[文書名] 平成23年度以降に係る防衛計画の大綱について
平成23年度以降に係る防衛計画の大綱について別紙のとおり定める。
これに伴い、平成16年12月10日付け閣議決定「平成17年度以降に係る防衛計画の大綱について」は、平成22年度限りで廃止する。
(別紙)
平成23年度以降に係る防衛計画の大綱
Ⅰ 策定の趣旨
我が国を取り巻く新たな安全保障環境の下、今後の我が国の安全保障及び防衛力の在り方について、「平成22年度の防衛力整備等について」(平成21年12月17日安全保障会議及び閣議決定)に基づき、「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」として、新たな指針を示す。
Ⅱ 我が国の安全保障における基本理念
我が国の安全保障の第一の目標は、我が国に直接脅威が及ぶことを防止し、脅威が及んだ場合にはこれを排除するとともに被害を最小化することであり、もって我が国の平和と安全及び国民の安心・安全を確保することである。第二の目標は、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化とグローバルな安全保障環境の改善により脅威の発生を予防することであり、もって自由で開かれた国際秩序を維持強化して我が国の安全と繁栄を確保することである。そして、第三の目標は、世界の平和と安定及び人間の安全保障の確保に貢献することである。
これらの目標を達成するため、我が国の外交力、防衛力等をより積極的に用い、国際の平和と安全の維持に係る国際連合の活動を支持し、諸外国との良好な協調関係を確立するなどの外交努力を推進することを含め、我が国自身の努力、同盟国との協力、アジア太平洋地域における協力、グローバルな協力等多層的な安全保障協力を統合的に推進する。
我が国は、日本国憲法の下、専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とならないとの基本理念に従い、文民統制を確保し、非核三原則を守りつつ、節度ある防衛力を整備するとの我が国防衛の基本方針を引き続き堅持する。同時に、我が国は、国連平和維持活動や、人道支援・災害救援、海賊対処等の非伝統的安全保障問題への対応を始め、国際的な安全保障環境を改善するために国際社会が協力して行う活動(以下「国際平和協力活動」という。)により積極的に取り組む。
核兵器の脅威に対しては、長期的課題である核兵器のない世界の実現へ向けて、核軍縮・不拡散のための取組に積極的・能動的な役割を果たしていく。同時に、現実に核兵器が存在する間は、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止は不可欠であり、その信頼性の維持・強化のために米国と緊密に協力していくとともに、併せて弾道ミサイル防衛や国民保護を含む我が国自身の取組により適切に対応する。
Ⅲ 我が国を取り巻く安全保障環境
1 グローバルな安全保障環境のすう勢は、相互依存関係の一層の進展により、主要国間の大規模戦争の蓋然性は低下する一方、一国で生じた混乱や安全保障上の問題の影響が直ちに世界に波及するリスクが高まっている。また、民族・宗教対立等による地域紛争に加え、領土や主権、経済権益等をめぐり、武力紛争には至らないような対立や紛争、言わばグレーゾーンの紛争は増加する傾向にある。
このような中、中国・インド・ロシア等の国力の増大ともあいまって、米国の影響力が相対的に変化しつつあり、グローバルなパワーバランスに変化が生じているが、米国は引き続き世界の平和と安定に最も大きな役割を果たしている。
我が国を含む国際社会にとって、大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散、国際テロ組織、海賊行為等への対応は引き続き差し迫った課題である。これらに加え、地域紛争や、統治機構が弱体化し、又は破綻した国家の存在もグローバルな安全保障環境に影響を与え得る課題であり、さらに、海洋、宇宙、サイバー空間の安定的利用に対するリスクが新たな課題となってきている。また、長期的には、気候変動の問題が安全保障環境にもたらす影響にも留意する必要がある。
こうしたグローバルな安全保障課題は、一国で対応することは極めて困難であり、利益を共有する国々が平素から協力することが重要となっている。
また、国際社会における軍事力の役割は一層多様化しており、武力紛争の抑止・対処、国家間の信頼醸成・友好関係の増進のほか、紛争の予防から復興支援等の平和構築、さらには非伝統的安全保障分野において、非軍事部門とも連携・協力しつつ、軍事力が重要な役割を果たす機会が増加している。
2 アジア太平洋地域においては、相互依存関係が拡大・深化する中、安全保障課題の解決のため、国家間の協力関係の充実・強化が図られており、特に非伝統的安全保障分野を中心に、問題解決に向けた具体的な協力が進展しつつある。
一方、グローバルなパワーバランスの変化はこの地域において顕著に表れている。我が国周辺地域には、依然として核戦力を含む大規模な軍事力が集中しており、多数の国が軍事力を近代化し、軍事的な活動を活発化させている。また、領土や海洋をめぐる問題や、朝鮮半島や台湾海峡等をめぐる問題が存在するなど不透明・不確実な要素が残されている。この中で、北朝鮮は、大量破壊兵器や弾道ミサイルの開発、配備、拡散等を継続するとともに、大規模な特殊部隊を保持しているほか、朝鮮半島において軍事的な挑発行動を繰り返している。北朝鮮のこのような軍事的な動きは、我が国を含む地域の安全保障における喫緊かつ重大な不安定要因であるとともに、国際的な拡散防止の努力に対する深刻な課題となっている。
大国として成長を続ける中国は、世界と地域のために重要な役割を果たしつつある。他方で、中国は国防費を継続的に増加し、核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした軍事力の広範かつ急速な近代化を進め、戦力を遠方に投射する能力の強化に取り組んでいるほか、周辺海域において活動を拡大・活発化させており、このような動向は、中国の軍事や安全保障に関する透明性の不足とあいまって、地域・国際社会の懸念事項となっている。
ロシアについては、極東地域における軍事力の規模を冷戦終結以降大幅に縮減しているものの、軍事活動は引き続き活発化の傾向にある。
このような中、米国は、日本、韓国、オーストラリア等の同盟国及びパートナー国との協力を一層重視して、二国間・多国間の枠組みを活用した安全保障関係の強化を図るなど、この地域への関与を強めている。このような取組は、アジア太平洋地域の平和と安定に重要な役割を果たすとともに、米国がグローバルな安全保障課題に取り組むための基盤ともなっている。
3 一方、我が国は、広大な海域を有し、外国からの食糧・資源や海外の市場に多くを依存する貿易立国であり、我が国の繁栄には海洋の安全確保や国際秩序の安定等が不可欠である。また、我が国は、四方を海で囲まれ長大な海岸線と多くの島嶼{嶼にショとルビ}を有するという地理的要素を持つ一方、災害が発生しやすいことに加え、都市部に産業・人口・情報基盤が集中するうえ、沿岸部に重要施設を多数抱えるといった安全保障上の脆弱性{脆にゼイとルビ}を持っている。
4 以上を踏まえると、大規模着上陸侵攻等の我が国の存立を脅かすような本格的な侵略事態が生起する可能性は低いものの、我が国を取り巻く安全保障課題や不安定要因は、多様で複雑かつ重層的なものとなっており、我が国としては、これらに起因する様々な事態(以下「各種事態」という。)に的確に対応する必要がある。また、地域の安全保障課題とともに、グローバルな安全保障課題に対し、同盟国、友好国その他の関係各国(以下「同盟国等」という。)と協力して積極的に取り組むことが重要になっている。
Ⅳ 我が国の安全保障の基本方針
1 我が国自身の努力
(1)基本的考え方
我が国の安全保障の目標を達成するための根幹となるのは自らが行う努力であるとの認織に基づき、我が国防衛の基本方針の下、同盟国等とも連携しつつ、平素から国として総力を挙げて取り組むとともに、各種事態の発生に際しては、事態の推移に応じてシームレスに対応する。
(2)統合的かつ戦略的な取組
以下により、国として統合的かつ戦略的に取り組む。
ア 関係機関における情報収集・分析能力の向上に取り組むとともに、各府省が相互に協力しつつ、より緊密な情報共有を行うことができるよう、政府横断的な情報保全体制を強化する。その際、情報収集及び情報通信機能の強化等の観点から、宇宙の開発及び利用を推進する。また、サイバー空間の安定的利用のため、サイバー攻撃への対処態勢及び対応能力を総合的に強化する。
イ 平素より、内閣官房、防衛省・自衛隊、警察、海上保安庁、外務省、法務省その他の関係機関が連携し、各種事態の発生に際しては内閣総理大臣を中心とする内閣が迅速・的確に意思決定を行い、地方公共団体等とも連携しつつ、政府一体となって対応する。このため、各種事態のシミュレーションや総合的な訓練・演習を平素から実施するなど、政府の意思決定及び対処に係る機能・体制を検証し、法的側面を含めた必要な対応について検討する。
ウ 安全保障会議を含む、安全保障に関する内閣の組織・機能・体制等を検証した上で、首相官邸に国家安全保障に関し関係閣僚間の政策調整と内閣総理大臣への助言等を行う組織を設置する。
エ 各種災害への対応や国民の保護のための各種体制を引き続き整備するとともに、国と地方公共団体等が相互に緊密に連携し、万全の態勢を整える。
オ 国際平和協力活動を始めとするグローバルな安全保障環境の改善のための取組においては、関係機関の連携はもとより、非政府組織等とも連携・協力を図ることにより効率的かつ効果的に対応する。また、国連平和維持活動の実態を踏まえ、PKO参加五原則等我が国の参加の在り方を検討する。
カ 安全保障・防衛問題に関する国民の理解を得つつ国全体としての安全保障を確保するため、我が国の安全保障・防衛政策をより分かりやすくするための努力を行う。同時に、国際社会における我が国の安全保障・防衛政策への理解を一層促進するため対外情報発信を強化する。
(3)我が国の防衛力―動的防衛力
防衛力は我が国の安全保障の最終的な担保であり、我が国に直接脅威が及ぶことを未然に防止し、脅威が及んだ場合にはこれを排除するという国家の意思と能力を表すものである。
今日の安全保障環境のすう勢下においては、安全保障課題に対し、実効的に対処し得る防衛力を構築することが重要である。特に、軍事科学技術の飛躍的な発展に伴い、兆候が現れてから各種事態が発生するまでの時間が短縮化される傾向にあること等から、事態に迅速かつシームレスに対応するためには、即応性を始めとする総合的な部隊運用能力が重要性を増してきている。また、防衛力を単に保持することではなく、平素から情報収集・警戒監視・偵察活動を含む適時・適切な運用を行い、我が国の意思と高い防衛能力を明示しておくことが、我が国周辺の安定に寄与するとともに、抑止力の信頼性を高める重要な要素となってきている。このため、装備の運用水準を高め、その活動量を増大させることによって、より大きな能力を発揮することが求められており、このような防衛力の運用に着眼した動的な抑止力を重視していく必要がある。
同時に、防衛力の役割は多様化しつつ増大しており、二国間・多国間の協力関係を強化し、国際平和協力活動を積極的に実施していくことなどが求められている。
以上の観点から、今後の防衛力については、防衛力の存在自体による抑止効果を重視した、従来の「基盤的防衛力構想」によることなく、
各種事態に対し、より実効的な抑止と対処を可能とし、アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化とグローバルな安全保障環境の改善のための活動を能動的に行い得る動的なものとしていくことが必要である。このため、即応性、機動性、柔軟性、持続性及び多目的性を備え、軍事技術水準の動向を踏まえた高度な技術力と情報能力に支えられた動的防衛力を構築する。
一層厳しさを増す安全保障環境に対応するには、適切な規模の防衛力を着実に整備することが必要である。その際、厳しい財政事情を踏まえ、本格的な侵略事態への備えとして保持してきた装備・要員を始めとして自衛隊全体にわたる装備・人員・編成・配置等の抜本的見直しによる思い切った効率化・合理化を行った上で、真に必要な機能に資源を選択的に集中して防衛力の構造的な変革を図り、限られた資源でより多くの成果を達成する。また、人事制度の抜本的な見直しにより、人件費の抑制・効率化とともに若年化による精強性の向上等を推進し、人件費の比率が高く、自衛隊の活動経費を圧迫している防衛予算の構造の改善を図る。
2 同盟国との協力
我が国は、これまで、基本的な価値を共有する超大国である米国と日米安全保障体制を中核とする同盟関係を維持しており、我が国の平和と安全を確保するためには、今後とも日米同盟は必要不可欠である。また、我が国に駐留する米軍の軍事的プレゼンスは、地域における不測の事態の発生に対する抑止及び対処力として機能しており、アジア太平洋地域の諸国に大きな安心をもたらしている。さらに、日米同盟は、多国間の安全保障協力やグローバルな安全保障課題への対応を我が国が効果的に進める上でも重要である。
こうした日米同盟の意義を踏まえ、日米同盟を新たな安全保障環境にふさわしい形で深化・発展させていく。このため、日米間で安全保障環境の評価を行いつつ、共通の戦略目標及び役割・任務・能力に関する日米間の検討を引き続き行うなど、戦略的な対話及び具体的な政策調整に継続的に取り組む。また、情報協力、計画検討作業の深化、周辺事態における協力を含む各種の運用協力、弾道ミサイル防衛における協力、装備・技術協力といった従来の分野における協力や、拡大抑止の信頼性向上、情報保全のための協議を推進する。さらに、地域における不測の事態に対する米軍の抑止及び対処力の強化を目指し、日米協力の充実を図るための措置を検討する。加えて、共同訓練、施設の共同使用等の平素からの各種協力の強化を図るとともに、国際平和協力活動等を通じた協力や、宇宙、サイバー空間における対応、海上交通の安全確保等の国際公共財の維持強化、さらには気候変動といった分野を含め、地域的及びグローバルな協力を推進する。
こうした取組と同時に、米軍の抑止力を維持しつつ、沖縄県を始めとする地元の負担軽減を図るため、在日米軍の兵力態勢の見直し等についての具体的措置を着実に実施する。また、接受国支援を始めとする在日米軍の駐留をより円滑・効果的にするための取組を積極的に推進する。
3 国際社会における多層的な安全保障協力
(1)アジア太平洋地域における協力
アジア太平洋地域において、二国間・多国間の安全保障協力を多層的に組み合わせてネットワーク化することは、日米同盟ともあいまって、同地域の安全保障環境の一層の安定化に効果的に取り組むために不可欠である。
特に、米国の同盟国であり、我が国と基本的な価値及び安全保障上の多くの利益を共有する韓国及びオーストラリアとは、二国間及び米国を含めた多国間での協力を強化する。そして、伝統的パートナーであるASEAN諸国との安全保障協力を維持・強化していく。また、アフリカ、中東から東アジアに至る海上交通の安全確保等に共通の利害を有するインドを始めとする関係各国との協力を強化する。
この地域の安全保障に大きな影響力を持つ中国やロシアとの間では、安全保障対話・交流等を通じて信頼関係を増進するとともに、非伝統的安全保障分野等における協力関係の構築・発展を図る。特に、中国との間では、戦略的互恵関係の構築の一環として、様々な分野で建設的な協力関係を強化することが極めて重要との認識の下、中国が国際社会において責任ある行動をとるよう、同盟国等とも協力して積極的な関与を行う。
多国間の安全保障協力については、ASEAN地域フォーラム(ARF)や拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)等の枠組み等を通じ、非伝統的安全保障分野を中心として、域内の秩序や規範、実際的な協力関係の構築に向け、適切な役割を果たす。
(2)国際社会の一員としての協力
グローバルな安全保障環境を改善し、我が国の安全と繁栄の確保に資するよう、紛争、テロ等の根本原因の解決等のために政府開発援助(ODA)を戦略的・効果的に活用するなど外交活動を積極的に推進する。
このような外交活動と一体となって、国際平和協力活動に積極的に取り組む。その際、我が国の知識・経験等をいかした支援に努めるとともに、我が国が置かれた諸条件を総合的に勘案して、戦略的に実施するものとする。
さらに、グローバルな安全保障課題への取組に関し、欧州連合(EU)、北大西洋条約機構(NATO)や欧州諸国とも協力関係の強化を図るとともに、海洋、宇宙、サイバー空間の安定的利用といった国際公共財の維持・強化、大量破壊兵器やミサイル等の運搬手段に関する軍縮及び拡散防止のための国際的な取組に積極的な役割を果たす。このほか、大規模災害やパンデミックに際し、人道支援・災害救援等に積極的に取り組む。
21世紀の新たな諸課題に対して、国際社会が有効に対処するためには、普遍的かつ包括的な唯一の国際機関である国際連合の機構を実効性と信頼性を高める形で改革することが求められており、我が国としても引き続き積極的にこの問題に取り組む。
Ⅴ 防衛力の在り方
1 防衛力の役割
今後の我が国の防衛力については、上記の動的防衛力という考え方の下、以下の分野において、適切にその役割を果たし得るものとする。その際、平素からの関係機関との連携を確保する。
(1)実効的な抑止及び対処
我が国周辺における各国の軍事動向を把握し、各種兆候を早期に察知するため、平素から我が国及びその周辺において常時継続的な情報収集・警戒監視・偵察活動(以下「常続監視」という。)による情報優越を確保するとともに、各種事態の展開に応じ迅速かつシームレスに対応する。また、本格的な侵略事態への備えについて、不確実な将来情勢の変化への必要最小限の備えを保持する。
その際、特に以下を重視する。
ア 周辺海空域の安全確保
周辺海空域において常続監視を行うなど同海空域の安全確保に努め、我が国の権益を侵害する行為に対して実効的に対応する。
イ 島嶼{嶼にショとルビ}部に対する攻撃への対応
島嶼{嶼にショとルビ}部への攻撃に対しては、機動運用可能な部隊を迅速に展開し、平素から配置している部隊と協力して侵略を阻止・排除する。その際、巡航ミサイル対処を含め島{嶼にショとルビ}周辺における防空態勢を確立するとともに、周辺海空域における航空優勢及び海上輸送路の安全を確保する。
ウ サイバー攻撃への対応
サイバー攻撃に対しては、自衛隊の情報システムを防護するために必要な機能を統合的に運用して対処するとともに、サイバー攻撃に関する高度な知識・技能を集積し、政府全体として行う対応に寄与する。
エ ゲリラや特殊部隊による攻撃への対応
ゲリラや特殊部隊による攻撃に対しては、機動性を重視しつつ即応性の高い部隊により迅速かつ柔軟に対応する。特に、沿岸部での潜入阻止のための警戒監視、重要施設の防護並びに侵入した部隊の捜索及び撃破を重視する。
オ 弾道ミサイル攻撃への対応
弾道ミサイル攻撃に対しては、常時継続的な警戒態勢を保持するとともに、多層的な防護態勢により迎撃回避能力を備えた弾道ミサイルにも実効的に対応する。また、万が一被害が発生した場合には、被害を局限すべく事後対処を行う。
カ 複合事態への対応
上記の事態については、複数の事態の連続的又は同時的生起も想定し、事態に応じ実効的な対応を行う。
キ 大規模・特殊災害等への対応
大規模・特殊災害等に対しては、地方公共団体等と連携・協力し、国内のどの地域においても災害救援を実施する。
(2)アジア太平洋地域の安全保障環境の一層の安定化
我が国周辺において、常続監視や訓練・演習等の各種活動を適時・適切に実施することにより、我が国周辺の安全保障環境の安定を目指す。また、アジア太平洋地域の安定化を図るため、日米同盟関係を深化させつつ、二国間・多国間の防衛協力・交流、共同訓練・演習を多層的に推進する。また、非伝統的安全保障分野において、地雷・不発弾処理等を含む自衛隊が有する能力を活用し、実際的な協力を推進するとともに、域内協力枠組みの構築・強化や域内諸国の能力構築支援に取り組む。
(3)グローバルな安全保障環境の改善
人道復興支援を始めとする平和構築や停戦監視を含む国際平和協力活動に引き続き積極的に取り組む。また、国際連合等が行う軍備管理・軍縮、不拡散等の分野における諸活動や能力構築支援に積極的に関与するとともに、同盟国等と協力して、国際テロ対策、海上交通の安全確保や海洋秩序の維持のための取組等を積極的に推進する。
2 自衛隊の態勢
自衛隊は、1で述べた防衛力の役割を実効的に果たし得るよう、各種事態等への対応に必要な態勢に加え、以下に示す態勢を保持する。
(1)即応態勢
待機態勢の保持、機動力の向上、練度・可動率の維持向上等を行い、部隊等の即応性を高め、これを適切かつ効率的に配置することにより、迅速かつ効果的に活動を行い得るようにする。また、自衛隊が動的防衛力として抑止・対処において有効に役割を果たせるよう、基地機能の抗たん性を確保するとともに、燃料、弾薬(訓練弾を含む)を確保し、維持整備に万全を期すものとする。
(2)統合運用態勢
迅速かつ効果的な対処に必要な情報収集態勢を保持するほか、衛星通信を含む高度な情報通信ネットワークを活用した指揮統制機能及び情報共有態勢並びにサイバー攻撃対処態勢を保持することにより、統合運用を円滑に実施し得るようにする。
(3)国際平和協力活動の態勢
多様な任務、迅速な派遣、長期の活動にも対応し得る能力、態勢等の充実を図ることにより、国際平和協力活動を積極的に実施し得るようにする。
3 自衛隊の体制
(1)基本的な考え方
自衛隊は、2で述べた態勢を保持しつつ、1で述べた防衛力の役割を効果的に果たし得る体制を効率的に保持することとする。
その際、効果的・効率的な防衛力整備を行う観点から、各種の活動に活用し得る機能、非対称的な対応能力を有する機能及び非代替的な機能を優先的に整備する。具体的には、冷戦型の装備・編成を縮減し、部隊の地理的配置や各自衛隊の運用を適切に見直すとともに、南西地域も含め、警戒監視、洋上哨戒、防空、弾道ミサイル対処、輸送、指揮通信等の機能を重点的に整備し、防衛態勢の充実を図る。
さらに、各自衛隊に係る予算配分についても、安全保障環境の変化に応じ、前例にとらわれず、縦割りを排除し総合的な見地から思い切った見直しを行う。
また、統合運用の推進や日米共同による対処態勢構築の推進等の観点から、陸上自衛隊の作戦基本部隊(師団・旅団)及び方面隊の在り方について、指揮・管理機能の効率化にも留意しつつ、総合的に検討する。
なお、本格的な侵略事態への備えについては、不確実な将来情勢の変化に対応するための最小限の専門的知見や技能の維持に必要な範囲に限り保持することとする。
(2)体制整備に当たっての重視事項
自衛隊の体制整備に当たっては、次の事項を重視する。
ア 統合の強化
統合の強化に向け、統合幕僚監部の機能の強化を始め、指揮統制、情報収集、教育訓練等の統合運用基盤を強化する。また、輸送、衛生、高射、救難、調達・補給・整備、駐屯地・基地業務等、各自衛隊に横断的な機能について、整理、共同部隊化、集約・拠点化等により、統合の観点から効果的かつ効率的な体制を整備する。
イ 島嶼部における対応能力の強化
自衛隊配備の空白地域となっている島嶼{嶼にショとルビ}部について、必要最小限の部隊を新たに配置するとともに、部隊が活動を行う際の拠点、機動力、輸送能力及び実効的な対処能力を整備することにより、島嶼{嶼にショとルビ}部への攻撃に対する対応や周辺海空域の安全確保に関する能力を強化する。
ウ 国際平和協力活動への対応能力の強化
各種装備品等の改修、海上及び航空輸送力の整備、後方支援態勢の強化を行うほか、施設・衛生等の機能や教育訓練体制の充実を図ることにより、国際平和協力活動への対応能力を強化する。
エ 情報機能の強化
各種事態の兆候を早期に察知し、情報収集・分析・共有等を適切に行うため、宇宙分野を含む技術動向等を踏まえた多様な情報収集能力や情報本部等の総合的な分析・評価能力等を強化し、情報・運用・政策の各部門を通じた情報共有体制を整備する。また、自衛隊の海外派遣部隊等が円滑かつ安全に任務を行い得るよう地理情報等の情報収集能力を強化するなど、遠隔地での活動に対する情報支援を適切に行う体制を整備する。さらに、関係国との情報協力・交流の拡大・強化に取り組む。
オ 科学技術の発展への対応
高度な技術力と情報能力に支えられた防衛力を整備するため、各種の技術革新の成果を防衛力に的確に反映させる。特に、高度な指揮通信システムや情報通信ネットワークを整備することにより、確実な指揮命令と迅速な情報共有を確保するとともに、サイバー攻撃対処を統合的に実施する体制を整備する。
カ 効率的・効果的な防衛力整備
格段に厳しさを増す財政事情を勘案し、一層の効率化・合理化を図り、経費を抑制するとともに、国の他の諸施策との調和を図りつつ防衛力全体として円滑に十全な機能を果たし得るようにする。このため、事業の優先順位を明確にして選択と集中を行うとともに、Ⅵの取組を推進する。
(3)各自衛隊の体制
ア 陸上自衛隊
(ア)各種の機能を有機的に連携させ、各種事態に有効に対応し得るよう、高い機動力や警戒監視能力を備え、各地に迅速に展開することが可能で、かつ国際平和協力活動等様な任務を効果的に遂行し得る部隊を、地域の特性に応じて適切に配置する。この際、自衛隊配備の空白地域となっている島嶼部{嶼にショとルビ}の防衛についても重視するとともに、部隊の編成及び人的構成を見直し、効率化・合理化を徹底する。
(イ)航空輸送、空挺、特殊武器防護、特殊作戦及び国際平和協力活動等に有効に対応し得るよう、専門的機能を備えた機動運用部隊を保持する。
(ウ)作戦部隊及び重要地域の防空を有効に行い得るよう、地対空誘導弾部隊を保持する。
イ 海上自衛隊
(ア)平素からの情報収集・警戒監視、対潜戦等の各種作戦の効果的な遂行による周辺海域の防衛や海上交通の安全確保及び国際平和協力活動等を実施し得るよう、機動的に運用する護衛艦部隊及び艦載回転翼哨戒機部隊を保持する。また、当該艦艇部隊は、ウ(ウ)の地対空誘導弾部隊とともに、弾道ミサイル攻撃から我が国全体を多層的に防護し得る機能を備えたイージス・システム搭載護衛艦を保持する。
(イ)水中における情報収集・警戒監視を平素から我が国周辺海域で広域にわたり実施するとともに、周辺海域の哨戒を有効に行い得るよう、増強された潜水艦部隊を保持する。
(ウ)洋上における情報収集・警戒監視を平素から我が国周辺海域で広域にわたり実施するとともに、周辺海域の哨戒を有効に行い得るよう、固定翼哨戒機部隊を保持する。
(エ)我が国周辺海域の掃海を有効に行い得るよう、掃海部隊を保持する。
ウ 航空自衛隊
(ア)我が国周辺のほぼ全空域を常時継続的に警戒監視するとともに、我が国に飛来する弾道ミサイルを探知・追尾するほか、必要とする場合に警戒管制を有効に行い得るよう、航空警戒管制部隊を保持する。
(イ)戦闘機とその支援機能が一体となって我が国の防空等を総合的な態勢で行い得るよう、(ア)の航空警戒管制部隊に加え、能力の高い新戦闘機を保有する戦闘機部隊、航空偵察部隊、国際平和協力活動等を効果的に実施し得る航空輸送部隊及び空中給油・輸送部隊を保持する。
(ウ)重要地域の防空を実施するとともに、イ(ア)のイージス・システム搭載護衛艦とともに、弾道ミサイル攻撃から我が国全体を多層的に防護し得る機能を備えた地対空誘導弾部隊を保持する。「主要な編成、装備等の具体的規模は、別表のとおりとする。
Ⅵ 防衛力の能力発揮のための基盤
防衛力の整備、維持及び運用を効率的・効果的に行うため、以下を重視する。
(1)人的資源の効果的な活用
隊員の高い士気及び厳正な規律の保持のための各種施策を推進する。社会の少子化・高学歴化と自衛隊の任務の多様化等に的確に対応し得るよう、質の高い人材の確保・育成を図り、必要な教育訓練を実施するとともに、隊員の壮健性維持に資する衛生基盤等を整備する。また、安全保障問題に関する研究・教育を推進し、同問題に係る知的基盤を充実・強化する。さらに、過酷又は危険な任務の遂行に対して適切な処遇が確保されるよう、制度全般について見直しを行う。
同時に、自衛隊全体の人員規模及び人員構成を適切に管理し、精強性を確保する。その際、自衛隊が遂行すべき任務や体力、経験、技能等のバランスに留意しつつ士を増勢し、幹部及び准曹の構成比率を引き下げ、階級及び年齢構成の在り方を見直す。さらに、人員配置の適正化の観点から自衛官の職務の再整理を行い、第一線部隊等に若年隊員を優先的に充当するとともに、その他の職務について最適化された給与等の処遇を適用するなど、国家公務員全体の人件費削減の方向性に沿った人事施策の見直しを含む人事制度改革を実施する。以上に加え、民間活力の一層の有効活用等により、後方業務の効率化等、人員の一層の合理化を進め、人件費を抑制することにより、厳しい財政事情の中で有効な防衛力を確保する。この際、社会における退職自衛官の有効活用を図り、公的部門での受入れを含む再就職援護や退職後の礼遇等に関する施策を推進し、これらと一体のものとして早期退職制度等の導入を図る。また、官民の協力や人的交流を積極的に進める。
(2)装備品等の運用基盤の充実
装備品等の維持整備を効率的かつ効果的に行い、可動率を高い水準で維持するなど防衛力の運用に不可欠な装備品等の運用基盤の充実を図る。
(3)装備品取得の一層の効率化
契約に係る制度全般の改善や短期集中調達・一括調達等効率的な調達方式の一層の採用を図るなど、調達価格を含むライフサイクルコストの抑制を更に徹底し、費用対効果を高める。また、外部監査制度の充実を進め、調達の透明性を向上させる。
(4)防衛生産・技術基盤の維持・育成
安全保障の重要性の観点から、防衛生産・技術基盤について、真に国内に保持すべき重要なものを特定し、その分野の維持・育成に注力して、選択と集中の実現により安定的かつ中長期的な防衛力の維持整備を行うため、防衛生産・技術基盤に関する戦略を策定する。
(5)防衛装備品をめぐる国際的な環境変化に対する方策の検討
平和への貢献や国際的な協力において、自衛隊が携行する重機等の装備品の活用や被災国等への装備品の供与を通じて、より効果的な協力ができる機会が増加している。また、国際共同開発・生産に参加することで、装備品の高性能化を実現しつつ、コストの高騰に対応することが先進諸国で主流になっている。このような大きな変化に対応するための方策について検討する。
(6)防衛施設と周辺地域との調和
関係地方公共団体との緊密な協力の下、防衛施設の効率的な維持及び整備を推進するため、当該施設の周辺地域とのより一層の調和を図るための諸施策を実施する。
Ⅶ 留意事項
1 この大綱に定める防衛力の在り方は、おおむね10年後までを念頭に置き、防衛力の変革を図るものであるが、情勢に重要な変化が生じた場合には、その時点における安全保障環境、技術水準の動向等を勘案し検討を行い、必要な修正を行う。
2 この大綱に定める防衛力へ円滑・迅速・的確な移行が行われるよう、計画的な移行管理を行うとともに、事後検証を行う。また、1の見直しに資するため、あるべき防衛力の姿について不断の検討を行う。
別表
陸上自衛隊 | 編成定数 常備自衛官定員 即応予備自衛官員数 | 15万4千人 14万7千人 7千人 |
|
基幹部隊 | 平素地域配備する部隊 | 8個師団 6個旅団 |
機動運用部隊 | 中央即応集団 1個機甲師団 |
地対空誘導弾部隊 | 7個高射特科群/連隊 | ||
主要装備 | 戦車 火砲 | 約400両 約400門/両 |
|
海上自衛隊 | 基幹部隊 | 護衛艦部隊 潜水艦部隊 掃海部隊 哨戒機部隊
| 4個護衛隊群(8個護衛隊) 4個護衛隊 6個潜水隊 1個掃海隊群 9個航空隊 |
主要装備 | 護衛艦 潜水艦 作戦用航空機 | 48隻 22隻 約150機 |
|
航空自衛隊 | 基幹部隊 | 航空警戒管制部隊 戦闘機部隊 航空偵察部隊 航空輸送部隊 空中給油・輸送部隊 地対空誘導弾部隊 | 4個警戒群 24個警戒隊 1個警戒航空隊(2個飛行隊) 12個飛行隊 1個飛行隊 3個飛行隊 1個飛行隊 6個高射群 |
主要装備 | 作戦用航空機 うち戦闘機 | 約340機 約260機 |
|
弾道ミサイル防衛にも使用 し得るイージス・システム 搭載護衛艦・基幹部隊
| イージス・システム搭載護衛艦 | 6隻 | |
航空警戒管制部隊 地対空誘導弾部隊 | 11個警戒群/隊 6個高射群 |
注1:「弾道ミサイル防衛にも使用し得る主要装備・基幹部隊」は海上自衛隊の主要装備又は航空自衛隊の基幹部隊の内数。
注2:弾道ミサイル防衛機能を備えたイージス・システム搭載護衛艦については、弾道ミサイル防衛関連技術の進展、財政事情等を踏まえ、別途定める場合には、上記の護衛艦隻数の範囲内で、追加的な整備を行い得るものとする。