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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国家安全保障戦略について

[場所] 
[年月日] 2013年12月17日
[出典] 首相官邸
[備考] 国家安全保障会議決定 閣議決定
[全文]

平成25年12月17日

国家安全保障会議決定

閣議決定



 国家安全保障戦略について別紙のとおり定める。

 本決定は、「国防の基本方針について」(昭和32年5月20日国防会議及び閣議決定)に代わるものとする。



(別紙)

国家安全保障戦略


I 策定の趣旨

 政府の最も重要な責務は、我が国の平和と安全を維持し、その存立を全うすることである。我が国の安全保障(以下「国家安全保障」という。)をめぐる環境が一層厳しさを増している中、豊かで平和な社会を引き続き発展させていくためには、我が国の国益を長期的視点から見定めた上で、国際社会の中で我が国の進むべき針路を定め、国家安全保障のための方策に政府全体として取り組んでいく必要がある。

 我が国は、これまでも、地域及び世界の平和と安定及び繁栄に貢献してきた。グローバル化が進む世界において、我が国は、国際社会における主要なプレーヤーとして、これまで以上に積極的な役割を果たしていくべきである。

 このような認識に基づき、国家安全保障に関する基本方針を示すため、ここに国家安全保障戦略を策定する。

 本戦略では、まず、我が国の平和国家としての歩みと、我が国が掲げるべき理念である、国際協調主義に基づく積極的平和主義を明らかにし、国益について検証し、国家安全保障の目標を示す。その上で、我が国を取り巻く安全保障環境の動向を見通し、我が国が直面する国家安全保障上の課題を特定する。そして、そのような課題を克服し、目標を達成するためには、我が国が有する多様な資源を有効に活用し、総合的な施策を推進するとともに、国家安全保障を支える国内基盤の強化と内外における理解の促進を図りつつ、様々なレベルにおける取組を多層的かつ協調的に推進することが必要との認識の下、我が国がとるべき外交政策及び防衛政策を中心とした国家安全保障上の戦略的アプローチを示している。

 また、本戦略は、国家安全保障に関する基本方針として、海洋、宇宙、サイバー、政府開発援助(ODA)、エネルギー等国家安全保障に関連する分野の政策に指針を与えるものである。

 政府は、本戦略に基づき、国家安全保障会議(NSC)の司令塔機能の下、政治の強力なリーダーシップにより、政府全体として、国家安全保障政策を一層戦略的かつ体系的なものとして実施していく。

 さらに、国の他の諸施策の実施に当たっては、本戦略を踏まえ、外交力、防衛力等が全体としてその機能を円滑かつ十全に発揮できるよう、国家安全保障上の観点を十分に考慮するものとする。

 本戦略の内容は、おおむね10年程度の期間を念頭に置いたものであり、各種政策の実施過程を通じ、NSCにおいて、定期的に体系的な評価を行い、適時適切にこれを発展させていくこととし、情勢に重要な変化が見込まれる場合には、その時点における安全保障環境を勘案し検討を行い、必要な修正を行う。


II 国家安全保障の基本理念

1 我が国が掲げる理念

 我が国は、豊かな文化と伝統を有し、自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を掲げ、高い教育水準を持つ豊富な人的資源と高い文化水準を擁し、開かれた国際経済システムの恩恵を受けつつ発展を遂げた、強い経済力及び高い技術力を有する経済大国である。

 また、我が国は、四方を海に囲まれて広大な排他的経済水域と長い海岸線に恵まれ、海上貿易と海洋資源の開発を通じて経済発展を遂げ、「開かれ安定した海洋」を追求してきた海洋国家としての顔も併せ持つ。

 我が国は、戦後一貫して平和国家としての道を歩んできた。専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本方針を堅持してきた。

 また、我が国と普遍的価値や戦略的利益を共有する米国との同盟関係を進展させるとともに、各国との協力関係を深め、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現してきている。さらに、我が国は、人間の安全保障の理念に立脚した途上国の経済開発や地球規模課題の解決への取組、他国との貿易・投資関係を通じて、国際社会の安定と繁栄の実現に寄与している。特に東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国を始めとするアジア諸国は、こうした我が国の協力も支えとなって、安定と経済成長を達成し、多くの国々が民主主義を実現してきている。

 加えて、我が国は、平和国家としての立場から、国連憲章を遵守しながら、国連を始めとする国際機関と連携し、それらの活動に積極的に寄与している。特に冷戦の終結に伴い、軍事力の役割が多様化する中で、国連平和維持活動(PKO)を含む国際平和協力活動にも継続的に参加している。また、世界で唯一の戦争被爆国として、軍縮・不拡散に積極的に取り組み、「核兵器のない世界」を実現させるため、国際社会の取組を主導している。

 こうした我が国の平和国家としての歩みは、国際社会において高い評価と尊敬を勝ち得てきており、これをより確固たるものにしなければならない。

 他方、現在、我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していることや、我が国が複雑かつ重大な国家安全保障上の課題に直面していることに鑑みれば、国際協調主義の観点からも、より積極的な対応が不可欠となっている。我が国の平和と安全は我が国一国では確保できず、国際社会もまた、我が国がその国力にふさわしい形で、国際社会の平和と安定のため一層積極的な役割を果たすことを期待している。

 これらを踏まえ、我が国は、今後の安全保障環境の下で、平和国家としての歩みを引き続き堅持し、また、国際政治経済の主要プレーヤーとして、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していく。このことこそが、我が国が掲げるべき国家安全保障の基本理念である。


2 我が国の国益と国家安全保障の目標

 国家安全保障の基本理念を具体的政策として実現するに当たっては、我が国の国益と国家安全保障の目標を明確にし、絶えず変化する安全保障環境に当てはめ、あらゆる手段を尽くしていく必要がある。

 我が国の国益とは、まず、我が国自身の主権・独立を維持し、領域を保全し、我が国国民の生命・身体・財産の安全を確保することであり、豊かな文化と伝統を継承しつつ、自由と民主主義を基調とする我が国の平和と安全を維持し、その存立を全うすることである。

 また、経済発展を通じて我が国と我が国国民の更なる繁栄を実現し、我が国の平和と安全をより強固なものとすることである。そのためには、海洋国家として、特にアジア太平洋地域において、自由な交易と競争を通じて経済発展を実現する自由貿易体制を強化し、安定性及び透明性が高く、見通しがつきやすい国際環境を実現していくことが不可欠である。

 さらに、自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値やルールに基づく国際秩序を維持・擁護することも、同様に我が国にとっての国益である。

 これらの国益を守り、国際社会において我が国に見合った責任を果たすため、国際協調主義に基づく積極的平和主義を我が国の国家安全保障の基本理念として、以下の国家安全保障の目標の達成を図る。

 第1の目標は、我が国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために、必要な抑止力を強化し、我が国に直接脅威が及ぶことを防止するとともに、万が一脅威が及ぶ場合には、これを排除し、かつ被害を最小化することである。

 第2の目標は、日米同盟の強化、域内外のパートナーとの信頼・協力関係の強化、実際的な安全保障協力の推進により、アジア太平洋地域の安全保障環境を改善し、我が国に対する直接的な脅威の発生を予防し、削減することである。

 第3の目標は、不断の外交努力や更なる人的貢献により、普遍的価値やルールに基づく国際秩序の強化、紛争の解決に主導的な役割を果たし、グローバルな安全保障環境を改善し、平和で安定し、繁栄する国際社会を構築することである。


III 我が国を取り巻く安全保障環境と国家安全保障上の課題

1 グローバルな安全保障環境と課題

(1)パワーバランスの変化及び技術革新の急速な進展

 今世紀に入り、国際社会において、かつてないほどパワーバランスが変化しており、国際政治の力学にも大きな影響を与えている。

 パワーバランスの変化の担い手は、中国、インド等の新興国であり、特に中国は、国際社会における存在感をますます高めている。他方、米国は、国際社会における相対的影響力は変化しているものの、軍事力や経済力に加え、その価値や文化を源としたソフトパワーを有することにより、依然として、世界最大の総合的な国力を有する国である。また、自らの安全保障政策及び経済政策上の重点をアジア太平洋地域にシフトさせる方針(アジア太平洋地域へのリバランス)を明らかにしている。

 こうしたパワーバランスの変化は、国際政治経済の重心の大西洋から太平洋への移動を促したものの、世界貿易機関(WTO)の貿易交渉や国連における気候変動交渉の停滞等、国際社会全体の統治構造(ガバナンス)において、強力な指導力が失われつつある一因ともなっている。

 また、グローバル化の進展や技術革新の急速な進展は、国家間の相互依存を深める一方、国家と非国家主体との間の相対的影響力の変化を助長するなど、グローバルな安全保障環境に複雑な影響を与えている。

 主権国家は、引き続き国際社会における主要な主体であり、国家間の対立や協調が国際社会の安定を左右する最大の要因である。しかし、グローバル化の進展により、人、物、資本、情報等の国境を越えた移動が容易になった結果、国家以外の主体も、国際社会における意思決定により重要な役割を果たしつつある。

 同時に、グローバル化や技術革新の進展の負の側面として、非国家主体によるテロや犯罪が国家の安全保障を脅かす状況が拡大しつつある。加えて、こうした脅威が、世界のどの地域において発生しても、瞬時に地球を回り、我が国の安全保障にも直接的な影響を及ぼし得る状況になっている。

(2)大量破壊兵器等の拡散の脅威

 我が国は、世界で唯一の戦争被爆国として、核兵器使用の悲惨さを最も良く知る国であり、「核兵器のない世界」を目指すことは我が国の責務である。

 核・生物・化学(NBC)兵器等の大量破壊兵器及びそれらの運搬手段となり得る弾道ミサイル等の移転・拡散・性能向上に係る問題は、依然として我が国や国際社会にとっての大きな脅威となっている。特に北朝鮮による核・ミサイル開発問題やイランの核問題は、単にそれぞれの地域の問題というより、国際社会全体の平和と安定に対する重大な脅威である。さらに、従来の抑止が有効に機能しにくい国際テロ組織を始めとする非国家主体による大量破壊兵器等の取得・使用についても、引き続き懸念されている。

(3)国際テロの脅威

 テロ事件は世界各地で発生しており、国際テロ組織によるテロの脅威は依然として高い。グローバル化の進展により、国際テロ組織にとって、組織内又は他の組織との間の情報共有・連携、地理的アクセスの確保や武器の入手等がより容易になっている。

 こうした中、国際テロ組織は、政情が不安定で統治能力が脆弱な国家・地域を活動や訓練の拠点として利用し、テロを実行している。加えて、かかる国際組織のイデオロギーに共鳴した他の組織や個人がテロ実行主体となる例も見られるなど、国際テロの拡散・多様化が進んでいる。

 また、我が国が一部の国際テロ組織から攻撃対象として名指しされている上、現に海外において邦人や我が国の権益が被害を受けるテロが発生しており、我が国及び国民は、国内外において、国際テロの脅威に直面している。

 こうした国際テロについては、実行犯及び被害者の多国籍化が見られ、国際協力による対処がますます重要になっている。

(4)国際公共財(グローバル・コモンズ)に関するリスク

 近年、海洋、宇宙空間、サイバー空間といった国際公共財(グローバル・コモンズ)に対する自由なアクセス及びその活用を妨げるリスクが拡散し、深刻化している。

 海洋は、国連海洋法条約に代表される海洋に関する国際法によって規律されているものの、既存の国際法を尊重せずに力を背景とした一方的な現状変更を図る動きが増加しつつある。また、宇宙空間やサイバー空間においては、各国間の立場の違いにより、適用されるべき規範の確立が発展途上にある。

 こうしたリスクに効果的に対処するため、適切な国際的ルール作りを進め、当該ルールを尊重しつつ国際社会が協力して取り組むことが、経済の発展のみならず安全保障の観点からも一層重要な課題となっている。

 「開かれ安定した海洋」は、世界の平和と繁栄の基盤であり、各国は、自ら又は協力して、海賊、不審船、不法投棄、密輸・密入国、海上災害への対処や危険物の除去といった様々な課題に取り組み、シーレーンの安定を図っている。

 しかし、近年、資源の確保や自国の安全保障の観点から、各国の利害が衝突する事例が増えており、海洋における衝突の危険性や、それが更なる不測の事態に発展する危険性も高まっている。

 特に南シナ海においては、領有権をめぐって沿岸国と中国との間で争いが発生しており、海洋における法の支配、航行の自由や東南アジア地域の安定に懸念をもたらしている。また、我が国が資源・エネルギーの多くを依存している中東地域から我が国近海に至るシーレーンは、その沿岸国における地域紛争及び国際テロ、加えて海賊問題等の諸問題が存在するため、その脆弱性が高まっている。こうした問題への取組を進めることが、シーレーンの安全を維持する上でも重要な課題となっている。

 さらに、北極海では、航路の開通、資源開発等の様々な可能性の広がりが予測されている。このため、国際的なルールの下に各国が協力して取り組むことが期待されているが、同時に、このことが国家間の新たな摩擦の原因となるおそれもある。

 宇宙空間は、これまでも民生分野で活用されてきているが、情報収集や警戒監視機能の強化、軍事のための通信手段の確保等、近年は安全保障上も、その重要性が著しく増大している。

 他方、宇宙利用国の増加に伴って宇宙空間の混雑化が進んでおり、衛星破壊実験や人工衛星同士の衝突等による宇宙ゴミ(スペースデブリ)の増加、対衛星兵器の開発の動きを始めとして、持続的かつ安定的な宇宙空間の利用を妨げるリスクが存在している。

 また、情報システムや情報通信ネットワーク等により構成されたグローバルな空間であるサイバー空間は、社会活動、経済活動、軍事活動等のあらゆる活動が依拠する場となっている。

 一方、国家の秘密情報の窃取、基幹的な社会インフラシステムの破壊、軍事システムの妨害を意図したサイバー攻撃等によるリスクが深刻化しつつある。

 我が国においても、社会システムを始め、あらゆるものがネットワーク化されつつある。このため、情報の自由な流通による経済成長やイノベーションを推進するために必要な場であるサイバー空間の防護は、我が国の安全保障を万全とするとの観点から、不可欠である。

(5)「人間の安全保障」に関する課題

 グローバル化が進み、人、物、資本、情報等が大量かつ短時間で国境を越えて移動することが可能となり、国際経済活動が拡大したことにより、国際社会に繁栄がもたらされている。

 一方、貧困、格差の拡大、感染症を含む国際保健課題、気候変動その他の環境問題、食料安全保障、更には内戦、災害等による人道上の危機といった一国のみでは対応できない地球規模の問題が、個人の生存と尊厳を脅かす人間の安全保障上の重要かつ緊急な課題となっている。こうした中、国際社会が開発分野において達成すべき共通の目標であるミレニアム開発目標(MDGs)は、一部の地域、分野において達成が困難な状況にある。また、今後、途上国の人口増大や経済規模の拡大によるエネルギー、食料、水資源の需要増大が、新たな紛争の原因となるおそれもある。

 これらの問題は、国際社会の平和と安定に影響をもたらす可能性があり、我が国としても、人間の安全保障の理念に立脚した施策等を推進する必要がある。

(6)リスクを抱えるグローバル経済

 グローバル経済においては、世界経済から切り離された自己完結的な経済は存在し難く、一国の経済危機が世界経済全体に伝播するリスクが高まっている。こうした傾向は、金融経済において顕著にみられる。また、分業化を背景に国境を越えてバリューチェーン・サプライチェーンが構築されている今日においては、実体経済においても同様の傾向が生じている。

 このような状況の下で、財政問題の懸念や新興国経済の減速等も生じており、新興国や開発途上国の一部からは、保護主義的な動きや新たな貿易ルール作りに消極的な姿勢も見られるようになっている。

 さらに、近年、エネルギー分野における技術革新が進展する中、資源国による資源ナショナリズムの高揚や、新興国を中心としたエネルギー・鉱物資源の需要増加とそれに伴う資源獲得競争の激化等が見られる。また、食料や水についても、気候変動に伴う地球環境問題の深刻化もあり、世界的な需給の逼迫や一時的な供給問題発生のリスクが存在する。


2 アジア太平洋地域における安全保障環境と課題

(1)アジア太平洋地域の戦略環境の特性

 グローバルなパワーバランスの変化は、国際社会におけるアジア太平洋地域の重要性を高め、安全保障面における協力の機会を提供すると同時に、この地域における問題・緊張も生み出している。

 特に北東アジア地域には、大規模な軍事力を有する国家等が集中し、核兵器を保有又は核開発を継続する国家等も存在する一方、安全保障面の地域協力枠組みは十分に制度化されていない。域内各国の政治・経済・社会体制の違いは依然として大きく、このために各国の安全保障観が多様である点も、この地域の戦略環境の特性である。

 こうした背景の下、パワーバランスの変化に伴い生じる問題や緊張に加え、領域主権や権益等をめぐり、純然たる平時でも有事でもない事態、いわばグレーゾーンの事態が生じやすく、これが更に重大な事態に転じかねないリスクを有している。

 一方、アジア太平洋地域においては、域内諸国の二国間交流と協力の機会の増加がみられるほか、ASEAN地域フォーラム(ARF)等の多国間の安全保障対話や二国間・多国間の共同訓練等も行われ、相互理解の深化と共同対処能力の向上につながっている。地域の安定を確保するためには、こうした重層的な取組を一層促進・発展させていくことが重要である。

(2)北朝鮮の軍事力の増強と挑発行為

 朝鮮半島においては、韓国と北朝鮮双方の大規模な軍事力が対峙している。北朝鮮は、現在も深刻な経済困難に直面しており、人権状況も全く改善しない一方で、軍事面に資源を重点的に配分している。

 また、北朝鮮は、核兵器を始めとする大量破壊兵器や弾道ミサイルの能力を増強するとともに、朝鮮半島における軍事的な挑発行為や我が国に対するものも含め様々な挑発的言動を繰り返し、地域の緊張を高めている。

 特に北朝鮮による米国本土を射程に含む弾道ミサイルの開発や、核兵器の小型化及び弾道ミサイルへの搭載の試みは、我が国を含む地域の安全保障に対する脅威を質的に深刻化させるものである。また、大量破壊兵器等の不拡散の観点からも、国際社会全体にとって深刻な課題となっている。

 さらに、金正恩国防委員会第1委員長を中心とする体制確立が進められる中で、北朝鮮内の情勢も引き続き注視していく必要がある。

 加えて、北朝鮮による拉致問題は我が国の主権と国民の生命・安全に関わる重大な問題であり、国の責任において解決すべき喫緊の課題である。また、基本的人権の侵害という国際社会の普遍的問題である。

(3)中国の急速な台頭と様々な領域への積極的進出

 中国は、国際的な規範を共有・遵守するとともに、地域やグローバルな課題に対して、より積極的かつ協調的な役割を果たすことが期待されている。一方、継続する高い国防費の伸びを背景に、十分な透明性を欠いた中で、軍事力を広範かつ急速に強化している。加えて、中国は、東シナ海、南シナ海等の海空域において、既存の国際法秩序とは相容れない独自の主張に基づき、力による現状変更の試みとみられる対応を示している。とりわけ、我が国の尖閣諸島付近の領海侵入及び領空侵犯を始めとする我が国周辺海空域における活動を急速に拡大・活発化させるとともに、東シナ海において独自の「防空識別区」を設定し、公海上空の飛行の自由を妨げるような動きを見せている。

 こうした中国の対外姿勢、軍事動向等は、その軍事や安全保障政策に関する透明性の不足とあいまって、我が国を含む国際社会の懸念事項となっており、中国の動向について慎重に注視していく必要がある。

 また、台湾海峡を挟んだ両岸関係は、近年、経済分野を中心に結びつきを深めている。一方、両岸の軍事バランスは変化しており、両岸関係には安定化の動きと潜在的な不安定性が併存している。


IV 我が国がとるべき国家安全保障上の戦略的アプローチ

 国家安全保障の確保のためには、まず我が国自身の能力とそれを発揮し得る基盤を強化するとともに、自らが果たすべき役割を着実に果たしつつ、状況の変化に応じ、自身の能力を適応させていくことが必要である。

 経済力及び技術力の強化に加え、外交力、防衛力等を強化し、国家安全保障上の我が国の強靭性を高めることは、アジア太平洋地域を始めとする国際社会の平和と安定につながるものである。これは、本戦略における戦略的アプローチの中核をなす。

 また、国家安全保障上の課題を克服し、目標を達成するためには、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、日米同盟を基軸としつつ、各国との協力関係を拡大・深化させるとともに、我が国が有する多様な資源を有効に活用し、総合的な施策を推進する必要がある。

 こうした観点から、外交政策及び防衛政策を中心とした我が国がとるべき戦略的アプローチを以下のとおり示す。


1 我が国の能力・役割の強化・拡大

(1)安定した国際環境創出のための外交の強化

 国家安全保障の要諦は、安定しかつ見通しがつきやすい国際環境を創出し、脅威の出現を未然に防ぐことである。国際協調主義に基づく積極的平和主義の下、国際社会の平和と安定及び繁栄の実現に我が国が一層積極的な役割を果たし、我が国にとって望ましい国際秩序や安全保障環境を実現していく必要がある。

 そのために、刻一刻と変化する安全保障環境や国際社会の潮流を分析する力がまず必要である。その上で、発生する事象や事件への受け身の対応に追われるのではなく、国際社会の課題を主導的に設定し、能動的に我が国の国益を増進していく力を蓄えなければならない。その中で我が国や我が国国民の有する様々な力や特性を効果的に活用して、我が国の主張を国際社会に浸透させ、我が国の立場への支持を集める外交的な創造力及び交渉力が必要である。また、我が国の魅力を活かし、国際社会に利益をもたらすソフトパワーの強化や我が国企業や国民のニーズを感度高く把握し、これらのグローバルな展開をサポートする力の充実が重要である。加えて国連を始めとする国際機関に対し、邦人職員の増強も含め、より積極的な貢献を行っていくことが積極的平和主義を進める我が国の責務である。このような力強い外交を推進していくため、外交実施体制の強化を図っていく。外交の強化は、国家安全保障の確保を実現するために不可欠である。

(2)我が国を守り抜く総合的な防衛体制の構築

 我が国に直接脅威が及ぶことを防止し、脅威が及ぶ場合にはこれを排除するという、国家安全保障の最終的な担保となるのが防衛力であり、これを着実に整備する。

 我が国を取り巻く厳しい安全保障環境の中において、我が国の平和と安全を確保するため、戦略環境の変化や国力国情に応じ、実効性の高い統合的な防衛力を効率的に整備し、統合運用を基本とする柔軟かつ即応性の高い運用に努めるとともに、政府機関のみならず地方公共団体や民間部門との間の連携を深めるなど、武力攻撃事態等から大規模自然災害に至るあらゆる事態にシームレスに対応するための総合的な体制を平素から構築していく。

 その中核を担う自衛隊の体制整備に当たっては、本戦略を踏まえ、防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画を含む計画体系の整備を図るとともに、統合的かつ総合的な視点に立って重要となる機能を優先しつつ、各種事態の抑止・対処のための体制を強化する。

 加えて、核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠であり、その信頼性の維持・強化のために、米国と緊密に連携していくとともに、併せて弾道ミサイル防衛や国民保護を含む我が国自身の取組により適切に対応する。

(3)領域保全に関する取組の強化

 我が国領域を適切に保全するため、上述した総合的な防衛体制の構築のほか、領域警備に当たる法執行機関の能力強化や海洋監視能力の強化を進める。加えて、様々な不測の事態にシームレスに対応できるよう、関係省庁間の連携を強化する。

 また、我が国領域を確実に警備するために必要な課題について不断の検討を行い、実効的な措置を講ずる。

 さらに、国境離島の保全、管理及び振興に積極的に取り組むとともに、国家安全保障の観点から国境離島、防衛施設周辺等における土地所有の状況把握に努め、土地利用等の在り方について検討する。

(4)海洋安全保障の確保

 海洋国家として、各国と緊密に連携しつつ、力ではなく、航行・飛行の自由や安全の確保、国際法にのっとった紛争の平和的解決を含む法の支配といった基本ルールに基づく秩序に支えられた「開かれ安定した海洋」の維持・発展に向け、主導的な役割を発揮する。具体的には、シーレーンにおける様々な脅威に対して海賊対処等の必要な措置をとり、海上交通の安全を確保するとともに、各国との海洋安全保障協力を推進する。

 また、これらの取組に重要な我が国の海洋監視能力について、国際的ネットワークの構築に留意しつつ、宇宙の活用も含めて総合的に強化する。さらに、海洋安全保障に係る二国間・多国間の共同訓練等の協力の機会の増加と質の向上を図る。

 特にペルシャ湾及びホルムズ海峡、紅海及びアデン湾からインド洋、マラッカ海峡、南シナ海を経て我が国近海に至るシーレーンは、資源・エネルギーの多くを中東地域からの海上輸送に依存している我が国にとって重要であることから、これらのシーレーン沿岸国等の海上保安能力の向上を支援するとともに、我が国と戦略的利害を共有するパートナーとの協力関係を強化する。

(5)サイバーセキュリティの強化

 サイバーセキュリティを脅かす不正行為からサイバー空間を守り、その自由かつ安全な利用を確保する。また、国家の関与が疑われるものを含むサイバー攻撃から我が国の重要な社会システムを防護する。このため、国全体として、組織・分野横断的な取組を総合的に推進し、サイバー空間の防護及びサイバー攻撃への対応能力の一層の強化を図る。

 そこで、平素から、リスクアセスメントに基づくシステムの設計・構築・運用、事案の発生の把握、被害の拡大防止、原因の分析究明、類似事案の発生防止等の分野において、官民の連携を強化する。また、セキュリティ人材層の強化、制御システムの防護、サプライチェーンリスク問題への対応についても総合的に検討を行い、必要な措置を講ずる。

 さらに、国全体としてサイバー防護・対応能力を一層強化するため、関係機関の連携強化と役割分担の明確化を図るとともに、サイバー事象の監査・調査、感知・分析、国際調整等の機能の向上及びこれらの任務を担う組織の強化を含む各種施策を推進する。

 かかる施策の推進に当たっては、幅広い分野における国際連携の強化が不可欠である。このため、技術・運用両面における国際協力の強化のための施策を講ずる。また、関係国との情報共有の拡大を図るほか、サイバー防衛協力を推進する。

(6)国際テロ対策の強化

 原子力関連施設の安全確保等の国内における国際テロ対策の徹底はもとより、世界各地で活動する在留邦人等の安全を確保するため、民間企業が有する危険情報がより効果的かつ効率的に共有されるような情報交換・協力体制を構築するとともに、平素からの国際テロ情勢に関する分析体制や海外における情報収集能力の強化を進めるなど、国際テロ対策を強化する。

(7)情報機能の強化

 国家安全保障に関する政策判断を的確に支えるため、人的情報、公開情報、電波情報、画像情報等、多様な情報源に関する情報収集能力を抜本的に強化する。また、各種情報を融合・処理した地理空間情報の活用も進める。

 さらに、高度な能力を有する情報専門家の育成を始めとする人的基盤の強化等により、情報分析・集約・共有機能を高め、政府が保有するあらゆる情報手段を活用した総合的な分析(オール・ソース・アナリシス)を推進する。

 加えて、外交・安全保障政策の司令塔となるNSCに資料・情報を適時に提供し、政策に適切に反映していくこと等を通じ、情報サイクルを効果的に稼働させる。

 こうした情報機能を支えるため、特定秘密の保護に関する法律(平成25年法律第108号)の下、政府横断的な情報保全体制の整備等を通じ、カウンター・インテリジェンス機能を強化する。

(8)防衛装備・技術協力

 平和貢献・国際協力において、自衛隊が携行する重機等の防衛装備品の活用や被災国等への供与(以下「防衛装備品の活用等」という。)を通じ、より効果的な協力ができる機会が増加している。また、防衛装備品の高性能化を実現しつつ、費用の高騰に対応するため、国際共同開発・生産が国際的主流となっている。こうした中、国際協調主義に基づく積極的平和主義の観点から、防衛装備品の活用等による平和貢献・国際協力に一層積極的に関与するとともに、防衛装備品等の共同開発・生産等に参画することが求められている。

 こうした状況を踏まえ、武器輸出三原則等がこれまで果たしてきた役割にも十分配意した上で、移転を禁止する場合の明確化、移転を認め得る場合の限定及び厳格審査、目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保等に留意しつつ、武器等の海外移転に関し、新たな安全保障環境に適合する明確な原則を定めることとする。

(9)宇宙空間の安定的利用の確保及び安全保障分野での活用の推進

 宇宙空間の安定的利用を図ることは、国民生活や経済にとって必要不可欠であるのみならず、国家安全保障においても重要である。宇宙開発利用を支える科学技術や産業基盤の維持向上を図るとともに、安全保障上の観点から、宇宙空間の活用を推進する。

 特に情報収集衛星の機能の拡充・強化を図る。また、自衛隊の部隊の運用、情報の収集・分析、海洋の監視、情報通信、測位といった分野において、我が国等が保有する各種の衛星の有効活用を図るとともに、宇宙空間の状況監視体制の確立を図る。

 また、衛星製造技術等の宇宙開発利用を支える技術を含め、宇宙開発利用の推進に当たっては、中長期的な観点から、国家安全保障に資するように配意するものとする。

(10)技術力の強化

 我が国の高い技術力は、経済力や防衛力の基盤であることはもとより、国際社会が我が国に強く求める価値ある資源でもある。このため、デュアル・ユース技術を含め、一層の技術の振興を促し、我が国の技術力の強化を図る必要がある。

 技術力強化のための施策の推進に当たっては、安全保障の視点から、技術開発関連情報等、科学技術に関する動向を平素から把握し、産学官の力を結集させて、安全保障分野においても有効に活用するように努めていく。

 さらに、我が国が保有する国際的にも優れた省エネルギーや環境関連の技術等は、国際社会と共に我が国が地球規模課題に取り組む上で重要な役割を果たすものであり、これらを外交にも積極的に活用していく。


2 日米同盟の強化

 日米安全保障体制を中核とする日米同盟は、過去60年余にわたり、我が国の平和と安全及びアジア太平洋地域の平和と安定に不可欠な役割を果たすとともに、近年では、国際社会の平和と安定及び繁栄にもより重要な役割を果たしてきた。

 日米同盟は、国家安全保障の基軸である。米国にとっても、韓国、オーストラリア、タイ、フィリピンといった地域諸国との同盟のネットワークにおける中核的な要素として、同国のアジア太平洋戦略の基盤であり続けてきた。

 こうした日米の緊密な同盟関係は、日米両国が自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値や戦略的利益を共有していることによって支えられている。また、我が国が地理的にも、米国のアジア太平洋地域への関与を支える戦略的に重要な位置にあること等にも支えられている。

 上記のような日米同盟を基盤として、日米両国は、首脳・閣僚レベルを始め、様々なレベルで緊密に連携し、二国間の課題のみならず、北朝鮮問題を含むアジア太平洋地域情勢や、テロ対策、大量破壊兵器の不拡散等のグローバルな安全保障上の課題についても取り組んできている。

 また、日米両国は、経済分野においても、後述する環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉等を通じて、ルールに基づく、透明性が高い形でのアジア太平洋地域の経済的繁栄の実現を目指している。

 このように、日米両国は、二国間のみならず、アジア太平洋地域を始めとする国際社会全体の平和と安定及び繁栄のために、多岐にわたる分野で協力関係を不断に強化・拡大させてきた。

 また、我が国が上述したとおり安全保障面での取組を強化する一方で、米国としても、アジア太平洋地域を重視する国防戦略の下、同地域におけるプレゼンスの充実、さらには、我が国を始めとする同盟国等との連携・協力の強化を志向している。

 今後、我が国の安全に加え、アジア太平洋地域を始めとする国際社会の平和と安定及び繁栄の維持・増進を図るためには、日米安全保障体制の実効性を一層高め、より多面的な日米同盟を実現していく必要がある。このような認識に立って、我が国として以下の取組を進める。

(1)幅広い分野における日米間の安全保障・防衛協力の更なる強化

 我が国は、我が国自身の防衛力の強化を通じた抑止力の向上はもとより、米国による拡大抑止の提供を含む日米同盟の抑止力により、自国の安全を確保している。

 米国との間で、具体的な防衛協力の在り方や、日米の役割・任務・能力(RMC)の考え方等についての議論を通じ、本戦略を踏まえた各種政策との整合性を図りつつ、「日米防衛協力のための指針」の見直しを行う。

 また、共同訓練、共同の情報収集・警戒監視・偵察(ISR)活動及び米軍・自衛隊の施設・区域の共同使用を進めるほか、事態対処や中長期的な戦略を含め、各種の運用協力及び政策調整を緊密に行う。加えて、弾道ミサイル防衛、海洋、宇宙空間、サイバー空間、大規模災害対応等の幅広い安全保障分野における協力を強化して、日米同盟の抑止力及び対処力を向上させていく。

 さらに、相互運用性の向上を含む日米同盟の基盤の強化を図るため、装備・技術面での協力、人的交流等の多面的な取組を進めていく。

(2)安定的な米軍プレゼンスの確保

 日米安全保障体制を維持・強化するためには、アジア太平洋地域における米軍の最適な兵力態勢の実現に向けた取組に我が国も主体的に協力するとともに、抑止力を維持・向上させつつ、沖縄を始めとする地元における負担を軽減することが重要である。

 その一環として、在日米軍駐留経費負担を始めとする様々な施策を通じ、在日米軍の円滑かつ効果的な駐留を安定的に支えつつ、在沖縄米海兵隊のグアム移転の推進を始め、在日米軍再編を日米合意に従って着実に実施するとともに、地元との関係に留意しつつ、自衛隊及び米軍による施設・区域の共同使用等を推進する。

 また、在日米軍施設・区域の周辺住民の負担を軽減するための措置を着実に実施する。特に沖縄県については、国家安全保障上極めて重要な位置にあり、米軍の駐留が日米同盟の抑止力に大きく寄与している一方、在日米軍専用施設・区域の多くが集中していることを踏まえ、普天間飛行場の移設を含む負担軽減のための取組に最大限努力していく。


3 国際社会の平和と安定のためのパートナーとの外交・安全保障協力の強化

 我が国を取り巻く安全保障環境の改善には、上述したように政治・経済・安全保障の全ての面での日米同盟の強化が不可欠であるが、これに加え、そのために重要な役割を果たすアジア太平洋地域内外のパートナーとの信頼・協力関係を以下のように強化する。

(1)韓国、オーストラリア、ASEAN諸国及びインドといった我が国と普遍的価値と戦略的利益を共有する国との協力関係を、以下のとおり強化する。

 ‐ 隣国であり、地政学的にも我が国の安全保障にとって極めて重要な韓国と緊密に連携することは、北朝鮮の核・ミサイル問題への対応を始めとする地域の平和と安定にとって大きな意義がある。このため、未来志向で重層的な日韓関係を構築し、安全保障協力基盤の強化を図る。特に日米韓の三か国協力は、東アジアの平和と安定を実現する上で鍵となる枠組みであり、北朝鮮の核・ミサイル問題への協力を含め、これを強化する。さらに、竹島の領有権に関する問題については、国際法にのっとり、平和的に紛争を解決するとの方針に基づき、粘り強く外交努力を行っていく。

 ‐ 地域の重要なパートナーであるオーストラリアとは、普遍的価値のみならず、戦略的利益や関心も共有する。二国間の相互補完的な経済関係の強化に加えて、戦略認識の共有、安全保障協力を着実に進め、戦略的パートナーシップを強化する。また、アジア太平洋地域の秩序の形成や国際社会の平和と安定の維持・強化のための取組において幅広い協力を推進する。その際、日米豪の三か国協力の枠組みも適切に活用する。

 ‐ 経済成長及び民主化が進展し、文化的多様性を擁し、我が国のシーレーンの要衝を占める地域に位置するASEAN諸国とは、40年以上にわたる伝統的なパートナーシップに基づき、政治・安全保障分野を始めあらゆる分野における協力を深化・発展させる。ASEANがアジア太平洋地域全体の平和と安定及び繁栄に与える影響を踏まえ、ASEANの一体性の維持・強化に向けた努力を一層支援する。また、南シナ海問題についての中国との行動規範(COC)の策定に向けた動き等、紛争を力ではなく、法とルールにのっとって解決しようとする関係国の努力を評価し、効果的かつ法的拘束力を持つ規範が策定されるよう支援する。

 ‐ 世界最大となることが見込まれている人口と高い経済成長や潜在的経済力を背景に影響力を増し、我が国のシーレーンの中央に位置する等地政学的にも重要なインドとは、二国間で構築された戦略的グローバル・パートナーシップに基づいて、海洋安全保障を始め幅広い分野で関係を強化していく。

(2)我が国と中国との安定的な関係は、アジア太平洋地域の平和と安定に不可欠の要素である。大局的かつ中長期的見地から、政治・経済・金融・安全保障・文化・人的交流等あらゆる分野において日中で「戦略的互恵関係」を構築し、それを強化できるよう取り組んでいく。特に中国が、地域の平和と安定及び繁栄のために責任ある建設的な役割を果たし、国際的な行動規範を遵守し、急速に拡大する国防費を背景とした軍事力の強化に関して開放性及び透明性を向上させるよう引き続き促していく。その一環として、防衛交流の継続・促進により、中国の軍事・安全保障政策の透明性の向上を図るとともに、不測の事態の発生の回避・防止のための枠組みの構築を含めた取組を推進する。また、中国が、我が国を含む周辺諸国との間で、独自の主張に基づき、力による現状変更の試みとみられる対応を示していることについては、我が国としては、事態をエスカレートさせることなく、中国側に対して自制を求めつつ、引き続き冷静かつ毅然として対応していく。

(3)北朝鮮問題に関しては、関係国と緊密に連携しつつ、六者会合共同声明や国連安全保障理事会(安保理)決議に基づく非核化等に向けた具体的行動を北朝鮮に対して求めていく。また、日朝関係については、日朝平壌宣言に基づき、拉致・核・ミサイルといった諸懸案の包括的な解決に向けて、取り組んでいく。とりわけ、拉致問題については、この問題の解決なくして北朝鮮との国交正常化はあり得ないとの基本認識の下、一日も早いすべての拉致被害者の安全確保及び即時帰国、拉致に関する真相究明、拉致実行犯の引渡しに向けて、全力を尽くす。

(4)東アジア地域の安全保障環境が一層厳しさを増す中、安全保障及びエネルギー分野を始めあらゆる分野でロシアとの協力を進め、日露関係を全体として高めていくことは、我が国の安全保障を確保する上で極めて重要である。このような認識の下、アジア太平洋地域の平和と安定に向けて連携していくとともに、最大の懸案である北方領土問題については、北方四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結するとの一貫した方針の下、精力的に交渉を行っていく。

(5)これらの取組に当たっては、APECから始まり、EAS、ASEAN+3、ARF、拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)、環太平洋パートナーシップ(TPP)といった機能的かつ重層的に構築された地域協力の枠組み、あるいは日米韓、日米豪、日米印といった三か国間の枠組みや、地理的に近接する経済大国である日中韓の枠組みを積極的に活用する。また、我が国としてこれらの枠組みの発展に積極的に寄与していく。さらに、将来的には東アジアにおいてより制度的な安全保障の枠組みができるよう、我が国としても適切に寄与していく。

(6)モンゴル、中央アジア諸国、南西アジア諸国、太平洋島嶼国{嶼にしょとルビあり}、ニュージーランド、カナダ、メキシコ、コロンビア、ペルー、チリといったアジア太平洋地域の友好諸国とアジア太平洋地域の安定の確保に向けて協力する。太平洋に広大な排他的経済水域と豊富な海洋資源を有する太平洋島嶼国{嶼にしょとルビあり}とは、太平洋・島サミット等を通じ海洋協力を含む様々な分野で協力を強化する。

(7)国際社会の平和と安定に向けて重要な役割を果たすアジア太平洋地域外の諸国と協力関係を強化する。

 ‐ 欧州は、国際世論形成力、主要な国際的枠組みにおける規範形成力、そして大きな経済規模を擁しており、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ポーランドを始めとする欧州諸国は、我が国と自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値や市場経済等の原則を共有し、国際社会の平和と安定及び繁栄に向けて共に主導的な役割を果たすパートナーである。国際社会のパワーバランスが変化している中で、普遍的価値やルールに基づく国際秩序を構築し、グローバルな諸課題に効果的に対処し、平和で繁栄する国際社会を構築するための我が国の政策を実現していくために、EU、NATO、OSCEとの協力を含め、欧州との関係を更に強化していく。また、我が国が民主化に貢献してきた東欧諸国及びバルト諸国並びにコーカサス諸国と関係を強化する。

 ‐ ブラジル、メキシコ、トルコ、アルゼンチン、南アフリカといった新興国は、国際経済のみならず、国際政治でもその存在感を増しつつあり、二国間関係にとどまらず、グローバルな課題についての協力を推進する。

 ‐ 中東の安定は、我が国にとって、エネルギーの安定供給に直結する国家の生存と繁栄に関わる問題である。湾岸諸国は、我が国にとって最大の原油の供給源であるが、中東の安定を確保するため、これらの国と資源・エネルギーを中心とする関係を超えた幅広い分野での経済面、更には政治・安全保障分野での協力も含めた重層的な協力関係の構築に取り組む。「アラブの春」に端を発するアラブ諸国の民主化の問題、シリア情勢、イランの核問題、中東和平、アフガニスタンの平和構築といった中東の安定に重要な問題の解決に向けて、我が国として積極的な役割を果たす。その際、米国、欧州諸国、サウジアラビア、トルコといった中東地域で重要な役割を果たしている国と協調する。

 ‐ 戦略的資源を豊富に有し、経済成長を持続しているアフリカは有望な経済フロンティアであると同時に国際社会における発言権を強めており、TICADプロセス等を通じて、アフリカの発展と平和の定着に引き続き貢献する。また、国際場裏での協力を推進していく。


4 国際社会の平和と安定のための国際的努力への積極的寄与

 我が国は、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、国際社会の平和と安定のため、積極的な役割を果たしていく。

(1)国連外交の強化

 国連は、安保理による国際の平和及び安全の維持・回復のための集団安全保障制度を中核として設置されたが、同制度は当初の想定どおりには十分に機能してきていない。

 他方、国連は幅広い諸国が参加する普遍性、専門性に支えられた正統性という強みを活かして世界の平和と安全のために様々な取組を主導している。特に冷戦終結以降、国際の平和と安全の維持・回復の分野における国連の役割はますます高まっている。

 我が国として、これまで安保理の非常任理事国を幾度も務めた経験を踏まえ、国連における国際の平和と安全の維持・回復に向けた取組に更に積極的に寄与していく。

 また、国連のPKOや集団安全保障措置及び予防外交や調停等の外交的手段のみならず、紛争後の緊急人道支援から復旧復興支援に至るシームレスな支援、平和構築委員会を通じた支援等、国連が主導する様々な取組に、より積極的に寄与していく。

 同時に、集団安全保障機能の強化を含め、国連の実効性と正統性の向上の実現が喫緊の課題であり、常任・非常任双方の議席拡大及び我が国の常任理事国入りを含む安保理改革の実現を追求する。

(2)法の支配の強化

 法の支配の擁護者として引き続き国際法を誠実に遵守するのみならず、国際社会における法の支配の強化に向け、様々な国際的なルール作りに構想段階から積極的に参画する。その際、公平性、透明性、互恵性を基本とする我が国の理念や主張を反映させていく。

 また、国際司法機関に対する人材・財政面の支援、各国に対する法制度整備支援等に積極的に取り組む。

 特に海洋、宇宙空間及びサイバー空間における法の支配の実現・強化について、関心を共有する国々との政策協議を進めつつ、国際規範形成や、各国間の信頼醸成措置に向けた動きに積極的に関与する。また、開発途上国の能力構築に一層寄与する。

 ‐ 海洋については、地域的取組その他の取組を推進し、力ではなく法とルールが支配する海洋秩序を強化することが国際社会全体の平和と繁栄に不可欠との国際的な共有認識の形成に向けて主導的役割を発揮する。

 ‐ 宇宙空間については、自由なアクセス及び活用を確保することが重要であるとの考え方に基づき、衛星破壊実験の防止や衛星衝突の回避を目的とする国際行動規範策定に向けた努力に積極的に参加し、宇宙空間の安全かつ安定的な利用の確保を図る。

 ‐ サイバー空間については、情報の自由な流通の確保を基本とする考え方の下、その考えを共有する国と連携し、既存の国際法の適用を前提とした国際的なルール作りに積極的に参画するとともに、開発途上国への能力構築支援を積極的に行う。

(3)軍縮・不拡散に係る国際努力の主導

 我が国は、世界で唯一の戦争被爆国として、「核兵器のない世界」の実現に向けて引き続き積極的に取り組む。

 北朝鮮による核開発及び弾道ミサイル開発の進展がもたらす脅威や、アジア太平洋地域における将来の核戦力バランスの動向、軍事技術の急速な進展を踏まえ、日米同盟の下での拡大抑止への信頼性維持と整合性をとりつつ、北朝鮮による核・ミサイル開発問題やイランの核問題の解決を含む軍縮・不拡散に向けた国際的取組を主導する。

 また、武器や軍事転用可能な資機材、技術等が、懸念国家等に拡散することを防止するため、国際輸出管理レジームにおける議論への積極的な参画を含め、関係国と協調しつつ、安全保障の観点に立った輸出管理の取組を着実に実施する。さらに、小型武器や対人地雷等の通常兵器に関する国際的な取組においても、積極的に対応する。

(4)国際平和協力の推進

 我が国は20年以上にわたり、国際平和協力のため、カンボジア、ゴラン高原、東ティモール、ネパール、南スーダン等、様々な地域に自衛隊を始めとする要員を派遣し、その実績は内外から高い評価を得てきた。

 今後、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、我が国に対する国際社会からの評価や期待も踏まえ、PKO等に一層積極的に協力する。その際、ODA事業との連携を図るなど活動の効果的な実施に努める。

 また、ODAや能力構築支援の更なる戦略的活用やNGOとの連携を含め、安全保障関連分野でのシームレスな支援を実施するため、これまでのスキームでは十分対応できない機関への支援も実施できる体制を整備する。

 さらに、これまでの経験を活用した平和構築人材の育成や、各国PKO要員の育成も政府一体となって積極的に行う。これらの取組を行うに当たっては、米国、オーストラリア、欧州等同分野での経験を有する関係国等とも緊密に連携を図る。

(5)国際テロ対策における国際協力の推進

 テロはいかなる理由をもってしても正当化できず、強く非難されるべきものであり、国際社会が一体となって断固とした姿勢を示すことが重要である。

 国際テロ情勢や国際テロ対策協力に関する各国との協議や意見交換、テロリストを厳正に処罰するための国際的な法的枠組みの強化、テロ対処能力が不十分な開発途上国に対する支援等に積極的に取り組み、国家安全保障の観点から国際社会と共に国際テロ対策を推進していく。

 また、不法な武器、薬物の取引や誘拐等、組織犯罪の収益がテロリストの重要な資金源になっており、テロと国際組織犯罪は密接な関係を有している。こうした認識を踏まえ、国際組織犯罪を防止し、これと闘うための国際協力・途上国支援を強化していく。


5 地球規模課題解決のための普遍的価値を通じた協力の強化

 国際社会の平和と安定及び繁栄の基盤を強化するため、普遍的価値の共有、開かれた国際経済システムの強化を図り、貧困、エネルギー問題、格差の拡大、気候変動、災害、食料問題といった国際社会の平和と安定の阻害要因となりかねない開発問題や地球規模課題の解決に向け、ODAの積極的・戦略的活用を図りつつ、以下の取組を進める。

(1)普遍的価値の共有

 自由、民主主義、女性の権利を含む基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値を共有する国々との連帯を通じグローバルな課題に貢献する外交を展開する。

 1990年代に東欧諸国やASEAN諸国で始まり、2010年代初頭にアラブ諸国に至った世界における民主化の流れは、グローバル化や市場経済化の急速な進展とあいまって、もはや不可逆的なものとなっている。

 一方、「アラブの春」に見られるように、民主化は必ずしもスムーズに進んでいるわけではない。我が国は、先進自由民主主義国家として、人間の安全保障の理念も踏まえつつ、民主化支援、法制度整備支援及び人権分野での支援にODAを積極的に活用し、また、人権対話等を通じ国際社会における人権擁護の潮流の拡大に貢献する。

 また、女性に関する外交課題に積極的に取り組む。具体的には、紛争予防・平和構築における女性の役割拡大や社会進出促進等について、国際社会と協力していく。

(2)開発問題及び地球規模課題への対応と「人間の安全保障」の実現

 我が国は、これまでODAを活用して、世界の開発問題に積極的に取り組み、国際社会から高い評価を得てきた。開発問題への対応はグローバルな安全保障環境の改善にも資するものであり、国際協調主義に基づく積極的平和主義の一つの要素として、今後とも一層強化する必要がある。

 こうした点を踏まえるとともに、「人間の安全保障」の実現に資するため、ODAを戦略的・効果的に活用し、国際機関やNGOを始めとする多様なステークホルダーと連携を図りつつ、ミレニアム開発目標(MDGs)の達成に向け、貧困削減、国際保健、教育、水等の分野における取組を強化する。

 また、新たな国際開発目標(ポスト2015年開発アジェンダ)の策定にも主導的役割を果たす。さらに、「人間の安全保障」の実現について、これまで我が国のイニシアティブとして国際社会でも主導的な役割を果たしている。今後とも、国際社会におけるその理念の主流化を一層促す。

 我が国は、阪神大震災、東日本大震災を始めとする幾多の自然災害に見舞われてきた。その教訓・経験を広く共有するとともに、世界各地において災害が巨大化し、頻発していることも踏まえ、防災分野での国際協力を主導し、災害に強い強靭な社会を世界中に広めていく。

(3)開発途上国の人材育成に対する協力

 開発途上国から、将来指導者となることが期待される優秀な学生や行政官を含む幅広い人材を我が国に招致し、その経験や知見を学ぶとともに、我が国の制度や技術・ノウハウに関する教育訓練を提供する。こうした取組により、我が国との相互理解を促進し、出身国の持続的な経済・社会発展に役立てるための人材育成をより一層推進する。

 また、人材育成で培ったネットワークの維持・発展を図り、協力関係の基盤の拡大と強化に役立てる。

(4)自由貿易体制の維持・強化

 開放的でルールに基づいた国際経済システムを拡大し、その中で我が国が主要プレーヤーであり続けることは、世界経済の発展や我が国の経済的繁栄を確保していく上で不可欠である。

 このような観点を踏まえながら、包括的で高い水準の貿易協定を目指すTPP協定、日EU経済連携協定(EPA)、日中韓自由貿易協定(FTA)及び東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を始めとする経済連携を推進し、世界経済の成長に寄与するとともに、その成長を取り込むことによって我が国の成長につなげていく。

 また、こうした取組を通じた、アジア太平洋地域での貿易・投資面でのルール作りは、この地域の活力と繁栄を強化するものであり、安全保障面での安定した環境の基礎を強化する戦略的意義を有する。

 このような21世紀型のEPAを結んでいくことにより、新たな貿易自由化の魅力的な先進事例を示すこととなり、WTOを基盤とする多角的貿易体制における世界規模の貿易自由化も促進していくことが期待される。

(5)エネルギー・環境問題への対応

 エネルギーを含む資源の安定供給は活力ある我が国の経済にとって不可欠であり、国家安全保障上の課題である。資源の安定的かつ安価な供給を確保するため必要な外交的手段を積極的に活用し、各国の理解を得つつ、供給源の多角化等の取組を行っていく。

 気候変動分野では、国内の排出削減に向けた一層の取組を行う。優れた環境エネルギー技術や途上国支援等の我が国の強みをいかした攻めの地球温暖化外交戦略(「Actions for Cool Earth(ACE:エース)」)を展開する。また、全ての国が参加する公平かつ実効的な新たな国際枠組み構築に積極的に関与し、世界全体で排出削減を達成し、気候変動問題の解決に寄与する。

(6)人と人との交流の強化

 人と人との交流は、相手国との相互理解や友好関係を増進し国家間の関係を確固たるものとさせる。加えて、国際社会における我が国に対する適切な理解を深め、安定的で友好的な安全保障環境を整備していく上でも有意義である。

 このような観点から、特に双方向の青少年の交流を拡大するための施策を実施し、将来にわたって各国との関係を強化していく。例えば、文化的多様性を残しつつ地域統合が進んでいるASEANとは友好協力40周年を迎えたところであり、今後、交流事業の更なる活性化を通じて、相互理解を一層促進していく。

 また、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会といった世界共通の関心を集めるイベントを活用しつつ、スポーツや文化を媒体とした交流を促進し、個人レベルでの友好関係を構築し、深めていく。


6 国家安全保障を支える国内基盤の強化と内外における理解促進

 国家安全保障を十全に確保するためには、外交力及び防衛力を中心とする能力の強化に加え、これらの能力が効果的に発揮されることを支える国内基盤を整備することが不可欠である。

 また、国家安全保障を達成するためには、国家安全保障政策に対する国

際社会や国民の広範な理解を得ることが極めて重要であるとの観点をも踏まえ、以下の取組を進める。

(1)防衛生産・技術基盤の維持・強化

 防衛生産・技術基盤は、防衛装備品の研究開発、生産、運用、維持整備等を通じて防衛力を支える重要な要素である。限られた資源で防衛力を安定的かつ中長期的に整備、維持及び運用していくため、防衛装備品の効果的・効率的な取得に努めるとともに、国際競争力の強化を含めた我が国の防衛生産・技術基盤を維持・強化していく。

(2)情報発信の強化

 国家安全保障政策の推進に当たっては、その考え方について、内外に積極的かつ効果的に発信し、その透明性を高めることにより、国民の理解を深めるとともに、諸外国との協力関係の強化や信頼醸成を図る必要がある。

 このため、官邸を司令塔として、政府一体となった統一的かつ戦略的な情報発信を行うこととし、各種情報技術を最大限に活用しつつ、多様なメディアを通じ、外国語による発信の強化等を行う。

 また、政府全体として、教育機関や有識者、シンクタンク等との連携を図りつつ、世界における日本語の普及、戦略的広報に資する人材の育成等を図る。

 世界の安全保障環境が複雑・多様化する中にあっては、各国の利害が対立する状況も生じ得る。このような認識の下、客観的な事実を中心とする関連情報を正確かつ効果的に発信することにより、国際世論の正確な理解を深め、国際社会の安定に寄与する。

(3)社会的基盤の強化

 国家安全保障政策を中長期的観点から支えるためには、国民一人一人が、地域と世界の平和と安定及び人類の福祉の向上に寄与することを願いつつ、国家安全保障を身近な問題として捉え、その重要性や複雑性を深く認識することが不可欠である。

 そのため、諸外国やその国民に対する敬意を表し、我が国と郷土を愛する心を養うとともに、領土・主権に関する問題等の安全保障分野に関する啓発や自衛隊、在日米軍等の活動の現状への理解を広げる取組、これらの活動の基盤となる防衛施設周辺の住民の理解と協力を確保するための諸施策等を推進する。

(4)知的基盤の強化

 国家安全保障に関する国民的な議論の充実や質の高い政策立案に寄与するため、関係省庁職員の派遣等による高等教育機関における安全保障教育の拡充・高度化、実践的な研究の実施等を図るとともに、これら機関やシンクタンク等と政府の交流を深め、知見の共有を促進する。

 こうした取組を通じて、現実的かつ建設的に国家安全保障政策を吟味することができる民間の専門家や行政官の育成を促進するとともに、国家安全保障に知見を有する人材の層を厚くする。