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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 石破日本国内閣総理大臣及びルッテ北大西洋条約機構事務総長による共同声明

[場所] 
[年月日] 2025年4月9日
[出典] 外務省
[備考] 仮訳
[全文] 

2025年4月9日、石破茂日本国総理大臣及びマルク・ルッテ北大西洋条約機構(NATO)事務総長は東京で会談を行った。

本日、我々は、日本及びNATOが戦略的利益並びに自由、民主主義、人権及び法の支配といった価値を共有しているという確固たる信念を改めて述べるとともに、欧州・大西洋地域及びインド太平洋地域のための戦略的に重要な日本及びNATOのパートナーシップを認識する。我々は、国際の平和と安定に向けたコミットメントを再確認する。我々は、欧州・大西洋及びインド太平洋の安全保障が相互に連関しており、多くの同様の挑戦に直面していると認識している。強固なNATOは日本にとっても利益となる。我々は、変わりゆく不確定な安全保障環境の下、日本及びNATOの協力の継続が欧州・大西洋地域及びインド太平洋地域の安全保障と強靱性にとって有益であるとの信念を共有する。

今日、我々の協力は、日本及びNATOの安全保障に影響を及ぼしうる挑戦に焦点を当てており、それは広範なものである。日本とNATOは、我々のパートナーシップの着実な進展とともに、サイバー防衛、宇宙、新興破壊技術及び相互運用性といった分野の戦略的協力を通じて、それぞれの地域におけるこうした挑戦への対応能力向上のための歩みを進めている。


国際社会が直面する戦略的挑戦

我々は、ロシアによるウクライナ侵略が国連憲章を含む国際法の深刻な違反を構成するとの立場を改めて表明する。我々は、現在関係国によって行われている包括的で公正かつ永続的な平和を達成するための外交努力が重要であることを確認する。ルッテ事務総長は、日本によるNATOの「ウクライナのための包括的パッケージ(CAP)」信託基金を通じた殺傷性のない装備品等のウクライナへの継続的な供与、とりわけ軍事医療・リハビリ分野の支援への貢献を歓迎する。ルッテ事務総長は、NATOの「対ウクライナ安全保障支援及び訓練組織(NSATU)」への参加に関する日本の意欲を歓迎する。我々は、ウクライナの状況について日NATO間で引き続き対話を行っていく重要性を確認する。

我々は、ロシアによる北朝鮮製ミサイルのウクライナに対する使用及びロシアに派遣された北朝鮮兵士の対ウクライナ戦闘への参加を含む、拡大する北朝鮮とロシアの間の軍事協力を強く非難する。我々は、北朝鮮による不法な兵器計画に対しロシアが提供している可能性のあるいかなる政治的、軍事的又は経済的支援に対する深い懸念を共有し、ロシア及び北朝鮮に対し、全てのそのような活動を直ちに停止し、関連する国連安保理決議を遵守するよう強く求める。我々はまた、中国がロシアの防衛生産基盤を支援していることも懸念している。我々は、中国を含め、ロシア及び北朝鮮とつながりのある国々に対し、ロシアの侵略の危険な拡大に反対し、全ての関連する国連安保理決議を履行することにより、国際法を堅持するよう要請する。

我々は、法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋を堅持することの重要性を確認するとともに、東シナ海及び南シナ海における力又は威圧によるいかなる一方的な現状変更の試みにも強く反対する。我々は中国に対し、軍事の透明性を高めること並びに軍備管理、軍縮及び不拡散に建設的に協力することを強く促す。我々の台湾に対する立場に変更はなく、国際社会の安全と繁栄に不可欠な要素である台湾海峡の平和と安定を維持することの重要性を強調する。我々は、両岸問題の平和的解決を促す。

我々は、北朝鮮の核・弾道ミサイル計画の進展を強く非難し、関連する国連安保理決議に従った北朝鮮の完全な非核化の重要性を再確認し、また、北朝鮮の核・弾道ミサイル計画及びその他のいかなる大量破壊兵器の、完全な、検証可能な、かつ、不可逆的な方法での放棄を主張する。我々は、違法な大量破壊兵器及び弾道ミサイル計画の資金源になっている不法な資金調達の手段に対処する必要性を強調する。我々は、北朝鮮に対して拉致問題の即時解決を強く求める。

我々は、グローバルな不拡散・軍縮アーキテクチャーの礎石であり、原子力及び原子力科学技術の平和的利用を共有する国際協力のための枠組みである核不拡散条約(NPT)の中心性を再確認する。


日 NATO協力

日本の国家安全保障戦略及びNATOの戦略概念は共に我々の地域の間の協力の重要性を強調している。我々の協力は日NATO国別適合パートナーシップ計画(2023年-2026年)にある目標に焦点を当てている。我々は、日本による一連のNATO首脳会合、NATO外相会合、NATO国防相会合、NATO参謀総長等会議への参加及び2024年2月のNATO欧州連合軍最高司令官の初訪日を、我々のパートナーシップにおける重要な出来事として歓迎する。我々は、日本のNATO専任大使の着任及び情報共有体制の強化に向けた取組を歓迎する。

防衛産業協力の強化は日本とNATOの共通の優先事項である。我々は、デュアルユース技術、先端技術の開発及び日本とNATOの標準化を含めた防衛産業分野の協力を加速化させる。日本はNATO国家装備局長会合、NATO産業諮問グループ及び主要装備グループへの定期的な参加を継続する。

我々は、2023年の第1回日NATOサイバー対話の開催、並びに2024年のサイバー・チャンピオンズ・サミット、NATOのサイバー・コアリション及びロックド・シールズ並びにNATOサイバー防衛センター(CCDCOE)への日本の参加を含め、国家を背景とした悪意あるサイバー活動の脅威に対処するためのサイバー防衛分野の協力の進展を歓迎する。我々は、NATO戦略的コミュニケーション研究センター(StratCom COE)への日本政府職員の派遣を歓迎した。

我々は、2023年3月のトルコ共和国における地震被害に対するNATOと初めて連携した航空自衛隊機の派遣による国際緊急援助活動の実施、2024年8月の地中海における海上自衛隊練習艦隊とNATO常設海上部隊の共同訓練、NATOによる日米統合演習(キーン・ソード)、自衛隊統合演習(JX)及び自衛隊統合防災演習(JXR)へのオブザーバー参加を歓迎する。

石破総理大臣は、日本がNATO及びインド太平洋のパートナーとの協力の深化に向け引き続き主導的な役割を果たしていく旨述べ、ルッテ事務総長はこれを歓迎した。ルッテ事務総長は、2024年のワシントンにおけるNATO首脳会合においてNATOとインド太平洋パートナーにより立ち上げられた四つの旗艦事業への日本の積極的な貢献に感謝を表明した。この文脈で、ルッテ事務総長は、日本が本年2月に日NATO戦略的コミュニケーション会議を主催し、NATOとインド太平洋パートナーの今後の協力の道筋をつけたことを歓迎した。

我々は、引き続き定期的な対話を維持していくことにコミットする。