データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 防衛省気候変動対処戦略

[場所] 
[年月日] 2022年8月29日
[出典] 防衛省
[備考] 
[全文] 

防衛省気候変動対処戦略

{目次は省略}

第1 策定の趣旨・目標

1 趣旨

 世界の安全保障にとって、今や気候変動は実存する脅威と認識されている。2021年

4月に米国で開催された気候サミットの気候安全保障セッションにおいては、防衛大臣が参加し、気候変動がもたらす世界的な安全保障上の課題とこれに対する取組について、各国の国防大臣等との間で議論を交わしたところである。

 気候変動の問題は、将来のエネルギーシフトへの対応を含め、今後、防衛省・自衛隊の運用や各種計画、施設、防衛装備品、さらに我が国を取り巻く安全保障環境により一層の影響をもたらすことは必至であり、まさしく安全保障上の問題となっている。本文書は、気候変動が我が国の安全保障に与える影響を挙げた上で、長期的な視点も持ち、次の目標を掲げ、今後、防衛省・自衛隊が戦略的に取り組んでいくべき各種施策の基本的な方向性を示すものである。

2 目標

(1) 気候変動による、今後、予想される直接的又は間接的な影響を、マクロからミクロ的視点まで幅広く捉え、防衛省・自衛隊として、これに的確に適応・対応していき、将来にわたり防衛省・自衛隊の任務・役割を果たしていく。

(2) また、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、社会全体が化石燃料から再生可能エネルギーや水素、アンモニア等をベースとする社会構造へ変化していく中で、防衛省・自衛隊として、長期的視野に立ち、いかに対応していくかという課題や、今後の気候変動やエネルギーシフトに伴う我が国を取り巻く安全保障環境への影響を、いかに的確に予測し、今から対策を講じる必要があるのかなどといった新たな取組についても、将来を見据え、時間軸も意識し、戦略的かつ着実に進める。

(3) さらに、「政府がその事務及び事業に関し温室効果ガスの排出の削減等のため実行すべき措置について定める計画(令和3年10月22日閣議決定)」の策定を受け、防衛省・自衛隊も政府の一員として、203

0年度までに、防衛省・自衛隊から排出される温室効果ガスの総排出量(防衛装備品を除く。)を2013年度基準から50%削減することを目指す。

第2 気候変動が安全保障に与える影響

1 世界の動向

 地球規模での気候変動の影響は、気象や環境の分野にとどまらず、社会や経済を含む多岐にわたる分野に及んでいる。世界気象機関(WMO)は、気候変動を主要因とする洪水や熱波などの災害が過去50年間で5倍に増加し、死者は200万人超、損失は3兆ドルを超えると推定している。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2021年8月に人間活動の影響が温暖化させてきたことは疑う余地がないこと、その影響により世界中で気候変動の極端現象の頻度が増加してきていること、温室効果ガスの排出を低く抑えても今後数十年のうちに1.5℃の地球温暖化を超える可能性があること等を指摘した報告を公表した。

 世界の各地で起きた気候変動は、水や食料不足、生活環境の悪化等を招き、ひいては、大規模な住民移動や限られた土地や資源を巡る争い、社会的・政治的な緊張や紛争を誘発するなど、国際社会の平和と安全に対する既存の脅威を長期的に深刻化させるおそれがある。

 国連安全保障理事会は、近年、アフリカにおける国連の安定化ミッションや支援ミッションを中心とした10を超える決議において、水不足、干ばつ、砂漠化、土壌の劣化、食料不足といった例を挙げ、気候変動による安全保障への負の影響を指摘するなど、欧米理事国を中心に気候変動を安全保障上の実体的な課題として積極的に扱う姿勢を見せている。

 各国の国防組織においても、気候変動は安全保障上の課題であるとの認識の下、気候変動が安全保障に与える影響を将来のエネルギーシフト問題も含め、幅広く捉えた上で、これに対応していく考えや方針等を、戦略や各種計画に組み込むとともに、次のような取組を開始しているところである。

・ 基地等の施設及びインフラの気候変動に対する脆弱性の評価(例えば、米国防省は、米国内外における同省の施設や活動を対象として、気候変動に対する脆弱性の評価を継続しており、国防気候評価ツール(DCAT)を使用し、当該施設の気候変動災害に対する影響を評価するとともに、陸海空の各部門の活動の評価も実施している。)

・ 戦略、作戦、戦術レベルでの気候変動対応の規定

・ 気候変動影響(海面上昇、異常気象等)に対する基地等の施設の強靭化

・ 気候変動による災害の頻発化や広域化に伴う人道支援・災害救援(以下

「HA/DR」という。)体制の強化

・ ロジスティクス及び軍へのサプライチェーン(燃料、電力等)のレジリエンス強化及び確保

・ 気候変動に関する教訓・成功事例の整理、気候変動を織り込んだ訓練

・ 基地等の施設及び軍隊の活動における化石燃料への依存度を下げる様々な軽減策(基地のエネルギー自立化(太陽光発電、小型モジュール式原子炉(SMR))、代替燃料の使用、非化石燃料に対応する艦船、航空機、車両等の防衛装備品の開発等)の検討又は実行

2 我が国の安全保障への影響

(1) 我が国における今後の気候変動予測(前提条件)

【気象庁や国土交通省等による今後の気候変動予測】

・ 多くの地域で猛暑日や熱帯夜の日数の増加、異常高温・熱波が顕著化

・ 我が国沿岸の海面水位は、1980年代以降上昇傾向。今後、21 世紀末までに最大約1m上昇予測

※ 平均海面が59cm上昇した場合、三大湾(東京湾、伊勢湾、大阪湾)のゼロメートル地帯の面積、人口は約5割増加(影響人口は現状約400万人から約590万人へ)し、海面水位が1m上昇すると、海岸浸食がさらに進行し我が国の砂浜の約9割が消失するとの試算結果

・ 我が国周辺の猛烈な台風の出現頻度が増加するとともに最大強度に

達する緯度が北上と予測。2016年には統計開始以来、初めて北海道へ3つの台風上陸。最大風速約67㎧以上のスーパー台風の強度で日本に達する可能性も予測

・ 降雨量(※)は、今後増加していき、21世紀末までに国内の大半の地域で約1.1~1.5倍に増加予測

※ 降雨量変化倍率は、20世紀末(過去実験)に対する21世紀末(将来実験)時点の一級水系の治水計画の目標とする規模(1/100~1/200)の降雨量の変化倍率の平均値

・ 1時間雨量50mm以上の短時間強雨の発生頻度は、直近30~4

0年間で約1.4倍に拡大。今後、さらに発生頻度は増加し、2℃上昇の場合に最大約1.6倍になり、洪水の発生頻度(※)も約2倍になると予測

※ 2℃上昇シナリオにおける将来の降雨量変化を前提とした一級水系における予測

 我が国の国土は、地形、地質、気象等の面で極めて厳しい条件下にある。全国土の約7割を山地・丘陵地が占め、世界の主要河川と比べ、距離が短く、急勾配であり、大雨に見舞われると河川流量が増加し洪水等の災害が起こりやすく、また、災害リスク地域に人口が集中している。このため、近年だけでも台風や大雨により、各地で洪水や土砂災害等の甚大な被害が発生(※)しており、気候変動の進行により、今後、さらに災害の激甚化、頻発化が予測される。

※ 近年、令和元年東日本台風や令和2年

 7月豪雨等、全国各地で水災害が激甚化

 ・頻発化。その被害額は、2019年には全国で約2兆1,800億円となり、統計開始以来最大の被害額。

 土砂災害の発生件数は、2018年に過去最多の約3,500件となり、2020年には令和2年7月豪雨によって37府県において約960件の過去最大クラスの広域土砂災害が発生。

(2) 気候変動による安全保障環境への影響

 気候変動により、基地等の施設や防衛装備品、自衛隊の運用、自衛隊員の健康等に直接的又は間接的に次のような影響を与え、防衛省・自衛隊が任務・役割を果たしていく上で、様々な制約や障害、支障が顕在化してくることが予想される。

 ア 基地等の施設への直接的影響

  ・ 気候変動に伴う大雨、海面上昇による基地等の施設の浸水・海岸侵食、台風による基地等の施設・インフラの被害等

 イ 気候変動で生起する運用環境の変化による防衛装備品の性能・仕様への影響

  ・ 異常高温、海水塩分濃度変化等による防衛装備品の性能・仕様への影響が生じるおそれ

 ウ 自衛隊の運用などへの影響

  ・ 訓練施設・エリアが洪水や浸水、土砂災害等の被害を受けると訓練計画への影響が生じるおそれ

  ・ 強い台風の頻度の増加等による退避や避航、訓練区域の制限により、訓練可能日数が制限されるおそれ

  ・ 交通網遮断による物流停止に伴う部隊への影響及び補給処から全国の基地等への輸送体制への影響が生じるおそれ

 エ 気候変動により想定される災害派遣等の増加

  ・ 災害派遣の頻度の増加・長期化・広域化・複合化などによる訓練日数の低下に伴い、自衛隊員の練度の維持、向上に支障が生じるおそれ

  ・ 災害派遣に必要な装備品へ影響が生じるおそれ

  ・ 海外への国際緊急援助活動やHA/DRの増加

 オ 災害に伴う民間等のインフラ被害による影響

  ・ 民間等のインフラ(エネルギー網、水道、鉄道、飛行場等)の災害

  ・被害に連動し、自衛隊の活動や基地等への電力供給・給水、ロジスティクス等といった活動基盤へ影響のおそれ

 カ 熱波、異常高温による自衛隊員の健康リスク増加

  ・ 気候変動に伴う熱波、異常高温により熱中症リスク等が増大するおそれ

 キ 地球温暖化による新しい感染症(又はパンデミック)対応

  ・ 地球温暖化に起因する動物媒介性感染症等の新しい感染症が発生するおそれ

(3) 我が国周辺での影響

 気候変動の影響により、我が国周辺で、例えば、次のような地政学的リスクが増大することが予想される。

 ア 北極海

  北極海では、海氷融解に伴う沿岸国やその他関心を有する国による航路利用、海底資源アクセス、海洋権益確保に向けた動きが予想される。これに伴い、北極海資源をめぐる大国間・関係国係争による不安定化や中国による日本海を経由した北極海への進出、同航路の重要航路化等、今後、我が国の安全保障へも影響が及ぶことが懸念される。

 イ 太平洋島嶼国

  太平洋島嶼国は、災害に脆弱で、気候変動による海面上昇により領土損失の危機にある。これに伴う諸国の不安定化や近隣国との摩擦、中国の関与・影響力の拡大などといったリスクが、今後、我が国の安全保障へも影響が及ぶことが懸念される。また、同諸国への自衛隊による能力構築支援やHA/DR等の役割の増加が予想される。

(4) 将来の脱炭素化・エネルギーシフトが我が国の安全保障に与える影響及び課題

 ア 全般動向

 現在、気候変動への対応をトリガーとして、我が国を含め主要先進国では産業革命にも匹敵する熾烈な研究開発によるイノベーションが起きており、2050年頃においては、エネルギー源について、我が国を含め社会全体が、化石燃料から再生可能エネルギーや水素、アンモニア等をベースとする社会構造へとエネルギーシフトしていると予想される。我が国においても、2050年カーボンニュートラル実現に向け、グリーン成長戦略やエネルギー基本計画、地球温暖化対策計画、パリ協定

に基づく成長戦略としての長期戦略等の方針に基づき、電力の脱炭素化、高効率蓄電池の開発、自動車・船舶・航空機の脱炭素化(非化石燃料化) 等を官民が連携し推進している。

 イ エネルギーシフトの地政学的リスク

 エネルギーシフトに当たっては、再生可能エネルギー発電や蓄電池に欠かせないレアメタル等の重要鉱物資源の安定確保が重要となる。レアメタル等の重要鉱物資源の一部は埋蔵や生産が、特定の国・地域に偏在しているものがあり、サプライチェーンの確保が課題となってくる。レアメタル等の重要鉱物資源や新たなエネルギー源の安定確保等のためのシーレーンの問題やエネルギー源の多重化・多元化を考慮した中東依存リスクへの対処等の地政学的論点について、防衛省・自衛隊も安全保障上の課題として捉える必要がある。

 ウ 脱炭素化・エネルギーシフトが我が国の安全保障に与える影響及び課題

 2050年カーボンニュートラル実現に向け、社会全体が化石燃料から再生可能エネルギーや水素、アンモニア等をベースとする社会構造へ変化していく中で、今後、化石燃料は流通量の大幅な減少、高額、調達先偏在のリスク等を内包することが予想される。これに伴い、具体的には、次の課題が考えられ、今から長期的な視点を持ち、計画的かつ着実に取り組んでいく必要がある。

  (ア) 従来の化石燃料への依存度低下のための検討

   ロシアによるウクライナ侵略を機とする昨今の原油価格の高騰を見ても、エネルギー安全保障は、社会・経済活動の基盤に係るものであり、非常に重要な問題である。防衛省・自衛隊として、今後、脱炭素化・エネルギーシフトが進んでいく中においても、引き続き、必要な燃料について安定的に十分な量を確保していくことは、死活的に重要である。2050年に向け、防衛省・自衛隊の活動における化石燃料への依存度を下げることで、エネルギー調達における脆弱性・リスクを下げ、我が国の防衛力を高める必要がある。

  (イ) 将来の脱炭素社会(エネルギーシフト)に対応すべく、新たなエネルギー源構成への対応の検討

   2050年の社会においては、防衛装備品の燃料として現在と同様のレベルで化石燃料を使用し続けることは困難と考えられ、防衛省・自衛隊も、防衛装備品のエネルギーシフトについて、今から今後の戦い方のゲームチェンジも視野に検討する必要がある。

第3 防衛省・自衛隊の気候変動対応の基本的考え方

 我が国を取り巻く安全保障環境は、一層厳しさを増しているが、第2のとおり、気候変動は、今後、我が国の安全保障に多大な影響をもたらすことが予想され、防衛省・自衛隊は、これへもしっかりと適応・対応していく必要がある。気候変動に伴う各種課題へ適応・対応していくことは、基地等の施設や自衛隊の運用、防衛装備品等を、より強靭でレジリエンスが増し、効率的・効果的なものとするとともに、気候変動により、今後、予測されるあらゆる環境下においても的確に任務・役割を果たしていくことにつながるものである。気候変動への適応・対応と防衛力の維持・強化は、両立するものであり、防衛省・自衛隊としては、次の基本的考え方のとおり、両対応を同時に図っていく。

・ 気候変動の対応は、我が国の防衛にとってマイナスと考えるのではなく、将来を見据えて、より強靭でレジリエンスが増し、効率的な施設・装備にするチャンスであると考え、気候変動対策と防衛力の維持・強化を同時に図っていくことを目指す。

・ 抑止・対処の更なる実効性の向上に必要な自衛隊の運用や訓練、基地等の施設維持管理等の改善を通じ、現有の防衛力の効果を高めつつ、今後、気候変動により予測されるあらゆる環境下においても的確に任務・役割を果たしていけるようにする。

・ 政府の2050年カーボンニュートラル実現に向けた温室効果ガス排出量削減について、防衛省・自衛隊は、基地等の施設や自衛隊の運用、防衛装備品等を、より効率的・効果的で、より強靭でレジリエンスのあるものとしていくことを通じ、寄与していく。

第4 防衛省・自衛隊の気候変動対応の基本的な取組方針

1 あらゆる計画等策定時の気候変動による影響及びレジリエンスの考慮

 気候変動を、将来にわたり我が国の安全保障に重大な影響を及ぼしかねない考慮要素として捉え、各種戦略や政策、計画の策定時には、気候変動による安全保障への影響及び気候変動へのレジリエンスの強化等を考慮する。

2 科学的知見に基づく気候変動への適応・対応の推進

 気候変動に関する各施策は、気候変動及び気候変動影響に関する科学的知見を踏まえて適切に実施していく必要がある。そのためには、科学的知見に基づく正確かつ具体的な影響予測・評価を行う必要がある。

 気候変動は様々な不確実性を持つ事象であるが、近年、関係省庁や研究機関、他国の軍隊等において、各種予測・評価技術が向上してきており、本文書に掲げられた各影響の具体的な予測・評価に当たっては、関連する最新の科学的知見、技術動向・情報等を幅広く収集するとともに、これら関係機関とも連携・情報交換等しながら行うことを追求する。その上で、各施策の具体的な内容の検討を行い、実施していく。

3 防衛省の戦略、政策、計画において、気候変動への対応の必要性、方向等の規定

 戦略や政策などに関する文書において、気候変動への対応の必要性や方向などを規定するとともに、それぞれ関連する計画において、上記第1項及び第2項の検討を踏まえ、気候変動への適応・対応のための方針を適宜、反映することで、気候変動の脅威への対応の取組を強化する。

 また、上記各計画については、気候変動に関する最新の知見を踏まえ、各取組の効果などの評価を行い、定期的に見直しを行っていく。その際、気候変動による世界の安全保障環境や我が国の安全保障環境への影響は多面的に生じることを踏まえ、諸計画の連携をさらに高めることに留意する。

4 時間軸を踏まえた戦略的な取組

 基地等の施設及びインフラについては、耐用年数が長く、現在更新すれば2050年にも利用されている可能性が高い。そのため、関係省庁や民間の施設・インフラの脱炭素化・エネルギーシフトの対応の方向を見定めるとともに、今後の気候変動による対災害性能や安全保障上、基地等の施設及びインフラに要求される性能も考慮し、脱炭素時代において、より強靭で抗たん性があり、効率的・効果的な基地等の施設の整備を今から行っていくべく、ロードマップを策定の上、計画的に取り組んでいく必要がある。

 また、防衛装備品についても、新規導入までに非常に時間がかかり、ライフサイクルも長いため、2050年の世界の脱炭素化・エネルギーシフトの状況、エネルギー源・燃料調達状況、技術見通し、将来の戦い方等を見据え、今から検討を行い、計画的に対応していく必要がある。

 本文書では、基地等の施設及びインフラ並びに防衛装備品について、20

50年までの長期を見据え、今後、計画的に取り組んでいく必要のある施策については、各施策の目指すべき方向性を示すこととし、具体的な取組は、施策ごとにロードマップを策定(策定が困難なものにあっては、それに相当するもの)の上、戦略的かつ計画的に推進していく。

 なお、防衛装備品の脱炭素化・エネルギーシフトへの対応について、20

50年を見据えた様々な技術開発・イノベーションの成否を現時点で正確に予測することは困難であるため、常に最新の情報に基づき、施策、技術開発等の計画を軌道修正しながら進めていくこととする。

 上記、基地等の施設及びインフラ、防衛装備品に係るロードマップの策定に当たっては、現時点で技術的に実用化が見通せる技術(太陽光発電システム、マイクログリッド、SAF、UAV等)については、優先順位をつけた上で、研究開発・実証や出来るだけ早期の導入、整備を目指すとともに、今後、有用であるものの現時点で技術的に確立されていない新たな技術の研究開発については、長期的な視点から今後の技術の動向・可能性を注視していくこととする。

第5 防衛省・自衛隊が推進すべき具体的施策

 第2で挙げた気候変動が我が国の安全保障に与える影響及び将来の脱炭素化・エネルギーシフトといった課題に対し、防衛省・自衛隊が、今後、戦略的に取り組んでいくべき具体的施策を次のとおり示す。

1 基地等の施設及びインフラの強靭化

 より強靭でエネルギー効率にも優れた基地等の施設及びインフラの整備を次のとおり推進していく。

(1) 基地等の施設及びインフラの災害等への強靭化(①大雨・短時間強雨、②台風、③海面上昇)

 ア 気候変動の進行による基地等の施設及びインフラへの時間軸に沿った具体的な影響予測(各種レビュー・シミュレーション)を実施し、当該施設及びインフラの災害による被災リスク・脆弱性を評価する。

 イ 今後の気候変動による影響に伴う災害対策に係る各計画の検証を行うとともに改定の必要性を検討する。

 ウ 上記ア及びイの検証等を踏まえ、各施設の強靭化のための対応ロードマップを策定し、優先順位付けを行った上で、計画的に施設の強靭化、脆弱性への対策を推進する。

 エ なお、予測の際に必要な最良の情報(各種予測データ・シミュレーション結果、ハザードマップ等)をタイムリーに入手するため、関係省庁や研究機関、地方公共団体等との関係構築や連携を図っていくこととする。

(2) 基地等の施設のエネルギー自立化(グリーンベース化)

 自衛隊の基地等の施設は、災害等発生時の 拠点となり、電力の途絶はあってはならない。また、自衛隊の基地等の施設は離島や僻地 にも多数所在しており、これらの場所は過酷な環境下にあり、電力が脆弱又は系統連結もなく、台風や有事の際など、物資供給も容易ではなく、必要な電力の安定的確保・途絶対策が特に重要である。気候変動により、今後、さらに災害の激甚化、頻発化が予測されるところ、太陽光発電システム等、再生可能エネルギー施設や蓄電設備を整備することにより、基地等の施設からの温室効果ガス排出削減に貢献しつつ、災害時や有事にもレジリエンスのあるエネルギー自立化(グリーンベース化)に向けた検討を行う必要がある。

 ア 環境省との連携事業「離島における再生可能エネルギー主力化・レジリエンス強化実証事業」を推進する。

 イ 基地等の施設への再生可能エネルギー施設設置によるエネルギー自立化(グリーンベース化)に向けた検討及びモデル基地を選定し実証事業を実施する。その際、効果を検証するとともに、サイバーセキュリティや被災リスク・脆弱性の評価を行い、必要な対策について検討する。

 ウ 上記イの実証事業等の結果を踏まえ、整備の目標年度を定めた上で、全国の基地等の施設へ展開すべくロードマップを策定し、計画的に取り組んでいく。

(3) 基地等の施設への電力の安定供給の確保

 2050年を見据えると、自衛隊の基地等の施設においては、今後、防衛装備品の電化が進み、さらに電力需要が増す見込みである。また、再生可能エネルギー由来の電力は、今後の気候変動による天候不順や被災など、一定のリスクを含むとともに、外部から電力調達を行う場合にも、我が国は、エネルギー源の多くを海外から輸入しており、地政学的リスクに伴う燃料費高騰により、電気代高騰のおそれもある。

 将来に向け、基地等の施設の必要な電力量を持続的かつ安定的に確保していくため、今から次の検討を行っておく必要がある。

 ア 防衛省・自衛隊の今後のエネルギー構成がどうあるべきか、様々なリスクやコスト、エネルギー基本計画に基づく国内の潮流、技術進歩・実現可能性、各国軍隊の動向などを勘案し、時間軸も踏まえ総合的に検討する。

 イ 今後の我が国のエネルギー安全保障問題について、防衛省・自衛隊の立場から注視していく。

2 防衛装備品の防衛力向上とレジリエンス強化

(1) 将来の使用環境に対応した防衛装備品の能力とレジリエンスの強化

 ア 気候変動が防衛装備品の運用環境に与える影響(異常高温や海水温上昇、海水塩分濃度の変化による影響等)を様々なシナリオにおいてレビューするとともに、必要な対策を実施する。

 イ 防衛装備品購入の仕様に、気候変動影響に強い機能(極端な暑さに耐える能力等)を含めることを検討する。

 ウ 防衛省・自衛隊における防衛装備品の研究開発内容は、気候変動影響への対応を踏まえているか(あるいは踏まえるべきか)検討する。

(2) 将来の脱炭素社会(エネルギーシフト)を見据えた新たなエネルギー源構成への対応

 2050年までを見据え、将来の新たなエネルギー源構成への対応のため、防衛装備品ごとに今後のエネルギー源・燃料(※)及び供給手段などについて、時間軸に沿った対応の方向性について検討する必要がある。そのため、現在使用中又は今後導入が決まっている防衛装備品等について、代表的な防衛装備品ごとに今後、エネルギー源・燃料及び供給手段などをどうしていくか、時間軸に沿った対応の方向性を示すロードマップを策定し、中長期的な対応策を具体化していく。

 なお、ロードマップは、現時点で見通せる技術に基づき検討を行うこととし、今後の様々な技術開発・イノベーションの進捗を踏まえ、適宜、軌道修正していくこととする。

 ※ 従来の化石燃料、SAF、バイオ燃料、合成燃料、ハイブリッド、電動化、水素・アンモニア燃料エンジン、燃料電池等

(3) 脱炭素時代に対応したゲーム・チェンジャーとなり得る最先端技術に関する取組

 2050年における戦い方、エネルギー源構成、燃料調達状況等を見据え、脱炭素社会にも対応した、よりレジリエンスを強化し、抑止力及び対処力が高まる革新的な防衛装備品について検討(※)する。

※ 例えば、現在、安全保障上の要請から取り組んでいる戦い方のゲーム・チェンジャーに係る各種施策(①各種システムへのAIの導入、②ドローン・無人機の導入、③UAV・UUVの導入、④レーザー兵器の導入、⑤ロボットの導入、⑥電動又はハイブリッド型の偵察車両の導入、⑦現地可搬型太陽光発電・蓄電設備等の導入)について、将来のエネルギーシフトへの対応の観点も付加して促進することも視野に入れる。

(4) 戦闘車両等のハイブリッドシステムの研究の推進

 日米で共同研究中の将来の戦闘車両用等のハイブリッドシステムの研究を推進する。

3 後方分野における持続性・レジリエンスの強化

(1) 従来の化石燃料への依存度低下のための検討

 燃料について、将来にわたるサプライチェーンリスクの観点や、我が国としてもエネルギー資源を確保していくという意味で、次のとおり化石燃料に替わる代替燃料(SAF、バイオ燃料、合成燃料等)の導入や防衛用燃料供給の脆弱性克服のため、我が国で研究開発・製造し、調達できるよう、防衛省・自衛隊も含め国全体で積極的に関与していくことが、レジリエンスの強化のためにも必要である。

 ア 化石燃料に替わる代替燃料(SAF、バイオ燃料、合成燃料等)導入について検討する。

 イ 我が国で研究開発・製造し、調達できる国産代替燃料について、関係省庁が官民で進める開発の動きと連携していく。

(2) 防衛省・自衛隊のロジスティクスの強化

 気候変動により予想されるあらゆる環境下においても的確に任務を果たしていけるよう、防衛省・自衛隊のロジスティクスの強化を次のとおり図っていく。

 ア 災害による交通網遮断時の交通・物流の機能確保のための輸送手段・体制の検証・レビューを実施する。

 イ 防衛省・自衛隊が使用することが予想される、関係省庁や地方公共団体等保有の空港・港湾・道路・公共施設等の情報の共有及びそれらの被災リスク・脆弱性の把握を行う。

 ウ 交通網遮断による物流停止に伴う部隊への影響が予想されるシナリオの想定及び当該想定に基づく補給処から全国の基地等への輸送体制及び補給処における備蓄数量の考え方の検討を行うとともに、必要な対策を実施していく。

 エ 新たな輸送手段として、ドローンの活用の可能性を検討する。

4 災害等対処能力の強化

 気候変動により、今後、さらに災害の激甚化、頻発化や新しい感染症の発生が予想されることから、防衛省・自衛隊の災害等対処能力の強化を次のとおり図っていく。

(1) 災害派遣

 ア 今後、気候変動により予想される災害派遣の主要な傾向、リスクなどに関する調査を、最新の知見に基づき定期的に実施する。

 イ 過去の災害派遣等における好事例、教訓などの情報を収集し、共有するためのデータベース構築及びそれらの計画等への反映、図上演習等を実施する。

 ウ 関係省庁や研究機関、地方公共団体等が保有する気候・環境データを事前収集するとともに、防衛省・自衛隊の災害派遣活動の気候脆弱性リスクを評価し、把握(予見性を高め、事前にシナリオや計画策定等に活用)する。

 エ 災害派遣の実効性の更なる向上のため、関係省庁、地方公共団体と連携し、災害派遣活動が展開される可能性のある地域で協力関係を強化し、地域に根差した対策を検討する。

  【検討課題の例】

  ・ 今後の気候変動による災害の予測情報の入手及び計画策定や訓練、地域との連携方法・役割分担等、事前の備え

  ・ 関係省庁、地方公共団体などの関係者の役割分担の明確化、協力関係の強化

  ・ 予備自衛官の更なる活用及び防衛省・自衛隊による民間企業やボランティア等の活用による自衛隊の負担の軽減、活動の効果増大・効率化

  ・ 地方公共団体の防災関係部局における退職自衛官の更なる活用(再就職支援の一層の充実)

  ・ 気候関連の様々なシナリオを想定した複数のステークホルダー参加による訓練や図上演習プログラムの実施

 オ 災害派遣に必要な装備品の整備を図っていく。

(2) 地球温暖化に伴う新しい感染症(又はパンデミック)への対応

 ア 感染症流行下における防衛省・自衛隊の災害派遣活動の教訓を整理し、省内関係部署で共有・蓄積を図っていく。

 イ 平素からの関係省庁や研究機関、各国軍隊等との情報交換や関係構築を促進するとともに役割分担を明確化していく。

 ウ 情勢の変化、対策に係る防衛省・自衛隊の対応能力について随時評価を行った結果などを踏まえ、感染症対応の見直しを定期的に行う。

5 戦略的な安全保障協力の強化

(1) 多角的・多層的な安全保障協力の戦略的な推進

 ア 気候変動をテーマとした多角的・多層的な交流・協力を戦略的に推進する

(各国との交流、多国間における交流、国際会議、H A/DRに係る共同訓練、共同研究開発等)。

 イ 国内外の組織とのパートナーシップの構築や協力を一層深化させていくとともに、国際貢献を果たす(能力構築支援、国際緊急援助活動、HA/ DRに係る協力、ODAとの連携等)。

 ウ 軍隊における将来の脱炭素化・エネルギーシフトに資するエネルギー源・燃料や防衛装備品の方向性について、防衛省・自衛隊と各国軍隊の間で情報や意見交換を推進する。また、国際的なルールメイキングの観点から、我が国の優れた技術力を背景に防衛省・自衛隊も積極的に関与していく。

(2) 気候変動に伴う将来の安全保障環境に及ぼす影響及び当該影響への対応に係る共通認識・理解の醸成

 気候変動の影響により、次のような地政学的リスクが増大することが予想され、これら課題へ的確に取り組んでいく必要がある。

【北極海の戦略的位置づけの変化】

 ア 北極海においては、海氷面積が減少し、艦艇の航行が可能な期間及び海域が拡大しており、将来的には、海上戦力の展開や軍の海上輸送力などを用いた軍の機動展開に使用されることが考えられる。

 イ 我が国から北極海を経由して欧州に至る航路はスエズ運河を経由する航路と比較して、約6割まで距離を削減できるなど、我が国にとっても今後一層重要な海域になり得る。

 ウ 北極圏には未発見の天然資源が豊富に埋蔵されていると言われており、北極海でも資源をめぐる各国の動きが活発化している。

【気候変動による不安定化】

  ア 海面水位の上昇により、太平洋島嶼国は、領土損失の危機にあり、また、我が国周辺においては、異常気象の増大により大規模災害の増加や感染症の拡大などが予想される。

  イ 雪氷の融解に関しては、メコン川など多くの大河の源流であるチベット高原の氷雪の影響について注目を要する。

 これらの状況に対応するため、関係省庁、関係各国等とも連携し、気候変動が我が国の安全保障環境に及ぼす影響について、安全保障上の課題として重大な関心を持ち、幅広く情報収集・評価を実施し、課題ごとに関係省庁や関係各国等と連携し、気候変動の脅威や課題、対応策について共通認識・理解を持つよう努力していく。

(3) 国際緊急援助活動、HA/DRへの取組

 ア 国際緊急援助活動、HA/DRの可能性のある地域等における気候・環境データを事前収集するとともに、防衛省・自衛隊の活動の気候脆弱性リスクを評価し、把握する。

 特に、将来、アジア周辺諸国、太平洋島嶼国へのHA/DRが増加する可能性に留意する。

 イ 上記アにより、将来の活動に対する予見性を高めるとともに事前のシナリオ・計画策定等に活用する。また、当該シナリオ・計画等に基づく図上演習、シミュレーションを実施する。

 ウ ASEAN諸国や太平洋島嶼国と緊密に意思疎通しつつ、防衛省・自衛隊がこれまで蓄積してきた災害派遣や国際緊急援助活動、HA/DR等を通じた教訓、ノウハウを有効に活用したセミナーや能力構築支援の継続的な実施・充実化を図っていく。

 エ HA/DRにおける予備自衛官やボランティア、外部業者との連携について検討する。

(4) 将来のエネルギーシフトに伴う地政学的リスク(レアメタル等の重要鉱物資源や新たなエネルギー源)に向けた対応

 ア エネルギーシフトに伴うレアメタル等の重要鉱物資源や新たなエネルギー源の安定確保等のため、これまでとは異なる地域での地政学的リスクやシーレーンの確保といった、新たな安全保障上の課題について、関係省庁や関係各国等と連携し、共通認識・理解を持つよう努力していく。イ 防衛省・自衛隊が、今後も多重化・多元化なエネルギー源を確保する観点から、化石燃料の使用を続ける場合、将来的に先進国の中で我が国の中東依存が継続するといった地政学的リスクに対する対応を検討していく。

6 自衛隊員の生活・勤務環境の改善、衛生機能の強化

(1) 熱波、異常高温による自衛隊員の健康リスク増加への対応

 ア 従来、空調設備を設置することとなっていなかった地域における隊舎や庁舎、整備工場等への必要に応じた空調設備の設置を推進する。

 イ 熱波や異常高温下での活動が予想される自衛隊員の健康リスク増加を考慮した被服・装具の検討や防衛装備品への空調設備の必要性の検討を行い推進していく。

 ウ 自衛隊員の熱中症の発生の予防及び発生時の対処について、一層の適切な対策を検討及び実施していく。

 エ ヒートアイランド対策として、基地等の施設内の敷地及び建物の屋上等への緑化を推進するとともに、基地等の施設内の道路・歩道への透水性や保水性舗装の導入、雨水貯留浸透施設の設置等といった方策について検討する。

(2) 水や食物由来の疾病や動物媒介由来の疾病に対する対応

 ア 疾病に対する医薬品等の確保を図っていく。

 イ 基地等の施設の媒介動物(蚊、ネズミ、マダニ等)への対応を図っていく。

7 基地等の施設の効率化・温室効果ガス排出の削減

(1) 基地等の施設及びインフラの省エネルギー化

 ア 今後予定する新築事業については、原則ZEB Oriented相当以上とし、2030年度までに新築建築物の平均でZEB Ready相当となることを目指す。

※ ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル):50%以上の省エネルギーを図ったうえで、再生可能エネルギー等の導入により、エネルギー消費量をさらに削減した建築物について、その削減量に応じて、①『ZEB』(100%以上削減)、②Nearly ZEB(75%以上100%未満削減)、③ZEB Ready(再生可能エネルギー導入なし)と定義しており、また、30~40

%以上の省エネルギーを図り、かつ、省エネルギー効果が期待されているものの、建築物省エネ法に基づく省エネルギー計算プログラムにおいて現時点で評価されていない技術を導入している建築物のうち1万㎡以上のものを④ZEB Oriented と定義している。

 イ 既存設備を含めた防衛省・自衛隊でのLED照明の導入割合を2030年度までに100%とするよう省として進捗を管理しつつ計画的に取り組む。

 ウ エネルギー効率の低い設備機器類などについて、高効率機器類への改修や先進的な機器類への交換を推進する。

(2) 防衛省・自衛隊の施設等の効率化・温室効果ガス排出の削減(緩和策)

 ア 再生可能エネルギー電力の調達

  ・ 2030年度までに防衛省・自衛隊で調達する電力の60%以上を再生可能エネルギー電力とするよう省として進捗を管理しつつ計画的に取り組む。

 イ 太陽光発電設備等、再生可能エネルギー施設の設置

  ・ 2030年度までに設置可能な防衛省・自衛隊保有の建築物(敷地含む。)の約50%以上に太陽光発電設備を設置することを目指す(その際、太陽光等発電と蓄電設備のマイクログリッドシステムの設置も併せて検討)。

  ・ 防衛省・自衛隊の基地等の施設における再生可能エネルギー利用を促進しつつ、強靭化に取り組む。

  ・ 併せて、再生可能エネルギーの不安定さに対応するため、蓄電施設などの設置の検討も行う。

 ウ ボイラー施設等の段階的廃止の検討

 基地等の施設からの温室効果ガスの大きな排出源であるボイラー施設等、燃料を使用する設備について、温室効果ガスを排出する構造のインフラが長期にわたり固定化すること(ロックイン)がないよう、再生可能エネルギーによる電化を進めていく必要がある。また、電化が困難な設備については、使用する燃料をカーボンニュートラルな燃料へ転換することを検討するなど、将来のエネルギーシフトも見据え、計画的に取り組んでいくべく、具体的な方針について検討する必要がある。

 そのため、ボイラー施設の段階的廃止など、対応方針及び発動発電機への代替燃料の段階的な使用について検討する。

 なお、上記検討に当たっては、電力への依存度上昇に伴う電力単価上 昇の際の対応や仮設熱源等バックアップ機能についても併せて検討する。

 エ 電動車の調達

 代替可能な電動車(※)がない場合等を除き、新規導入・更新については2022年度以降全て電動車とし、使用する公用車全体でも2030年度までに全て電動車(防衛装備品を除く。)とするよう省として進捗を管理しつつ計画的に取り組む。

 ※ 電動車:電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車

 オ 建設工事からの温室効果ガス排出の削減等

  ・ 建設工事の実施に当たっての温室効果ガスの排出の削減に努める。例えば、温室効果ガス排出量の少ない重機の使用やICTを活用した施工の効率化、環境へ配慮した仕様の材料の使用、木材の積極的な使用等に努める。

  ・ 自衛隊の運用開始時期などへ影響を及ぼさないよう、特に大規模な施設整備計画における必要工期については、気候変動による大雨や台風等といった極端現象の増加による現場での作業不能日の増加や酷暑化による現場での作業効率低下などといった影響を踏まえた必要な期間設定となるよう検討する。

8 訓練、教育、人材育成

(1) 気候変動に伴う将来の安全保障環境への部隊運用・訓練の適応

 近年、コンピューターの演算能力やA I、グラフィックス技術等の向上により、各種シミュレーターが進化してきている。気候変動の影響で現場での訓練ができな い場合への対応及び今後予想される異常 気象・被災状況をシミュレーションで再 現し訓練を実施しておくなど、これらをさらに活用することが考えられる。したがって、各種シミュレーターの導入・活用による訓練を促進する。

(2) 教育、人材育成

 ア 気候変動に関する防衛省・自衛隊の意識と理解を高めるため、各種教育のカリキュラムへの取込や全隊員・職員に対する気候変動全般に関する教育を実施する。

 イ 防衛省・自衛隊の気候変動の問題を主導する人材の育成、教育等内部体制の充実化を図る。

9 技術基盤の強化

(1) 研究とイノベーションの活用

 ア 防衛省・自衛隊が取り組む気候変動に関連する研究やイノベーションの優先順位を設定した上で、投資を拡大する。その際、関係省庁、大学、研究開発法人、民間企業、同盟国等との協力や役割分担を考慮する。また、技術開発については省庁の枠を超えて政府全体として進めることを追求する。

 イ 気候変動が防衛省・自衛隊の活動に与える影響を把握し、対応するための手段を提供するツールを導入し、又は開発する(基地等の施設の気候変動による影響の評価、大規模化する災害出動への対応、部隊や装備品運用におけるエネルギー利用状況の分析等)。

(2) 官民連携による効果的な推進

 国内では、産官学が連携し、国を挙げて2050年カーボンニュートラル実現に向けた、エネルギー・産業部門の構造転換や大胆な投資によるイノベーションの創出といった様々な研究や技術開発を行っている。防衛省・自衛隊の本取組に当たっては、省単独ではなく、これらの動きと連動し、政府全体として進めることや、先進的な技術でデュアル・ユースできるものは積極的に活用するなど、大学、研究開発法人、民間企業等と連携し推進することを追求する。

(3) 防衛産業基盤の強化

我が国の高い技術力は、経済力と防衛力の基盤をなしており、国家安全保障上、重要な意義を持つ。防衛省・自衛隊の脱炭素化・エネルギーシフトのために、今後、先進的な装備等、新たな防衛装備品を導入していくに当たっては、国内からの調達に努めるとともに、防衛産業基盤の強化が気候変動への対応にも資する可能性にも留意する。

10 地域コミュニティーとの連携

(1) 地域社会との調和・貢献

 2050年までにCO2排出実質ゼロを表明するゼロカーボンシティが全国で拡大(2022年6月末時点で42都道府県、440市、20 特別区、209町、38村)しており、宣言した地域においては、面的な空間における省エネ、再エネ活用などに繋がる複合的な取組によりカーボンニュートラルなくらし・まちづくりが推進されている。

 防衛省・自衛隊は、全国に基地等の施設が所在しており、地域社会の一員として、自身の温室効果ガスの排出の削減努力や防衛施設周辺地域との調和を図るための各種施策などを通じ、地域社会との調和や基地周辺の地方公共団体の気候変動対策・カーボンニュートラル実現に向けたまちづくりへ貢献していくことが考えられる。

 ア 地域社会の一員として、防衛省・自衛隊の温室効果ガスの排出の削減を通して貢献していく。

 イ 防衛施設周辺の地域社会との調和を図るため、その周辺の地方公共団体が取り組む気候変動対策・カーボンニュートラル実現に向けたまちづくりへの各種施策の支援について検討する。

【他省庁の各種施策の例】

地方公共団体によるゼロカーボンシティ計画への協力として、補助事業における施設のZEB(ZEH)化、再生可能エネルギー施設の設置、過年度の補助事業への省エネ診断補助等

(2) 再生可能エネルギー施設建設のための防衛省・自衛隊の土地の使用の許可の検討

 再生可能エネルギー施設建設のために、地方公共団体などからの利用要望があれば、行政財産の用途・目的を妨げず、任務へ支障が生じないことを前提とし、防衛省・自衛隊の土地の使用の許可について検討する。

第6 留意事項

1 気候変動の最新の知見を踏まえ、取組の 効果などの評価、それを踏まえた計画や活 動の見直しを定期的に実施することとする。

2 防衛省気候変動タスクフォース設置要綱について(通達)(防官文(事)第124号。令和3年5月13日)において設置される気候変動タスクフォースの枠組みで、本文書で盛り込まれた各種施策の実施状況について、毎年、フォローアップを実施することとする。

3 本文書は、策定後のフォローアップの結果や気候変動予測が今後の世界のカーボンニュートラル実現に向けた取り組み状況により変わる予測の困難さ、我が国を取り巻く安全保障環境の変化や脱炭素 化・エネルギーシフトに係るイノベーション、科学技術の進展は著しく速 いことなどを踏まえ、適宜、見直しを実施することとする。

以上


{画像、図表は省略}