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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関する基本指針(特定重要技術研究開発基本指針)

[場所] 閣議決定
[年月日] 2022年9月30日
[出典] 内閣府
[備考] 
[全文] 

はじめに

 近年、科学技術・イノベーションが激化する国家間の覇権争いの中核を占めている中、先端的な重要技術の研究開発やその成果の活用は、我が国の国民生活や経済活動にとって重要であるのみならず、中・長期的に我が国が国際社会で確固たる地位を確保し続ける上で必要不可欠となっている。

 主要国は、感染症の世界的流行、大規模サイバー攻撃、自然災害等も含めた安全保障上の脅威等への有効な対応策として、先端技術の研究開発・活用を強力に推進し、鍵となる技術の把握に必要な情報収集・分析、大型研究開発プロジェクトの立ち上げ、情報共有や成果の社会実装に向けた官民協力スキームの導入等を進めている。同時に、技術流出問題が顕在化する中、各国とも対策を強化している。

 従来、国民生活や経済活動において重要となる先端技術は、国の機関や一部の大企業等が主体となり開発されてきた。例えば、コンピューティング・インターネット・GPSなどがその例として挙げられ、成果が広く社会・経済に活用されてきた。一方、近年急速に進展しつつあるAI、量子等の新興技術の研究開発は、アカデミアやスタートアップ企業を含めた多様な主体がボトムアップで推進しており、先端技術の研究開発を担う主体に変化が生じている。このような中、先端技術の研究開発を効果的に推進するためには、積極支援するための新たな枠組み作りが有効であり、先端的な重要技術について、諸外国と伍する形で研究開発を進めるための制度を整備する必要が生じている。

このような背景の下、経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和4年法律第43号。以下「法」又は「本法」という。)が成立した。本法において、安全保障を確保するための経済施策の一つとして、特定重要技術を定義した上で、当該技術に関し、官民連携を通じた伴走支援のための協議会の組織(法第62条)、指定基金協議会の組織等による強力な支援(法第63条)、

調査研究業務の委託(法第64条)を整備しており、こうした枠組みを通じて、特定重要技術の研究開発の促進とその成果の適切な活用を図ることとしている。

 本指針は、法第60条第1項の規定及び経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する基本的な方針(以下「基本方針」という。)に基づき、特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関する基本指針(以下

「本基本指針」という。)を定めるものである。


第1章 特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関する基本的な方向に関する事項

第1節 制度の趣旨

 特定重要技術の研究開発の促進と成果の活用は、中・長期的に我が国が国際社会において確固たる地位を確保し続ける上で不可欠な要素となるものである。

 すなわち、特定重要技術の研究開発の促進と成果の活用を図ることで、他国に優位する技術を保有し、社会実装につなげていくことは、国民生活の向上等にとどまらず、世界が直面する様々な課題への積極的な貢献等を通じて、国際社会において我が国が不可欠性を獲得していくことにつながるものである。

 こうした理念の下、本基本指針に基づき、政府全体として、本法の枠組みを有効に活用し、官民の協力の下、特定重要技術の研究開発の促進と成果の活用に向けて取り組むことが必要である。

第2節 国の施策

 法第61条において、国は、特定重要技術の研究開発の促進とその成果の適切な活用を図るため、本基本指針に基づき、必要な情報の提供、資金の確保、人材の養成及び資質の向上その他の措置を講ずるよう努めることとされている。

 「必要な情報の提供」については、法第62条第1項に規定する協議会及び法第63条第4項に規定する指定基金協議会において、関係行政機関(内閣官房並びに国の府、省、委員会及び庁のうち関係するものをいう。以下同じ。)は、自らが有する専門的知見や研究開発成果など、研究開発に有用な情報の提供を行うことが求められる。また、内閣総理大臣は、特定重要技術調査研究機関と協力して、法第64条第1項に規定する調査研究を実施し、その結果については、必要に応じ、協議会及び指定基金協議会に参画する研究者等に対し、情報提供を行うものとする。

 「資金の確保」については、関係行政機関は、法第63条第1項に規定する指定基金を活用して、必要な情報の提供等の措置とあわせ、特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に向けた強力な支援を行うものとする。

 「人材の養成及び資質の向上」については、第5章で述べるとおり、関係行政機関は、協議会及び指定基金協議会の組織や指定基金に充てる資金の補助、調査研究の実施を通じて、関連の人材の養成と資質の向上を図るものとする。

 その他、関係行政機関は、協議会及び指定基金協議会等において、研究開発大臣若しくは指定基金所管大臣又は関係行政機関の長として、研究開発の成果の適切な活用に資する取組を行うことなどが求められる。

 同時に、これまで政府においては、海外への技術漏えいへの対処として、外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)に基づく安全保障貿易管理への適切な対応のための体制の整備や、不正競争防止法(平成5年法律第47号)に基づく営業秘密保護の強化、研究活動の国際化・オープン化に伴う新たなリスクへの対応として、研究の健全性・公正性(研究インテグリティ)の自律的な確保に向けた取組を研究機関に求めてきており、特定重要技術の取扱いやその研究開発の実施に当たっては、その性質上特にこれらの点について十分な配慮がなされなければならない。また、関係行政機関は、当該行政機関が支援する研究開発を実施する研究機関や研究者における適切な安全保障貿易管理、営業秘密保護の実施や、研究インテグリティの確保について、助言等の必要な支援を行うことが求められる。

 これらの取組は、一行政機関で完結するものではなく、内閣官房・内閣府を始め関係行政機関は、特定重要技術の研究開発の促進と成果の活用に向けて、自らこれらの枠組みを主体的に活用するとともに、他の行政機関の取組に対し積極的に協力することが求められる。

第3節 特定重要技術

(1) 特定重要技術の定義

 法第61条においては、将来の国民生活及び経済活動の維持にとって重要なものとなり得る先端的な技術を「先端的技術」として定義している。

 「先端的技術」は、「現在」ではなく「将来」の国民生活及び経済活動の維持にとって重要なものとなり得る先端的な技術であることから、「現在」において既に技術成熟度が具体的製品の開発段階に至っているものは該当せず、その研究開発の成果については、官民の様々な社会実装の担い手が、自らの判断で具体的製品の開発等に応用することが想定される。

 なお、半導体やコンピューティングといった既に具体的製品が開発されている分野であっても、それらの性能を劇的に発展させるなど、将来の国民生活及び経済活動の維持にとって重要なものとなり得る先端的技術として、更に研究開発を進めるべきと捉えられるものについては、先端的技術に含まれ得ると考えられる。

 その上で、法第61条において、「特定重要技術」は、「先端的技術」のうち以下のいずれかの類型に該当するものとして定義されている。なお、ある技術が複数の類型に同時に該当することもあり得る。

  【類型1】当該技術が外部に不当に利用された場合において、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるもの

  【類型2】当該技術の研究開発に用いられる情報が外部に不当に利用された場合において、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるもの

  【類型3】当該技術を用いた物資又は役務を外部に依存することで外部から行われる行為によってこれらを安定的に利用できなくなった場合において、国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれがあるもの

  【類型1】の「当該技術が外部に不当に利用された場合」には、例えば、技術情報が窃取され、その技術が利用されるような場合が該当し、その防止のためには、当該技術の適正な管理が必要となる。

  【類型2】の「当該技術の研究開発に用いられる情報が外部に不当に利用された場合」には、例えば、関係行政機関から提供された情報などが窃取され、その情報が利用される場合が該当し、これを防止するためには、研究開発に関する情報の適正な管理や、守秘義務の求めが必要となる。

  また、【類型3】の「当該技術を用いた物資又は役務を外部に依存することで外部から行われる行為によってこれらを安定的に利用できなくなった場合」には、例えば、先端的な技術を用いたモノやサービスについて外部に依存することで、何らかの外部からの行為によって、これらの利用に支障が生ずる場合が該当し、これを防止するためには、当該技術について我が国が国際社会における自律性、優位性ひいては不可欠性を確保・維持する必要がある。

(2) 調査研究を実施する技術領域

 特定重要技術の対象を見極める上で、デジタル化等による技術開発の加速化や、突如として新たな重要技術が誕生する不連続の技術革新の可能性を踏まえると、あらかじめ具体の技術を個別に指定することは適切ではなく、特定重要技術が含まれ得る技術領域を幅広く対象として検討を行うことが重要である。

 このため、本基本指針第4章に記載のとおり、内閣総理大臣は、調査研究実施方針に基づき、特定重要技術調査研究機関も活用しながら、特定重要技術の絞り込みや、その育成・活用方針の検討に資するための調査研究を実施することとなる。

 その際、以下の技術領域を参考にしつつ、最新の国内外の研究開発及び政策の動向、経済社会情勢等を踏まえ、柔軟に調査研究を実施するものとする。

 ○ バイオ技術

 ○ 医療・公衆衛生技術(ゲノム学含む)

 ○ 人工知能・機械学習技術

 ○ 先端コンピューティング技術

 ○ マイクロプロセッサ・半導体技術

 ○ データ科学・分析・蓄積・運用技術

 ○ 先端エンジニアリング・製造技術

 ○ ロボット工学

 ○ 量子情報科学

 ○ 先端監視・測位・センサー技術

 ○ 脳コンピュータ・インターフェース技術

 ○ 先端エネルギー・蓄エネルギー技術

 ○ 高度情報通信・ネットワーク技術

 ○ サイバーセキュリティ技術

 ○ 宇宙関連技術

 ○ 海洋関連技術

 ○ 輸送技術

 ○ 極超音速

 ○ 化学・生物・放射性物質及び核(CBRN)

 ○ 先端材料科学

※令和3・4年度内閣府委託事業「安全・安心に関するシンクタンク機能の構築」における広範囲調査の対象領域

(3) 指定基金を用いて研究開発等を実施する技術領域

 特定重要技術のうち特に優先して育成すべきものについては、指定基金を活用して研究開発等を推進することが適当であり、その対象については、新たな技術シーズやニーズの出現、国際情勢等を通じて常に変遷し得るものであることから、専門家や関係行政機関等の意見も踏まえつつ、我が国が国際社会における自律性、優位性ひいては不可欠性を確保・維持することにつながるか否かを十分に検証した上で、真に必要なものとなるよう不断に精査し見直していくことが必要である。

 本基本指針第3章に基づき指定基金を用いて実施することが想定される「経済安全保障重要技術育成プログラム」で支援すべき重要技術については、学識経験者等及び関係行政機関により構成される「経済安全保障重要技術育成プログラムに係るプログラム会議」(以下、「プログラム会議」という。)における検討を踏まえ、国家安全保障会議における経済安全保障に係る審議を経て、経済安全保障推進会議及び統合イノベーション戦略推進会議が決定する「研究開発ビジョン」において、その都度示すこととしている。

 このため、経済安全保障重要技術育成プログラム研究開発ビジョン(第一次)

(令和4年9月16日経済安全保障推進会議・統合イノベーション戦略推進会議決定)において示されている技術が、指定基金を用いて研究開発等を実施する技術領域として適当である。

(4) 協議会の組織が可能となる技術領域

 (2)及び(3)に示した技術領域のみならず、法第61条に規定する特定重要技術の定義に該当することが認められる技術については、協議会が組織され得る。


第2章協議会の組織に関する基本的な事項

第1節協議会の趣旨

 特定重要技術の研究開発に当たっては、潜在的な社会実装の担い手として想定される関係行政機関や民間企業等による、各組織や産学官の枠を超えた伴走支援が有効であり、技術力あるスタートアップ企業や中小企業等も含め、参加者間で機微な情報も含む有用な情報の交換や協議を安心して円滑に行うことのできるパートナーシップの確立が必要である。

 法第62条においては、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(平成20年法律第63号。以下「活性化法」という。)第12条第1項の規定による国の資金により行われる研究開発等に関して、当該資金を交付する各大臣(以下「研究開発大臣」という。)は、当該研究開発等により行われる特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用を図るため、本基本指針に基づき、当該特定重要技術の研究開発等に従事する者のうち当該研究開発等を代表する者として相当と認められる者の同意を得て、当該者及び当該研究開発大臣により構成される協議会を組織することができることとしている。

 具体的には、まず、特定重要技術の研究開発等に関する情報管理の枠組みを設けることにより、関係行政機関が保有するニーズ情報や民間企業等の情報セキュリティのインシデント情報など、研究開発等には有用であるが、通常であれば、国家公務員法(昭和22年法律第120号)第100条第1項に基づく守秘義務等により、研究者には共有されることがなかった機微な情報の共有を可能とすることで、研究開発等のより効果的な実施が期待される。

 また、協議会では、こうした機微な情報の共有にとどまらず、社会実装のイメージや研究開発の進め方を議論・共有するほか、必要に応じ、規制緩和の検討や国際標準化の支援など、組織の枠を超えた協議が行われることが期待される。さらに、協議会参加者が納得する形で、技術流出対策を講じるべき対象範囲やオープン・クローズ戦略を決めていくことも期待される。

第2節協議会の設置

 研究開発大臣が法第62条第1項に基づく協議会を設置する場合、①国の資金により行われる特定重要技術の研究開発等であること、②研究開発等を代表する者として相当と認められる者の同意があること、という法律上の要件のほか、制度の趣旨に照らせば、③協議会の趣旨に鑑み官民連携を通じた伴走支援を行うことが適当と認められること、も当然求められる。


 法第62条第2項に基づく協議の際は、内閣総理大臣は、これらの要件が満たされているかを確認する。協議において内閣総理大臣が協議会の構成員となることを求めた場合には、研究開発大臣は、求めに応じ、内閣総理大臣を構成員として追加することとする。

 なお、協議会の設置方式は、研究開発プロジェクト単位を基本としつつも、各分野の実態に応じて柔軟に対応することが可能である。例えば、個別の研究開発プロジェクトごとに独立した協議会を組織する方式のほか、複数の研究開発プロジェクトを包含する協議会を組織し、個別の研究開発プロジェクトごとに分科会を設置する方式によることも可能である。

① 国の資金により行われる特定重要技術の研究開発等であること

 協議会は、第1章第3節に基づき特定重要技術と認められる技術の研究開発等

のうち、活性化法第12条第1項の規定による国の資金により行われるものを対象としており、行政機関が直接的に執行する補助金や委託費に限らず、資金配分機関に資金を交付して実施するものや、行政機関から交付された運営費交付金を原資とするものについても、それらの趣旨や目的等に鑑み、要件を満たせば設置することが可能となる。

② 研究開発等を代表する者として相当と認められる者の同意があること

 協議会の組織は、法第62条第1項に基づき、「特定重要技術の研究開発等に従事する者のうち当該研究開発等を代表する者として相当と認められる者」の同意を得て行われるものである。

 この「研究開発等を代表する者として相当と認められる者」は、「研究開発等に従事する者」であることが必要であり、その趣旨を踏まえれば、協議会を組織しようとする研究開発プロジェクトに係る研究代表者など、実質的に研究内容を把握し、研究チームを率いている者が相当することとなる。「研究開発等を代表する者として相当と認められる者」が複数存在すると認められる場合は、その全てから同意を得ることが必要となる。

 なお、研究開発大臣による同意の取得は、書面により行うこととする。また、研究開発等を代表する者が同意を強制されることはなく、例えば、研究開発のテーマによっては、募集時等に協議会の設置を念頭に置いている旨を明示することも可能であるが、協議会の組織に係る同意を採択の条件にすることや、同意しない者を不利に扱ってはならない。

③ 協議会の趣旨に鑑み官民連携を通じた伴走支援を行うことが適当と認められること

 協議会は、特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用を図るために組織されるものである。また、特定重要技術の研究開発に関する情報を適正に管理するために必要な措置(以下「安全管理措置」という。)が講じられることを前提に、関係行政機関が保有するニーズ情報や民間企業等の情報セキュリティのインシデント情報などの機微な情報が共有されることが見込まれる。

 このため、前述の協議会の趣旨に鑑み、関係行政機関からの情報提供が必要かつ可能と考えられるなど、協議会を組織して官民連携を通じた伴走支援を行うことが適当と認められる場合に限り、組織することとする。

第3節 協議会の構成員

 協議会を組織する研究開発大臣は、法第62条第3項に基づき、「必要と認めるときは、協議会に、国の関係行政機関の長、当該特定重要技術の研究開発等に従事する者、特定重要技術調査研究機関その他の研究開発大臣が必要と認める者をその同意を得て構成員として加えることができる」とされている。

 具体的には、潜在的な社会実装の担い手として想定される関係行政機関の長又はその職員、研究開発の実施者、連携相手となる研究機関又はその役職員、シンクタンクやその役職員、さらには、資金配分機関又はその役職員、その他民間企業を含む社会実装に関係する者等が想定される。

 協議会の構成員は、研究開発大臣が選定することとなるが、その際は、協議会で提供される機微な情報を共有すべき者が適切に含まれるよう、上述の研究開発等を代表する者として相当と認められる者と十分に相談することが必要である。その上で、研究開発大臣が協議会の構成員を加えようとする場合、本人(法人の場合は当該法人)の同意が必要となるが、その際、協議会に参画することによる義務や守秘義務の内容等について、あらかじめ十分に説明することが必要である。また、協議会発足後、研究開発大臣が追加的に新たな構成員を加えようとする場合や、構成員を除名しようとする場合は、当該協議会が定める規約等に従うことが必要となる。

 当該特定重要技術の研究開発等を実施している研究チームのメンバーである研究者は、協議会に参画することにより、機微な情報の提供を受けることが可能となるが、協議会への参画に同意しない場合であっても、引き続き研究チームに残ることは可能である。その場合、例えば、協議会で交換される機微な情報の提供を受けることはできないが、そのほか関係行政機関から不利益な扱いを受けることはない。

 協議会には法人単位での参画も可能であるが、その場合、法人としての同意のほか、当該法人において協議会の事務に従事することとなる役職員(自然人)についても、本人同意の上で、構成員とすることが必要である。その場合、法第62条第5項に基づき、協議の結果に応じて必要な取組を行うものとされる主体は、当該法人及び当該役職員(自然人)となる。

 法人の役職員(自然人)が、法人の立場から離れて、個人として、協議会の構成員となることも可能であるが、その場合、法第62条第5項に基づき、協議の結果に応じて必要な取組を行うものとされる主体は、当該法人ではなく、当該役職員(自然人)のみとなる。

 行政機関の場合は、その長に限らず、実際に協議会の事務に従事する行政官が構成員となる。

 なお、協議会に参加したのちに、研究者自らの意向によって協議会から離脱することも可能であり、協議会から離脱した研究者は、引き続き研究チームに残ることは可能である。その場合、例えば、協議会で交換される機微な情報の提供を受けることはできないが、そのほか関係行政機関から不利益な扱いを受けることはない。

第4節 協議会の運営

 協議会においては、法第62条第4項に基づき、①当該特定重要技術の研究開発に有用な情報の収集、整理及び分析に関する事項(同項第1号)、②当該特定重要技術の研究開発の効果的な促進のための方策に関する事項(同項第2号)、③当該特定重要技術の研究開発の内容及び成果の取扱いに関する事項(同項第3号)、④当該特定重要技術の研究開発に関する情報を適正に管理するために必要な措置に関する事項(同項第4号)、⑤その他当該特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に必要な事項(同項第5号)について、協議することとなる。

ア 規約

 法、基本方針、本基本指針に定めるもののほか、協議会の組織及び運営に関する具体的な事項については、法第62条第8項に基づき、各協議会が規約において定めることとする。規約は、協議会組織後、構成員の全会一致により定めることとし、その改正手続は、同規約中に定めるところによる。規約制定後、その同意を得て、新たに協議会に参画しようとする者については、当該協議会の規約についても同意を得ることとする。

 規約においては、協議会の運営に関する具体的な事項として、協議会としての意思決定の方法についても定めるものとする。

 各協議会の規約は、本基本指針の内容を踏まえて定めなければならない。また、内閣総理大臣は、各協議会が規約を定める際の参考とするため、モデルとなる規約を示す。

イ 研究開発に有用な情報の収集、整理及び分析(法第62条第4項第1号関係)

 研究開発を進めるに当たっては、伴走支援の一環として関係行政機関等から提

供される、公的分野における社会実装イメージ、既存の研究成果、民間企業等の

サイバーセキュリティの脆弱性情報等の情報が有益となる場合がある。

 具体的にどのような情報が関係行政機関等から提供されるかは、研究開発の進捗や研究者からの要望を踏まえ、また、機微性の高い情報の場合は、研究者側において講じられる安全管理措置を確認した上で、協議会での議論を経て判断されることとなる。

 また、協議会は、必要に応じ、法第62条第6項の規定に基づき、その構成員又は特定重要技術調査研究機関に対し、特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に関して必要な資料の提供、説明、意見の表明その他の協力を求めることが可能である。その具体的な方法・手続については、協議会の規約等により定められることが必要となる。

ウ 研究開発の効果的な促進のための方策(法第62条第4項第2号関係)

 協議会では、前述の情報共有にとどまらず、社会実装のイメージや研究開発の進め方を議論・共有するほか、必要に応じ、規制緩和の検討や国際標準化の支援など、潜在的な社会実装の担い手として想定される関係行政機関や民間企業等による、組織の枠を超えた伴走支援を行うことも期待される。

エ 研究開発の内容及び成果の取扱い(法第62条第4項第3号関係)

 研究開発の内容及び成果の取扱いについて、社会実装の方向性・技術流出防止・海外での懸念用途への転用・多様な知の交流等によるイノベーションの促進・研究参画へのインセンティブ付与等の観点を十分に考慮し、個々の研究テーマ等の状況を踏まえ、協議会においては、その規約等に従って全ての参加者が納得する形で決定されることとする。

 その際、本法の枠組みにおいては、制約的要素は必要最小限度としつつ、研究成果は公開を基本とする。とりわけ、論文などの成果発表については、守秘義務の対象となる情報を除き、制約を課すことはせず、原則公開されるものとする。

 また、研究成果に係る特許権等の帰属の取扱いについては、研究参画へのインセンティブや、その後の社会実装の在り方に大きく影響することから、産業技術力強化法(平成12年法律第44号)第17条(いわゆる日本版バイ・ドール制度)の適用を基本としつつ、個々の技術について日本版バイ・ドール制度を適用しない場合、協議会においては、その規約等に従って全ての参加者が納得する形で決定するものとする。

 なお、例えば、公的分野での活用を進めようとしている技術であって、技術成熟度が一定程度高まり、公的分野での活用が一定程度見込まれる段階に至った時点で、当該技術の詳細が公開されることにより公的利用に支障が生じる場合には、例外的ではあるが、協議会で合意された対応方針を踏まえ、一定の情報をノウハウとして管理するなどの適切な対応が求められる。

オ 研究開発に関する情報を適正に管理するために必要な措置(法第62条第4項第4号関係)

 安全管理措置の具体的内容は、情報の性質や技術の進展状況等を踏まえ、協議会ごとに決定されることとなるが、例えば、以下のような措置が考えられる。

 ・ICカード等による入退出管理を始めとした、機微な情報を取り扱う区域の管理

 ・電子媒体・資料等を持ち出す際の漏えい・盗難の防止

 ・データ等へのアクセスログの記録化

 このほか、安全管理措置の具体的な運用は、後述の守秘義務の対象となる情報の明確化の方法、共有範囲、期間、管理方法等と密接に関連していることから、協議会では、これらを一体的に協議することが望ましい。

カ 協議会の事務局

 協議会の事務局機能は、規約等において別段の定めがある場合を除き、研究開発大臣の下の行政機関が務めることが適切である。

第5節 守秘義務

 協議会の事務に従事する者又は従事していた者は、法第62条第7項により、正当な理由がなく、当該事務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならないとされている。同項の規定に違反して秘密を漏らし、又は盗用した者は、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されることとなる(法第95条第1項第1号)。

ア 研究成果の取扱い

 守秘義務の対象となる情報の範囲は、飽くまで「協議会の事務に関して知り得た」秘密に限定されている。このため、研究者が自ら生み出した研究成果は、例えば、元の守秘義務の対象とされた情報が直接的ないし実質的に了知されない限りにおいて、そもそも守秘義務の対象外となる。

 協議会を組織した研究開発大臣又は対象となる情報を提供した関係行政機関等から研究者に対して、成果発表に関する事前確認を一律に求めることはない。他方、研究者が成果発表に際して、守秘義務との関係で疑問等が生じた場合、当該関係行政機関等は、研究者からの求めに応じて相談に応じるものとする。

 なお、大量破壊兵器の開発を始めとする、海外での懸念用途への転用があり得る場合などにおいて、関係行政機関等から協議会構成員に対し、例外的に、研究成果を非公開として扱うべきとの要請が行われた場合、協議会において規約等に従って全ての参加者が納得する形で、速やかに結論を出すことが期待される。この場合において、協議会において結論を出すことができなければ、本法の枠組みでは、成果の公開に制約が課されることはない。また、こうした要請を行った事実自体は秘密には該当しないことから、守秘義務の対象とはならない。

イ 守秘義務の対象となる情報の範囲等の明確化

 守秘義務の対象となる情報の範囲及び守秘義務が求められる期間については、予見可能性の確保に加えて、技術の育成や成果の活用に支障が生じないよう、また、協議会構成員の間で理解の齟齬が生じないよう、当該情報が提供される前に明確にされる必要がある。特に、守秘義務が求められる期間については、情報の特性に応じて明確にするとともに、技術の進展状況等を踏まえ、保護する必要がなくなれば、速やかに解除されることが必要である。

 守秘義務については、対象となる情報、共有範囲、期間、管理方法等の明確化の方法を含めた具体的な運用の在り方につき、安全管理措置の運用と併せ、個々の協議会において、法第62条第4項第4号の事項として協議を行った上で、規約等において明確に定めておくことが必要である。その際、協議会の事務に従事する者の範囲については、それが守秘義務の対象となる情報を共有することができる者の範囲にもなることから、協議会の中で常に明確にしておく必要がある。


 また、関係行政機関等を始めとする協議会構成員が提供する個別の情報について、規約等で定められた具体的な運用方法に基づき、それが守秘義務の対象となるか否かを一義的に明確にするのは、情報提供者の責任となる。

ウ 法第62条第7項の解釈

 イで示したとおり、守秘義務の対象となる情報の範囲等は明確にされる必要があるが、その上で、法第62条第7項の秘密は、国家公務員法等と同様、非公知の事実であって、実質的にもそれを秘密として保護するに値すると認められるもの

(実質秘)に限定される。

 協議会において守秘義務の対象とされた情報の提供を受けた側が既に当該情報を保有しているなど「協議会の事務に関して知り得た」とはいえない場合や、当該情報が技術の進展等に伴い提供後に公知となっているなど「秘密」(実質秘)に当たらない場合などは、本項の守秘義務の対象とはならない。

第6節 協議会の解散

 協議会の解散については、協議会ごとの規約によるものとする。

第7節 協議会の設置状況等の公表

 協議会の設置や運営に係る資料は、協議会が研究開発大臣の下に置かれるものであることから、協議会での協議も踏まえ、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42条)や公文書等の管理に関する法律(平成21年法律第

66号)に基づき、協議会を設置した行政機関において適切に取り扱われることが必要である。

 また、各協議会の協議内容の公表方法は、国民に対する説明責任や、研究者の意向、やり取りされる情報の機微性、率直な意見交換などの観点を踏まえ、それぞれの協議会において規約等により決定されることが求められる。

 なお、協議会を設置した行政機関名や設置件数については、特定重要技術の開発支援に関する制度の運用状況として、内閣府のウェブサイトで公表することとする。

 研究開発プロジェクトの評価と評価結果の公表は、説明責任の確保や研究成果の適切な活用等の観点から重要である。このため、国費を用いて実施される研究開発については、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成28年12月21日内閣総理大臣決定)に基づき、評価・公表することとされており、本法の枠組みにより協議会が組織された研究開発も、当然にその対象となる。

第8節 指定基金協議会

 法第63条第4項に基づく指定基金協議会は、基本的に、前述の法第62条第1項に基づく協議会と同様に運営されることとなる。

 ただし、指定基金協議会は、指定基金により行われる特定重要技術の研究開発等について必置となっていることから、当該研究開発等を代表する者が当該研究開発等の公募に応じることをもって、その設置について同意があったものとみなされる。なお、当該研究開発等の公募の際には、当該研究開発等が指定基金により行われるものであり、指定基金協議会が設置される旨を周知することが必要である。

 あわせて、指定基金協議会の事務局機能は、規約等において別段の定めがある場合を除き、内閣府及び指定基金所管大臣の下の行政機関が務めることが適切である。また、指定基金を配分する資金配分機関が、当該事務局の事務的な支援を行うこととする。


第3章 指定基金の指定に関する基本的な事項

第1節 指定基金の趣旨

 法第63条の規定に基づき、内閣総理大臣は、本基本指針に基づき、活性化法第

27条の2第1項に規定する基金のうち、特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用を目的とするものを指定基金として指定することができる。

 特定重要技術の研究開発の促進と成果の活用は、中・長期的に我が国が国際社会において確固たる地位を確保し続ける上で不可欠な要素であり、政府がリスクを取って投資を行い、知見を有する民間企業・大学等との官民連携の下、研究開発を強力に推進することが必要である。

 こうした技術に関しては、社会実装に結び付けば民間企業等にリターンをもたらす一方、先端性の高さが故に、投資に見合う成果を得られるかの不確実性が高いこと、多様な主体・用途での社会実装を念頭に研究成果の公開が重要であることから、市場経済のメカニズムのみに委ねていては投資が不十分となりがちなものである。

 指定基金は、こうした状況認識を踏まえ、我が国として諸外国と伍する形で研究開発を進めるための制度の整備を図ったものであり、この制度の下、特定重要技術の研究開発を進めることが必要である。

第2節 指定基金の対象

 令和3年度補正予算において予算措置された「経済安全保障重要技術育成プログラム」は、先端的な重要技術について、その実用化に向け、政府が情報を提供するなど強力な支援を行うことを目的としており、活性化法第27条の2第1項に基づき国立研究開発法人科学技術振興機構及び国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構に造成された「経済安全保障重要技術育成基金」を用いて推進されるものである。

 当該基金が法第63条第1項の指定基金として指定されることにより、特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用に向け、より強力な支援を行うことが可能となることから、内閣総理大臣は、当該基金を指定基金として指定することが適当である。

第3節 指定基金の運営

 指定基金を用いて行われる経済安全保障重要技術育成プログラムは、以下のとおり推進する。

ア 基本的な意思決定の枠組み

 経済安全保障重要技術育成プログラムの運用に係る基本的考え方について(令和4年6月17日内閣総理大臣決裁。以下「基本的考え方」という。)に基づき、経済安全保障推進会議及び統合イノベーション戦略推進会議の下、内閣官房、内閣府その他の関係行政機関が一体となって推進することとしている。両会議は、支援すべき重要技術を含めた研究開発ビジョンを決定し、当該ビジョンに沿って、関係行政機関が一体となって研究開発を推進するとともに、研究開発ビジョンの決定に際しては、国家安全保障会議での経済安全保障に係る審議を経るものとしている。

イ プログラム会議の開催等

 基本的考え方に基づき、関係府省及び学識経験者等から構成されるプログラム会議が研究開発ビジョンに関する検討を行うとともに、研究開発制度の運用及び評価の指針、個々の研究開発の推進方法等の細則に関する検討を行うこととしている。その上で、内閣官房及び内閣府は、プログラム会議からの意見を踏まえ、関係行政機関の協力を得て、研究開発制度の運用及び評価の指針等を決定する。この際、専門家の知見や関係行政機関が持つ情報、特定重要技術調査研究機関による調査研究の成果等を活用するとともに、経済安全保障重要技術育成プログラムと他制度等との有機的な連携を図ることとしている。

ウ 関係行政機関の役割

 指定基金を用いて行われる経済安全保障重要技術育成プログラムの運営について中心的な役割を担うのは、内閣官房及び内閣府並びに資金配分機関を所管する文部科学省及び経済産業省であるが、その他の関係行政機関についても、指定基金協議会を通じた研究開発に有用な情報の提供や社会実装に向けた検討等、積極的に伴走支援を行うものとする。

 特に、経済安全保障重要技術育成プログラムにおいて研究開発が進められた特定重要技術が適切に活用され、我が国の優位性、ひいては不可欠性に貢献するためには、円滑な社会実装が必要となる。このため、関係行政機関は、内閣官房及び内閣府の主導の下、必要に応じ、他の研究開発制度における個々の研究開発プロジェクトとの連携のほか、社会実装方式の検討、規制緩和や国際標準化といった検討を積極的に進めることが求められる。

エ 技術流出対策・安全管理措置の実施

 経済安全保障重要技術育成プログラムは、将来の国民生活及び経済活動の維持にとって重要なものとなり得る先端的な技術の育成に特化した基金であることから、その運営に際しては、当該技術又は当該技術の研究開発に用いられる情報が外部に不当に利用されることがないよう、万全を期すことが必要となる。同時に、研究者やスタートアップ企業が参画しやすい間口を備えた制度とすることが望ましい。

 このため、指定基金協議会において、法第63条第5項において準用される法第62条第4項に基づき、研究開発に関する情報を適正に管理するために必要な措置(同項第4号)について協議が行われた場合、その結果を受けて、同条第5項に基づき、指定基金協議会の構成員たる研究者が実施する情報の適正な管理に関する措置を行うこととし、適切と認められる場合はその必要な資金を指定基金から支出することとする。

 経済安全保障重要技術育成プログラムにおいては、法第63条第4項により指定基金協議会が必置となる。指定基金協議会においては、同条第5項において準用する法第62条第5項に基づき情報の適正な管理等が特に求められることから、当該プログラムの運営に当たっては、研究代表者及び主たる研究分担者が安全管理措置を十分に講じられる者である必要がある。また、安全保障貿易管理や営業秘密保護に関する法令上必要な取組、研究インテグリティとして求められる取組及び安全管理措置についても、これらの者が所属する機関において適切に取り組むことが求められる。

オ 戦略的な国際研究協力

 経済安全保障重要技術育成プログラムの運営に際しては、重点的に守り育てることが必要な先端的な重要技術の特性に鑑みつつ、実効性のある研究開発の推進に向けて、国際的な研究協力を戦略的に進めるものとする。その際、基本的価値やルールに基づく国際秩序の下で、同盟国・同志国との協力の拡大・深化を図ることも重要であることに留意することとする。

カ その他

 指定基金を用いて行われる研究開発を受託する者は、特定重要技術調査研究機関と相互に知見を深めつつ、特定重要技術の育成と積極的な活用の促進を図ることができるよう、特定重要技術調査研究機関の行う調査研究に積極的に協力するものとする。

 また、経済安全保障重要技術育成プログラムの評価について、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」に基づき、適切に実施することとする。


第4章 調査研究の実施に関する基本的な事項

第1節 調査研究

(1) 調査研究の趣旨

 法第64条においては、内閣総理大臣は、本基本指針に基づき、特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用を図るために必要な調査及び研究

(以下「調査研究」という。)を行うものとされている。

 具体的には、①特定重要技術や指定基金により研究開発を促進すべき技術の絞り込み、②特定重要技術の育成方針の検討及び③特定重要技術の活用方針の検討に資するため、内外の社会経済情勢や最新の科学・技術に関する知見を糾合し、特定重要技術が含まれ得る技術領域について調査研究を行うものである。

(2) 調査研究の方法

 内閣総理大臣は、調査研究実施方針を策定し、これに基づき、調査研究を実施するものとする。調査研究実施方針においては、特定重要技術調査研究機関への委託方法など調査研究の実施方法の詳細を定めるものとする。

 また、調査研究に際しては、幅広く、関係行政機関や関係機関、先端的技術の研究開発を担う第一線の研究者、社会実装を担う民間企業の知見を糾合することが不可欠であり、こうした機関との協力はもちろん、特定重要技術の研究開発を進める中で発掘された課題や、集められた知見についても有機的に取り込むことが重要である。

 このため、特に関係行政機関においては、法第4条第2項において相互に協力

しなければならない旨が定められていること、法第64条第3項において調査研究を行うために必要な情報及び資料の提供を行うことができる旨が定められていることも踏まえ、内閣総理大臣又は特定重要技術調査研究機関が行う調査研究に関して、積極的な情報や資料の提供などの協力を行うことが求められる。

 また、指定基金に基づく研究開発を受託する者は、内閣総理大臣及び特定重要技術調査研究機関と相互に知見を高めつつ、特定重要技術の育成と積極的な活用促進を図ることができるよう、内閣総理大臣又は特定重要技術調査研究機関の行う調査研究に積極的に協力するものとする。

 調査研究により得られた成果については、経済安全保障重要技術育成プログラムの研究開発ビジョン(前章第3節)の見直し等への活用のほか、関係行政機関による積極的な活用も期待される。

(3) 調査研究の継続性

調査研究の委託に当たっては、知見の蓄積や内外機関とのネットワーク構築、人材の養成・確保を図るためにも、中・長期的な視点から継続性に配意することが必要である。法第64条第2項の適合要件を満たす機関を適切に選定した上で、複数年にわたり継続して委託することが望ましい。

第2節 特定重要技術調査研究機関

(1) 特定重要技術調査研究機関の趣旨

 調査研究は、法第64条第1項に基づき内閣総理大臣が行うこととされており、本来的には国が担うべきものである。一方、将来の国民生活及び経済活動の維持にとって重要なものとなり得る先端的な技術に関する調査研究を効果的に行うためには、技術等の動向等が常に変化し続ける中で、中・長期的な視点から継続的に調査・分析を行うことが必要である。このため、政府内部のみに閉じた取組では自ずと限界があることから、同条第2項に基づき、一定の基準に適合する者への委託を可能としている。

 同項の規定による委託を受けた者(特定重要技術調査研究機関)は、国内外の技術動向、社会経済動向、安全保障など多様な視点から、特定重要技術の研究開発の促進等に向けた調査研究を行うこととなる。また、特定重要技術調査研究機関は、協議会及び指定基金協議会に関し、構成員となることが求められた場合や、資料の提供や説明、意見の表明等の協力を求められた場合は、積極的に対応することが求められる。

 また、経済財政運営と改革の基本方針2022(令和4年6月7日閣議決定)及

び統合イノベーション戦略2022(令和4年6月3日閣議決定)において示され

ているように、政府としては、令和5年度を目途にシンクタンクを本格的に立ち上げるべく検討を実施することとしており、当該シンクタンクが、特定重要技術調査研究機関として、本法の調査研究の一端を担うことも期待されるところである。

 かかるシンクタンクは、単に情報提供の機関ではなく、先端技術の専門性を有する産業界・学術界の人材を確保するとともに、機関やその活動を目に見える形として拠点化した上で、産業界・学術界への必要な情報の提供や、政府の政策の意思決定への貢献・寄与をしていく機関となっていくことが期待される。このため、シンクタンクには、必要な機関との連携体制や、情報共有のネットワークの構築に努めることが求められており、関係行政機関は、これらの実現に必要な支援を行う必要がある。

 こうしたシンクタンクの育成は一朝一夕にできるものではなく、まずは経済安全保障重要技術育成プログラムの実施に資する調査・分析を中心に機能を発揮することが想定される。その上で、日進月歩で進展・変化の早い先端技術分野において、最新の知見を取り込みつつ継続的に一定以上の水準の調査・分析を行うため、新たな調査・分析手法の確立や関係機関とのネットワークの拡大など、シンクタンク機能の発展が求められる。

(2) 特定重要技術調査研究機関の要件

 法第64条第2項に基づく委託については、特定重要技術調査研究機関が、同条第3項に基づき関係行政機関から情報・資料の提供を受けることのできる者であり、かつ、法第62条第6項(法第63条第5項において準用する場合を含む。)に基づき協議会及び指定基金協議会への協力を求められる者であること等を踏まえ、本法において、委託先に求める能力を示している。

①専門的な調査研究に関する能力(法第64条第2項第1号)

 調査研究においては、将来の国民生活及び経済活動の維持にとって重要なものとなり得る先端的な技術に関して、技術面のみならず社会制度や社会システムまでを含めた国内外の情勢や研究開発動向等を適切に調査・分析できる能力を有することが求められる。

②情報収集・整理・保管に関する能力(法第64条第2項第2号)

 国の政策に調査研究を活かしていくためには最新のトレンドを追うのみならず、過去の実績や知見の蓄積を踏まえた継続的な調査・分析が不可欠であり、自ら関連の情報を収集・整理し、それを保管することにより、調査研究に役立てていくことが求められる。

③内外の関係機関との連携に関する能力(法第64条第2項第3号)

 ①の調査・分析機能を担保するためには、自ら保有すべき情報と国内外の様々な機関がそれぞれの特徴に応じて有する情報を集約し、連携することが重要である。このため、特定重要技術調査研究機関には、自らが情報集約のハブとなり、内外の様々な機関と連携し、ネットワークを構築する能力が求められる。

④情報管理体制(法第64条第2項第4号)

 関係行政機関や海外の研究機関等との緊密なコミュニケーションを確保し、情報管理を図る必要がある情報を取り扱えるようにするため、適切な情報管理体制を確保することが求められる。特に、委託事業の調査・分析において様々な主体から提供される情報の中には、守秘義務の対象になり得る情報など、公表に馴染まないものも含まれ得ることから、その取扱いについては、十分な配慮が必要である。

(3) その他

 調査研究の実施においては、社会実装に関して関係行政機関が保有するニーズ情報等の取り込みを始め、関係行政機関との緊密な情報連携が求められる。このため、法第64条第3項に基づき、関係行政機関が、特定重要技術調査研究機関からの求めに応じて、必要な情報等の提供を行うことができることとしている。

 このように、特定重要技術調査研究機関が、国内外の連携先との機微な情報の円滑な共有に資するためには、相互の信頼関係はもちろん、連携先が安心して円滑に情報をやり取りしてくれるような制度や体制の構築が必要であり、同条第4項に基づく役職員への守秘義務や、同条第2項第4号に基づく安全管理措置を適確に実施するに足りる能力を求める旨が規定されている。

 なお、調査研究の委託成果報告書については、行政の透明性向上のための予算執行等の在り方について(平成25年6月28日閣議決定)等に基づき、原則として、公表されることとなる。


第5章 特定重要技術の研究開発の促進等に当たって配慮すべき事項その他特定重要技術の研究開発の促進等に関し必要な事項

第1節 政府全体の戦略・各施策との連携

 科学技術・イノベーションの推進の観点からは、科学技術・イノベーション基本計画(令和3年3月26日閣議決定)や統合イノベーション戦略2022に基づき施策を行うとともに、各分野については、宇宙基本計画(令和2年6月30日閣議決定)や海洋基本計画(平成30年5月15日閣議決定)、量子技術イノベーション戦略(令和2年1月21日統合イノベーション戦略推進会議決定)、AI戦略2022(令和4年4月22日統合イノベーション戦略推進会議決定)、バイオ戦略2020(令和2年6月26日統合イノベーション戦略推進会議決定)、サイバーセキュリティ戦略(令和3年9月28日閣議決定)などを策定し、取組を進めているところである。こうした戦略や、戦略に基づく各施策による研究開発の促進及びその成果の適切な活用と整合性を確保することが必要である。

第2節 特定重要技術の研究開発等に係る人材の養成及び資質の向上

 特定重要技術の研究開発の促進及びその成果の適切な活用を図るためには、そのための「人材」の養成及び確保を図ることが不可欠である。このため、法第61条には「人材の養成及び資質の向上」を規定しており、その「人材」としては関連の研究開発を担う人材や各研究機関において研究開発を支援する人材、調査研究を実施する人材等が想定される。

 特定重要技術の研究開発を担う人材については、協議会及び指定基金協議会の組織や指定基金を用いて行われる研究開発等への参画等を通じて、人材の養成と資質の向上を図っていくこととなる。これらの活動を進める際には、次世代の社会変革を導く若手の研究者・技術者等が参画できるように留意するとともに、こうした協議会及び指定基金協議会に参画する若手の研究者・技術者等がキャリアパスの一環として学界等で評価される環境を醸成していくことなどが求められる。

 さらに、特定重要技術の研究開発を国際研究協力の観点から戦略的に実施していくためには、各研究機関等において安全保障貿易管理や営業秘密保護に関する法令上必要な取組、研究インテグリティとして求められる取組、安全管理措置を適切に実施できる人材を養成・配置していくことが求められる。

 また、調査研究を高い水準で実施していくためには、先端的な重要技術を巡る国内外の情勢や研究開発動向等に関して高度な知見を有する人材を中・長期的に養成・確保していくことも必要であり、シンクタンクや大学等の能力を活用して、関係行政機関はその実現のために必要な措置を講じることが求められる。特に、新しい才能を新しい分野で養成していくという観点から、シンクタンクが優秀な科学者・企業関係者のキャリアパスの一つとしての立場を確立していくことが重要である。同時に、こうした場で若手が経験を得ることに関し、その経験を肯定的に評価できる風土の醸成が求められる。例えば米国のシンクタンクでは、学位の授与等がインセンティブになっているとの指摘も踏まえ、官民技術協力に従事する人材の養成のための更なる取組も、中・長期的な課題として重要である。

 なお、これらの人材の確保に当たっては、例えば、所属する大学に籍を置いたままでクロスアポイントメント制度等を活用して調査・分析に従事するなど、個々の事情に応じて柔軟な対応を行うことが期待される。