データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日比賠償協定,賠償協定の実施細目に関する交換公文

[場所] マニラ
[年月日] 1956年5月9日
[出典] 日本外交主要文書・年表(1),748−750頁.
[備考] 
[全文]

(日本側書簡)

 書簡もつて啓上いたします。本全権委員は、本日署名された日本国とフィリピン共和国との間の賠償協定に言及する光栄を有します。日本国政府は、両政府が同協定第十一条の規定に基いて次のとおり合意することを提案いたします。

I 賠償契約

1 同協定第五条2に定める賠償契約は、日本円で通常の商業上の手続によつて締結されるものとする。

2 賠償契約の実施に関する責任は、契約当事者である使節団及び日本国の国民又は法人のみが負うものとする。

3 日本国政府は、使節団に対し、賠償契約を締結する適性を有する日本国の国民及び法人を推薦することができる。もつとも、使節団は、そのように推薦を受けた者とのみ賠償契約を締結するよう拘束されることはない。

II 支払

1 同協定第七条に定める使節団は、自己の選択により日本国のいずれかの外国為替公認銀行と取極を行い、自己の名による賠償勘定を開設してその銀行に日本国政府からの支払の受領等を授権し、及びその取極の内容を日本国政府に通告するもとのする。賠償勘定は、利子を附さないものと了解される。使節団は、必要と認めたときは、同じ目的のため追加の外国為替公認銀行を指定することができる。

2 使節団は、賠償契約の規定に基いて支払の義務が生ずる前の適当な期間内に、支払金額及び使節団が関係契約者に支払を行うべき日を記載した支払請求書を日本国政府に送付しなければならない。

3 日本国政府は、支払請求書を受領したときは、請求金額を前記の使節団による支払の日の前日までに1に定める銀行に支払われなければならない。

4 日本国政府は、また、両政府間の合意により、使節団の経費の支払、フィリピン人技術者及び職人の訓練に関する経費の支払並びに両政府間で合意する他の目的のための支払を、前項に定めると同一の方法で、行わなければならない。

5 3及び前項の規定に基いて支払われる金額は、賠償勘定に貸記するものとし、他のいかなる資金も、同勘定に貸記されないものとする。同勘定は、2及び前項の目的のためにのみ借記を行うものとする。

6 使節団が賠償勘定に払い込まれた資金の全部又は一部を契約の解除その他によつて引き出さなかつた場合には、未払金額は、日本国政府との間で適当な取極が行われた後に、2及び4の目的のための支払に充てられるものとする。

7 賠償勘定から支払われた金額の全部又は一部が使節団に返還された場合には、その返還された金額は5の規定にかかわらず、賠償勘定に貸記するものとする。前項の規定は、これらの金額について準用する。

8 同協定第六条2の規定の適用上、「支払を行つた時」とは、支払が日本国政府により1に定める銀行に対して行われた時をいう。

9 同協定第六条2の規定に従い、日本国政府が同協定第一条及び第二条の規定に基く賠償義務を履行したものとされる限度額の算定は、日本国政府が正式に決定しかつ国際通過基金が同意した日本円の合衆国ドルに対する基準為替相場で次に掲げる日に適用されているものにより、支払金額に等しい合衆国ドルの額を決定することにより行うものとする。

(a)賠償契約に関する支払の場合には、日本国政府が当該契約書の写を受領した日

(b)その他の場合には、各場合につき両政府間で合意する日。だだし、合意した日がないときは、日本国政府が支払請求書を受領した日とする。

III 使節団

1 もつぱら使節団に勤務することを目的として日本国に入国しかつ居住するフィリピン国民に限り、同協定第7条6の規定の適用を受けるものとして日本国における課税を免除されるものとする。

2 フィリピン政府は、賠償契約に関して使節団を代表して行動する権限を与えられる使節団の長その他の職員の氏名を日本国政府に随時通知するものとし、日本国政府は、その氏名を日本国の官報で公示するものとする。この使節団の長その他の職員の権限は、日本国の官報で別段の公示がされるまでの間は、継続しているものとみなされる。

IV 沈没船舶の調査及び引揚

1 沈没船舶の引揚に関する中間賠償協定に基いて現在実施されている作業に関する役務の供与のための手続は、別段の合意がない限り、従来どおりとする。

2 日本国政府が沈没船舶の調査を行うためにすでに支払つた金額の合計は、千七百五十万円(一七、五○○、○○○円)であり、両政府間の協議により日本国政府が1にいう沈没船舶の引揚のために負担するものとして定められた金額は、二十三億四千三百九十二万二千六百十一円(二、三四三、九二二、六一一円)である。したがつて、日本国は、これらの沈没船舶の調査及び引揚に関する役務を供与することにより、二十三億六千百四十二万二千六百十一円(二、三六一、四二二、六一一円)に等しい六百五十五万九千五百七合衆国ドル二十五セント(六、五五九、五○七・二五ドル)の金額について、同協定第一条の規定に基く自国の賠償義務を履行したものとする。

3 日本国政府が同協定の効力発生前に前記の役務の提供のために支払つた金額及び同協定の効力発生後の第一年度においてその役務の供与のために支払う金額は、協定第二条の規定の適用上、第一年度に支払われた金額とみなす。

 本全権委員は、さらに、この書簡及び前記の提案の貴国政府による受諾を確認される閣下の返簡を、同協定第十一条の規定に基く同協定の実施に関する細目についての両政府関の合意を構成するものとみなすことを提案する光栄を有します。

 本全権委員は、以上を申し進めるに際し、ここに閣下に向つて敬意を表します。

千九百五十六年五月九日にマニラで

日本国全権委員

高碕達之助

フィリピン共和国全権委員

フェリノ・ネリ閣下

(フィリピン側書簡)

 書簡をもつて啓上いたします。本全権委員は、賠償協定の実施に関する細目についての本日付の閣下の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。

(日本側公文省略)

 本全権委員は、閣下の書簡に述べられた提案に本国政府に代つて同意し、さらに、閣下の書簡及びこの書簡を同協定の実施に関する細目についての両政府関の合意を構成するものとみなすことに同意いたします。

 本全権委員は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向つて敬意を表します。

千九百五十六年五月九日にマニラで

フィリピン共和国全権委員

フェリノ・ネリ

日本国全権委員 高碕達之助