書を受領した後百八十日目の日に効力を生ずる。

4 寄託者は、いずれかの締約国が脱退した場合には、他のすべての締約国に対し、その旨を速やかに通報する。

   第二十一条 正文

 この協定は、英語を正文とする。

   第二十二条 登録

 この協定は、寄託者が国際連合憲章第百二条の規定に従って登録する。


 以上の証拠として、下名は、各自の政府から正当に委任を受けて、この協定に署名した。


{拿にだとルビあり}