[文書名] 新たな時代における日本の安全保障と防衛力の将来構想 −「平和創造国家」を目指して−
目次
要約..... v
はじめに..... 1
第一章 安全保障戦略..... 3
第1節 目標.....3
[1]日本の安全と繁栄.....3
[2]日本周辺地域と世界の安定と繁栄.....3
[3]自由で開かれた国際システムの維持.....4
第2節 日本をとりまく安全保障環境.....4
(1)グローバルな安全保障環境.....4
[1]グローバル化と国家間紛争パラダイムの変化.....4
[2]パワーバランスの変化と国際公共財の劣化.....5
[3]大量破壊兵器と運搬手段の拡散.....6
[4]地域紛争・破綻国家・国際テロ・国際犯罪.....6
(2)日本の周辺地域および重要地域の安全保障環境.....7
[1]米国の抑止力の変化.....7
[2]不確実性の残存と域内パワーバランスの変化.....8
[3]シーレーンおよび沿岸諸国の不安定要因の継続.....9
第3節 戦略と手段.....9
(1)日本の特性と「平和創造国家」としてのアイデンティティ.....10
[1]自然環境および地理的特性.....10
[2]経済力・防衛力の特性.....10
[3]歴史的制約要因の特性.....10
[4]「平和創造国家」としてのアイデンティティ.....11
(2)日本自身の取り組み.....11
[1]安全保障に関わる外交政策.....11
[2]防衛力整備.....11
[3]安全保障に関する省庁間連携と官民協力.....12
(3)同盟国との協力.....12
[1]共通の価値と戦略的利害の一致.....12
[2]米国による拡大抑止.....13
(4)多層的な安全保障協力.....13
[1]パートナー国との協力.....14
[2]地域の安定化にとって重要な新興国への関与.....14
[3]多国間安全保障枠組みの構築と活用.....15
[4]国連・グローバルレベルでの努力.....15
[5]防衛装備協力・防衛援助.....16
第二章 防衛力のあり方..... 18
第1節 基本的考え方.....18
第2節 多様な事態への対応.....19
[1]弾道ミサイル・巡航ミサイル攻撃.....19
[2]特殊部隊・テロ・サイバー攻撃.....20
[3]周辺海・空域および離島・島嶼の安全確保.....20
[4]海外の邦人救出......20
[5]日本周辺の有事.....21
[6]複合事態.....21
[7]大規模災害・パンデミック.....21
第3節 日本周辺地域の安定の確保.....22
[1]情報収集・警戒監視・偵察活動の強化.....22
[2]防衛協力の促進と防衛交流・安保対話の充実.....22
[3]地域安全保障枠組への取り組み.....23
第4節 グローバルな安全保障環境の改善.....24
[1]破綻国家・脆弱国家支援、国際平和協力業務への参加等.....24
[2]テロ・海賊等国際犯罪に対する取り組み.....24
[3]大規模自然災害に対する取り組み.....25
[4]大量破壊兵器・弾道ミサイル拡散問題への取り組み.....25
[5]グローバルな防衛協力・交流.....25
第5節 防衛力の機能と体制…..26
(1)防衛力整備に関する基本的な考え方.....26
(2)日米間の役割分担の考え方.....27
(3)防衛力の選択と集中.....28
[1]統合の強化と拡大.....28
[2]陸上防衛力.....29
[3]海上防衛力.....29
[4]航空防衛力......29
[5]国際平和協力活動強化のための体制整備......30
第三章 防衛力を支える基盤の整備..... 31
第1節 人的基盤.....31
第2節 物的基盤.....32
[1]防衛産業・技術戦略の確立.....33
[2]国際共同開発・共同生産の活用.....33
[3]装備品取得改革の推進.....34
第3節 社会的基盤.....35
[1]国民の支持拡大.....35
[2]防衛施設所在地域との協力.....36
第四章 安全保障戦略を支える基盤の整備..... 37
第1節 内閣の安全保障・危機管理体制の基盤整備.....37
[1]内閣の安全保障機構の強化.....37
[2]情報機能の強化.....38
[3]安全保障戦略策定方式の改善.....39
第2節 国内外の統合的な協力体制の基盤整備.....39
[1]オール・ジャパン体制の構築.....39
[2]日米の共同運用の実効性向上.....40
[3]国際平和協力実施の枠組みの見直し.....41
第3節 知的基盤の充実・強化.....42
[1]安全保障コミュニティの充実.....42
[2]対外発信能力の強化.....43
略語表..... 45
「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会の開催について」..... 47
懇談会開催実績..... 49
Summary ..... 51
新たな時代における日本の安全保障と防衛力の将来構想 −「平和創造国家」を目指して−
(要約)
本報告書において、「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」は、日本がその平和と安全を守り、繁栄を維持するという基本目標を実現しつつ、地域と世界の平和と安全に貢献する国であることを目指すべきであること、別言すれば、日本が受動的な平和国家から能動的な「平和創造国家」へと成長することを提唱する。
第一章 安全保障戦略
第1節 目標
安全保障上の目標は、日本の安全と繁栄、日本周辺地域と世界の安定と繁栄、自由で開かれた国際システムの維持である。日本の安全と繁栄のためには、日本の経済力の維持・発展、経済活動、移動の自由などの保障が必要とされる。ここには日本国外に居住、滞在する日本人の安全を国際的連携の下で図ることも含む。日本周辺地域と世界の安定と繁栄について、市場へのアクセスとシーレーンの安全維持は、日本および世界共通の利益である。自由で開かれた国際システムの維持について、日本は国際秩序の維持と国際規範の遵守のため世界の主要国と協力を深める必要がある。また個人の自由と尊厳といった普遍的、基本的価値は守られなければならない。
第2節 日本をとりまく安全保障環境
グローバルな安全保障環境の趨勢としては、[1]経済的・社会的グローバル化、それに伴う国境を越える安全保障問題、平時と有事の中間のグレーゾーンにおける紛争の増加、[2](中国、インド、ロシア等)新興国の台頭、米国の圧倒的優越の相対的後退による世界的なパワーバランスの変化と国際公共財の劣化、[3]大量破壊兵器とその運搬手段の拡散の危険の増大、[4]地域紛争、破綻国家、国際テロ、国際犯罪等の問題の継続などが挙げられる。
こうした趨勢の下、日本の周辺地域と日本にとって重要なことは、米国の抑止力の変化、朝鮮半島情勢の不確実性の残存、中国の台頭に伴う域内パワーバランスの変化、中東・アフリカ地域から日本近海に至るシーレーンおよび沿岸諸国における不安定要因の継続といった課題にどう対処するかにある。
第3節 戦略と手段
こうした安全保障環境下、日本の地理的特性、その経済力・防衛力の特性および歴史的制約要因の特性を考えれば、外交・安全保障の領域において本がめざすべき国の「かたち」あるいはアイデンティティは「平和創造国家」と言える。これは、世界の平和と安定に貢献することが日本の安全を達成する道であるとの考えを基礎とし、国際平和協力、非伝統的安全保障、人間の安全保障といった分野で積極的に活動することを基本姿勢とする。
日本が、この平和創造国家のアイデンティティを基礎として、その安全保障目標を実現する戦略と手段としては、日本自身の取り組み、同盟国との協力、そして多層的な安全保障協力がある。こうした取り組みとしては、様々な外交手段の活用、防衛力の整備、省庁間・官民協力の積極的推進、同盟国との共通戦略目標の達成、グローバル・コモンズの安全確保、米国による拡大抑止の担保、パートナー国・新興国との協力・関与、多国間安全保障枠組み等における協力の推進などがある。
軍事力の役割が多様化する中、防衛力の役割を侵略の拒否に限定してきた「基盤的防衛力」概念は有効性を失った。また、安全保障環境と国際関係改善のための手段として防衛装備協力の活用等が有効であるとの理念の下、武器輸出三原則等による事実上の武器禁輸政策ではなく、新たな原則を打ち立てた上で防衛装備協力、防衛援助を進めるべきである。
第二章 防衛力のあり方
第1節 基本的考え方
近年の軍事科学技術の発展、事態生起までの猶予期間の短縮化等によって防衛力の特性が変化し、日本の防衛のためには、従来の装備や部隊の量・規模に着目した「静的抑止」に対し、平素から警戒監視や領空侵犯対処を含む適時・適切な運用を行い、高い部隊運用能力を明示することによる「動的抑止」の重要性が高まっている。今日では、基盤的防衛力構想から脱却し、多様な事態が同時・複合的に生起する「複合事態」も想定して踏み込んだ防衛体制の改編を実現することが必要な段階に来ている。将来の変化に対応できるよう備えるため、本格的な武力侵攻対処のための最小限のノウハウ維持を考慮する必要はあるが、基盤的防衛力構想の名の下、これからの安全保障環境の変化の趨勢からみて重要度・緊要性の低い部隊、装備が温存されることがあってはならない。
16大綱が示した「多機能・弾力的・実効性を有する防衛力」を引き続き目指しつつ、多様な事態への対処能力に裏打ちされた、信頼性の高い、動的抑止力の構築に一層配意すべきである。
第2節 多様な事態への対応
今後自衛隊が直面する多様な事態には、[1]弾道ミサイル・巡航ミサイル攻撃、[2]特殊部隊・テロ・サイバー攻撃、[3]周辺海・空域および離島・島嶼の安全確保、[4]海外の邦人救出、[5]日本周辺の有事、[6]これらが複合的に起こる事態(複合事態)、[7]大規模災害・パンデミック、等が含まれる。
第3節 日本周辺地域の安定の確保
防衛省・自衛隊は、日米安保体制下での米軍との緊密な協力という前提の下、日本周辺地域の安定のために、[1]情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動の強化、[2]韓国、オーストラリア等との防衛協力や多国間協力の促進、中国やロシア等との防衛交流・安保対話の充実、[3]ARFやADMMプラス等の地域安全保障枠組みへの積極参加、といった取組みが必要である。
第4節 グローバルな安全保障環境の改善
自衛隊は、国際平和協力活動を通じて、日本のプレゼンスを世界に示すべきであり、国内外で官民連携もしつつ、グローバルな安全保障環境の改善のため、[1]破綻国家・脆弱国家の支援、国際平和協力業務への参加の推進、[2]テロ・海賊等国際犯罪に対する取り組み、[3]大規模災害に対する取り組み、[4]PSIでの連携強化を含むWMD・弾道ミサイル拡散問題への取り組み、[5]グローバルな防衛協力・交流の促進を進めるべきである。また、日本の資金援助などによる防衛援助の選択肢を可能とすべきである。
第5節 防衛力の機能と体制
以上のような役割を踏まえ、日本の防衛力整備は具体的に、地域的およびグローバルな秩序の安定化、複合事態への米国と共同での実効的対処、平時から緊急事態への進展に合わせたシームレスな対応を目指すべきである。そのために自衛隊は、ISR能力、即応性、機動性、日米の相互運用性などの能力を強化する必要があり、高度な技術力と情報力に支えられた防衛力整備が求められる。その際、個々の装備品の更新を中心とした考え方でなく、自衛隊の持つ能力を客観的に評価し、最適な防衛力を構築する必要がある。
日米同盟における両国の役割分担の観点からは、自衛隊は米軍との相互補完性の強化を目指すべきであり、さらにPKO活動等自衛隊が自らの責任で任務を遂行できる範囲を広げていくことも重要である。
自衛隊は多様で複合的な事態に的確に対応するため、統合の強化と拡大が必要である。また陸上・海上・航空それぞれの防衛力も、ISR能力等必要とされる能力を高める一方で、優先度の低い装備や態勢は見直す「選択と集中」が必要である。さらに、長距離輸送能力の強化をはじめとする国際任務に適合的な能力の増強、持続的な活動を可能にする部隊交代・後方支援態勢を確保すべきである。
第三章 防衛力を支える基盤の整備
第1節 人的基盤
防衛省は、少子高齢化時代の自衛隊の人的基盤に関する課題について早期に具体的な制度設計を行い、人的基盤の整備に着手すべきである。なお、制度設計にあたっては、複数の選択肢についてシミュレーションを行い比較するなど十分な評価に基づき、必要な人材を確保し、隊員のインセンティブを高める工夫をする必要がある。その際、特に注意すべきは、自衛隊の階級・年齢構成のバランス、民間活力の有効活用、自衛官の適切な採用と退職援護施策の充実といった点である。
第2節 物的基盤
国内の防衛生産・技術基盤をめぐる現在の行き詰まりを打破するためには、国内で維持すべき生産・技術分野について官民が共通の認識を持ち、選択と集中を進める必要がある。そのため政府は「防衛産業・技術戦略」を示すべきである。
同時に、国内防衛産業が国際的な技術革新の流れから取り残されないためには、装備品の国際共同開発・共同生産に参加できるようにする必要があり、国際の平和と日本の安全保障環境の改善に資するよう慎重にデザインした上で、武器禁輸政策を見直すことが必要である。
防衛省が、コストを抑制しながら装備品を取得し、維持整備していくため、総合取得改革を引き続き推進すべきである。特に装備品の調達に際しては、企業側にもメリットのある一括契約などの取り組みをさらに進めるべきである。
第3節 社会的基盤
自衛隊や日米同盟は、国民一般の支持と、防衛施設所在地域の住民の理解や支援なしには有効に機能しえない。国民の支持拡大のため、政府は国民への正確な情報、適切な説明を提供する責任がある。緊急事態において、特に緊急性の高い情報の伝達のあり方を、IT技術の進展も踏まえながら、不断に検討していく必要がある。
自衛隊の部隊の配置は、防衛上の考慮から不断に見直しを行う必要がある一方、地域住民の期待に応えることの意義は看過されるべきでない。防衛施設の存在は、施設が所在する地域住民の生活環境等に影響を及ぼすことがあり、地域住民に理解と協力を求める必要がある。特に沖縄の米軍基地問題については、過剰な負担に配慮しつつ、日米政府間で緊密に連携し、取り組んでいく必要がある。また、これに関連して、地域住民にとって目に見える負担軽減策として、防衛施設の日米共同使用化に取り組むべきである。
第四章 安全保障戦略を支える基盤の整備
第1節 内閣の安全保障・危機管理体制の基盤整備
内閣の安全保障機構は、累次の制度改革を経て機能強化されている。今後の課題の一つは、武力攻撃事態などを想定した政府全体の総合的な演習を実施し、国家的な緊急事態に際して今の機構が十全に機能発揮するかを検証し、準備することである。もう一つは、内閣の安全保障機構が国家安全保障戦略を策定する態勢となるよう、実効性のある制度を整備することである。
内閣の情報機構も整備されてきているが、政府全体の情報を一元的に集約した上で分析するオール・ソース・アナリシスの強化や、内閣レベルでインテリジェンス・サイクルが効果的に稼働するような取り組みの強化が重要である。また、宇宙やサイバー空間の状況監視、対外人的情報収集(ヒューミント)などの能力強化に取り組むとともに、中長期的には安全保障を目的とした衛星システムの整備と海洋監視能力の向上が必要である。同時に、独自に収集した情報の保護や、他国との情報協力を進めるためにも、情報保全の強化を一層進めるべきであり、秘密保護法制が必要である。
防衛大綱のような重要な政府の方針は継続的な見直し作業を要する。今回も採用された懇談会方式はやめ、内閣官房のような組織に有識者会議を常設し、対話を行いながら継続的に作業するのも一案である。また、安全保障をより広い視野でとらえた安全保障戦略の策定を期待したい。
第2節 国内外の統合的な協力体制の基盤整備
国内外の課題に取り組むため、政府部内の協力、中央・地方間の協力、官民の協力により、オール・ジャパン体制を構築していく必要がある。破綻国家の復興については、関係省庁が連携して取り組めるよう新たなフォーラムを設けるべきである。他国との信頼関係強化には、民間セクター主導の交流が重要となってきており、政府セクターの努力との協調関係を考えるべきである。国際平和協力活動の現場でも、NGOとの民軍協力を具体的に積み上げ、オール・ジャパンの平和構築能力を高めていくべきである。
日米安保体制をより一層円滑に機能させていくために改善すべき点には、自衛権行使に関する従来の政府の憲法解釈との関わりがある問題も含まれる。例えば、日本防衛事態に至る前の段階での米艦防護の問題や、米国領土に向かう弾道ミサイルの迎撃の問題は、いずれも従来の憲法解釈では認められていない。日米同盟にとって深刻な打撃となるような事態を発生させないため、政府が責任をもって正面から取り組むことが大切である。日本として何をなすべきかを考える、そういう政府の政治的意思が重要であり、自衛権に関する解釈の再検討はその上でなされるべきものである。
国際平和協力活動は多機能型へ進化しつつあり、冷戦終結直後に考え出された日本の国際平和協力の実施体制は時代の流れに適応できていない部分がある。PKO参加五原則の修正について積極的に検討すべきである。また、自衛隊の任務として、他国の要員の警護や他国部隊への後方支援を認めるべきであり、これらは憲法の禁ずる武力行使の問題とは無関係であり、必要であれば従来の憲法解釈を変更する必要がある。最後に、国際平和協力活動に関する基本法的な恒久法を持つことが極めて重要である。
第3節 知的基盤の充実・強化
安全保障の裾野が広がり、安全保障に関わる政府の意思決定過程に、研究者が登用される機会は今後増加すると考えられる。また、安全保障環境の改善のためには、軍・安全保障当局者に加え、研究者、NGO活動家等を交えた幅広い専門的知見の交換・共有が不可欠である。日本は安全保障分野で国際的に活躍しうる新たな人材供給に努めるべきである。安全保障分野のシンクタンクの国内外のネットワークが果たす役割も高まっており、シンクタンク等が安定的に活動できるようなあり方を検討する必要がある。
総理大臣は、危機対応時を含め、安全保障に関わる政府の考えや施策をタイムリーかつ明確に発言しなければならず、対外発信の補佐体制の強化が必要である。ホームページ等を通じた政府の情報発信も強化する必要がある。これまで、日本では民間部門が強い発信力を誇ってきた。今後もこうした知的基盤を維持・強化することが、日本の対外発信能力強化の鍵となる。
新たな時代における日本の安全保障と防衛力の将来構想 −「平和創造国家」を目指して−
はじめに
いかなる国家にとってもその安全は最も基本的な価値である。国の安全なくして国民の独立も繁栄も福祉もありえない。一方、日本をめぐる安全保障環境は、世界的にも地域的にも、まさに歴史的と言えるほどに変容しつつあり、安全保障はますます大きな課題となりつつある。冷戦終結以降、世界は地域紛争、破綻国家、大量破壊兵器の拡散、テロ、海賊など、冷戦の時代以上に多様な安全保障上の課題に直面し、日本もそうした課題に対応するべく努力してきた。しかし、これからの世界の変化、とりわけ新興国の台頭によるパワーバランスの世界的、地域的変化を考えれば、日本をめぐる安全保障環境は重要な変動期に入ったと言える。
本懇談会は、こうした安全保障環境の変化に鑑み、日本の安全保障政策と防衛政策をタブーなく再検討し、継承すべきは継承し、見直すべきは見直すことを試みた。それが「新たな時代における」日本の安全保障と防衛力について構想することを求められた本懇談会の使命であると考えたからである。
日本は、第二次世界大戦後、防衛については基本的に抑制的な姿勢を維持しつつ、米国との同盟によってその安全を確保する政策をとってきた。日本が60年以上にわたって享受してきた平和と安全と繁栄はこの政策によるところが大きい。またこの政策は、アジア太平洋地域のパワーバランスを維持することを通じ、地域と世界の安定にも大きな意義を持つものであった。日本はこれからも基本的にこの政策を継承していくべきである。
しかし、これは、日本の安全保障政策と防衛政策を見直す必要が全くないということではない。冷戦終結以降、政府が安全保障政策、防衛政策を適時、見直してきたことは評価できるものの、体制整備は十分と言えず、日本の安全保障政策と防衛政策はなお受動的で事態対応型の体質を残している。本懇談会としては、日本はもっと能動的に世界の平和と安定のために貢献すべきであり、そしてそれが日本の平和と繁栄を維持する最善の道だと考える。
本報告書はこうした問題意識に立って日本の安全保障および防衛戦略を提示する。その基本的な方向は、日本が自国の平和と安全を守り繁栄を維持するという基本目標を実現しつつ、地域と世界の平和と安全に貢献する国であることをめざすべきだ、というものである。あるいは別の言い方をすれば、日本が受動的な平和国家から能動的な「平和創造国家」へと成長することを提唱する。日本は創意と工夫によって、国際安全保障において、今後大きな積極的役割を果たすことができるはずである。
この目標達成のためには、日本はその持てる様々な手段を活用する必要があるが、特に防衛力は他では代替不可能な重要な役割を担っている。2004年制定の現行の防衛計画の大綱(16大綱)は、時代の変化に合わせた見直しを謳っており、実際、本懇談会は、日本が整備すべき防衛力の体制にまで踏み込んだ検討を行った。そして、本報告書は、冷戦期に提唱され、冷戦終結後も継承されてきた「基盤的防衛力整備」の考え方を見直し、多様な事態が複合的に生起する「複合事態」への対応を念頭に置いた防衛力の整備を提言した。
新しい時代の安全保障と防衛戦略はそれを支える基盤を必要とする。したがって、本報告書では、防衛力を支える基盤と安全保障戦略を支える基盤についてもこれまでのあり方を見直し、その充実を提言した。これからの日本にとってその持てる資源を有効に活用し、同盟関係・友好関係を活用して、その安全保障を確保することは決定的に重要であり、そのためにはこれまでの政策で合理性を欠くところがあれば、それは改められなければならない。
日本はいま歴史の大きな転換点にある。2009年9月の政権交代は、国民がそれを理解し、新しい日本のかたちを求めていることを示すものであろう。いうまでもなく、安全保障は日本の死活的国益であり、本懇談会としては、政権交代があったからといって、その安全保障政策、防衛政策を軽々に見直すべきとは考えない。しかし、これは国民がこれまでの政策の不合理なところを見直す絶好の機会でもある。日本の直面する安全保障環境は、これからますます大きく変容していく。そうした中、日本が世界の平和と安定に貢献する国として生きていくために、政府が、これまでの安全保障政策、防衛政策のよいところを継承、発展させる一方、冷戦時代の遺産にとらわれることなく、未来を直視し、果敢に能動的に取り組んでいくことを大いに期待したい。
第一章 安全保障戦略
冷戦の終結は、世界システムとしては二極体制の終焉を意味し、欧州では東欧諸国の民主化、東西ドイツの統一、欧州統合の進展、アジア太平洋地域では中国とベトナムの市場経済化の進展、そして北朝鮮の国際規範への挑戦をもたらした。2001年9月11日に米国で発生した同時多発テロは、冷戦後の問題が解決しないうちに、対テロ戦争という新しく、しかも困難な問題を追加するものであった。この新たな時代において、日本が自らの安全を確保し、また世界と相和して生きるためにどうすればよいのか。
国家は、一般に、自国の独立、安全、繁栄、好ましい国際環境といった諸目標の実現を図ろうとする。そのために多くの国は、自国が達成しようとする目標を明確化し、自国が置かれている国際環境を精密に分析した上で、目標達成のための手段とその利用方策を検討する。こうした考察の総体を安全保障戦略と呼ぶことができよう。本章では、日本がこれからとるべき安全保障戦略として、安全保障上の目標を定義し、現在から2020年前後を目処に日本の置かれるであろう国際環境について分析を加えた上で、日本がいかなる手段を用意し、その利用を図るべきかについて基本的方針を論じる。
第1節 目標
[1]日本の安全と繁栄
安全保障の最も基本的な課題は、日本の主権、領土および国民の安全(日本の安全)を守ることである。日本の安全はまた、日本人の享受する豊かさ、日本人のもつ価値意識などと完全に切り離すこともできない。日本の安全と繁栄のためには、日本の領域と排他的経済水域において利用可能な資源を適切に利用し、日本の科学技術力、産業競争力に裏付けされた経済力を維持・発展する必要がある。また資源と市場が限られた日本が自由で豊かな生活を維持するためには、開かれた国際システムの下、経済活動、移動の自由などが保障される必要がある。
日本国外に居住、滞在する日本人の安全を図ることも安全保障上の要請である。もちろん、世界は、今日でも、主権国家システムを基本とし、他国の主権下にある日本人に対し国内と同様の保護、安全を保障することは難しい。しかし、他国、さらには国際機関、非国家主体とも連携し、危険に遭遇する国外の日本人の安全を図れるよう、常に準備をしておく必要がある。
[2]日本周辺地域と世界の安定と繁栄
日本の周辺地域の安定は日本の安全を確保する上で基本的条件である。また交通、通信技術等の発達によって、今日では、世界のいかなる地域の事象も日本に何らかの影響を与える可能性があり、そうした観点から、世界各地における紛争を防止し、あるいはこれに対処して、そのリスクを抑えることも、日本の安全保障の重要な要素となる。
周辺地域と世界全体の安定は日本国民の生活基盤を守るためにも重要である。また資源調達、食糧安定供給に必須の市場へのアクセス、海上輸送交通路(シーレーン)の安全維持などは、日本を含む周辺地域と世界共通の利益である。平和な経済交流は日本の繁栄の基礎であり、日本の貿易相手国・地域の安定と繁栄は日本にとって重要な目標である。
[3]自由で開かれた国際システムの維持
第二次世界大戦後、日本の享受してきた安全と繁栄は、自由で開かれた国際システムに依拠してきた。資源や市場を海外に依存する日本にとって、自由貿易体制の維持は死活的課題であり、国際社会における国際的ルール、取り決めの遵守もまた同様である。特に安全保障においては、武力による現状変更を行わないという規範が定着しなければ、日本と世界の安全と平和を守るコストは極めて高くなる。そのためにも世界の主要国が国際秩序の維持のために協力を深めることが必要である。
自由で開かれた国際システム維持のためには、個人の自由と尊厳といった普遍的、基本的価値が守られなければならない。その意味で、統治能力の欠如した破綻・脆弱国家は国際システムそのものに対する脅威となりうる。こうした国家においては生命・財産の保障といったごく基本的で普遍的な価値が守られていない。個々人の自由と尊厳が守られる社会を実現するためにも、「人間の安全保障」¹の観点から、より自由で開かれた国際システムの形成が望まれる。
¹ グローバル化の進行および紛争の多発化に伴い生ずる貧困、環境破壊、薬物、国際組織犯罪、感染症、紛争、難民流出、対人地雷等の脅威から人々を守り、人々の豊かな可能性を実現するために、国家よりもむしろ人間中心の視点を重視する取り組みを統合し、強化しようとする考え方。
第2節 日本をとりまく安全保障環境
(1)グローバルな安全保障環境
[1]グローバル化と国家間紛争パラダイムの変化
世界の安全保障環境の趨勢についての第一の特徴は、経済的・社会的グローバル化であり、その加速度的な進行は今後も継続するであろう。グローバル化のもたらす相互依存関係の進展によって、主要国間の大規模戦争の蓋然性は低くなっている。一方、グローバル化は、これまで一国内で対処できた脅威を拡散させ、地理的距離に関係なく、世界全体に深刻な影響を引き起こす原因ともなっている。
こうした脅威は、基本的に国境を越える(transnational)性質のものである。9.11同時多発テロをはじめ、大量破壊兵器(WMD)の拡散、海賊問題などは、全て国境を越えた問題であり、当面、根絶されそうにない。また近年、地球規模の気候変動、環境汚染、大規模な自然災害、感染症、宇宙・サイバー空間への攻撃なども安全保障上の脅威となっている。こうした国境を越える安全保障上の問題は、自国の中だけで平和を維持することをほとんど不可能とする問題であり、しかもこれらの問題はこれからも確実に増加する趨勢にある。
またグローバル化によって主要国間の戦争の蓋然性は大幅に低下したとはいえ、軍事的な競争、対立、紛争がなくなったわけではない。明白な戦争ではなく、主権、領土、資源、エネルギー等について「平時と有事の中間領域」に位置する紛争は、むしろ増大する傾向にある。そうしたグレーゾーンに端を発した紛争が主要国を巻き込み当事者の意図を超えた対立となる危険性についても十分認識しておく必要がある。
[2]パワーバランスの変化と国際公共財の劣化
世界の安全保障環境の趨勢についての第二の特徴は、世界的なパワーバランスの変化である。冷戦終結以降、米国は、軍事力、経済力、国際社会における合意形成能力など、あらゆる分野において、圧倒的な力をもつ唯一の超大国と見なされた。しかし、アフガニスタン、イラクにおける戦争以降、その安定化と戦後統治には予想以上のコストがかかり、また国際的な亀裂を招くこととなった。さらに2008年には、住宅金融バブルの崩壊に端を発した米国発の金融危機が世界を席巻した。この結果、米国の軍事的、経済的優越は圧倒的なものと見なされなくなりつつあり、米国は超大国であるが、他国を無視できるような圧倒的力を持っているわけではないというのが米国も含めた一般的認識となっている。
その一方、グローバル化は中国、インド、ロシア、ブラジルなどの新興国(emerging powers)の台頭をもたらし、2008年の経済危機以降、これらの国々の存在感はおしなべて高くなっている。2008年にはじまったG20首脳会合はそうした変化の象徴的存在であり、かつてのように先進資本主義国だけで国際秩序を運営することは困難となっている。こうした多極化に向かう動きはこれからも継続するであろう。新興国は、先進国、さらには世界の他の多くの国々とともに、グローバル化のメリットを享受し、グローバル化のもたらす脅威に協力して対処しようとしている。しかし、これらの国々の中には、先進資本主義国と違う利益、違う価値観をもった国や、経済成長、域内大国の動向、近隣諸国間の信頼の不足等を背景として軍事力の増強を試みている国もある。
米国の圧倒的優越性の低下、パワーバランスの変化は、かつて米国が中心となって提供した国際公共財の劣化をもたらしている。「グローバル・コモンズ」と呼ばれる国際公共空間は、公海と排他的経済水域とその上空空域などを指し、近年では、宇宙、サイバー空間を含むと観念されるようになってきている。これまで米国は、その圧倒的な力によってグローバル・コモンズをコントロールし、世界にその利用の自由を提供してきた。しかし、新興国の台頭とともに、複数の国がグローバル・コモンズの一部を囲い込む能力、具体的に言えば、自国付近の海・空域への兵力展開を妨害する能力、衛星破壊能力、サイバー攻撃能力等を獲得・強化しつつあり、グローバル・コモンズの開放性が劣化するリスクが出現している。
[3]大量破壊兵器と運搬手段の拡散
世界の安全保障環境の趨勢についての第三の特徴は、WMDとその運搬手段拡散の危険が安全保障上の課題として重要性を増しているということである。²
冷戦終結後、米露の戦略核戦力は大幅に削減され、世界規模の核戦争の危険は遠のいた。しかし、北朝鮮は複数回、核爆発実験を実施した。イランは核兵器開発を疑われており、国際原子力機関(IAEA)、欧米諸国による核開発計画中止の要求を拒否している。南アフリカ、イラク、リビアのように、WMD保有計画が発覚し、強制的に放棄させられるか、自発的に放棄した国もある。また2010年の核セキュリティ・サミットで指摘されたとおり、核兵器あるいは核物質がテロ組織、破綻国家の手に入り、実際に使用されることになれば、これは、全世界にとって深刻な脅威となる。近い将来、これが現実のものとなる可能性は否定できない。
2009年、オバマ米大統領はプラハで「核兵器なき世界」を提唱し、米ロは2010年、新しい戦略核兵器削減条約に調印した。また2010年5月の核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議では核不拡散について全会一致で最終文書が採択され、基本的な行動計画が合意された。これは核不拡散と核軍縮に向けた好ましい徴候であるが、同時に核拡散問題がいかに深刻かを示すものでもある。実際、他のすべての核兵器国が核軍縮の努力を行っている一方で、中国は核戦力を増強している。またインドとパキスタンは核実験を行い、核兵器を保有している。イスラエルも核兵器保有を疑われている。このように「核兵器なき世界」への道は困難な課題を抱えており、これからもその解決は決して楽観できない。
化学兵器については、国際的な制限、廃棄体制は、冷戦後、強化される傾向にある。生物兵器についても制限強化に向けた取り組みが行われている。しかし、ミサイル能力の向上、拡散や国際テロ活動ともあいまって、こうした兵器が市民社会に対する脅威となる可能性は依然として存在し、今後、核兵器の役割縮小が図られる中、これらの兵器の使用をいかに抑止していくかは、安全保障上の大きな課題であり続けるだろう。また将来、原子力発電所の急速な増加が予想されることからすれば、核物質と核廃棄物の管理はこれからますます大きな課題となる。
² WMDとは核兵器・生物兵器・化学兵器を指し、運搬手段とはそれらを搭載可能な弾道ミサイル・巡航ミサイル等を指す。
[4]地域紛争・破綻国家・国際テロ・国際犯罪
世界の安全保障環境の趨勢についての第四の特徴は、国際安全保障上の課題としての地域紛争・破綻国家・国際テロ・国際犯罪の重要性である。冷戦後、民族、宗教対立に起因する内戦型の地域紛争、あるいは統治機構が事実上崩壊した破綻国家に安全保障上の関心が集まるようになった。近い将来、こうした地域紛争、破綻国家に関わる問題がなくなることはありえない。
破綻国家は、アルカイダに聖域を提供した1990年代のスーダンや現在のアフガニスタンの事例に見られるように、国際テロの温床となることがある。2001年の9.11同時多発テロは、米国から遠く離れた破綻国家が米国の心臓部の安全と直結していることを明らかにした。破綻国家はまた、麻薬、人身売買といった国際犯罪、海賊などの聖域ともなっている。その意味で、破綻国家は非伝統的安全保障上の大きな課題である。
また、一般に、地域紛争、国家破綻は、治安の悪化や大量の難民の発生を伴う。1990年代、旧ユーゴスラビア、ソマリア、ルワンダなどで対応に苦慮した経験に鑑み、国際社会は、紛争が起こったとき、あるいは国家が破綻したとき、協力してこれに関与することの重要性を理解するようになっている。そのときには、現地の一般住民の生存、生活の安全に焦点を当てた人間の安全保障が重要な課題となる。
(2)日本の周辺地域および重要地域の安全保障環境
日本は太平洋の北西、アジアの東端に位置する。上に述べたグローバルな国際環境変化は当然、日本にも影響を及ぼし、さらに、日本を取り巻く周辺地域および日本にとって重要な地域においても、日本の安全保障に直接的な関わりを持つ課題をもたらす。
特に日本周辺の東アジア地域は、朝鮮半島、台湾海峡、北方領土問題等、未処理の主権・領土問題や冷戦の遺構がいまだに残存する一方、政治、経済、社会は大きく変化し、域内の経済的交流が深化して、地域の結びつきが強まっており、総体として協調と対立の要因が併存する特徴をもつ。この地域ではまた、資源エネルギー問題、環境問題などが急速に重要性を増しており、それが一国内にとどまらない影響を持つ。その結果、東アジアでは協力が主流とはいえ、対立も起こりうる。こうした構造が近い将来、解消されるとは考えにくい。この地域ではこれからも対立的要因が存続し、場合によっては増大する可能性が存在する。
[1]米国の抑止力の変化
第二次世界大戦後、米国は米軍のプレゼンスおよびコミットメント、巨大な経済力、緊密な人的、知的ネットワークの構築などによってこの地域の安定に欠かせない存在となり、冷戦終結後も、アジア太平洋地域に引き続き深くコミットする意向を示してきている。現在の米国は、日本、韓国、オーストラリアといった伝統的な同盟国との協力関係を基礎とすることに加え、主要な東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国との協調、中国、インドなど新興国との対話の増進、アジア太平洋経済協力(APEC)や北朝鮮に関する六者会合など地域的多国間枠組みの重視の方針を打ち出している。多極化に向かう動きへのこのような対応は今後も継続していくであろう。
安全保障の面で、米国は、核兵器の脅威に対しては核による抑止を堅持する一方、核兵器の役割を低減させるとしている。それに伴い、ミサイル防衛を含めた通常兵力の役割が大きくなると考えられる。また、アフガニスタン等における現在の戦争における勝利、核テロや大量破壊兵器の拡散防止を主たる安全保障上の課題と位置づけ、「アンチ・アクセス能力」を獲得しつつある国家に対する対応を表明している。
こうした米国のアジア太平洋地域での政策およびプレゼンスは引き続き、地域の安定要因としての役割を果たす趨勢にある。ただし、この地域における米国の力の優越は絶対的なものではなく、その意思決定は地域諸国との関係や米国の利害に左右される程度が増大するであろう。その意味で、将来、同盟国に対する米国の安全保障上の期待が高まることが予想され、日本を含めた地域諸国が地域の安定を維持する意思と能力を持つかがこれまで以上に重要となる。
[2]不確実性の残存と域内パワーバランスの変化
この地域における不確実性はこれからも継続あるいは増大する可能性が大きい。北朝鮮は、冷戦終結後、ロシア、中国との関係を後退させ、孤立した独裁体制を維持してきた。北朝鮮の経済は困難な状況にあると見られるが、大規模な軍事力を維持し続けており、また国際社会の圧力、制裁にもかかわらず、核・弾道ミサイル開発を続け、瀬戸際外交を繰り返している。さらに北朝鮮は極端な情報統制下にあるため、その意思決定については不確実性が極めて高い。北朝鮮の核・弾道ミサイル開発、あるいは特殊部隊による活動は、日本を含めた北東アジア地域にとって直接的な脅威である。また北朝鮮の指導者交代は内部的混乱をもたらす可能性もあり、朝鮮半島情勢の不安定化も懸念される。
中国はすでに世界経済の安定を左右する大国となり、国際社会において一定の役割を果たすようになった。安全保障においても、中国は、北朝鮮に関する六者会合を主催するなど、国際社会に対する責任を分担する傾向が見られる。また、中台関係には一定の改善が見られ、台湾海峡における軍事的緊張は低下した。国際社会は中国が今後とも一層、その経済規模に見合った「責任ある大国」として国際秩序運営の責任を引き受けることを強く期待している。
その一方、地域と日本にとって懸念される傾向もある。中国は、1990年代以降、その軍事力を急速に近代化し、海・空戦力やミサイル、宇宙活動、海洋活動、IT能力を質的に向上させ、台湾との軍事バランスは、全体として中国側に有利な方向に変化している。こうした軍事力の近代化に伴い、中国の海洋活動は、東シナ海、南シナ海を越えて太平洋にまで広がり、日本近海でも活発化している。その背景には、領土・領海の防衛のため可能な限り遠方の海域で敵の作戦を阻止すること、台湾の独立を抑止・阻止すること、海洋権益を獲得・維持・保護すること、海上交通を保護することといった狙い³があると見られる。こうした中国の積極的な海洋進出はこれからも続くものと予想される。
中国の軍事力については、こうした能力の拡充に加え、その能力、意図に関する不透明性・不確実性が問題である。中国は「国防白書」の公表などを通じてこうした批判に対応しているが、公表された国防費の規模は国際的信用を得ておらず、武器調達の全体計画も明らかでなく、周辺諸国をはじめ、国際社会の不安を解消することには成功しているとは言えない。
中国と政治、経済、社会、文化的に深い関係をもち、また地理的に近接する日本にとって、中国の経済的発展は、軍事力の強化とともに、安全保障上、様々な意味で極めて重要な課題である。中国の政治的、経済的発展は日本にとって極めて重要な利益であり、両国の協力関係は、「戦略的互恵関係」を基本として、これからも増進されるべきである。
ロシアはソ連邦解体以降、軍事力を大幅に縮小したが、大国としてその国際的地位の確保を図っており、極東地域においても、核兵器を含む相当規模の軍事力を保持している。国防費も増加傾向にあり、核戦力、通常兵力の近代化も進行している。ロシアの軍事技術、軍の機動力、統合運用能力は非常に高いと見られているが、他方、ロシアは、人口の減少と低い平均寿命、民生分野での経済技術基盤の脆弱性といった問題を抱えている。
日露関係は、北方領土問題交渉が続けられる一方、サハリン・プロジェクトなどエネルギー分野で一定の協力も見られる。しかし、近年、ロシアは、日本周辺においても、近接飛行を含む軍事訓練等の活動を活発化し、北方領土周辺での活動も目立つようになっている。ロシアの極東における軍事的潜在力には引き続き注目が必要である。
³ 米国「4年毎の国防計画見直し」(QDR)は、「アクセス拒否環境下における攻撃の抑止・打破」の項でイラン・北朝鮮に次いで中国の軍事力の近代化を紹介している。また、これとは別の文脈で「強固なアクセス拒否能力を有する相手」という表現を使用し、これに対抗する能力の重要性を指摘している。
[3]シーレーンおよび沿岸諸国の不安定要因の継続
資源・エネルギーの乏しい日本にとって、シーレーンとその周辺の地域は安全保障上の重要地域と言える。日本は石油エネルギーの多くをインド洋経由の海上輸送に頼っている。このため、ペルシャ湾から、インド洋、マラッカ海峡、南シナ海、バシー海峡、台湾東岸、日本近海に至るシーレーンとその周辺諸国の安定は、日本にとって極めて重要であり、これは将来においても変わらない。
この地域はまた、新興国として発展する国々と地域紛争、破綻国家、国際テロ等の諸問題を抱える国々を含む。インドネシアは一時の混乱を克服し、政治的安定と経済成長の好循環に入っている。インドは独自の核戦力を有する南アジアの大国である。また、インドは高い経済的潜在力を持っており、新興国としてその存在感はますます高まっている。さらに、日本との関係を見ても、日印安全保障共同宣言等の安全保障協力の進展、原子力協力交渉の開始といった連携強化が見られる。パキスタンは核兵器保有国であるが、その国内体制は脆弱であり、アフガニスタンの安定のためにも、その安定は国際社会の大きな課題となっている。中東湾岸諸国、アフリカ東沿岸地域は日本の海洋安全保障、エネルギー供給に重要な地域であり、この地域の平和安定を維持し、日本との友好協力関係を増進することは日本の重要な利益である。イランの核疑惑、イラクの戦後復興、ソマリアとその周辺海域の治安等は、日本自身の課題であると認識する必要がある。
第3節 戦略と手段
本節では、前節に概観した国際安全保障環境の分析を踏まえ、日本の安全保障目標を実現するための戦略および手段を検討する。
(1)日本の特性と「平和創造国家」としてのアイデンティティ
[1]自然環境および地理的特性
日本は南北に細長い列島で、長大な海岸線と多くの島嶼を有し、国土は狭く山が多く、国土の縦深性に乏しい。つまり、日本は軍事的に防衛しにくい地理的特性を持っている。また、日本は狭い国土に1億3,000万近い人口を抱える国であり、しかも人口の大部分は狭小な平野部に集中している。都市の生活は高度にシステム化されたライフ・ライン、情報通信等のインフラに依存している。さらに、日本は、地震、台風など自然災害の多い国であり、大規模テロ、感染症の爆発的流行(パンデミック)などにも脆弱である。
[2]経済力・防衛力の特性
日本の経済は、戦後、自由貿易体制の下で驚異的発展を遂げた。しかし、冷戦終結後、その経済力は、新興国の台頭などによって、相対的に低下する趨勢にある。また、少子高齢化も急速に進んでおり、防衛力に多くの資源を投入することはこれからも難しい。さらに、日本は、エネルギー、食糧等、多くの資源を海外に依存しており、これに起因する脆弱性はこれからも継続する。
日本は、第二次世界大戦における敗戦の経験から、戦後一貫して、抑制的防衛政策をとってきた。日本は平和憲法に基づき、他国の脅威にならない専守防衛政策をとり、国民もこれを基本的に支持してきた。また、日米安保体制の下、主として自衛隊が対外的な拒否的抑止力の機能を担い、懲罰的な抑止力については基本的に米軍に依存するという役割分担を維持してきた。さらに日本は、他の先進国には例を見ない事実上の武器禁輸政策を維持し、憲法解釈上、集団的自衛権は行使できないものとして、その安全保障政策、防衛政策を立案、実施してきた。ただし、こうした政策は、日本自身の選択によって変えることができる。
[3]歴史的制約要因の特性
戦後の日本は、協調的外交政策、あるいは政府開発援助(ODA)のような国際協力を通じて国際社会から高い評価を得てきた。これは、日本がグローバルな安全保障環境を改善するため主導的立場をとる上で、有利な条件である。しかし、ODAは近年、減少する傾向にあり、国際社会の高い評価が維持されるかどうかは、今後の日本の選択にかかっている。
一方、アジアの近隣諸国、特に中国、韓国とは、戦争や植民地支配の記憶についての「歴史問題」が継続している。これに起因する近隣諸国の警戒心が、特に安全保障に関する積極的な協力関係を構築する上で、一定の障碍となっていることは否定できない。「歴史問題」について、日中・日韓の歴史共同研究のような努力もなされているが、将来的な行方は、日本自身が過去とどう向き合うかに加え、相手国がどのように日本との関係を構築しようとするかにも依存するため、変化の振れ幅は大きい。
[4]「平和創造国家」としてのアイデンティティ
上に見たような日本の特性を考えれば、日本の外交・安全保障政策が基づくべきアイデンティティとは、国際社会に存在する様々な脅威やリスクを低減するために行動することによって、日本が国際社会における存在価値を高め、同盟、協調関係、さらにはもっと広く外交力を強化することによって、日本自身の防衛力と相まって、自国の安全保障目標を実現しようとする「平和創造国家」と表現することができるだろう。それは、世界の平和と安定に貢献することが、日本の安全と平和を達成する道である、との考えを基礎とし、国際紛争への政治的関与を最低限に抑制しようとした冷戦期の受動的な姿勢とは異なって、国際平和協力、非伝統的安全保障、人間の安全保障といった分野で積極的に活動することを基本姿勢とする。冷戦終結後の日本は漸進的にこうした方向に進んできたが、そうした変革は十分ではなかった。日本は、平和創造国家としてのアイデンティティに則って、持てる資源や手段を最も効果的に利用すべきである。
(2)日本自身の取り組み
[1]安全保障に関わる外交政策
今日、一国の安全保障の手段としては、政府による外交および軍事力といった伝統的な要素に加えて、経済力、文化的感化力といった要素が重要性を増し、それに伴って政府だけでなく非政府的主体の役割が拡大し、外交や軍事力も伝統的な形態、役割だけでなく、非伝統的な形態としてパブリック外交4 や非戦闘的機能も重視されるようになっている。さらに、外交・安全保障政策の場も、一国で行われる政策や二国間
関係を基調としたものに加え、多国間関係、国際機関等での規範の形成や実行といった多層的、重層的な形態のものが顕著になっている。
今日のグローバル化と国際政治の緊密化を踏まえれば、いかなる国も自国のみによってその安全保障目標を実現することは困難であり、同盟、友好関係の促進、国際環境の全般的な改善策などを講じることが不可欠となっている。しかし、そのためには、自国がその安全のためにいかなる努力をし、どのような責任を負っているかを示すことが前提である。多様化する外交手段を適切に組み合わせ、最大の効果を得るためには、政府が高いレベルで安全保障戦略を検討し、定義する体制を整えることが肝要である。これについては第四章で詳述する。
4 パブリック外交とは、政府対政府で行われる伝統的な外交とは異なり、働きかけの対象が相手国の一般国民である場合の外交を指す。世論や国民感情が外交関係に及ぼす影響が増大していることから、近年重視される傾向にある。
[2]防衛力整備
日本の安全保障目標の実現のため、日本独自で行うべき取り組みとして重要なのは、日本自身の防衛力を整備し、抑止力を発揮することである。米国の抑止力に一定程度依存していることは、日本の通常戦力による防衛努力を減じてもよいということを意味しない。それどころか、核兵器の役割を縮小させようとしている米国の核戦略の動向も踏まえれば、通常戦力の分野における日本独自の取り組みは重要性を増している。
防衛力のあり方の詳細については第二章において検討するが、概括的に言えば、冷戦終結後、各国の軍事力における非戦闘的役割は多様化しつつ増大し、信頼醸成、平和活動、災害対応など外交的、民生的役割が加わった。また、先進国を中心に、軍事力は同盟、友好関係を確認、増進する基幹的手段ともなった。日本の防衛力もこうした非戦闘的、非伝統的な役割を徐々に担うようになってきた。しかし、平和創造国家を目指す上では、この面で防衛力をさらに積極的に活用することが不可欠である。そのため、冷戦下において米国の核抑止力に依存しつつ日本に対する限定的な侵略を拒否する役割に特化した「基盤的防衛力」概念がもはや有効でないことを確認し、冷戦期から残されてきた時代に適さない慣行を見直すことが必要である。
[3]安全保障に関する省庁間連携と官民協力
日本一国の努力においても、防衛力のみでは十分ではなく、他の諸手段との連携、すなわち、政府内の各省庁の連携と、官民の間の協力が極めて重要である。現在の世界において、安全保障上の課題の大半は、外交・防衛以外の分野の動員なくして解決は困難であり、防衛力と警察や海上保安庁の警察力あるいは経済的な力とを組み合わせて取り組んでいかなければならない。
政府全体としては、安全保障と危機管理に関する情報力を引き続き強化すべきである。また、領海内における不法行為、大規模災害、重大事故などの危機管理事案のための態勢整備を引き続き図る必要がある。
ODAについては、予算額が過去13年間で半減するなど、日本の国際社会におけるプレゼンスは後退している。民間・政府関係機関の資金の活用も重要な課題であるが、ODAの役割はまだ大きく、厳しい財政事情の中でも一定の水準を確保し、メリハリをつけた上で、関係省庁一体となって効果的活用を図ることが肝要である。また、人間の安全保障の観点から、テロや海賊が生まれる社会・経済的な原因にも着目し、その状況を軽減するための戦略的なODAの活用を検討し、推進することが必要である。人間の安全保障に関する課題には、非政府組織(NGO)、民間企業による支援などを含め、官民が緊密に連携をとりながら取り組むことが求められる。その際、医療や教育など日本が重視してきた分野での援助を続けるとともに、場合によっては現地社会の治安・秩序維持能力を強化するために、軍隊・警察・司法等の治安部門の能力向上に対する取り組みも視野に入れるべきである。
(3)同盟国との協力
[1]共通の価値と戦略的利害の一致
日米同盟関係は、日本の安全保障にとって戦略的意義を持つだけでなく、広く地域と世界の平和と安定の柱ともなっており、また自由民主主義、法の支配、人権といった価値を共有する国同士の同盟として、日本外交の大きな支えとなっている5 。こうした事情を考えれば、日本として、今まで以上に主体的に、日本の安全と世界の平和のために取り組むことが重要であり、それが中長期的に米国との協力を強化し、日本単独では解決・対処できない問題について米国の支援を得る前提ともなる。
日米両国は、2005年2月の日米安全保障協議委員会(2+2)合意で、共通戦略目標を設定して以降、その実現に向けて努力を積み重ねてきた。日本は今後とも米国と不断に協議し、共通戦略目標達成のための役割と能力の実現に努めるべきである。
これまで日本は、開放的な国際経済システムや米国が支えてきたグローバル・コモンズ、たとえば海上・航空輸送路の安全から極めて大きな利益を享受してきた。これらの国際公共財が劣化することは、日本の安全と繁栄を著しく害することとなる。日本は、こうした観点からグローバル・コモンズの安全確保について米国を補完していく必要があり、長年にわたり日本周辺海・空域において行ってきた常続的監視といった役割はこれからもますます重要となる。
5 日米安保体制とは、一般に日米安保条約およびその関連取り決め並びにこれらに基づく協力の実態を総称するものである。これに対し、日米同盟とは、一般に、日米安保体制を基盤として、日米両国がその基本的な価値並びに利益をともにする国として、安全保障面をはじめ政治および経済等の各分野で緊密に協調、協力していく関係を総称している。
[2]米国による拡大抑止
米国は、同盟国である日本に対して拡大抑止を提供している。それは通常戦力と核戦力の双方においてである。米国の日本に対する拡大抑止、特に核戦力による拡大抑止は、日本の安全のみならず地域全体の安定を維持するためにも重要である。それは究極的な目標である核兵器廃絶の理念と必ずしも矛盾しない。米国の拡大抑止のコミットメントについて、その実効性を保証するため、米国任せにはせず、日米間で緊密な協議を行う必要がある。
なお、「持たず、作らず、持ち込ませず」という非核三原則に関して、当面、日本の安全のためにこれを改めなければならないという情勢にはない。しかし、本来、日本の安全保障にとって最も大切なことは核兵器保有国に核兵器を「使わせないこと」であり、一方的に米国の手を縛ることだけを事前に原則として決めておくことは、必ずしも賢明ではない。
日米同盟を通じた日本の安全保障の確保にとって、在日米軍の安定的な駐留は不可欠であり、日本による駐留経費の適切な負担は、これを支援する役割を果たすものである。また、沖縄に米軍基地が集中している現状は、日本国内の基地負担のあり方としてはバランスを欠いており、その負担の軽減努力を継続しなければならないものの、沖縄の地理的・戦略的な重要性に鑑みて、総合的に判断されるべき性質を持っている。
(4)多層的な安全保障協力
紛争の火種を早めに消すため大切なことは、主要国間の協調的な秩序の構築である。日本は、多層的な安全保障協力を通じて、グローバルな予防的関与や、国際公共財の強化、アジア太平洋地域における安定の確保、国際システムの維持に努めるべきである。
[1]パートナー国との協力
日本は、米国の同盟国を中心に韓国、オーストラリアといった域内の「志を共にする国」(like-minded countries)を安全保障協力のパートナー国として、協力を進めるべきである。米国の同盟国とは、安全保障面のみならず政治や経済の面でも利害や価値観を共有しやすく、また装備や運用面でも協力のための基礎的なプラットフォームを共有している。今後、第三章で言及する装備の共同開発なども含め、こうした協力を米国の同盟国に拡げていくことで、日本の安全保障上のパートナーを増やしていくことが必要である。
米国の同盟国・友好国あるいはパートナー国間のネットワークの強化も検討されるべきである。こうしたネットワークは米国のコミットメントを引き続き確保し、同盟国間の安全保障協力を促進する。北東アジアには、日米、米韓という二つの強固な同盟があるが、北朝鮮の核開発や挑発行為への対応を考えれば、日韓安全保障関係を強めることが日米韓のネットワークの強化の観点から望ましいし、また、日米韓以外に協力国を拡大することも検討してよい。
さらに、海上交通の確保の観点から、日本のシーレーンと関わりの深い米国の同盟国・パートナー国との協力関係を深めていくことや、域内にとどまらず、北大西洋条約機構(NATO)や欧州諸国とも協力や交流を積極的に進め、安全保障上の課題に共同して取り組んでいくことも必要である。
新興国であるインドとの安全保障上の協力も強化する必要がある。インドは日本と多くの価値を共有する重要なパートナー国である。またインドはインド洋において中東から日本に至るシーレーンに大きな影響力を及ぼす地域大国でもある。日本はインドと潜在的に多くの戦略的利益を共有している。核不拡散および軍縮についても、インドとの協力を通じて積極的に推進すべきである。
[2]地域の安定化にとって重要な新興国への関与
中国、ロシアのような、地域の安定にとって重要な新興国への関与を強化し、国際システムの維持・構築に積極的に参加する機会を増やすことが必要である。歴史に鑑みれば、新たに台頭した国が国際システムの現状に不満をもち、その結果、国際システムが不安定化するという事例は少なくない。これを避けるには、新興国が「責任ある大国」として国際システムを支える立場に立つことが自らの利益となるという状況を作り出す必要があり、そのために日本が努力すべきである。
国連安保理の常任理事国であり、核兵器を保有する軍事大国でもある隣国の中国やロシアとの関係は日本にとって重要である。両国との信頼関係を強め、両国が国際社会において責任ある行動をとり、また非伝統的安全保障の分野での協力を構築・発展するべく、積極的な関与を行うべきである。
[3]多国間安全保障枠組みの構築と活用
アジア太平洋地域では米国を中心とした同盟関係の比重が大きく、域内国同士または多国間の安全保障上の連携はこれまで限定的だった。その中で、地域における多国間の安全保障枠組みとして、ASEAN地域フォーラム(ARF)は重要であり、ARFは信頼醸成を超えて、「行動指向型」の予防外交メカニズムに踏み出す必要がある。2009年5月、米比の共催で実施された「民主導、軍支援」の災害救援実動演習は、その意味で、大いに歓迎される。日本としては、ASEAN+3、東アジアサミット(EAS)、日中韓サミットなども活用し、主要近隣諸国と安全保障問題を含めた率直な意見交換を進めていくとともに、日米韓、日米豪などの協力関係を基礎として、地域的な安全保障の枠組みを多層的に形成していく必要がある。
テロ、海賊、大規模自然災害、環境問題といった国境を越える非伝統的な脅威に対しては、こうした幾重にもある既存の多国間の枠組みを取捨選択しつつ利用し、また必要に応じて新たに作り上げたりしていく方が現実的である。たとえば、海上自衛隊に加え海上保安庁というアジア太平洋地域でも最高水準の海上勢力を有する日本は、海上安全保障に関する地域的多国間協力を進める責任を有しており、日本が主要な役割を担うアジア海賊対策地域協力協定(ReCAAP)における協力をはじめ、ARFの会期間会合で開始された実務レベルの協力に積極的に参加するなど、取り組みの強化を図ることが重要である。
さらに、人間の安全保障の観点から、防災、保健等の分野についても、アジア太平洋地域におけるネットワーク強化を図るべきである。特に災害や感染症等に関する早期警戒システムを構築すること、コミュニティの防災能力の向上を図るような支援をすることも重要である。
[4]国連・グローバルレベルでの努力
日本は国連などのプラットフォームを使い、グローバルレベルでの安全保障環境の改善に努めるべきである。このレベルでまず重視されるべき課題は、脆弱な国家を国際的に支援し、その国家破綻を防ぐこと、また、破綻国家に対しては、包括的な平和構築支援の取り組みを国際社会が一致して行うことである。日本は紛争後の社会の復興に経済援助や教育支援が果たす役割を重視して積極的に貢献してきたが、その姿勢は継続されるべきである。また、紛争後の武装解除、動員解除、社会復帰(DDR)といった活動についてもこれまで以上に積極的に取り組むべきである。最近、治安部門改革(SSR)の重要性が注目され、軍隊だけでなく、警察、司法の専門家が参加する形の国際協力が一層求められるようになってきていることを考えれば、日本としても、各省庁が足並みを揃え、政府一体としての対応を強化していく必要がある。
日本が国連平和維持活動(PKO)を含めた国際平和協力活動に割ける資源は有限であるが、それを踏まえた上で積極的な参加を志向すべきであり、自衛隊のみならず政府全体の課題として取り組まなければならない。日本の長所や特性が活かせる効果的・効率的な派遣を行うよう努力すべきである。
次に、核兵器をはじめとするWMDの軍備管理・拡散防止の課題が挙げられる。オバマ大統領の呼びかけもあって核軍縮の機運が高まっている。米露両国の戦略核兵器削減合意に引き続き、全核兵器保有国が核兵器削減に向かうことが極めて重要であり、日本として呼びかけていく必要がある。ただし、核兵器を究極的に廃絶するまでの過程においては、通常兵器を含む米国の拡大抑止の信頼性が低下することのないよう、留意する必要がある。
WMDの拡散を防止するには、グローバルレベルで軍備管理レジームを強化していくことが重要であるが、現在NPTによる核不拡散体制は挑戦を受けて動揺しており、核管理体制の包括的な強化が求められている。日本は軍備管理レジームをより実効的なものにするため関係国・関係機関の連携を進めるなどの活動を強化すべきである。
これらの活動を進めていく上で、日本が国連における意思決定に深く関わることが望ましい。国連が健全に機能していくことは国際システム維持のためにも重要であるとの観点から、安保理を含めた国連機構改革に積極的に取り組み、安保理の常任理事国となるよう、引き続き努力すべきである。また、日本人の国際機関への積極的な参加を勧めるような制度的な後押しも重要である。
[5]防衛装備協力・防衛援助
これまで日本は「武器を輸出しないことで平和に貢献する」という観点から、武器輸出三原則等により事実上の武器禁輸政策を維持してきた。しかし国際情勢を無視して日本だけが武器輸出を禁じることが世界平和に貢献するという考えは一面的であり、適切な防衛装備の協力や援助の効果を認識すべきである。
そもそもこれまで日本の装備政策のうち貿易管理に関する部分については、「武器輸出三原則等」などと総称されてきたが、これは誤解を与える表現であり、現状については、対米技術供与などの個別の例外措置を除くと事実上の武器禁輸状態となっていると解さざるを得ない。こうした現状は日本の装備政策を時代遅れにしつつある。
日本政府が時々の状況に応じて表明した見解や答弁が積み重なり、原則的な武器禁輸政策となっていながら「武器輸出三原則等」といった表現をとってきたことに問題がある。
近年、紛争後の平和構築、人道支援・災害救援、テロや海賊等の非伝統的安全保障問題への対応等のための国際協力が拡大している。このような協力の手段として、防衛装備品・装備技術の活用は効果的であり、実際、インドネシア政府による海賊取締り目的のため、同国の海上警察への巡視船艇供与を武器輸出三原則等の例外として認めた事例がある。しかし、事実上の武器禁輸政策のため、個別案件ごとに例外を設ける必要があり、これらの課題に対する国際協力の促進の妨げとなっている。平和創造国家を目指す日本としては、こうした国際協力をむしろ促進すべきであり、この分野については、個別の案件毎に例外を設ける現状の方式を改め、原則輸出を可能とすべきである。
もちろん国際的に見ても装備の国際移転に関する管理体制は厳格となっており、こうした国際基準を遵守し、また、平和創造国家として武力紛争誘発の危険性を高めるような装備の輸出に対して厳格な規制を設けることは言うまでもない。
一般に、装備品の有効な供与によって相手国との紛争は比較的発生しにくくなり、むしろ友好関係が増進される。日本がテロ・海賊対策等のために装備品を有効に供与することは、相手国との二国間関係を増進し、かつ当該国および周辺地域の安定化にも資することによって日本をとりまく安全保障環境の改善にも貢献する。その点からも、このような政策は平和創造国家としての日本のあり方に合致しうるのである。
防衛装備協力、防衛援助が国際安全保障環境の改善に資するという理念の下、新たな原則7をうち立てた上で適切な協力と援助を進めていくべきである。
6 1967年、佐藤内閣によって表明されたそもそもの武器輸出三原則は、[1]共産圏諸国、[2]国連決議による武器禁輸国、[3]国際紛争当事国又はそのおそれのある国、への武器禁輸を表明したものである。1976年、三木内閣は政府統一見解として、上記[1]〜[3]へは武器禁輸とし、それ以外の国への武器輸出も“慎む”ものとするとした。その後、同年中には、通産大臣国会答弁において、武器技術も武器に準じて取り扱うこととされた。また、当初、“慎む”は必ずしも禁輸を意味しないとされたが、1981年、通産大臣国会答弁において、「“慎む”とは原則としてはだめだということ」との見解が示され、事実上対米武器技術供与等の個別の例外措置を除いて武器輸出は原則的に禁止されることになった。
7 この原則には、軍を含む相手国当局への武器の輸出・供与を認めること、他国と共同で武器技術の共同研究開発を行うこと、それらの際には武器・武器技術について第三者への移転について日本の事前同意を得ることを確保すること、日本の資金援助によって開催する訓練やセミナーに軍人の参加を認めること等を含めることが考えられる。
第二章 防衛力のあり方
第1節 基本的考え方
基盤的防衛力構想を見直す必要性が出てきていることは第一章第3節で指摘したとおりであるが、同構想は、主として部隊・装備の量(規模)に着目した防衛力の存在をもって抑止力を構成するという、いわば静的抑止の考え方に立っていた。
しかし、近年の軍事科学技術の飛躍的な発展により、装備の質の優劣による戦闘能力の差違が顕著になってきており、装備の量のみをもって防衛能力を測ることは以前よりも困難になってきている。事態が生起するまでの猶予期間(ウォーニング・タイム)も短縮化される傾向にあり、抑止が有効に機能しにくい事態に対応する必要性も増していることから、装備の保有数量のみならず、即応性等の部隊運用能力がますます重要となっている。防衛力を評価する上では、部隊・装備の量(規模)に加え、その質、さらに、隊員の練度、後方支援能力等を総合した能力が重要性を増してきていると言える。このような防衛力の特性の変化に伴い、平素から警戒監視や領空侵犯対処を含む適時・適切な運用を行い、高い防衛能力を明示しておくことが、抑止力の信頼性を高める重要な要素となっている。
このようなことから、高い運用能力を兼ね備えた、いわば「動的抑止力」がより重要になってきているのであり、静的抑止力の考え方ではもはや十分とは言えない。また、従来「防衛計画の大綱」に書かれていた「別表」は、防衛装備の数量に偏った表記となっており、いったんそれが決まると、その数字が上方・下方硬直性をもってしまいかねない。動的抑止力を重視する観点から、その存否も含め再検討されるべきである。
つまり、基盤的防衛力構想は、日本の防衛という役割に限ってみても、すでに過去のものとなっているのである。16大綱は「『基盤的防衛力構想』の有効な部分は継承」するとしているが、今日では、基盤的防衛力という概念を継承しないことを明確にし、それに付随する受動的な発想や慣行から脱却して、踏み込んだ防衛体制の改編を実現することが必要な段階に来ている。
本懇談会は、安全保障環境の趨勢から、予想される将来、日本の国家としての存立そのものを脅かすような本格的な武力侵攻は想定されないと判断している。ただし、将来的に、この趨勢をくつがえすような戦略環境の大きな変化が生起することを否定することはできない。一度失った機能を回復するには長時間を要することから、将来の変化に対応できるよう備えるため、本格的な武力侵攻対処のための最小限のノウハウ維持を考慮する必要がある。しかし、基盤的防衛力構想の名の下、これからの安全保障環境の変化の趨勢からみて重要度・緊要性の低い部隊、装備が温存されることがあってはならない。防衛力の整備にあたっては、次節で述べるように、多様な事態が個別に起きるだけでなく、同時にまたは継続的に生起する複合事態となる可能性を考慮し、そのような複合事態にまで対応しうる能力を目途とすべきである。
2004年に策定された16大綱は、「新たな脅威や多様な事態」への実効的な対応を行い得る「多機能・弾力的・実効性を有する防衛力」を目指すことを掲げている。日本の防衛力が引き続きこれを目指すべきであることは当然のことである。しかし、16大綱策定後の日本周辺における情勢変化を踏まえると、日本の防衛力については、多様な事態への対処能力に裏打ちされた、信頼性の高い、動的抑止力の構築に一層配意していく必要がある。
第2節 多様な事態への対応
新たな時代の防衛力のあり方を考えるためには、上記の基本的な考え方を踏まえつつ、防衛力の果たすべき役割を具体的に示すことが必要である。本懇談会は、16大綱が示す「新たな脅威や多様な事態への実効的な対応」、「本格的な侵略事態への備え」、「国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取り組み」という三つの役割について、[1]多様な事態への対応、[2]日本周辺地域の安定の確保、[3]グローバルな安全保障環境の改善に、再構成することを提案する。本節以降で各々の役割について検討する。
[1]弾道ミサイル・巡航ミサイル攻撃 8
北東アジアは、弾道ミサイルや巡航ミサイルが増強されている地域である。特に北朝鮮は、日本を射程内に置く弾道ミサイルを数多く配備しており9、同時に核開発を進めている。弾道ミサイルの脅威に対しては、これを攻撃や恫喝の手段として使わせないための抑止が最も重要である。日本は、核兵器および通常兵器による懲罰的抑止については、基本的に米国に依存している。一方、実際にミサイルが発射された場合のミサイル防衛による対処能力の向上や国民保護措置による被害局限も、攻撃の効果を低減させる意味では拒否的抑止を構成する。このため、早期警戒システムや迎撃ミサイルの一層の能力向上による迅速な情報収集・対応能力の強化や、自治体との連携強化を図る必要がある。
弾道ミサイルおよび巡航ミサイルに対しては、防御に加えて、打撃力による抑止を担保しておくことが重要である。日本としては、ミサイル防衛システムを補完し、米軍の打撃力を主とした抑止力を向上させるための日米協力の機能について、適切な装備体系、運用方法、費用対効果を不断に検討する必要がある。
8 弾道ミサイルは、大気圏外まで打ち上げられた後、重力を利用して遠隔地の攻撃目標に対して高速で打撃を加えることのできる武器である。迎撃手段が非常に限られているため、極めて有効な攻撃用兵器である。巡航ミサイルは、超低空を地形に合わせて飛翔し、目標を精確に攻撃することができるミサイルであり、レーダーに捕捉されにくく、迎撃もされにくい。通常弾頭でも脅威であるが、両者はともに核兵器を含む大量破壊兵器の運搬手段にもなりうる。
9 ノドンの基数について、ベル在韓米軍司令官は2006年3月7日の米上院軍事委員会で「通常弾頭や化学弾頭を搭載した状態で日本に到達可能な射程1,300キロのノドンミサイルを200発保有」と書面証言した。また、スカッドについても長射程化の努力がされており、2009年版防衛白書でも「注意を払っていく必要がある」としている。
[2]特殊部隊・テロ・サイバー攻撃
特殊部隊による攻撃、国際テロ組織による大規模なテロ攻撃、サイバー攻撃といった非対称戦は、日本のように国土が狭く、人口が都市に密集し、IT化が進んでいる国にとっては、大きな脅威となりうる。自衛隊として対応が迫られるのは、原発など重要施設への急襲や核物質・生物・化学兵器などを使ったテロ攻撃のような烈度の高いケースである。これらのケースについて、事前に対応策を講じ、即応性を高めておく必要がある。また、重要施設防護では警察や海上保安庁等の関係機関との連携を維持向上させることが重要である。
サイバー攻撃は、単独でも攻撃対象の経済・社会を混乱に陥れることが可能であるが、テロ攻撃や武力攻撃の事前あるいは同時に行えば、その効果は増幅されうる。サイバー攻撃およびその対処については各国の軍隊が軍事的活動の一分野として認識をし始めているが、その性格上、軍事のみにとどまらず、経済部門なども含めた国家的な課題である。自衛隊としては、特に国家主体による軍事的なサイバー攻撃に対して、最新の情報を収集・分析するとともに、サイバー攻撃に関する高度な知識・技能を持つ人材を養成し、他の政府機関が行う日本の重要なネットワークの防護に貢献する必要がある。特に、自らのネットワークを防御し、部隊運用能力が損なわれないよう、自らの防御態勢を強化する必要がある。さらにサイバー攻撃への対抗手段については、国際的な動向も踏まえ、法制・技術面を含めた政府レベルでの総合的な検討が必要である。
[3]周辺海・空域および離島・島嶼の安全確保
日本は多くの離島を有し、日本の周辺海域には、多種の海洋資源の存在が見込まれる。離島・島嶼の安全確保は日本固有の領土および主権的権利の保全という主権問題であるが、こうした地域への武力攻撃を未然に防止するには、平素からコストをかけて動的抑止を機能させることが重要である。そのためには、自衛隊による平素からの周辺海・空域における警戒監視、訓練の強化に加え、自衛隊の新たな配置や緊急展開能力の向上を図る必要がある。特に、離島地域の多くは日本の防衛力の配置が非常に手薄であり、領土や海洋利用の自由が脅かされかねない状況にある。日本としては、そうした地域において必要な部隊の配置、物資の事前集積に加え、機動展開訓練の実施、空中と海上・海中、沿岸部における警戒監視活動の強化、統合運用と日米共同運用の強化などを図る必要がある。
また、日本が離島地域における動的抑止を強化し、シームレスな対応能力を整備することによって周辺海・空域や離島地域の安全を確保することは、グローバル・コモンズをめぐる紛争の未然防止にも役立ち、米軍との共同作戦基盤を確保する上でも戦略的に重要である。
[4]海外の邦人救出
日本国外に居住、滞在する日本人が危険にさらされる状況が発生する可能性が高まっている。そのなかには、自衛隊が邦人救出のために出動しなければならないケースがあり得る。邦人救出に必要な長距離の機動・展開能力は他の事態への対応に必要な能力とも重なる部分が多い。
自衛隊は、平素から外務省や当該国当局との情報協力や連携を図りながら、必要に応じて危険にさらされた海外の邦人救出に努めなければならない。
[5]日本周辺の有事
日本の周辺地域においては、朝鮮半島の分断など領土・主権をめぐる意見対立や、排他的経済水域が未確定であるといった問題があり、海軍力・空軍力を急速に増強している国や国家体制の先行きが不透明な国も存在する。将来これらの問題が、武力行使あるいは武力の威嚇による一方的な現状変更といった形で、紛争に発展する可能性は、完全には否定できない。これらの事態は「日本の平和と安全に重要な影響を与える事態」(周辺事態)に進展する可能性がある。
このような場合、自衛隊は情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動の強化に加え、邦人輸送などを求められる可能性が高い。また、米軍が周辺事態に対処するため出動した場合、自衛隊は後方地域支援を行うなどの対処を行わなければならない。周辺事態は、そのまま放置すれば日本への直接の武力攻撃に至るおそれもあるような事態であるので、米軍への支援を含め万全な対応をとる必要がある。
周辺事態に対応するための法制はすでに整備されている。ただし、米軍に対する武器・弾薬の提供ができない、自衛隊の活動可能範囲が限定されている等の制約は残っており、現実的かつ能動的な協力を可能とする内容に変えるべきである。
[6]複合事態
上記の各事態は、単独で発生するとは限らない。複数の脅威が同時に押し寄せてくるために、多様な事態への同時対処が求められる場合もあれば、一つの事態が他の事態へと発展し、それらの影響が累積する中で、防衛力に複合的な対処を強いることもある。特殊部隊による国内の重要施設を狙った攻撃や国外からのサイバー攻撃が同時に生起するような事例が前者であるし、周辺事態が発生し米軍への後方地域支援をしているさなかに日本への武力攻撃事態に発展し、弾道ミサイル・巡航ミサイル攻撃や離島地域を巻き込んだ戦闘に対処しなければならないような事例が後者である。
これらを総称して「複合事態」と呼ぶとすれば、この複合事態に効果的に対応できる日本の防衛力を設計し、運用していく必要がある。
[7]大規模災害・パンデミック
自然災害が多い日本において、自衛隊は様々な災害に対し数多くの災害派遣を実施してきた経験を有するが、複数の地域で大規模な災害が同時期に発生するなど、過去の経験をはるかに上回る規模の対応を迫られることも考えられる。また、新型インフルエンザや口蹄疫等の例にも見られるように、感染症対策は、国内において迅速かつ関係機関が一丸となった対応が必要であり、その対策の成否はパンデミックの阻止や国際貿易の維持の観点からも、世界的にも大きな影響を与える。
自衛隊は、平素から地方自治体、警察、消防、海上保安庁、厚生労働省など関係諸機関との連携を取り、情報交換や共同防災訓練などを積み重ねる必要がある。また、全国に広く配置されている駐屯地や基地を十分に活用すべきである。
第3節 日本周辺地域の安定の確保
日本にとって、周辺地域の秩序を安定的に維持する上で最も重要な要素は、日米安保体制の下での日米防衛協力である。パワーバランスが変化し、国際公共財が劣化する傾向にあるこの地域において安定を確保するためには、自衛隊と米軍の一層緊密な連携が必要となる。同時に、それを補完する種々の取り組みも進めていかなくてはならない。
ISR活動は、日米連携の基盤となる分野でもあり、重視していかなければならない。また、各国との間の防衛交流・協力、地域安全保障枠組への参画も強化する必要がある。
[1]情報収集・警戒監視・偵察活動の強化
平素からの防衛力の運用は、日本の防衛・安全確保のための抑止力として重要であるが、それは地域の安全保障環境の安定確保にとっても重要である。現在、自衛隊の態勢として、空自レーダーサイト等による日本周辺の上空監視、海自哨戒機による周辺海域航行船舶の状況監視などを行っているほか、日本周辺で軍事的に特異な事象を察知すれば、自衛隊の様々なアセットを用いた情報収集が行えるようになっている。このようなISR活動によって周辺各国の軍事動向を的確に把握し、日本の情報優位を確立すべきである。
今後のISR活動の強化の方向性として、宇宙、サイバー空間、空中、水中などの空間をシームレスに状況監視できることが必要となっていく可能性がある。そのために必要であれば、法改正や無人装備を含め新たな装備導入も検討すべきである。また、ISR活動を支えるため、周辺の友好国・地域との情報協力を強化すべきであり、そのためにも日本の情報保全の強化が必要である。
[2]防衛協力の促進と防衛交流・安保対話の充実
韓国、オーストラリアといった国々との防衛協力は地域の安定化に向けた日本の取り組みとして非常に重要である。韓国、オーストラリアとは、東ティモール、イラク、ハイチにおいて自衛隊が国際平和協力活動を実施した際、部隊間協力を行った実績があり、今後も、これらの国と部隊派遣について協力が可能な地域には、日本も積極的に派遣を検討すべきである。2010年5月、日本は、オーストラリアとの間で物品役務相互提供協定(ACSA)に署名した10 が、韓国とも同様の取り決めの締結を目指すとともに、今後は後方支援分野に加え情報分野での協力についても具体化することが必要である。
防衛交流は、従来、信頼醸成が主たる意義だととらえられてきた。しかし、今後は、グローバル・コモンズの維持等、各国が共通の関心を有する分野を含め、安全保障上の様々な課題の解決に向けた他国との協力関係の構築・強化が重要となっていく。防衛省・自衛隊は、自国の安全保障戦略上重要なパートナー国との関係強化を意識しつつ、それらの国の軍隊との間での実務的・実動的な協力を深化させていくことを目指すべきである。上記の韓国オーストラリアのほか、たとえば安保共同宣言を発出しているインドとの間では、今後も外務・防衛両省の次官級で協議を続け、また、国際平和協力活動や共同訓練の実施等を通じて具体的・実際的な協力関係を構築していくことが重要である。さらに海上交通の要衝を占め、安全保障分野で日本と共通の利害を有する東南アジア諸国との協力関係は重要であるが、防衛省・自衛隊として、これらの国に対する能力構築支援を行うなど、積極的に協力関係を深化させていくべきである。
防衛交流の場で、懸念事項を含めて率直に意見交換することは引き続き大切である。日本は、上記の国々を含む数多くの国との間で、ハイレベルの相互訪問、軍種別交流、スタッフ・トークス、留学生の相互派遣など、様々な二国間・多国間の防衛交流を進めてきた。特に中国やロシアとの間では、率直な対話や艦船の相互訪問などの交流を通じ、相互理解や信頼関係の増進を図っている。近年、日本周辺海域では、事故につながりかねない危険な行動が目立っている。偶発的衝突の政治的コストは極めて高くつくのであって、海上や空域での偶発事故防止の観点から関係国に協力を呼びかけるべきである。まずは対話を通じて、地域諸国との間でホットライン等の連絡メカニズムを構築する必要があるが、特に中国との間では、同国の軍事活動活発化を踏まえて高次元の安全保障対話を行うことが喫緊の課題であり、政治レベルでの対応が必要とされている。
10 日本は1996年4月、日米安全保障条約を結んでいる米国との間で日米物品役務相互提供協定(ACSA)を締結している。
[3]地域安全保障枠組への取り組み
防衛当局は、地域における安全保障協力枠組に積極的に参加し、地域の平和と安定に貢献する役割を担うべきである。
特に、人道支援・災害救援、テロ対策、海上安全保障に関する多国間会議や各種の多国間共同訓練は、域内各国間の信頼醸成や地域における対処能力の向上に有効であり、こうした非伝統的安全保障分野における具体的な協力の発展・深化をさらに促進すべきである。この点で、地域的安全保障枠組みであるARFが、その災害救援実動演習の実施に見られるように、具体的協力の段階へ深化を始めていることに鑑み、日本もこうした協力に積極的に参加すべきである。
ARF参加国との局長級会合である東京ディフェンス・フォーラムや、2008年から開始されたASEAN各国との防衛次官級会合を主催するなど、防衛省は地域的な防衛を締結している。当局間の意見交換を強化している。防衛省は、自らが主催する会議に加えて、地域における安全保障協力枠組みにより積極的に参加し、地域の平和と安定に貢献すべきである。また、2010年開催予定の拡大ASEAN国防大臣会合(ADMMプラス)は、ASEAN域外国も含めた形では初の地域における防衛当局間の閣僚レベル会合であり、地域における具体的な安全保障協力の核として機能していくことが期待され、日本としても積極的に協力していくことが重要である。
第4節 グローバルな安全保障環境の改善
2007年の自衛隊法改正により、国際平和協力活動への参加は、自衛隊の本来任務となった。自衛隊は、国際平和協力活動を通じて、平和創造国家としての日本のプレゼンスを世界に示すべきであり、可能なものについては、積極的に参加を検討すべきである。また、自衛隊による活動は、平和創造の目標に適合するよう、現地で暮らす人々の生命の安全や生活の再建と維持を支えるものでなければならない。
さらに自衛隊の活動は、官民による緊急人道支援や、中長期的な就業訓練、雇用創出、コミュニティ再建等の多様な活動と連携して行われるべきである。防衛省・自衛隊は、国内では国際協力機構(JICA)をはじめとする他省庁や民間部門との連携、国外では外国政府や国際機関、国際NGO等との協力関係をさらに強化していかなければならない。その際、NGOの中には軍からの独立性を重視するものもあるといった各組織の特性にも配慮し、連携方策をきめ細かく検討すべきである。
[1]破綻国家・脆弱国家支援、国際平和協力業務への参加等
国家の破綻という現象は根絶される趨勢にはなく、むしろ長期にわたって破綻状態が存続したり、脆弱な国家が新たな破綻国家となったりする可能性さえある。自衛隊は、これまでもPKOをはじめとする国際平和協力業務のみならず、イラクの人道復興支援などに際し海外派遣を実施してきた。自衛隊の参加には、原則として国連安保理決議のマンデートがあることが望ましいが、常にそれを前提条件にする必要はない。必要に応じて、地域的枠組や特定国との協力で効果的かつ適切に取り組めるものがあれば、そうした活動にも参加すべきである。
PKO等への参加を政策判断するに際しては、他の緊急度の高い事案の存否等を考慮することは当然であるが、自衛隊にとっての訓練になることや、日本の情報収集のための環境が整備されるといった側面的要素も含め、総合判断がなされるべきであろう。また、日本にとって必要不可欠な情報力は国外での任務経験を通じて蓄積されるものであることも十分留意されるべきである。
[2]テロ・海賊等国際犯罪に対する取り組み
貧困や民族・宗教紛争なども根絶される趨勢にはなく、テロや海賊活動は長期にわたって続く可能性が高い。日本は、テロや海賊に対する国際的取り組みに後ろ向きであってはならない。自衛隊は、これまで、インド洋への補給艦等の派遣、ソマリア沖・アデン湾への護衛艦等の派遣等を行ってきた。今後、国連安保理の決議に基づくケースを基本としながら、そうした決議のない場合でも、同盟、友好国として取り組む可能性も含めて、参加する可能性に備えるべきである。
[3]大規模自然災害に対する取り組み
地震、津波、台風被害といった大規模自然災害は世界中で随時発生しうる。経済・社会的状況からこうした災害への対策に優先度を置くことができず、災害への脆弱性が高い国が多数であるという趨勢は今後も長期にわたって予測される。さらに、気候変動の影響によって海面上昇、洪水、干ばつ、暴風といった自然災害の被害が拡大するという可能性があること、新型インフルエンザ等のパンデミック発生の可能性もあることを考えれば、国際的な災害救援・人道支援活動の必要性はさらに高まる。自衛隊は長年、災害対処に関する経験を蓄積しており、国際緊急援助活動において能力を必要とされる場合、その経験を有効に活かしつつ、また、他の文民組織とも効果的に連携しながら活動を実施できる。アジア太平洋地域および世界の大規模災害に備え、迅速な災害救援・人道支援態勢を維持・強化することによって、世界の人々の生命と安全を守ることに大きな貢献ができるであろう。
[4]大量破壊兵器・弾道ミサイル拡散問題への取り組み
大量破壊兵器・弾道ミサイル拡散の趨勢に鑑みると、情報収集を強化し、その防止を図るとともに、その行為を発見した場合、拡散に対する安全保障構想(PSI)に基づく取り組み等、具体的な拡散阻止のための行動に踏み込む必要がある。これまで、各国が自国の領域内において国内管理、輸出管理等の措置を実施してきたが、PSIは、各国が自国の領域内に限らず、自国の領域を越える範囲でも他国と連携して大量破壊兵器等の拡散を阻止することを提唱している。また、自国の領域内においても、法執行機関、軍・防衛当局、情報機関等、関係機関の間の連携を重視する。日本ではPSIの取り組みには、海上保安庁、警察、税関等と連携して自衛隊も関与しており、すでに多くの阻止訓練等が実施されているが、今後は実際の阻止行動実施を見据えた、国内外の諸機関とのより実践的な連携の強化が重要となる。
大量破壊兵器・弾道ミサイルの移転および輸送の阻止のための措置には、特別な訓練を受けた部隊・要員が必要となることも考慮すべきである。
[5]グローバルな防衛協力・交流
日本として、地域にとどまらず、世界各地域における安全保障問題に関心を持ち、関与することは、同時に世界各国に北東アジアの戦略的環境に関する理解を広める機会を得ることを意味し、日本の理解者を増やすこととなる。防衛省・自衛隊は、NATOや欧州諸国等と、テロなどのグローバルな課題に対処するため防衛協力・交流を積極的に進めていくべきであり、アフリカPKOセンターへの講師派遣等を通じたアフリカ諸国との交流も重要である。こうした取り組みは、交流の域を超えて、国際平和協力活動の迅速かつ円滑な実施や、協調的な秩序の構築へとつなげることができる。他方で、グローバルな防衛協力・交流に関しては、組織上の費用対効果を勘案しつつ、マンパワーその他の資源配分を慎重に判断する必要がある。
このほか、日本の防衛交流は基本的に政策説明や部隊間交流による信頼醸成が主であり、日本は多くの発展途上国が軍事交流で期待する武器や技術分野、軍建設のノウハウといった分野での協力を実施してこなかった。また、日本が防衛顧問団を派遣することもなく、あるいは、軍事・安全保障分野で、ODA11 以外の資金協力枠組みを活用することもほとんどなかった。しかしながら、たとえば日本の資金援助で海外においてテロ対策の能力構築セミナー等のプログラムを実施し、各国の軍人を参加させる、また、復興支援の対象国の民主的な軍隊建設を経験豊富な退職自衛官が支援するなどの事業は、平和創造国家としてふさわしいと言えるのであり、防衛援助のあり方について体系的な検討を行い、単なる対話・交流から、実質的な協力関係を構築する選択肢を可能とすべきである。
11 経済協力開発機構(OECD)は、ODAを途上国の経済開発と福祉の促進を主目的とするものと定義づけており、軍事物資・サービスの提供、軍事目的の債務の減免、対テロ活動などはODAとして報告できない一方、平和構築に関わる活動の一部は報告しうるとしている。一方、日本はODA大綱での「軍事的用途及び国際紛争助長への使用を回避する」との原則の下、ODAによる軍およびその関係組織や軍人を直接の対象とする支援は行わないという方針を採っている。
第5節 防衛力の機能と体制
(1)防衛力整備に関する基本的な考え方
これまでの3節において、新たな防衛力が果たすべき役割を示したが、そうした役割を果たす防衛力を整備するためには、16大綱が目指した「多機能・弾力的・実効性を有する防衛力」の考え方を引き継ぎつつ、特に以下のア〜ウを具体的に達成することを目指すべきである。
ア 地域的およびグローバルな秩序の安定化
平和創造国家を目指す日本の防衛力は、国際社会に安定的な秩序を生み出す努力に積極的に関わらなければならない。アジア太平洋地域においては、国際秩序の武力による現状変更や、グローバル・コモンズへの平等なアクセスを阻害するような動きを許容しない意図を示すため、米軍やパートナー国の軍隊と連携し、平時からの常続的な警戒監視活動等をさらに充実させるほか、多国間の共同訓練をより積極的に実施することとし、それに必要な体制を備える必要がある。また、グローバルな国際システムの維持の観点から、国際平和協力活動を着実に実施するための体制整備を続けていくことも必要である。
イ 複合事態への米国と共同での実効的対処
16大綱の下でこれまでに行われてきた防衛力整備は、「新たな脅威や多様な事態」の5つの類型のそれぞれが独立して生起した場合、それに対処し得る体制を目指して行われてきたと言える。しかし、現実の緊急事態では、防衛力は、多様で複合的な対処を要請されるものと考えるべきであり、かつ、事態の収拾のためには、日米両国が、予め定められた役割分担に従って緊密に連携する必要がある。したがって、現実的に想定すべき複合事態に対する自衛隊の対処能力を向上させるとともに、日本が米国と共同で対処し得るよう、米軍との共同作戦基盤を向上させることが重要である。
ウ 平時から緊急事態への進展に合わせたシームレスな対応
平時と緊急事態は互いに完全に独立した状況として扱われるべきではない。たとえば、警戒監視活動中の自衛隊の部隊が、急速な事態の拡大に直面することも考えられる。そのような場合には、現場部隊と中央の司令部、時には米軍との間で、作戦状況を即時に共有し、柔軟に対応することが求められる。このように、防衛力は、平時と有事の狭間のグレーな状況に、事態の進展に合わせてシームレスに対応できるものとして整備されなければならない。
今後自衛隊が強化すべき能力の共通の特徴とは、ISR能力、即応性、機動性、日米の相互運用性などである。さらに、分野をしぼった自衛隊の比較優位を強化することが求められる。こうした方向で、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた防衛力整備が求められる。
その際、個々の装備品の更新を中心とした考え方ではなく、自衛隊の持つ能力を客観的に評価し、強化すべき能力や、不足する能力を補うため、装備の購入や、訓練の実施、可動率の向上等を組み合わせて最適な防衛力を構築する必要がある。
また、同じ装備でも運用水準を高め(high operational readiness)、その活動量を増大させることで、より大きな能力を発揮することが求められる。このためには一定の活動経費(燃料、維持整備費)の確保が必須である。一方で在庫管理の効率化、あるいはミサイル等の可動率を上げるための日米での共同整備基盤確保、維持整備・教育訓練業務に関し民間能力を積極的に活用するなど、多面的に後方基盤を強化する必要がある。
(2)日米間の役割分担の考え方
日米間の役割分担は、軍事専門的な見地からの詳細な検討を要する分野ではあるが、戦略的見地から提言すれば、次のような点を指摘できよう。
まず、日米同盟の中核である日本防衛に関連した任務について、自衛隊が目指すべき方向性は、相互補完性の強化である。たとえば米軍の攻撃力の中軸をなす空母部隊が日本防衛のために展開する場合、自衛隊は対潜水艦戦の機能や米軍が不足している機雷掃海の機能を提供することができるのであり、こうした機能を自衛隊が維持・強化することで、相互補完性を強化することが考えられる。
また、日本が米国の能力に依存することで、自らの負担を避けてきた任務分野がいくつか存在する。危険地域からの非戦闘員の退避活動や、弾道ミサイル警戒中の僚艦への護衛などがその例であるが、このような「一方的補完」の関係を改め、日本側として任務を担うべき分野がないか、日本自身が突き詰めて検討するとともに、日米間の運用、政策に関する協議の場で議論していくべきである。
今よりも多くの種類の任務分野に、たとえ部分的にでも参画できる力を自衛隊が持ち、米軍との共同行動がとれるようになれば、日米間の情報共有の範囲も広がるし、個々の作戦実施に関する意思決定にも日本が参加できる。日米の共同作戦によって、米軍単独で作戦を行う時以上の能力を発揮できるようになれば、日米同盟の有効性を高めることになり、同盟の将来にとって重要な意義を持つ。
最後に、日米同盟をグローバルに発展させる観点から自衛隊が目指すべき方向性として、自衛隊が自らの責任で任務を遂行できる範囲を広げていくことも重要である。PKO活動等自衛隊が海外での任務に従事する際、機能面で他国、特に米国に依存するものが非常に多かったとされる。世界中に張り巡らされた米国の情報力等のインフラに依存することは合理的であるものの、今後は、海外においてもできるだけ自力で任務を遂行できるよう、必要な能力を整備していくべきである。
(3)防衛力の選択と集中
[1]統合の強化と拡大
弾道ミサイル攻撃のように、瞬時に状況が変化する事態には、三自衛隊の資源を有機的に連携させることによって、的確に対処することが求められる。その場合、ネットワークや情報重視の上で、統合幕僚監部や、陸・海・空自衛隊の統合任務部隊司令部を中心とした統合運用によって作戦を遂行することが必須の条件となる。特殊部隊・テロ・大規模災害への対処、部隊の海外派遣も、統合運用が欠かせない。
多様で複合的な事態に対応するには、陸・海・空全ての部隊を統合部隊化するのではなく、事態に応じて柔軟に編成できる陸・海・空の特色を持った部隊も必要である。ただし、指揮通信、サイバー攻撃等対処、輸送統制等は、陸・海・空の枠を越えた共通の機能であり、統合部隊化を図り、運用の一層の円滑化を図る必要がある。
こうした必要性に鑑みて、統合幕僚監部の充実強化を図るべきであり、現行の自衛隊の組織について、統合運用をより円滑に行うために必要な運用部門と管理(行政)部門の再整理等の組織改編を検討し、実施することが肝要である。また、防衛力整備に関しても、統合運用の構想を十分踏まえた各自衛隊の整備が行われなければならない。陸上自衛隊は、一層の統合運用能力向上のため、組織改編も含め検討する必要があるが、その際には、指揮統制の一層のフラット化を実施すべきである。同時に、統合作戦を支える重要な要素として、陸・海・空の間のネットワーク化を進め、作戦状況図等の共有を図らねばならない。
なお、現在各自衛隊が個々に保有している、地対空ミサイル部隊、陸上配備の航空救難部隊、自衛隊病院、防衛医官等について、各自衛隊間で整理、移管および共同部隊化の徹底等により機能の重複を排除し、その効率化を図る必要がある。
[2]陸上防衛力
陸上防衛力として、従来の重火器中心から脱却し、軽量で機動力に富んだ陸上戦闘力、特殊作戦能力、核・生物・化学(NBC)防護能力およびISR機能などの向上を重視しつつ、引き続き効率的な陸上防衛力に再編していく必要がある。同時に、国内重要施設の防護および国民保護を、関係行政機関等と役割を分担し、連携しつつ実行できる能力を備える必要がある。
既存の演習場の活用等を考えると、現状の駐屯地の配置を大きく変えることには困難な面もあり、部隊配置には、今後とも、地域社会との関係の密接性や各種災害への対応能力等への配慮も必要である。しかし、機動力が向上すれば、平素の駐屯地と事態に対処すべき場所は同一である必要はなく、全体として機動性を重視する方向に進むことが望ましい。さらに離島防衛に資するため、対艦ミサイル能力の強化を検討する必要がある。特に、離島地域については、自衛隊配備の空白地域となっているところもあることから、平素からの部隊配備を検討する必要がある。その際、一部の陸上部隊が極めて手薄となっている地域に関しては、必要最小限の拠点を確保し、有事や緊急事態に際して、当該防衛拠点を活用して緊急に機動展開し、重点地域を防衛できる必要がある。
なお、各種の課題に柔軟に対応できる陸上防衛力の中心は人であり、精強性の観点からバランスのとれた編成や配置を行う必要がある。実員の確保に関しては十分な配慮をする必要があるが、同時に、引き締まった人員規模の下でも最大限の能力が発揮できるよう、駐屯地や後方業務の効率化・合理化を図らなければならない。さらに、限られた人的資源を有効に使うため、無人装備の導入の検討を進めるべきである。
[3]海上防衛力
海上防衛力として、平素からの日本周辺海域でのISR活動や国際平和協力活動を通じ、また、米軍および他のパートナー国の軍隊との緊密な協力の下に、海洋国家日本にとって極めて重要な海洋利用の自由を守り、シーレーンの安全を確保する能力を一層向上させる必要がある。
離島防衛やミサイル防衛等の事態が生起した時には、日本周辺海域に日米の海上部隊が展開できるようにしなければならない。このため護衛艦、哨戒機、潜水艦といった装備について、性能向上を図りつつ全体として質量を効果的に確保する必要がある。護衛艦、哨戒機については今後の大量除籍時期を見据えれば隻数・機数の減勢は避けられず、艦齢・耐用命数の延伸、あるいは地域配備の護衛艦の機動運用化等、一層の柔軟性、効率化を図る必要がある。一方で、有効な水中監視能力を一層向上させる必要があり、艦齢を延伸するなどして、潜水艦を増強することを検討すべきである。また、特別警備隊のような部隊も、多様な事態に対応するために維持する必要がある。
[4]航空防衛力
航空防衛力として、日本の周辺空域における防空戦闘能力をさらに向上させる必要がある。現代の航空戦は、戦闘機のみならず、これを支援する総合的な機能がネットワークとして一体的に機能することが肝要である。そうした点を考慮すれば、今後の航空防衛力は量を質で優越することを追求することが重要である。これを実現するため、冷戦期を前提とした現状の手厚い対領空侵犯の態勢について見直しを図り、新戦闘機の導入、現有機の性能向上、早期警戒管制機、電子戦機、空中給油機等の各種装備を含め総合的に航空防衛力を構築する必要がある。なお、性能が陳腐化し、性能向上を図ることが難しい装備については早期に廃止することも考慮する必要がある。
また、空中、特に高々度でのISR能力を高める必要がある。それは単に航空戦闘のためだけではなく、自衛隊全体の運用のため、外洋や陸上部を含めた情報を含む。なお、情報収集に関しては、リスク回避が可能な無人機を含めた様々な方式を検討すべきである。
露天の滑走路は、ミサイル攻撃に対し本質的に脆弱である。弾道ミサイル・巡航ミサイルの脅威が増大している現在、基地被害を極小化しつつ、基地機能を速やかに回復できるような能力(base resiliency)、さらには代替滑走路を使用しうるような装備、運用の柔軟性に配慮する必要がある。
さらに、即応性や緊急展開能力、海外活動のための支援能力の必要性に鑑みると、航空自衛隊は長距離の輸送能力を強化するとともに、その整備には統合的視点から全体の輸送所要を考慮する必要がある。
[5]国際平和協力活動強化のための体制整備
自衛隊の本来任務となった国際平和協力活動は、グローバルな安全保障環境の改善に寄与し、同時に日本のプレゼンスを国際社会に示すという重要な課題であり、今後さらに積極的に参加していくべきである。近年の自衛隊の国際平和協力活動への参加実績は、他の主要国の国際派遣実績と比較して十分な水準とは言えず、改善の余地がある。
国際平和協力活動は、国土防衛のための訓練や災害派遣の実績により培った自衛隊の能力を援用することが基本である。一方で、海・空の長距離輸送能力の強化、衛生・施設等のニーズの高い機能、統合運用体制の整備など、国際任務に適合的な能力を増強する必要がある。特に迅速に海外に機動・展開した後、持続的に活動することを可能にする部隊交代の態勢や後方支援態勢を確保すべきである。
国際平和協力活動は、日本から地理的にも文化的にも遠く離れた地域で行われることが多い。したがって、一朝一夕には獲得できない日本の周辺地域以外の言語・風俗習慣・地理的条件・自然環境といった情報は事前に蓄積するか、あるいは蓄積された情報にアクセスすることができるように平素から情報収集・交換をしておくとともに、言語、現地事情に関する隊員の教育訓練を計画的に行い、いくつかのシナリオに沿った派遣が可能な人材のプールを作っておくべきである。また、海外活動の拡大と並行して、任務遂行に当たる隊員のみならず、負傷・帰還した隊員やその家族へのケアをしっかりと行う体制を整備する必要がある。
第三章 防衛力を支える基盤の整備
本章は、日本の目指すべき防衛力を支えるために、どのような基盤整備をすべきかについて述べる。安全保障と防衛は国家行政の根本に位置付けらるべき分野であり、それに充当されるべき資源は、国際情勢の判断の下、最も高度な政治決断により、適切な規模を確保すべきである。一方、日本をとりまく少子高齢化等の趨勢からすれば、防衛予算が大きく伸びるとの想定を置いて今後の防衛力を考えることはあまり現実的ではない。むしろ防衛分野に投入される資源に制約があるからこそ、防衛力を支える様々な基盤について、従来の政策の延長で考えることをやめ、中長期的な観点から課題に取り組まなければならない。
本章は、防衛力を支える基盤として、人的、物的、社会的基盤の課題と、今後整備すべき方向を提案する。なお、防衛省では、「防衛省改革に関する防衛大臣指示」に基づき、その改革の検討が開始されたところであり、本章の記述に関わる諸改革が進められることを期待する。
第1節 人的基盤
自衛隊の周辺海・空域の警戒監視、海外展開への所要、事態への即応性といった要求がますます高まるなか、人件費が44〜45%を占める防衛関係費全体の抑制もあり、自衛隊の部隊活動を支える燃料、装備品の維持整備費等、いわゆる活動経費が圧迫されている。これは望ましいことではない。しかし、単なる人員削減による人件費の抑制は答えとならない。自衛隊が複合事態に実効的に対処できる態勢を維持するには人的戦力の確保は決定的に重要だからである。人的戦力にはメリハリをつけ、第一線への充当を重視していく必要がある。
防衛力の人的側面の問題については、すでに防衛省で新たな安全保障環境等に対応した人的基盤の拡充の観点から検討され、2007年に報告書がまとめられている。そこでは人的基盤に関する主要な問題に関し、「任期制」か「非任期制」かについては「非任期制」中心、大学卒や部内選抜により昇任する幹部を中心にして曹から昇任する初級幹部を抑制、幹部自衛官を対象とした早期退職制度の導入、幹部と曹士の二本立ての俸給表の導入を基本方針としている。防衛省は、それぞれの課題について現在の状況を踏まえた再検討を含めて早期に具体的な制度設計を行い、少子高齢化時代の自衛隊の人的基盤の整備に着手すべきである。なお、制度設計にあたっては、非任期制の割合、早期退職制度の対象など、複数の選択肢についてシミュレーションを行い比較するなど十分な評価に基づくこと、陸・海・空の人的戦力の構成、特性に合わせて、必要な人材を確保すること、隊員のインセンティブを高める工夫をすることが必要である。その際、以下の諸点については、特に注意する必要がある。
第一は自衛隊の階級・年齢構成のバランスである。米国、英国等の軍隊と比較して、自衛隊では、自衛官の定年延長、高年齢の曹の幹部登用などの結果、現場指揮官クラスの尉官を含む幹部の平均年齢が高くなっており、自衛官全体で見ても高齢化が進んでいる。複合事態にシームレスに対処する上で、自衛隊は、精強性(そのためには若く体力のある隊員が必要)と技術、熟練、専門性(たとえば、サイバー防衛等)をうまくバランスさせた人的基盤を整備しなければならない。そうした制度設計においては、自衛官のこのような特性を適切に評価しつつ、早期退職制度等の活用により、適切な階級・年齢構成を実現することが重要である。また、早期退職制度の導入に際しては、早期退職を迫られる隊員が安心して職務に専念できるよう、地方自治体、民間の防災関係業務等、自衛官としての知識や経験を活かすことのできる再就職先の確保について、政府として特段の配慮を行う必要がある。
第二は民間活力の有効活用である。ますます複雑化する安全保障環境のなか、自衛隊のみで国の防衛を全うできるものではない。職務に危険が伴うなど特殊性が高い一方で給与水準の比較的高い自衛官は、自衛官にしかできない仕事、任務にあたるべきであり、人事・会計・施設管理等の管理業務、装備の維持整備等については、経費効率を考えつつ民間活力の有効利用をさらに進める必要がある。民間活用に当たっては、若年の自衛官退職者の技能を活かせるよう、公平かつ透明な再就職制度を設けることが必要である。また、この関連で、必ずしも自衛官でなくともできる仕事については、自衛官に準ずる身分を新設し、現役自衛官をこれに移し、事務官・技官に準じた処遇をする等、人材を効率的かつ安定的に活用することも考えられる。
第三に、自衛官の採用にあたっては、少子高齢化時代における若手人材の有効活用の観点から、景気の動向にできるだけ左右されないよう、資格や学歴取得等、適切な採用、退職援護施策の充実を検討する必要がある。また、募集・援護業務について、たとえば、任期制士などを経て警察・消防・海上保安官・その他公務員へと転身するための支援を充実させるなど、国としての取り組みが求められる。
なお、定年退職、早期退職を問わず、崇高な宣誓の下、国の防衛に従事した自衛官に対しては、国として、相応の栄誉をもって報いるべきである。こうした観点から、退官後の制服着用や呼称、叙勲等のあり方についても、政府として真剣に検討すべきである。
第2節 物的基盤
日本国内に有力な防衛産業が存在し、日本の防衛生産と防衛技術を支えていることは、日本の防衛力を維持・発展させる上で欠かすことのできない物的基盤である。
防衛装備品は、高性能化の進展と開発コストの上昇、さらに日本の場合には市場が国内に限定されていることから、一般に、高価格となる傾向にある。厳しい財政状況下、高コストが調達数量の減少を招き、それが単価増を招く、そういう負のスパイラルに日本の防衛の物的基盤が陥ることは望ましくない。こういうリスクを見据え、日本としては、国内の防衛生産・技術基盤を健全に維持するため、その方策を検討して
いかなければならない。
[1]防衛産業・技術戦略の確立
防衛装備品の調達は、過去、装備品を可能な限り国産化することと、国内におけ確実な供給・運用支援基盤を維持することに重点を置いて行われてきたが、このことが防衛産業の高コスト体質の温存を許してきたと言えないこともない。また、防衛関係費が頭打ちで推移する中、将来展望が描けずに防生産から撤退する企業も増えつつある。
日本の防衛生産・技術基盤をめぐる行き詰まりを打破するためには、従来の発想を捨て、国内で維持すべき生産・技術分野について官民が共通の認識を持った上で、歩調を合わせて重点投資を行う、選択と集中が必要となる。
そのため政府は「防衛産業・技術戦略」を示さなければならない。その目的は、日本の安全保障上、外国にゆだねるべきでない分野を特定し、重点投資分野を明確化することである。同戦略に基づき、国内防衛産業は、長期的な視点で投資、研究開発、人材育成に努めることができるようになる。同時に、同戦略は、民需の分野で発達した技術の成果を取り入れる民需からのスピンオンの可能性等にも目配りした効率的な防衛力整備に資するものとなるべきである。
また、同戦略の前提として、選択と集中にあたり、国産か輸入かという二者択一ではなく、国際共同開発・共同生産という第三の道を選択肢に加える必要がある。この点については、次項[2]で詳述する。さらに、国内防衛産業は国際的競争にさらされてこなかったため、どの防衛技術に日本の優位性があるのかが現状でははっきりしないという課題にも取り組む必要がある。日本の防衛技術と民生技術を合わせたトータルな技術力を総点検する、いわ「棚卸し」作業として、長期的視点から「将来の技術マップ」を作成する必要がある。
[2]国際共同開発・共同生産の活用
日本ではこれまで、ごく一部の例外を除き、防衛装備品の調達については、国産か輸入か、どちらかの選択肢しかなかった。その一方、防衛産業をめぐる世界的潮流に目を転じれば、諸外国においては防衛産業の再編と巨大化が進み、装備品の国際共同開発・生産も一般的となっている。
しかし、日本は、武器輸出三原則等に基づく事実上の武器禁輸政策によって、国内防衛産業としてもこうした流れに乗ることができず、実際、日本は、米国以外の友好国との国際共同開発・生産、あるいは国と国の間の国際共同開発に至る前の民間レベルの先行的な共同技術開発等への参画すら検討できないでいる。そのため、国内防衛産業は、最先端技術にアクセスできず、国際的な技術革新の流れから取り残されるリスクにさらされている12 。
日本はこれまで日米の共同開発・共同生産等を武器輸出三原則等の例外として認めてきた。しかし、日本の安全保障における防衛生産・技術基盤の重要性に鑑みれば、武器輸出三原則等の下での武器禁輸政策については、見直すことが必要である。共同開発・共同生産の活用を進めれば、先端技術へのアクセス、装備品の開発コスト低減等のメリットがある。また、共同開発・共同生産は、日米同盟の深化、米国以外の国々との安全保障協力関係の深化にもつながる。科学技術分野の進歩には極めてめざましいものがあり、仮に日本が現在、優位性を持つ技術領域であっても、時機を逸すれば、世界的な技術革新の波に乗り遅れ、取り返しのつかないことになりかねない。共同開発・共同生産についての見直しの決断は、できるだけ早く行われることが望ましい13 。
国際共同開発・共同生産に踏み込むことは、日本の技術が入った装備品が他国でも使われる可能性があることを意味する。それは、単に共同開発のパートナーをどのように選ぶかだけではなく、第三国への移転をどう認めるかという問題に関わる。日本はこれまで、武器の移転は全面的に禁止するという姿勢で臨んできており、どの国に対して武器の移転を容認するかを考えないできた。武器禁輸政策の見直しに当たっては、本政策の見直しが国際の平和と日本の安全保障環境の改善に資するよう、慎重にデザインすることが求められる。そこで重要なことは、移転された武器の厳格な管理をはじめ、いかなる要件を満たす国に武器の移転を認めるかである。そうした要件としては、価値の共有、軍備管理・軍縮の推進等が考えられる14 。
なお付言するならば、米国以外の国々との共同開発・共同生産を進める場合には、相互に機密性の高い情報をやりとりする可能性があるため、それらの国々との間で相互の秘密保護のあり方などについても早急に検討する必要がある。
12 ; 日本が国際共同開発・共同生産に参画する場合、最先端技術へのアクセスなどのメリットが期待できる一方、国産を断念することによるシステム・インテグレーション技術の保持困難などのデメリットも生じ得る。しかし、国際共同開発・共同生産を選択肢として考慮できない現状では、ライセンス国産を含む国産との比較でどちらがよいかを事案毎に実証することさえできない。
13 このほか、日本が外国から輸入品を購入する場合に、その購入の見返りとして、日本製構成品の採用を求めるといった形態のオフセット取引についても、従来は、武器禁輸政策の下、最終的に自衛隊が調達する装備品も含め、実行されてこなかった。また、他のライセンス供与国からの求めに応じて、日本で製造したライセンス品をライセンス供与国に輸出することなども同様に行われてこなかった。こうした不合理な点も改善が必要である。
14 弾道ミサイル防衛(BMD)関連の日米共同生産に係る第三国移転問題は、武器輸出三原則等の問題ではないものの、どの国に武器を移転してもよいかということを決めなければならないという点で、同じ性質の問題である。これはBMD関連の日米共同開発が生産段階に移行するよりも先に、早期に決断しなければならない問題である。
[3]装備品取得改革の推進
国内の防衛生産・技術基盤の維持を図る上で、装備品の唯一の顧客である防衛省が「賢い消費者」として振る舞い、開発・生産や維持整備を担う各企業と共存する関係を築くことは極めて大きな意味を持つ。
防衛省が、先進技術を活かした装備を、コストを抑制しながら取得し、維持整備していくため、省内で進めている総合取得改革を引き続き推進すべきであり、装備品の構想から廃棄に至るまでのライフサイクルを通じたコスト管理を進めていく必要がある。また、その際には、企業側にコスト抑制させるインセンティブを与えることも重要である。
装備品の構想から開発、調達までの過程では、統合プロジェクトチーム(IPT)15 の設置により、要求性能のみに固執するのではなく、費用対効果の観点等からの適切性といった様々な見地からの一体的な検討を推進することが有効である。
装備品の調達に際しては、企業側にもメリットのある一括契約などの取り組みをさらに進めるべきである。防衛装備品に関しては基本的に最長5年間の国庫債務負担行為によって調達されているが、調達の優先順位が高く、かつ、長期の一括契約によって大幅なコスト抑制効果が期待されるような装備品については、5年を超える国庫債務負担行為も含めた契約のあり方を検討すべきである。ただし、その検討に際しては、防衛予算の硬直化をもたらす恐れ、技術革新が生じた場合にかえって非効率となる恐れなど、財政規律の視点から問題がないかについても慎重な考慮が必要である。
また、装備品の維持整備に関しては、今後の防衛力整備の方向性として重視すべき、装備品の高い運用水準を実現するとともに、維持コストの抑制を図らなければならない。維持整備に携わる企業との契約形態を改め、維持整備の作業量に応じて対価を付与するのではなく、運用のパフォーマンスの達成に対して対価を付与する形態(PBL:Performance Based Logistics)の方法を導入することも積極的に検討すべきである。
15 防衛省で検討されている統合プロジェクトチーム(IPT)とは、装備品の要求性能とコストのトレードオフの徹底を図るために、装備品の構想段階から設置される、防衛省の内部部局、幕僚監部、装備施設本部、技術研究本部の関係部署で構成する組織横断的な会議体を指す。
第3節 社会的基盤
自衛隊や日米同盟は、国民一般の支持と、防衛施設所在地域の住民の理解や支援なしには有効に機能しえない。このため、防衛力を支える社会的基盤として、国民の支持拡大、防衛施設所在地域との協力が非常に重要となる。
[1]国民の支持拡大
自衛隊は有事の際に日本を防衛する組織であり、この点について国民からの理解は得られていると思われる。ただし、国民の間で安全保障に関する議論が深まりを見せているとまでは言えない。政府は正確な情報、適切な説明を提供する責任があるのはもちろんだが、有事法制を整備した時のように、基本的な安全保障政策において、野党を含めより多くの国民の意見を一致に近づけるよう努めなければならない。重要なのは、国民とのねばり強い対話を通じてコンセンサスを作り上げる、絶え間ない努力である。
また、長年にわたって国内外での災害救援・人道支援活動、PKO等が実績を上げてきたことにより、自衛隊に対する国民の支持は高まっている。他方で、有事の際には国民の協力や負担が必要となることもまた否定しえない事実である。特に、広い意味での国民保護の観点での政府の施策は、整備されて日が浅く、実績も少ないことから、国民の理解・支持が定着しているとは言い難く、政府としても広報の強化が必要である。
緊急事態において、国民に対する迅速な情報提供は必須であるが、台風情報や地震速報と同様にミサイル警報等も試行錯誤を経ながら定着しつつある。特に緊急性の高い情報の迅速かつ信頼性の高い伝達のあり方を、IT技術の進展も踏まえながら、今後も不断に検討していく必要がある。
[2]防衛施設所在地域との協力
平時において、自衛隊の部隊は、隊員の採用・再就職、隊員家族への支援などについて、基地・駐屯地所在地域との関係に多くを依存しており、地域からの協力が得られなければ、部隊の存立そのものが危うくなると言っても過言ではない。そのような意味で、地域住民との関係は、防衛力を支える重要な社会的基盤となっている。
全国の自衛隊の部隊は、訓練場所の確保を含めた防衛上の考慮から適切に配置されるべきものであり、その観点からの配置の見直しは不断に行う必要がある。一方で、過疎地域に置かれた自衛隊の基地・駐屯地の存在は、各種災害への対応等、地域住民の安心・安全の要となっているし、地方の高齢化が進む中、若者を地方に再配分するという機能も果たしている。そうした地域住民の期待に応えることの意義は看過されるべきではないだろう。なお、部隊の配置がいかなるものであろうとも、部隊が任務を果たすためには、事態に即して部隊を集中するための機動性とそれを担保する輸送力の充実を必要とすることも忘れてはならない。
反面、防衛施設の存在は、施設が所在する地域住民の生活環境等に影響を及ぼすことがあり、地域住民に理解と協力を求める必要がある。特に沖縄の米軍基地問題については、歴史的経緯に起因する過剰な負担に配慮しつつ、日米政府間で緊密に連携し、取り組んでいく必要がある。
また、これに関連して、日米による防衛施設の共同使用化を進めていくことの重要性を指摘することができる。施設の日米共同使用により、自衛隊と米軍の関係強化を図ることができるのはもちろんだが、さらに米軍と地域住民の間に自衛隊が介在するような関係を構築すれば、両者の文化の相違(日米の文化の違い、軍人と一般市民の文化の違い)をより適切に調整できるようになることが期待できる。地域住民にとって目に見える負担軽減策として、日米両政府が共同使用の問題に積極的に取り組むべきことを提言したい。
第四章 安全保障戦略を支える基盤の整備
本章は、第一章で提起した日本のとるべき安全保障戦略をより効果的なものとし、また、防衛力を安全保障の手段として適切に活用するために必要な、様々な制度や体制などの基盤をどのように整備すべきかについて述べる。日本の制度はいまだ受動的な性質を残しており、使いにくい制度については早急な改善が必要である。
第1節 内閣の安全保障・危機管理体制の基盤整備
[1]内閣の安全保障機構の強化
安全保障に関わる判断は総理大臣を中心とした内閣でなされる。内閣において安全保障会議や内閣官房といった安全保障・危機管理を担当する機構(内閣の安全保障機構)は、これまで累次の制度改革を経ている。
まず日本の現行制度では、国会が文民である内閣総理大臣を指名し、内閣総理大臣が内閣を代表して自衛隊の最高指揮監督権を有するとともに、防衛省・自衛隊すべてを適切に指揮監督する防衛大臣を任命するなど、国会、内閣、防衛大臣と様々なレベルでシビリアン・コントロールが制度的に担保されている。
ここで重要なことは、文民指揮監督者が十分な情報と知識をもって指揮監督権を行使できる体制を整備することである。現状では、内閣レベルの会議体である安全保障会議が設置されており、安全保障上の重要問題について、内閣総理大臣を長として関係閣僚が情報を共有し議論をする場として機能している。特に、自衛隊の任務が多様化するにつれ、防衛力整備の問題に加え、自衛隊の活動や各種事態への政府の対処に関する重要事項を審議・決定する頻度が増え、その役割は増大している。また、近年、安全保障問題について緊密に協議するため、少数の関係閣僚による会合が随時開かれ、安全保障会議の機能を補完するようになっている。
次に、危機管理・安全保障政策の司令塔である内閣総理大臣を補佐する組織である内閣官房は、その役割を強化し、有効性を増してきた。内閣危機管理監を中心とする現在の危機管理体制は、これまでの実績を見ても、自然災害、重大事件および事故等の危機に対して有効に機能していると評価できる。また、武力攻撃事態や周辺事態等への対応に関しては、官房長官を委員長とする事態対処専門委員会が置かれ、安全保障会議を補佐する態勢となっている。
こうした基盤に立って、今後取り組むべき課題の一つは、自然災害等の危機への対応とともに、武力攻撃事態のような国家的な緊急事態が発生した際にも、内閣の安全保障機構が十全に機能を発揮するための準備と検証であろう。そのためには、武力攻撃事態や周辺事態、あるいは大規模サイバー攻撃といった事態を想定し、平素から、政府全体としての総合的な演習を定期的に実施することにより、現行態勢の問題点を洗い出すとともに、平時から有事への国としてのシームレスな対応が確保できるよう、所要の改善措置を講じていくべきである。また、こうした演習には、内閣総理大臣と関係閣僚の参加も必要である。どのような制度にしても、それを指導者が使いこなす意思と能力を持つことが最も重要だからである。
もう一つの課題は、内閣の安全保障機構における国家安全保障戦略の策定である。日本の内閣の安全保障機構と米国等の国家安全保障会議(NSC)とを単純に比較することは適切ではないが、両者の大きな違いは、日本の内閣の安全保障機構が、高次元での国家安全保障戦略そのものを策定する態勢になっていないことである。その態勢整備のためには、法改正による機構改革が必要となるケースもあるが、新たな機構にNSCという名称を冠するかどうかは本質的な問題ではなく、実効性のある制度を整備することが重要である。ただし、米国をはじめとして多くの国がNSCを有していることに鑑み、日本における彼らのカウンターパートがどの部署の誰であるか、いわば「誰に電話をかければよいか」が時に不明になってしまうという通弊は早急に改善されるべきである。内閣の安全保障機構を強化し、そのトップを職務に専念できる一元化した安全保障・危機管理の責任者として対外的にも明確化することが求められる。
[2]情報機能の強化
安全保障に関わる政策判断を支える重要な基盤は情報(インテリジェンス)である。内閣における情報機構もまた、累次の制度改革を経て、強化されているが、課題は残っている。まず縦割りの弊害を克服し、政府全体の情報を一元的に集約した上で分析するオール・ソース・アナリシスを強化する必要がある。次に内閣レベルでインテリジェンス・サイクルが効果的に稼働するよう強化することである。情報は、戦略的なニーズに基づき、政策サイド(カスタマー)から発注され、それに応えた情報をカスタマーが受け取り、評価をし、それに基づく政策を行うという形で初めてサイクルが回り始める。つまり、政策サイドの情報関心が示されなければ、情報サイドがたとえどれほど優秀でも独り相撲をとらざるを得ない。政策サイドと情報サイドの間で情報関心について意見交換を行うことにより、インテリジェンス・サイクルを機能させなければならない。
その場合、内閣における情報のカスタマーは、内閣総理大臣をはじめとする官邸の幹部のみに限定されない。上述のように、内閣の安全保障機構が安全保障戦略を策定する役割を果たすことで、同機構が情報のカスタマーとして効果的に機能できる。政策サイドと情報サイドが平素から互いを鍛え合う取り組みを地道に継続することこそ、日本の安全保障・危機管理体制の発展につながる。政策サイドと情報サイドの改革は、まさに車の両輪である。ただし、「情報の政治化」を防ぐため、政策サイドと情報サイドの分離についても注意を払わなければならない。
また、これまで実施されてきた様々なタイプの情報収集に加え、日本が今後、特に力を入れるべき領域として、宇宙やサイバー空間の状況監視、対外人的情報収集(ヒューミント)などが指摘される。日本としては、これらの情報収集・分析能力の強化に取り組むとともに、中長期的に安全保障を目的とした衛星システムの整備に努める必要がある。また、デュアル・ユース技術を利活用して、陸域・海域観測衛星、海洋探査、地理空間情報システムを整備し、日本とその周辺における海洋監視能力を向上させる必要がある。これら日本が独自に収集した情報を適切に保護するためにも省庁間における秘区分および取扱手続の共通化など、政府横断的な取り組みとして情報保全の強化を一層進めるべきである。なお、情報保全の強化とともに適切な文書管理にも配慮する必要がある。
また、今日の世界で、日本だけで安全保障上の課題に取り組むことは不可能である。インテリジェンスの分野で日本のパートナーを増やし、他国との情報協力を進めるためにも、情報保全機能を強化して日本に対する信頼を増進しなければならない。こうした情報保全の強化の取り組みに法的基盤を与えるため、秘密保護法制が必要である。
[3]安全保障戦略策定方式の改善
日本の安全保障戦略・防衛戦略を策定する方式にも、改善の余地がある。日本には、1957年に定められた国防の基本方針と1987年の閣議決定(専守防衛、軍事大国にならない、文民統制の確保、非核三原則のいわゆる四方針)が、日本の安全保障と防衛に関する基本方針として存在する。米国が公表しているような「国家安全保障戦略」は日本には存在しない。さらに、防衛力整備に関して、防衛計画の大綱と中期防衛力整備計画が策定されている。このなかで、防衛計画の大綱策定の参考にするため、過去三回と同様、今回も内閣総理大臣が有識者を集めて懇談会を開催し、政府の検討の出発点とする方式を採用してきた。
しかし、防衛大綱のような重要な政府の方針は、情勢の変化に照らし、継続的に見直しを加える作業が必要であり、従来の有識者懇談会方式から決別すべきではないだろうか。内閣官房のような組織において、有識者会議を常設して対話を行いつつ、防衛大綱・中期防の進行管理の作業を行うことも一案である。その場合、当該有識者にはみなし公務員として守秘義務を課し、秘密情報を共有できるようにすることも必要となる。
また、懇談会での議論から政府による検討までの連続するプロセスが防衛大綱の見直しをゴールとすることとの関連で、本懇談会は名称に「安全保障」を冠しつつも、防衛力のあり方に焦点を当てて議論することが求められた。将来、新方式をとる場合には、安全保障をより広い視野でとらえた議論を行い、ODA大綱のあり方なども含め、外交・防衛をはじめとする政府の関連施策を遂行する上で指針となる安全保障戦略を策定することについても期待したい。なお、安全保障戦略・防衛戦略策定方式の改善については、前述した内閣の安全保障機構の強化と併せて、総合的な検討を加えるべきであることを提言したい。
第2節 国内外の統合的な協力体制の基盤整備
[1]オール・ジャパン体制の構築
より効果的な危機管理・安全保障行政を推進するには、省庁間、中央・地方間の垣根を越えた連携が必要である。防災や国民保護の分野では、中央・地方間の協力体制、特に、自衛隊と地方自治体の協力体制をしっかりと構築することが、オール・ジャパンで国民の安全・安心を守ることにつながる。破綻国家の復興などについても、治安、司法など、関係する省庁が連携した取り組みが重要であり、関係省庁の意識改革を進めるとともに、省庁連携のための新たなフォーラムを設けるべきであろう。
また、今日のグローバル化の時代において、他国との信頼関係を強化するには、NGOや経済界を含めた民間セクター主導の有識者間、市民間の交流がますます重要となっている。政府セクターの努力との相乗効果を生み出すための協調的関係を考えるべき時代にきている。
国際平和協力活動の現場では、平和構築における民軍協力も重要な課題となっている。他方NGOの側も、国際平和協力を本来任務化した自衛隊とどのように連携していくべきかという問題意識を持つようになっている。具体的な協力事例を積み上げ、官民が協力してオール・ジャパンとしての平和構築能力を高めていくべきである。日本が縦割りの弊害を克服し、オール・ジャパンの対応をすることが、国際的な場における協力をさらにスムーズに進める前提ともなる。
[2]日米の共同運用の実効性向上
第一、二章において、日本の安全保障と防衛力について、本報告書は日米同盟の重要性について繰り返し強調してきた。防衛に割り当てられる資源が限られる中、日米の共同運用の実効性を高めることは日本の防衛にとって合理的な選択肢である。現状および近い将来において、日米安保体制をより一層円滑に機能させていくためには、改善すべき点が存在するが、その中には自衛権行使に関する従来の政府の憲法解釈との関わりがある問題も含まれている。
これまで様々な場で、弾道ミサイル防衛や米艦艇の防護など具体的な類型を提示しつつ提言が行われてきたように、弾道ミサイル防衛技術の進展など、近年の科学技術の進歩により安全保障環境も大きく変化している。加えて宇宙、サイバー空間の安定した秩序が保たれることも重要な課題となっている。こうした環境の変化に、日米の共同運用に関する法制が十分追いついていない。
たとえば、日本防衛事態に至る以前の段階で、ミサイル発射に備えて日米共同オペレーションに従事する米艦にゲリラ的攻撃が仕掛けられた場合に、これを自衛隊が防護することは従来の憲法解釈では認められていない。また、弾道ミサイル防衛について、日本のイージス艦がハワイ等米国領土に向かう弾道ミサイルを撃ち落とすことが、将来能力的に可能となったとしても、従来の憲法解釈では日本防衛以外のシナリオでの弾道ミサイルの迎撃は認められていない。つまり、日本は、現在、米艦艇の防護や米国向けの弾道ミサイルの撃墜を、国益に照らして実施するかどうかを考えるという選択肢さえないのである。
平時と有事の間の明確な線が引きにくい事態が想定される21世紀の安全保障環境と軍事技術状況を前にして、20世紀的な解釈や対応には限界がある。国の防衛や同盟の維持の必要性から出発して柔軟に解釈や制度を変え、日米同盟にとって深刻な打撃となるような事態が発生しないようにする必要がある。こうした対応策を事前に決めず、先送りすることは、平素からの想定や訓練の点でも難があり、望ましいことではない。政府が責任をもって正面から問題に取り組み、事前に結論を出して、平素から準備をできる状態にすることこそが大切である。
本懇談会が強調したいことは、憲法論・法律論からスタートするのではなく、そもそも日本として何をなすべきかを考える、そういう政府の政治的意思が決定的に重要であるということである。これまでの自衛権に関する解釈の再検討はその上でなされるべきものである。
[3]国際平和協力実施の枠組みの見直し
日本は現在、国際平和協力活動を重視する立場にある。実際、カンボジアPKO以来、日本は少なからぬ貢献をしてきたし、イラクやインド洋への自衛隊派遣といったPKO以外の国際任務にも参加するようになった。しかし、国際社会の課題の変化(破綻国家の出現等)に対応して、国際平和協力活動は国家再建までを含む多機能型へと進化しつつある。破綻国家の復興など「国づくり」は日本の得意分野にできる可能性がある。ところが、日本の国際平和協力の実施体制は、冷戦終結直後に作り出されたPKO参加五原則(参加五原則)に基づいており、時代の流れに適応できていない部分がある16 。
まずは、参加基準であるが、参加五原則は、1992年に国際平和協力法が制定された時に想定されていた国連PKOミッションの形態をもとに作られたものであり、停戦合意、受け入れ同意、中立性の三つの原則は、紛争当事者に該当する明確な主体の存在を前提としていた。しかしそうした前提では、脆弱国家や破綻国家における紛争の場合、参加する必要性が認められ、能力的に参加が可能でも、形式的に基準に合致しないために参加が許されないケースが出てくる可能性がある。このような体制は、平和創造国家として日本が応分の貢献を行う上での障碍となる。
次に、参加五原則は、「武器の使用を要員の生命等の防護のために必要最小限」に制限しているが、複雑な法解釈を熟知した上での対応を求めることで、現地に送り出す個々の自衛官にかなりの負担を強いている。また、業務が限定的になってしまうため、参加可能なPKOが限られ、あるいはPKO部隊の派遣に際して過度に慎重にならざるを得ないなどの事例が起きている。こうしたことが自衛隊のPKOに対する態度にも影響している可能性がある。今後、こうした点を考慮し、参加五原則を国際平和協力の実態(停戦合意の当事者要件、武器使用基準等)に合致するものに修正するよう、積極的に検討すべきである。
脆弱国家や破綻国家においては、住民や避難民の防護が必要であり、また、多機能型PKOでは文民や民生活動に従事する軍人も多数参加することから、文民等の警護が活動実施の鍵となっている。そもそもPKOは国際紛争を解決するための武力の行使ではない。したがってこうした武器使用は、海外における武力の行使とは無関係であり、自衛隊の任務として他国の要員の警護を追加すべきである。同様に、PKO活動に参加している他国の活動に対する後方支援もまた、「武力の行使との一体化」とは無関係であり、自衛隊の任務として当然認められるべきである。こうした点は、国際的な常識や基準に照らし合わせて、必要であれば従来の憲法解釈を変更する必要がある。
さらに、国連PKO以外の国際平和協力活動に関して、国連決議や地域的合意などにより国際的な正統性が確保されている場合には、これまでも特別措置法を制定するなどして対応してきた。ただし、新たな事態に合わせて毎回特別措置法制定を繰り返すことは、法秩序の安定といった点からみても好ましいことではない。また、国とし国益および国際社会の利益を見据え、主体的・能動的に国際平和協力に取り組むため、
その基本的な考え方を明確にする必要がある。その実現のための立法上の方策としては、国際平和協力法の全部改正なども考えられるが、いずれにせよ、日本が、国際平和協力活動に関する基本法的な性格を持つ、包括的かつ恒久的な法律を持つということが極めて重要である。
16 日本は1992年に制定された国際平和協力法に基づき、以下の基本方針(PKO参加五原則)に従い国連平和維持隊に参加することとしている。[1]紛争当事者の間で停戦の合意が成立していること(停戦合意)。[2]当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動および当該平和維持隊への日本の参加に同意していること(受入れ同意)。[3]当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的な立場を厳守すること(中立性の維持)。[4]上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、日本から参加した部隊は撤収することができること。[5]武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。
第3節 知的基盤の充実・強化
[1]安全保障コミュニティの充実
安全保障の裾野が広がり、日本の安全や国際社会の安定はグローバル化した世界の様々な事象と従来以上に直接的、間接的な関連を持つようになってきている。政府の安全保障に関わる意思決定過程において、より専門的な知見を反映させるため、研究者の政権スタッフとしての登用機会は今後増加すると考えられ、その人材プールも必要となるであろう。
また、安全保障環境を改善するためには、国内外における軍・安全保障当局者の対話・交流の拡大に加え、それを知的側面で裏打ちする研究者、NGO活動家等を交えたコミュニケーションや共同研究を通じた幅広い専門的知見の交換・共有が不可欠である。特にアジア太平洋地域では、域内諸国の国防・安全保障研究機関等のネットワークが、ARF等における政府レベルの議論やアイデア、規範形成に影響を与えてきたことに留意すべきである。
知的基盤の根本は人である。日本は安全保障に関わる政府職員や軍当局者、安全保障研究を志す学生の留学、研究者の派遣、海外からの留学・派遣の受け入れ規模を拡大することにより、この分野で国際的に活躍しうる新たな人材供給に努めるべきである。
一方、知的基盤を安定的に維持・発展させるための担い手として、シンクタンクとその国内外でのネットワークの果たす役割はますます高まっている。しかし、近年の日本政府はその重要性に対する認識が不足しているように見える。安全保障分野で活躍すべきシンクタンクの多くが財政的逼迫に苦しんでおり、安全保障分野における国際知的共同体での日本の存在感、発言力は急速に縮小している。安全保障に関わる知的基盤を育成するのには何十年もかかるが、それを壊してしまうのにはわずかな時間で済んでしまうのであり、危機感をもって早急に対応を図らなければならない。
国家安全保障等、商業ベースに必ずしもなじまない公的活動を補完しているという観点から、シンクタンクなど非営利法人等が安定的に活動できるよう、税制や寄付制度等の財政基盤も含めたあり方についても検討する必要がある。
[2]対外発信能力の強化
日本の国と国民が安全保障についていかなる考え方を持っているかを世界に正確に伝え、理解を得る努力をすることは、地域および世界の安全保障環境の予測可能性を高める上で非常に重要である。
危機対応時を含め、安全保障に関わる政府の考えや施策を、総理大臣がタイムリーかつ明確に国民のみならず世界に向けて発言することが、国民に安全・安心を与え、世界に正確なメッセージを発するために不可欠であることは、いくら強調しても、し足りないほどである。指導者の対外発信を適切に補佐するため、外国語のサポートを含め、対外発信体制の強化に努めるべきである。
また、平素からホームページ等を通じた、政府の特に英語による迅速・正確な情報発信を強化する必要がある。特に防衛省の英語ホームページは、改善の余地が大きいと言わざるを得ない。海外の研究者やジャーナリストの意見を参考にするなどして、広報を改善し、一層の透明性確保に努める必要がある。
さらに、対外交渉や国際会議、国際交流の場や、国際機関において説得力を持って日本の立場を語り、かつ全体にとって利益ある合意形成をリードできるような人材を育成したり、そうした育成への支援を強化したりすることも必要である。これまで、日本では政府部門のみならず、民間部門が経済、文化、学術等の様々な分野で強い発信力を誇ってきた。日本のソフトパワーの増進と安全保障環境の改善促進につながるという観点から、今後もこうした知的基盤を維持・強化することこそ、対外発信能力強化の鍵となる。
{文中の[1]はマル1、[2]はマル2、[3]はマル3、[4]はマル4、[5]はマル5、[6]はマル6、[7]はマル7}
略語表 | |||
---|---|---|---|
[A] | |||
ACSA | Acquisition and Cross-Servicing Agreement | 物品役務相互提供協定 | |
ADMM | ASEAN Defence Ministers Meeting | ASEAN国防大臣会合合 | |
APEC | Asia-Pacific Economic Cooperation | アジア太平洋経済協力 | |
ARF | ASEAN Regional Forum | ASEAN地域フォーラム |
|
ASEAN | Association of Southeast Asian Nations | 東南アジア諸国連合 | |
[B] | |||
BMD | Ballistic Missile Defense | 弾道ミサイル防衛 | |
[D] | |||
DDR | Disarmament, Demobilization, and Reintegration | 武装解除、動員解除及び社会復帰 | |
[E] | |||
EAS | East Asia Summit | 東アジアサミット | |
[G] | |||
G20 | Group of 20 | 20カ国・地域 | |
[I] | |||
IAEA | International Atomic Energy Agency | 国際原子力機関 | |
IPT | Integrated Project Team | 統合プロジェクトチーム |
|
ISR | Intelligence, Surveillance and Reconnaissance | 情報収集・警戒監視・偵察 | IT | Information Technology | 情報技術 |
[J] | |||
JICA | Japan International Cooperation Agency | 国際協力機構 | |
[N] | |||
NATO | North Atlantic Treaty Organization | 北大西洋条約機構 | |
NBC | Nuclear, Chemical and Biological | 核・生物・化学 | |
NGO | Non-governmental Organization | 非政府組織 | NPT | Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons | 核兵器不拡散条約 |
NSC | National Security Council | 国家安全保障会議 | |
[O] | |||
ODA | Official Development Assistance | 政府開発援助 | OECD | Organisation for Economic Co-operation and Development | 経済協力開発機構 |
[P] | |||
PBL | Performance Based Logistics | 運用のパフォーマンスの達成に対して対価を付与する契約形態 | PKO | Peacekeeping Operations | 国連平和維持活動 |
PSI | Proliferation Security Initiative | 拡散に対する安全保障構想 | |
[Q] | |||
QDR | Quadrennial Defense Review | 四年毎の国防計画見直し | |
[R] | |||
ReCAAP | Regional Cooperation Agreement on Combating Piracy and Armed Robbery Against Ships in Asia | アジア海賊対策地域協力協定 | |
[S] | |||
SSR | Security Sector Reform | 治安部門改革 | |
[W] | |||
WMD | Weapons of Mass Destruction | 大量破壊兵器 |
新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会の開催について
平成22年2月16日
内閣総理大臣決裁
1.設置の趣旨
「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱」(平成16年12月10日安全保障会議決定・閣議決定)の見直しについては、国家の安全保障にかかわる重要課題であり、政権交代という歴史的転換を経て、新しい政府として十分な検討を行う必要がある。
この検討に資するため、内閣総理大臣が、安全保障と防衛力の在り方に関係する分野等の有識者を委員として、これに加え同分野に関する行政実務上の知験を有する者を専門委員として参集を求め、御意見をいただくことを目的として、新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会(以下「懇談会」という。)を開催する。
2.構成
(1)懇談会は、別紙に掲げる者により構成し、内閣総理大臣が開催する。
(2)内閣総理大臣は、別紙に掲げる委員の中から、懇談会の座長を依頼する。
(3)座長は、必要に応じ、別紙に掲げる委員の中から、座長代理を指名することができる。
(4)懇談会は、必要に応じ、関係者の出席を求めることができる。
3.その他
懇談会の庶務は、関係府省の協力を得て、内閣官房において処理する。
(別紙)
新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会の構成員
(委員)
岩間陽子{いわまようことルビ} 政策研究大学院大学教授
佐藤茂雄{さとうしげたかとルビ} 京阪電気鉄道株式会社代表取締役CEO 取締役会議長
白石隆{しらいしたかしとルビ} 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所所長
添谷芳秀{そえやよしひでとルビ} 慶應義塾大学法学部教授
中西寛{なかにしひろしとルビ} 京都大学大学院法学研究科教授
広瀬崇子{ひろせたかことルビ} 専修大学法学部教授
松田康博{まつだやすひろとルビ} 東京大学東洋文化研究所准教授
山本正{やまもとただしとルビ} 財団法人日本国際交流センター理事長
(専門委員)
伊藤康成{いとうやすなりとルビ} 三井住友海上火災保険株式会社顧問(元防衛事務次官)
加藤良三{かとうりょうぞうとルビ} 日本プロフェッショナル野球組織コミッショナー(前駐米大使)
齋藤隆{さいとうたかしとルビ} 株式会社日立製作所特別顧問(前防衛省統合幕僚長)
注:佐藤委員が座長、白石委員が座長代理。役職は2010 年8 月現在
「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」開催実績
第1回懇談会 (平成22年2月18日(木))
議題:これまでの防衛計画の大綱の考え方
第2回懇談会 (平成22年2月24日(水))
議題:周辺諸国の軍事動向
第3回懇談会 (平成22年3月9日(火))
議題:国際社会の課題と日本の対応
第4回懇談会 (平成22年3月17日(水))
議題:米国の安全保障戦略と日米同盟
第5回懇談会 (平成22年4月8日(木))
議題:防衛力を支える基盤([1]防衛生産・技術基盤、[2]人的基盤)
第6回懇談会 (平成22年4月27日(火))
議題:「自衛隊の将来体制」及び「財政事情」
第7回懇談会 (平成22年5月12日(水))
議題:情報と情報保全(サイバー攻撃対処を含む。)
第8回懇談会 (平成22年5月28日(金))
議題:これまでの議論の論点についての全般的な整理
第9回懇談会 (平成22年8月27日(金))
議題:報告書の取りまとめ及び総理への提出
勉強会開催実績
第1回勉強会(平成22年3月26日(金))
第2回勉強会(平成22年4月1日(木))
第3回勉強会(平成22年4月14日(水))
第4回勉強会(平成22年5月19日(水))
第5回勉強会(平成22年5月21日(金))
第6回勉強会(平成22年6月3日(木))
第7回勉強会(平成22年6月17日(木))
第8回勉強会(平成22年6月23日(水))
第9回勉強会(平成22年7月5日(月))
第10回勉強会(平成22年7月6日(火))
第11回勉強会(平成22年7月14日(水))
第12回勉強会(平成22年7月15日(木))
第13回勉強会(平成22年7月21日(水))
第14回勉強会(平成22年8月18日(水))
Japan’s Vision for Future Security and Defense Capabilities in the New Era:Toward a Peace-Creating Nation
Summary
This report is written by the Council on Security and Defense Capabilities in the New Era.It proposes that Japan be a nation that contributes to the peace and security of the region and the world, while accomplishing its prime objectives to secure peace, promote prosperity and ensure the safety of Japan. In other words, the report propounds a proactive “Peace-Creating Japan.”
CHAPTER ONE: Security Strategies
Section 1 Objectives
Japan’s security objectives are: to ensure its safety and prosperity; to promote the stability and prosperity of the area surrounding Japan as well as the world; and to maintain a free and open international system. For Japan’s safety and prosperity, it requires the maintenance and development of its economic capability, freedom to undertake economic activities, and freedom of movement. The safety of Japan includes that of Japanese nationals who live or stay abroad, ensured through international coordination. As for promoting the stability and prosperity of the area surrounding Japan and the world, maintaining access to markets and safety of sea lines of communications (SLOCs) are common interests of both Japan and the world. To maintain a free and open international system, it is necessary for Japan to deepen cooperation with major powers in the interest of maintaining the world order and abiding by international norms. Universal and basic values such as freedom and dignity of the individuals should be upheld.
Section 2 Security Environment Surrounding Japan
The following trends can be discerned in the current global security environment: 1) economic and social globalization which created transnational security challenges and increased conflicts in the “gray zones” between peace and crisis; 2) the rise of emerging powers such as China, India and Russia and the relative decline in overwhelming superiority of the United States, resulting in a global shift in balance of power and deterioration of international public goods; 3) increasing risks of proliferation of weapons of mass destruction (WMD) and their delivery means; and 4) continuing regional conflicts, failed states, international terrorism and international crimes.
In line with these broader trends, important issues for the areas surrounding Japan and Japan itself include challenges such as changing U.S. deterrence, continuing uncertainty in the Korean Peninsula, shifting regional balance of power brought about by the rising China, and continuing instabilities on SLOCs from Middle East and Africa to Japan and in the coastal states.
Section 3 Strategies and Instruments
Considering the above-mentioned trends and characteristics of Japan’s economy and defense posture as well as geographic and historical constraints, Japan’s identity, which should be translated into its foreign and security policies, can best be expressed as a “Peace-Creating Japan.” Its basic idea is that the way to achieve Japan’s own safety is by contributing to global peace and stability, and by adopting a basic posture of active participation in international peace cooperation, non-traditional security and human security.
A Peace-Creating Japan’s security objectives can be attained by its own efforts and by cooperation with its ally as well as multi-layered security cooperation. Its strategies and instruments include: utilizing various diplomatic tools; building defense capability; enhancing interagency cooperation and cooperation between public and private sectors; achieving common strategic objectives with the ally; securing safety of global commons; upholding U.S. extended deterrence; promoting cooperation and engagement with partners and emerging powers, and promoting cooperation within multilateral security frameworks, among others.
With the role of the military becoming diversified, the “Basic Defense Force” (BDF) concept, which has limited Japan’s defense capabilities only for the purpose of rejection of external invasion, is no longer valid. Based on recognition that defense equipment cooperation or defense assistance could be effective tools for improving the security environment and international relations, defense cooperation and assistance should be carried out on the basis of a new set of principles, superseding the de facto export prohibition policy under the “Three Principles on Arms Export, etc.”
CHAPTER TWO: Modality of Defense Capabilities
Section 1 Basic Concepts
Recent developments in military science and technology and decreased warning time before contingency, among others, have contributed to a change in characteristics of defense capabilities. These developments have increased the importance of “dynamic deterrence”through which a defense force demonstrates high operational performance in normal circumstances by conducting timely and appropriate operations, such as surveillance and preparation against airspace violation, in contrast to the traditional “static deterrence” focused on quantities and size of weapons and troops. It is time for Japan to depart from the BDF concept and to achieve necessary and in-depth reform of its defense posture that can adequately respond to complex contingencies in which various events may break out simultaneously. Although the SDF needs to prepare for various changes in the future and to consider maintaining minimum essential know-how in responding against major armed invasion, the SDF must not use the BDF concept as an excuse for preserving units or weapons of lesser importance in light of future trends in security environment.
Japan should be more attentive to the formation of credible dynamic deterrence, endorsed by response capabilities to various contingencies, while sustaining the target of “multi-functional, flexible and effective defense capabilities” stated in the National Defense Program Guidelines on and after FY2005.
Section 2 Response to Various Contingencies
The SDF will be likely to face various contingencies such as: 1) ballistic and/or cruise missile strikes; 2) attacks by special operations forces, terrorists, or cyber-attacks; 3) operations to maintain security of territorial waters/airspace and remote islands; 4) emergency evacuation operations of Japanese nationals; 5) armed conflicts in areas surrounding Japan; 6) a combination of the above contingencies (contingency complex); and 7) major disasters and pandemics.
Section 3 Securing Stability in the Areas Surrounding Japan
With the premise of close cooperation with the U.S. forces under the Japan-U.S. security arrangements, the MOD/SDF needs the following efforts, among others, for stability of the areas surrounding Japan: 1) enhancing Intelligence, Surveillance, and Reconnaissance (ISR) activities; 2) promoting defense cooperation with the ROK and Australia and multilateral cooperation, and fostering defense exchanges and security dialogues with China and Russia; and 3) active engagement to regional security frameworks such as the ARF and ADMM Plus.
Section 4 Improving Global Security Environment
The SDF should display Japan’s presence in the world through international peace cooperation activities. In collaboration with other agencies and organizations in Japan and overseas, the SDF should be involved in activities to improve global security environment such as: 1) assisting failed/fragile states and increasing participation in international peacekeeping operations; 2) countering international crimes including terrorism and piracy; 3) responding to major disasters; 4) dealing with proliferation of WMD/ballistic missiles, especially enhancing collaboration in PSI arena; and 5) promoting global defense cooperation/exchange. Also, defense assistance funded by Japan should be made available as an option.
Section 5 Function and Arrangements of Defense Capabilities
With the above roles and missions in mind, Japan’s building of defense capabilities should specifically aim at obtaining capabilities for: stabilization of regional/global order; effective response to a contingency complex in cooperation with the United States; and seamless reaction to an event that develops from peace time to emergency. To these ends, each of the SDF service branch should work together to enhance capabilities such as ISR capability, responsiveness, mobility, and Japan-U.S. interoperability, sustained by advanced technologies and information. Future building of defense capabilities should not concentrate solely on upgrade of weapons, but aim at an optimum combination of options based on an objective assessment of capabilities the SDF has of its own.
In light of a proper roles and missions sharing within the context of the Japan-U.S. alliance, the SDF should aim to enhance complementary capabilities vis-?-vis those of U.S.forces. It is also important for the SDF to expand the scope of missions that it carries out by its own capacity to include those requested in peacekeeping operations.
To appropriately respond to various and complex contingencies, the SDF needs to strengthen and expand its jointness. Each tri-service needs “selection and concentration,” by enhancing required capabilities such as ISR, while reviewing less urgent weapons or arrangements. The SDF should also reinforce capabilities applicable to international missions such as long-distance mobility, as well as ensuring operational arrangements for unit rotation and logistic support that enable the SDF operations to be sustainable.
CHAPTER THREE: Infrastructure that Bolsters the Defense Force
Section 1 Personnel Infrastructure
The MOD should promptly design a new system that will address the SDF’s challenges in personnel infrastructure of the SDF in a time of declining birth rates and long-life expectancy, and start building it. The design should be based on sufficient evaluation through comparisons of multiple options via simulation and other methods, and answer the purpose of securing personnel with needed skills, and providing incentives to SDF personnel. In doing so, special attentions should be paid to such aspects as: rebalancing of rank and age structure; effective outsourcing; and proper recruitment and fully-cared retirement and reemployment of SDF personnel.
Section 2 Materiel Infrastructure
Japan’s domestic defense production and technology infrastructure are trapped in vicious cycle of small-scale procurement, high-cost production, and decreased investment. To remedy this, the Japanese Government in consultation with the private sectors should promote selection and concentration in the fields of production and technology that are to be sustained in Japan. Hence, the Japanese Government must present a defense industrial and technology strategy.
At the same time, to save Japanese defense enterprises from being left behind in international technology innovation, the Japanese Government should allow these enterprises to participate in international joint development and/or production projects. With a careful design to contribute to international peace and improvement of Japan’s security environment, it should revise current arms export prohibition policy.
For the MOD to acquire and maintain equipment while keeping the costs within a reasonable range, it should carry on its comprehensive reforms of defense acquisition. Especially, at the procurement stage, it should try harder to make long-term contracts that the defense enterprises also deem advantageous.
Section 3 Social Infrastructure
Neither the SDF nor the Japan-U.S. alliance can function effectively without the support of the Japanese public and the understanding and assistance of local residents in areas where defense facilities are situated. The Japanese Government is responsible for providing accurate information and appropriate explanation to the Japanese public. It must also undertake to communicate critical information in a contingency, making much of info-communication technology evolution.
The stationing of the SDF units must be reviewed constantly in consideration of defense requirement. At the same time, the importance of the SDF meeting expectations of local people should not be neglected. Because the existence of defense facilities could affect living conditions of locals, the Japanese Government needs to solicit their understanding and cooperation. Above all, it should pay particular attention to excessive burdens on Okinawa residents, and work on mitigating these burdens while cooperating with the U.S. Government. The both Governments should examine shared use of defense facilities which is tangible as a way of reducing burdens.
CHAPTER FOUR: Infrastructure that Bolsters Japan's Security Strategy
Section 1 Constructing Infrastructure for National Security Planning and Crisis Management at the Cabinet
Security organs subordinate to the Cabinet have augmented their functions through a series of structural reforms. One of remaining challenges is to conduct a government-wide extensive exercise bearing in mind a national emergency such as an “Armed Attack Situation” so as to verify whether the current security organs are functioning adequately and to make additional preparations. Another is to put into place an effective system that enables them to develop a security strategy.
Intelligence organs of the Cabinet have also made progress. Much needs to be improved, however, in such fields as: all-source analysis that makes full use of information gathered from all government organs; and efforts of rotating intelligence cycle of the cabinet-level more effectively. Other intelligence capabilities that should be strengthened include outer and cyber-space situational awareness and HUMINT (human intelligence), while envisioning a satellite system aiming at security and maritime domain awareness as mid- and long-term targets for improvement. Information security should be further enhanced to protect Japan’s own intelligence and to work with foreign counterparts. It leads to a necessity of legislation of a secret protection law.
Important government policy guidelines such as the “National Defense Program Guidelines” require constant review. Though our council was formed to present a blue-ribbon-panel report to the Government, this format should be abandoned. Instead, we propose, as an option, that the Cabinet Secretariat or other organs establish a permanent council composed of experts from private sectors, who will continuously work on the security and defense policy through discussion. With this proposed change in format, we expect a security strategy will be further defined in a broader sense.
Section 2 Constructing Infrastructure for Integrated and Cooperative Relations among Domestic and International Actors
Inter-agency cooperation among government agencies, central and local government cooperation, and Government and private sector cooperation should be actively promoted to tackle agendas both domestic and international. A new forum for inter-agency cooperation needs to be created for the purpose of reconstructing failed states. In light of the increasing importance of private-sector exchanges in confidence-building, the Government should consider cooperative relations with the private sectors in this field. In the field of international peace cooperation activities, the Government should promote civil-military cooperation with the NGOs in concrete terms, thereby promoting peace-building capabilities of Japan as a whole.
Agendas for a better-functioning Japan-U.S. alliance include those which relate to Japanese Government’s conventional interpretation of the Constitution concerning exercise of the right of self-defense. The current official interpretation of Japan’s Constitution does not allow Japanese defense forces to defend U.S. vessels against attack or to intercept ballistic missiles aimed at U.S. territory if such attacks were to occur prior to an armed attack situation against Japan. To prevent damage to the Japan-U.S. alliance arising from this situation, the Japanese Government must squarely tackle this issue responsibly. Of crucial importance is the question of the Government’s political will concerning what Japan should do; reviewing the above official interpretation needs to be done with this question of political will foremost in mind.
As international peace cooperation activities are evolving into multi-functional ones, Japan’s system to execute peace cooperation activities, which was formed just after the end of the Cold-War, is now partly outdated. So-called “Five Principles on Japan’s Participation in UN Peacekeeping Operations” should therefore be revised constructively. Moreover, the SDF as their own mission should be authorized to conduct protection of foreign personnel and logistic support to units from other countries as its own missions since they have nothing to do with use of force which the Constitution prohibits. If necessary, the Government should change its interpretation of the Constitution. In addition, it is of great importance that Japan possesses a permanent law regarding international peace cooperation activities which should serve as a basic law for that area.
Section 3 Broadening and Strengthening Intellectual Infrastructure
While the field of security is widening its scope, scholars will have more opportunities of joining Government’s decision making process related to security issue. At the same time, it is indispensable to improve international security environment with a range of expertise that are exchanged and shared among scholars and NGO activists as well as military and security officials. Japan should actively nurture people who can operate internationally in the field of security. Given the increasing importance of internal and international networks of think-tanks dedicated to security affairs, the modality of Japanese think-tanks and other non-profit organizations should be reconsidered so as to enable them to operate in financially stable conditions.
The Prime Minister must explain the Government’s position and measures on security issues clearly and in a timely manner, even at a time of crisis. Structures that assist the Prime Minister for strategic communication should be reinforced. The outbound communication of the Government including via websites should also be improved. So far, Japanese private sector has exerted stronger communication power. Maintenance and enrichment of the Japanese intellectual infrastructure will be the key to strengthening Japan’s communication power