データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 人間の安全保障に関する国連総会決議(A/RES/66/290):人間の安全保障に関する2005年世界サミット成果文書パラグラフ第143のフォローアップ決議

[場所] 
[年月日] 2012年9月10日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

総会は,

 国際連合憲章及び国際法の目的及び原則への誓約を再確認し,

 2005年世界サミット成果文書,特にパラグラフ第143,及び2010年7月27日の国連総会決議64/291を想起し,

 開発,人権並びに平和及び安全は国連の3つの柱であり,相互に連関し補強し合うものであることを認め,

1. 人間の安全保障に関する国連総会決議64/291のフォローアップである国連事務総長報告(66/763)を評価しつつ留意する。

2. 2012年6月4日に国連総会議長により開催された人間の安全保障に関する公式討論に留意する。

3.人間の安全保障は,加盟国が人々の生存,生計及び尊厳に対する広範かつ分野横断的な課題を特定し対処することを補助するアプローチであることに合意する。これに基づき,人間の安全保障の概念に関する共通理解は以下を含む。

(a)人々が自由と尊厳の内に生存し,貧困と絶望から免れて生きる権利。すべての人々,特に脆弱な人々は,すべての権利を享受し彼らの持つ人間としての可能性を開花させる機会を平等に有し,恐怖からの自由と欠乏からの自由を享受する権利を有すること。

(b)人間の安全保障は,すべての人々及びコミュニティの保護と能力強化に資する,人間中心の,包括的で,文脈に応じた,予防的な対応を求めるものであること。

(c)人間の安全保障は,平和,開発及び人権の相互連関性を認識し,市民的,政治的,経済的,社会的及び文化的権利を等しく考慮に入れるものであること。

(d)人間の安全保障の概念は保護する責任及びその履行とは異なること。

(e)人間の安全保障は武力による威嚇若しくは武力行使又は強制措置を求めるものではないこと。人間の安全保障は国家の安全保障を代替するものではないこと。

(f)人間の安全保障は国家のオーナーシップに基づくものであること。人間の安全保障に関する政治的,経済的,社会的及び文化的な状況は,国家間及び国内並びに時代によって大きく異なることから,人間の安全保障は地域の実情に即した国家による対応を強化するものであること。

(g)政府は市民の生存,生計及び尊厳を確保する一義的な役割及び責任を有すること。国際社会は政府の求めに応じ,現在及び将来の危機に対処する政府の能力の強化に必要な支援を提供し補完する役割を担うこと。人間の安全保障は,政府,国際機関及び地域機関並びに市民社会の更なる協調とパートナーシップを求めるものであること。

(h)人間の安全保障は,国家主権の尊重,領土保全及び本質上国家の国内管轄権内にある事項への不干渉といった国連憲章の目的と理念を尊重して実践されなければならないこと。人間の安全保障は国家に追加的な法的義務を課すものではないこと。

4. 開発,平和及び安全並びに人権は国連の柱であり,相互に関連し補強し合うものである一方で,開発を達成することはそれ自体が中心的な目標であり,人間の安全保障の促進は,持続可能な開発とミレニアム開発目標を含む国際的な開発目標の実現に貢献すべきであることを認める。

5. 国連人間の安全保障基金によるこれまでの貢献を認識し,加盟国に対し,同基金への自発的な拠出の検討を行うよう求める。

6. 国連人間の安全保障基金により支援を受けるプロジェクトは,受益国の同意を得るとともに,国家のオーナーシップを確保するため,国家戦略と国家の優先事項に沿ったものであるべきであることを確認する。

7. この決議の規定に従い,人間の安全保障に関する国連総会での議論を継続することを決定する。

8. 事務総長に対し,本決議の履行に関する報告書を第68会期国連総会に提出すること,及び当該報告書に含めるため,本決議の履行や,国際的,地域的,国内的な人間の安全保障の実践から得られた教訓についての加盟国の見解を求めることを要請する。

2012年9月10日,コンセンサスにより採択

共同提案国:我が国を含む以下25カ国が共同提案国となった。豪,ベナン,チリ,コスタリカ,フィジー,ホンジュラス,日本,ケニア,ヨルダン,リベリア,マダガスカル,メキシコ,ミクロネシア,モンゴル,ナウル,パラオ,パナマ,PNG,フィリピン,韓国,サモア,セネガル,タイ,チュニジア,ウガンダ