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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 防衛装備移転三原則 (2023年12月22日 一部改正)

[場所] 
[年月日] 2023年12月22日
[出典] 内閣府
[備考] 平成26年4月1日:国家安全保障会議決定・閣議決定,令和5年12月22日:一部改正
[全文] 

 政府は、防衛装備の海外移転については、昭和42年の佐藤総理による国会答弁(以下「武器輸出三原則」という。)及び昭和51年の三木内閣の政府統一見解によって慎重に対処することを基本としてきた。このような方針は、我が国が平和国家としての道を歩む中で一定の役割を果たしてきたが、一方で、共産圏諸国向けの場合は武器の輸出は認めないとするなど時代にそぐわないものとなっていた。また、武器輸出三原則の対象地域以外の地域についても武器の輸出を慎むものとした結果、実質的には全ての地域に対して輸出を認めないこととなったため、政府は、個別の必要性に応じて例外化措置を重ねてきた。このような中、平成26年4月1日、防衛装備の海外移転に係るこれまでの政府の方針につき改めて検討を行い、これまでの方針が果たしてきた役割に十分配意した上で、新たな安全保障環境に適合するよう、これまでの例外化の経緯を踏まえ、包括的に整理し、明確な原則として本原則を定めた。今般、「国家安全保障戦略について」(令和4年12月16日国家安全保障会議及び閣議決定)を踏まえ、一部改正をすることとした。

 我が国は、戦後一貫して平和国家としての道を歩んできた。専守防衛に徹し、他国に脅威を与えるような軍事大国とはならず、非核三原則を守るとの基本原則を堅持してきた。他方、現在、我が国は、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。そして、我が国が位置するインド太平洋地域は安全保障上の課題が多い地域であり、この地域において、我が国が、自由で開かれたインド太平洋というビジョンの下、同盟国・同志国等と連携し、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を実現し、地域の平和と安定を確保していくことは、我が国の安全保障にとって死活的に重要である。

 これらを踏まえ、我が国は、平和国家としての歩みを引き続き堅持し、また、国際社会の主要プレーヤーとして、同盟国・同志国等と連携し、国際協調を旨とする積極的平和主義の立場から、我が国の安全及びインド太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、一方的な現状変更を容易に行い得る状況の出現を防ぎ、安定的で予見可能性が高く、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を強化することとしている。

 こうした我が国の安全保障上の目標を達成する上で、防衛装備の海外への移転は、特にインド太平洋地域における平和と安定のために、力による一方的な現状変更を抑止して、我が国にとって望ましい安全保障環境の創出や、国際法に違反する侵略や武力の行使又は武力による威嚇を受けている国への支援等のための重要な政策的な手段となる。そして、防衛装備の適切な海外移転は、国際平和協力、国際緊急援助、人道支援及び国際テロ・海賊問題への対処や途上国の能力構築といった平和への貢献や国際的な協力(以下「平和貢献・国際協力」という。)の機動的かつ効果的な実施を通じた国際的な平和と安全の維持の一層積極的な推進に資するものであり、また、同盟国である米国及び同志国等との安全保障・防衛分野における協力の強化、ひいては地域における抑止力の向上に資するものである。さらに、防衛装備の高性能化を実現しつつ、費用の高騰に対応するため、国際共同開発・生産が国際的主流となっていることに鑑み、防衛装備の適切な海外移転は、いわば防衛力そのものと位置付けられる我が国の防衛生産・技術基盤の維持・強化、ひいては我が国の防衛力の向上に資するものである。

 他方、防衛装備の流通は、国際社会への安全保障上、社会上、経済上及び人道上の影響が大きいことから、各国政府が様々な観点を考慮しつつ責任ある形で防衛装備の移転を管理する必要性が認識されている。その際、経済安全保障の観点も踏まえ、技術等に関する我が国の優位性、不可欠性の確保等にも留意する必要がある。

 以上を踏まえ、我が国としては、国際連合憲章を遵守するとの平和国家としての基本理念及びこれまでの平和国家としての歩みを引き続き堅持しつつ、次の三つの原則に基づき防衛装備の海外移転の管理を行った上で、官民一体となって防衛装備の海外移転を進めることとする。また、武器製造関連設備の海外移転については、これまでと同様、防衛装備に準じて取り扱うものとする。

1 移転を禁止する場合の明確化

  次に掲げる場合は、防衛装備の海外移転を認めないこととする。

  ① 当該移転が我が国の締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合、

  ② 当該移転が国際連合安全保障理事会の決議に基づく義務に違反する場合、又は

  ③ 紛争当事国(武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため、国際連合安全保障理事会がとっている措置の対象国をいう。)への移転となる場合

2 移転を認め得る場合の限定並びに厳格審査及び情報公開

 上記1以外の場合は、移転を認め得る場合を次の場合に限定し、透明性を確保しつつ、厳格審査を行う。具体的には、防衛装備の海外移転は、平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合、同盟国たる米国を始め我が国との間で安全保障面での協力関係がある諸国(以下「同盟国等」という。)との国際共同開発・生産の実施、同盟国等との安全保障・防衛分野における協力の強化並びに装備品の維持を含む自衛隊の活動及び邦人の安全確保の観点から我が国の安全保障に資する場合等に認め得るものとし、仕向先及び最終需要者の適切性並びに当該防衛装備の移転が我が国の安全保障上及ぼす懸念の程度を厳格に審査し、国際輸出管理レジームのガイドラインも踏まえ、輸出審査時点において利用可能な情報に基づいて、総合的に判断する。

 また、我が国の安全保障の観点から、特に慎重な検討を要する重要な案件については、国家安全保障会議において審議するものとする。国家安全保障会議で審議された案件については、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成11年法律第42号)を踏まえ、政府として情報の公開を図ることとする。

3 目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保

 上記2を満たす防衛装備の海外移転に際しては、適正管理が確保される場合に限定する。具体的には、原則として目的外使用及び第三国移転について我が国の事前同意を相手国政府に義務付けることとする。ただし、平和貢献・国際協力の積極的な推進のため適切と判断される場合、部品等を融通し合う国際的なシステムに参加する場合、部品等をライセンス元に納入する場合等においては、仕向先の管理体制の確認をもって適正な管理を確保することも可能とする。

 以上の方針の運用指針については、国家安全保障会議において決定し、その決定に従い、経済産業大臣は、外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)の運用を適切に行う。その上で、運用指針は、安全保障環境の変化や安全保障上の必要性等に応じて、時宜を得た形で改正を行う。

本原則において「防衛装備」とは、武器及び武器技術をいう。「武器」とは、輸出貿易管理令(昭和24年政令第378号)別表第1の1の項に掲げるもののうち、軍隊が使用するものであって、直接戦闘の用に供されるものをいい、「武器技術」とは、武器の設計、製造又は使用に係る技術をいう。

 政府としては、国際協調を旨とする積極的平和主義の立場から、国際社会の平和と安定のために積極的に寄与していく考えであり、防衛装備並びに機微な汎用品及び汎用技術の管理の分野において、武器貿易条約の履行及び国際輸出管理レジームの更なる強化に向けて、一層積極的に取り組んでいく考えである。