[文書名] 日本とビルマ連邦との間の平和条約
ビルマ連邦政府は、千九百五十二年四月三十日に宣言により日本国とビルマ連邦との間の戦争状態を終結したので、
日本国政府及びビルマ連邦政府は、国際連合憲章の原則に適合して、両国民の共通の福祉の増進並びに国際の平和及び安全の維持のため友好的な連携の下に協力することを希望するので、
よつて、日本国政府及びビルマ連邦政府は、この平和条約を締結することに決定し、このため、その全権委員として次のとおり任命した。
日本国政府
日本国外務大臣 岡崎勝男
ビルマ連邦政府
ビルマ連邦外務大臣代理 チョウ・ニェン
これらの全権委員は、互にその全権委任状を示し、それが妥当であると認められた後、次の諸条を協定した。
第一条
日本国とビルマ連邦との間及び両国の国民相互の間には、堅固なかつ永久の平和及び友好の関係が存在するものとする。
第二条
ビルマ連邦は、この条約の効力発生の後一年以内に、日本国とビルマとの間に適用されていた戦前の二国間の条約又は協約のうちいずれを引き続いて有効とし又は復活させることを希望するかを日本国に通告するものとする。こうして通告された条約又は協約は、この条約に適合することを確保するための必要な修正を受けるだけで、引き続いて有効とされ、又は復活される。こうして通告された条約及び協約は、通告の日の後三箇月で、引き続いて有効なものとみなされ、又は復活され、かつ、国際連合事務局に登録されるものとする。
日本国にこうして通告されないすべての条約及び協約は、廃棄されたものとみなす。
第三条
両締約国は、その貿易、海運、航空その他の通商の関係を安定したかつ友好的な基礎の上に置くために、条約又は協定を締結するための交渉をできる限りすみやかに開始することに同意する。
第四条
日本国は、ビルマ連邦が希望するときは、公海における漁猟の規制又は制限並びに漁場の保存及び開発について規定する協定を締結するため、ビルマ連邦と交渉を開始することに同意する。
第五条
1 日本国は、戦争中に日本国が与えた損害及び苦痛を償うためビルマ連邦に賠償を支払う用意があり、また、ビルマ連邦における経済の回復及び発展並びに社会福祉の増進に寄与するため協力する意思を有する。しかし、日本国が存立可能な経済を維持すべきものとすれば、日本国の資源は、戦争中に日本国がビルマ連邦その他の国に与えたすべての損害及び苦痛に対し完全な賠償を行い、かつ同時に、日本国の他の債務を履行するためには充分でないことが承認される。
よつて、
(a)(I)日本国は、別に合意される細目規定に従うことを条件として、年平均二千万アメリカ合衆国ドルに等しい七十二億円の価値を有する日本人の役務及び日本国の生産物を、十年間、賠償としてビルマ連邦に供与することに同意する。
(II)日本国は、別に合意される細目規定に従うことを条件として、年平均五百万アメリカ合衆国ドルに等しい十八億円の価値に達する日本人の役務及び日本国の生産物を、十年間、ビルマ連邦の政府及び国民の使用に供することにより行われる経済協力を容易にするため、あらゆる可能な措置を執ることに同意する。
(III)日本国は、また、他のすべての賠償請求国に対する賠償の最終的解決の時に、その最終的解決の結果と賠償総額の負担に向けることができる日本国の経済力とに照らして、公正なかつ衡平な待遇に対するビルマ連邦の要求を再検討することに同意する。
(b)(I)ビルマ連邦は、この条約の効力発生の時にその管轄内にある日本国及び日本国民(法人を含む。)のすべての財産、権利及び利益を差し押え、留置し、清算し、その他なんらかの方法で処分する権利を有する。この(I)に掲げられる財産、権利及び利益は、現在、封鎖され、若しくは名義を変えられており、又はビルマ連邦の敵産管理当局の占有若しくは管理に係る財産、権利及び利益で、同当局の管理の下におかれた時に日本国又は日本国民(法人を含む。)に属し、又はこれらのために保有され、若しくは管理されていたものを含む。
(II)次のものは、(I)に定める権利から除く。
(i)日本国政府が所有し、かつ、外交目的又は領事目的に使用されたすべての不動産、家具及び備品並びに日本国の外交職員又は領事職員が所有したすべての個人の家具、用具類その他の投資的性質をもたない私有財産で外交機能又は領事機能の遂行に通常必要であつたもの
(ii)宗教団体又は私的慈善団体に属し、かつ、もつぱら宗教又は慈善の目的に使用された財産
(iii)日本国とビルマ連邦との間における千九百四十五年九月二日後の貿易、金融その他の関係の再開の結果としてビルマ連邦の管轄内にはいつた財産、権利及び利益
(iv)日本国若しくは日本国民の債務、日本国に所在する有体財産に関する権利、権原若しくは利益、日本国の法律に基いて組織された企業に関する利益又はこれらについての証書。ただし、この除外は、日本国の通貨で表示された日本国及びその国民の債務にのみ適用する。
(III)(II)に例外として掲げられた財産は、その保存及び管理のために要した合理的な費用が支払われることを条件として、返還しなければならない。これらの財産が清算されているときは、その代金を返還しなければならない。
(IV)(I)に定める財産を差し押え、留置し、清算し、その他なんらかの方法で処分する権利は、ビルマ連邦の法律に従つて行使されるものとし、所有者は、これらの法律によつて与えられる権利のみを有するものとする。
2 ビルマ連邦は、この条約に別段の定がある場合を除くほか、戦争の遂行中に日本国及びその国民が執つた行動から生じたビルマ連邦及びその国民のすべての請求権を放棄する。
第六条
日本国は、この条約の効力発生の後九箇月以内に申請があつたときは、その申請の日から六箇月以内に、日本国にあるビルマ連邦及びその国民の有体及び無体財産並びに種類のいかんを問わずすべての権利又は利益で、千九百四十一年十二月七日から千九百四十五年九月二日までの間のいずれかの時に日本国にあつたものを返還するものとする。ただし、所有者が強迫又は詐欺によることなく自由にこれらを処分した場合は、この限りでない。
前記の財産は戦争があつたために課せられたすべての負担及び課徴金を免除し、かつ、その返還のための課徴金を課さずに返還しなければならない。
所有者により若しくは所有者のために又はビルマ連邦政府により所定の期間内に返還が申請されない財産は、日本国政府がその定めるところに従つて処分することができる。
前記のいずれかの財産が千九百四十一年十二月七日に日本国に所在し、かつ、返還することができず、又は戦争の結果として損傷若しくは損害を受けている場合には、日本国の連合国財産補償法(昭和二十六年法律第二百六十四号)の定める条件よりも不利でない条件で補償されるものとする。
第七条
1 両締約国は、戦争状態の介在が、戦争状態の存在前にあつた債務及び契約(債券に関するものを含む。)並びに戦争状態の存在前に取得された権利から生ずる金銭債務で、日本国の政府若しくは国民がビルマ連邦の政府若しくは国民に対して、又はビルマ連邦の政府若しくは国民が日本国の政府若しくは国民に対して負つているものを支払う義務に影響を及ぼさなかつたものと認める。両締約国は、また、戦争状態の介在が、戦争状態の存在前に財産の滅失若しくは損害又は身体の傷害若しくは死亡に関して生じた請求権で、日本国政府がビルマ連邦政府に対して、又はビルマ連邦政府が日本国政府に対して提起し、又は再提起するものを、その根拠の当否に応じて、検討する義務に影響を及ぼさなかったものと認める。
2 日本国は、日本国の戦前の対外債務に関する責任と日本国が責任を負うと後に宣言した日本国の団体の債務に関する責任とを確認し、また、これらの債務の支払再開に関してその債権者とすみやかに交渉を開始する意思を表明する。
3 両締約国は、他の戦前の請求権及び債務に関する交渉を促進し、かつ、これに応じて金額の支払を容易にするものとする。
第八条
1 日本国は、戦争から生じ、又は戦争状態が存在したために執られた行動から生じたビルマ連邦及びその国民に対する日本国及びその国民のすべての請求権を放棄する。
2 前記の放棄には、千九百三十九年九月一日からこの条約の効力発生までの間に日本の船舶に関してビルマ又はビルマ連邦が執つた行動から生じた請求権並びにビルマ又はビルマ連邦の手中にあつた日本人の捕虜及び被抑留者に関して生じた請求権及び債権が含まれる。ただし、千九百四十五年九月二日以後に制定されたビルマ又はビルマ連邦の法律で特に認められた日本国民の請求権を含まない。
第九条
この条約の解釈又は適用から生ずる紛争は、まず交渉により解決するものとし、交渉の開始の時から六箇月の期間内に解決に至らないときは、いずれか一方の締約国の要請により、国際司法裁判所に決定のため付託されるものとする。
第十条
この条約は、批准されなければならない。この条約は、批准書の交換の日に効力を生ずる。批准書の交換は、東京でできる限りすみやかに行われなければならない。
以上の証拠として、下名の全権委員は、この条約に署名調印した。
千九百五十四年十一月五日にラングーンで本書二通を作成した。
日本国のために
岡崎勝男(署名調印)
ビルマ連邦のために
チョウ・ニェン(署名調印)